ハーネスは、チャットモデルをリポジトリ作業に使えるようにするsystem prompt、ツール群、文脈管理など、モデルを囲む部分です。ベンダーはハーネスの更新で成功率が上がると宣伝し、リーダーボードには異なるハーネスの結果が混ざります。研究はモデルを固定したまま、ハーネスを交換したときの変化と、同じ構成を再実行したときの変化を同じ尺度で比べました。
評価にはSWE-bench Verifiedを使い、公開Webサービスを必要とする8課題を除く492課題をオフラインで実行しました。最も難しい2つの難度帯すべての45課題は5モデル(Qwen3.6-35B-A3B、Qwen3.8-27B、DeepSeek-V4-Flash、GLM-5.3-Flash、HY4-Preview)で、残る447課題は研究チームが自前でサーブしたQwenの2モデルで評価しています。Claude Opus 5はClaude Code内で強い基準点として追加されました。正否は課題単位のペア比較で検定し、同等性は5ポイントのマージンで判断します。
447課題では、最も重いClaude Codeと最も軽いmini-SWE-agentの成功率の差は両Qwenモデルで1.8ポイントと1.4ポイントにとどまり、5ポイントの同等性マージン内でした。統計的なノイズを超えた差は、OpenCodeが下回る部分だけです(最大9.2ポイント)。うち半分近くは、モデルの推論が出力トークン上限を超えたときにOpenCodeが再プロンプトせず、パッチを出す前に試行が終わるケースでした。45課題でハーネス交換によって正否が反転する課題の割合は中央値13%。同じハーネスを再実行したときの反転も13%で、ハーネス交換の変動は再実行のノイズと同じ大きさでした。モデルを交換した場合は22%です。
「ハーネスが実際に決めるのは請求額です。」
What the harness does decide is the bill.
費用はハーネスで大きく変わりました。同じモデル・課題・料金表で、1課題当たりの費用は最大3倍の差です。GLM-5.3-Flashの45課題では、1試行の推定費用がClaude Code 1.81元、mini-SWE-agent 0.97元、OpenCode 0.56元でした。差の源泉は、各ステップで再送される固定部分のpreambleです。system promptとツール定義はClaude Codeで16,581トークン、OpenCodeで7,025、mini-SWE-agentで829に達し、毎ステップ支払われます。履歴の伸びはハーネス間で1.5倍以内で、費用は初回コールの重さにステップ数を掛けた形で決まります。キャッシュヒット価格は請求額を増減させますが、ハーネス間の順位は変えませんでした。
Claude Code
- preamble
- 16,581トークン
- GLM費用
- 1.81元
- 傾向
- ツールが多くsystem promptが長い。モデルの推論も履歴に保持
mini-SWE-agent
- preamble
- 829トークン
- GLM費用
- 0.97元
- 傾向
- bash 1個の最小構成。文脈圧縮なしで窓上限まで蓄積
OpenCode
- preamble
- 7,025トークン
- GLM費用
- 0.56元
- 傾向
- 呼び出し回数が最少。出力上限で打ち切られる試行がある
preambleは各ステップで再送されるsystem prompt等の固定分で、研究時のバージョン・構成の値。GLM費用はGLM-5.3-Flashの45課題における1試行の推定費用で、研究が採用した料金表に基づく。出典はarXiv:2610.04433(2026年10月3日付、2026年10月24日確認)。
- 01 初回コール
preamble
system promptとツール定義の固定分を送る。Claude Code 16,581、OpenCode 7,025、mini-SWE-agent 829トークン(研究時の構成)。
- 02 毎ステップ
履歴を再送
直前までの履歴を各ステップで再送。入力の96〜99%はキャッシュヒット。
- 03 積み上げ
ステップ数
1試行の費用は固定分×ステップ数が主。1ステップあたりの増加はハーネス間で1.5倍以内。
- 04 価格
順位は不変
キャッシュヒット価格(Zhipu 0.287倍、DeepSeek 0.033倍)は請求額を変えるが、ハーネス間の順位は変わらない。
出典はarXiv:2610.04433(2026年10月3日付、2026年10月24日確認)。数値は研究が計測した特定のモデル・バージョン・料金表の条件での値。
留保も複数あります。447課題の大規模比較はQwenの2モデルに限られ、他の3モデルは45課題のみです。mini-SWE-agentには文脈圧縮がなく、長期作業や安全統制、IDE体験は評価範囲外です。OpenCodeの低費用には早期停止が含まれます。Qwen3.6-35B-A3Bの447課題では、OpenCodeの試行は中央値28回のモデル呼び出しで終わり、mini-SWE-agentは71回、Claude Codeは55回でした。品質を揃えたうえでの費用比較ではありません。
研究過程には一段落もあります。初期にWeb接続を許した評価では、DeepSeekとQwenの試行の71%がGitHubから上流の修正を取得するリークが見つかり、該当試行を破棄して最終評価をオフラインに切り替えた、と著者は説明しています。8,032試行のデータ、解析スクリプト、150ジョブ分のHarbor設定はGitHubで公開されており、再現スクリプトはラップトップのCPUで1分以内に完了する設計です。研究は査読前のプレプリントです。
分解能の面で示唆もあります。観測された反転率では、45課題は13ポイントの差を半分の確率でしか検出できず、80%の検出力では検出できません。447課題でも5ポイントどまりです。公表されているハーネス改善の多くはこの分解能以下に当たります。エージェントの選定では、成功率だけでなく、成功1件当たりの総費用、再実行時のばらつき、出力上限への到達を併せて見るのが現実的な水準だ、というのが研究の示唆です。
出典
- What Does a Harness Buy? Tokens, Mostly(arXiv:2610.04433)2026-10-03初公開(v1)。Yangze Liu、Zhongyi Han(山東大学)。3ハーネス×5モデルの評価設計、447課題での±5ポイント同等性、13%の反転率、OpenCode最大9ポイント劣後、費用最大3倍、preamble 16,581/7,025/829トークン、GLM-5.3-Flash 1.81/0.97/0.56元、検出分解能を本文で確認。
- what-does-a-harness-buy(YangzeLiu GitHub)8,032試行のtrials.csv、解析スクリプト、Harborジョブ150件の設定、再現スクリプト(CPUで1分以内)、CC BY 4.0/MITのライセンス区分をREADMEで確認。リーク監査(web_leakage_audit.py)の同梱も確認。
- A coding agent's harness can triple its cost without making it more accurate, study finds(VentureBeat)2026-10-23付(Ben Dickson氏)。本実行ではサイト側のボット対策で本文未取得。掲載日と見出しをVentureBeatの配信フィードで確認し、研究の事実は上記一次資料に基づく。
出典の確認日 2026.10.24