争われているのは、性質の異なる2つの決定
欧州委員会は7月16日、Googleに対して2件の拘束力ある仕様決定を採択した。Android側は、DMA第6条7項に基づき、競合するAIサービスがAndroidの機能と相互運用できるよう求める。検索側は、第6条11項に基づき、条件を満たす検索サービスへ匿名化したGoogle検索データを共有する手順を定めたものだ。両決定はDMA上の既存義務の実装方法を具体化しており、罰金は含まない。
Googleがどの範囲の取消しを求めたのかを示す訴状本文は、今回確認した公開資料では読めなかった。Reutersは、同社が2件の決定を争うため9月28日に提訴したと報じ、Googleの競争政策担当上級ディレクター、Oliver Bethell氏の説明を伝えた。Googleは検索データの匿名化が不十分でプライバシーを損ない、Androidの安全策を弱めると主張する。一方、欧州委員会は決定にセキュリティと個人データ保護の措置を盛り込んだとして、法廷で争う方針を示した。
Android AIDMA第6条7項
- 対象
- 第三者AIサービスが音声起動、アプリ操作など11機能群を利用
- 条件・期限
- 利用者の明示同意。5機能は適格性条件あり。大半は2027年8月まで
検索データDMA第6条11項
- 対象
- AI検索チャットボットを含む、適格なオンライン検索サービス
- 条件・期限
- 匿名化し検索改善に限定。価格提示は2027年1月までの予定
欧州委員会の2026年7月16日付仕様決定と各FAQに基づく。Androidの同時hotword検知はAndroid 19で2028年8月1日が期限。検索データの利用には適格性、契約、価格の受け入れが必要。
Androidで可能になるのは、利用者が選んだAIとの連携
対象は、利用者が選んでインストールする第三者AIサービス全般だ。欧州委員会の決定は、音声やホームボタンからAIを起動する、利用者の同意のもとで複数アプリにまたがる作業を頼む、画面や端末センサーなどの文脈を使う、といった11の機能群との連携を認める。利用者は、どのAIサービスに端末機能へのアクセスを許すかを選ぶ。
アクセスには利用者の明示的な同意が必要だ。画面操作の自動化やアプリデータへの一括アクセスなど、特に機微な5機能については、Googleがプライバシー・セキュリティ基準に関する客観的で差別のない適格性条件を設けられる。利用者の同意に加え、機能によってはAIサービスごとの審査も関わる。
実装もすぐには始まらない。大半の措置はAndroid 18で導入し、遅くとも2027年8月1日までに実装する期限がある。複数のAIサービスを同時に音声起動する機能はAndroid 19で、2028年8月1日までが期限だ。Googleは2026年8月の公式ブログで、深いOSアクセスはプライバシーや安全性を損なう恐れがあると主張している。これはGoogle側の評価であり、委員会は利用者同意や適格性審査などを含めて決定した。
検索データは、AI全般の学習用ではない
検索データ共有の対象は、検索機能を提供するAIチャットボットを含む、基準を満たしたオンライン検索サービスだ。提供データには、匿名化された検索語、順位、クリック・閲覧などの情報が含まれる。検索語の理解、検索結果の順位付け、ウェブページの索引作成など、自社の検索技術やサービスの開発・改善に使える。
欧州委員会のFAQによると、共有対象からGoogleアカウント情報と利用者単位の検索履歴は除外する。共有前にユーザー名やIPアドレスなどの識別子を取り除き、時刻情報を削り、珍しい語や極端に長い検索語を除外する。位置や端末種別なども一般化し、最低1,000人単位のグループにまとめる。データ提供は検索から少なくとも7日遅れ、受領企業ごとの利用期間は最長5年。契約と独立監査により用途も制限し、汎用AIモデルの学習、広告、消費者プロファイリング、Googleの検索結果の体系的な複製には使えない。
対象企業の審査、ライセンスやサンプルデータの準備、匿名化データの確定、価格の提示は段階的に進む。欧州委員会の工程表では、Googleが価格を最終化する期限は決定採択から6カ月後の2027年1月ごろ。実際にデータへアクセスするには、対象企業が適格性を満たし、契約と価格を受け入れる必要がある。
検索データの決定だけ、暫定停止も申請
9月30日のReuters報道によると、Googleは2件の提訴とは別に、DMA第6条11項の検索データ共有決定を止める暫定措置を申請した。Googleの広報担当者は、欧州の利用者のプライバシーに重大な損害を与える恐れがあるためだと説明した。報道が伝えた申請の対象は検索データ共有決定だ。
EU司法裁判所の公式事件記録には、9月28日付の本案2件と、GoogleおよびGoogle Ireland対欧州委員会の暫定措置事件「T-638/26 R」が掲載され、いずれも係属中と表示されている。条約第278条では、訴訟を起こしただけで争われている決定の効力は停止しない。裁判所が別途、停止を命じることはできるが、10月1日時点で暫定措置が認められたとの公表は確認できなかった。
今回の争いは、競争促進のためにOS機能や検索データをどこまで共有できるか、その条件をどう設計すれば利用者のプライバシーと端末の安全性を保てるかを問う。裁判所が結論を出すまでの間も、公開済みの実装期限と審査手続きは残る。特に検索データについては、Googleの申請が認められるかどうかが、データ提供の実施時期を左右する可能性がある。
出典
- Commission provides guidance to Google for AI interoperability on Android and sharing of Google Search data under the Digital Markets Act欧州委員会、2026年7月16日。2件の仕様決定と概要。2026年10月1日確認。
- Alphabet specification proceedings – Interoperability for AI services欧州委員会FAQ。11機能群、同意・適格性条件、実装期限。2026年10月1日確認。
- Alphabet specification proceedings – Sharing of Google Search data欧州委員会FAQ。対象データ、利用制限、匿名化、監査、提供手続き。2026年10月1日確認。
- Balancing Interoperability and Security in the Age of AIGoogle、2026年8月5日。Androidのセキュリティ・プライバシーに関するGoogleの見解。2026年10月1日確認。
- Google challenges EU orders to open up to AI, search-engine rivals (Reuters)Reuters、2026年9月29日配信。2決定への提訴、Googleと欧州委員会の説明。2026年10月1日確認。
- Google asks EU court to suspend order to open up to AI chatbots, search engine rivals (Reuters)Reuters、2026年9月30日配信。検索データ共有決定についての暫定措置申請。2026年10月1日確認。
- InfoCuria – EU司法裁判所の事件一覧T-638/26、T-639/26、T-638/26 Rを確認。2026年9月28日付、係属中。2026年10月1日確認。
- EU運営条約 第278条訴訟の提起は自動的な執行停止を意味せず、裁判所が別途停止を命じうることを確認。2026年10月1日確認。
出典の確認日 2026.10.01