フェアユースは、米著作権法上、一定の条件で著作物を許可なく使える仕組みだ。裁判所は利用目的、作品の性質、利用した量と重要性、市場への影響の4要素を総合して判断する。
今回の事件番号は25-2153。訴訟の途中で法律上の論点を控訴裁判所に判断してもらう中間控訴で、対象はheadnotesに著作権で保護されるだけの創作性があるかと、フェアユースに当たるかだった。訴訟全体の終結や賠償額を決めた判決ではない。
判決文に編集者が加えた要約を使った
WestlawはThomson Reutersの法律情報サービスだ。問題になったheadnotesは、編集者が判決の重要な論点を短くまとめた判例要約を指す。控訴審は、論点の選択や表現に創作性を認めた。著作権で保護されるために必要な創作性の基準は低いと説明した。判断対象の2,243件は、判決文をそのまま引用した要約ではない。
ROSSが学習に使ったのは、LegalEase Solutionsが作った約2万5,000件のメモだった。LegalEaseとその下請会社はheadnotesを使って法律上の質問を作り、回答候補となる判決文の一節に関連度を付けた。ROSSはこのメモから、質問に合う判決文を選ぶ方法を学習させた。
- 01 Westlaw編集部
判決の要点を要約
法律上の論点と表現を選び、headnotesを作成。
- 02 LegalEaseと下請会社
質問と回答候補を作成
headnotesを質問作成に利用。判決文の候補に関連度を付けたメモは約2万5,000件。
- 03 ROSSの学習
質問と判決文を対応
メモを機械で読める形式に変換し、質問に合う判決文を選ぶ方法を学習。
- 04 ROSSの検索サービス
既存の判決文を返す
利用者の質問に対して、既存の判決文の一節を検索して返す。新しい表現は生成しない。
控訴審判決pp.3–6に基づく。約2万5,000件は学習メモの数で、今回の判断対象となったheadnotesの2,243件とは異なる。
学習という手段でも、最終目的は同じ法律調査
ROSSのAIは新しい文章を生成せず、既存の判決文を返す仕組みだった。同社はWestlawと同程度の料金で競争し、代替サービスになることを目指していた。控訴審は、この商業目的と、両社が同じ法律調査の用途でheadnotesを使った点を重視した。
第1要素では、元の作品と異なる目的や性質で使うtransformative use、つまり利用の変容性を検討した。学習という中間段階を挟んでも、最終目的は利用者に必要な法律情報を探すことだとした。手段に多少の違いがあっても、変容性はごく小さいとの評価だった。
第3要素の評価は地裁と異なる。2025年2月11日の地裁判決は、検索結果にheadnotesを表示しない点を重視し、ROSSに有利とした。控訴審は各headnoteが独立した作品であり、各作品の全文を使ったと捉えた。無料で入手できる判決文から独自の学習資料を作れるため、利用量を正当化する必要性も認めなかった。
第1要素利用の目的・性質
- 評価
- 不利
- 本件での理由
- 商業目的の競合サービス。学習を経ても、最終目的は同じ法律調査で、変容性はごく小さい。
第2要素作品の性質
- 評価
- わずかに有利
- 本件での理由
- 公開済みの要約で、法律や判決を正確に説明する事実的な作品。
第3要素利用量・重要性
- 評価
- 不利
- 本件での理由
- 各headnoteの全文を利用。無料の判決文から資料を作れるため、コピーの必要性を認めなかった。
第4要素市場への影響
- 評価
- 不利
- 本件での理由
- 既存の法律調査市場での代替的な競争と、headnotesの将来の学習ライセンス市場への影響。
控訴審判決pp.14–27の評価。4要素を総合してフェアユースを否定した。要素の数で機械的に決めたものではない。地裁の第3要素はROSSに有利だった。
既存の競合市場と将来の許諾市場を評価
第4要素では、まず既存の法律調査市場を検討した。headnotesは単独で売られていなくても、利用者がWestlawを購読する理由となる。控訴審は、要約を使って代替サービスを作れば、その価値やWestlawの市場での地位を損なうと判断した。
もう一つは、headnotesをAI学習データとして許諾する将来の市場だ。控訴審は、この市場が発達している証拠と、Thomson Reutersが自社のAI検索にheadnotesを使っている点を挙げた。他社にまだ許諾していないことだけでは、市場の存在を否定できないとした。ROSSの無許可利用は、Thomson Reutersが許諾する機会を奪ったと評価した。
この判断は、headnotesという対象作品と、競合する非生成AI法律検索サービスへの利用に基づく。控訴審は他の生成AI事案との違いにも言及しており、生成AIの学習全般の適法性を判断したものではない。今回の判決から、あらゆる学習データに許諾が必要だとは結論づけられない。
出典
- 米第3巡回区控訴裁判所|Thomson Reuters v. ROSS, No.25-2153 判決全文判決表紙のFiledは2026年9月29日。2026年10月1日確認。p.7は中間控訴と2,243件、pp.10–13は著作権保護に必要な創作性、pp.14–27はフェアユースの4要素、p.28は地裁判断の維持。対象AIの仕組みはpp.5–6、headnotesの将来の学習ライセンス市場はp.26。
- 米第3巡回区控訴裁判所|Recent Precedential Opinions2026年9月30日更新の公開一覧。2026年10月1日確認。事件番号25-2153をprecedentialとして掲載し、Filed欄は09/30/2026と表示。判決表紙の9月29日と異なるため、記事は『9月29日付の判決』と記す。
- 米デラウェア地区連邦地裁|Thomson Reuters v. ROSS, No.1:20-cv-613-SB 地裁判決・命令2025年2月11日付。2026年10月1日確認。pp.20–21でheadnotesを検索結果に表示しないことを第3要素でROSSに有利と評価。p.23でフェアユースを否定し、p.24で一部略式判決を命令。控訴審とは第3要素の理由・評価が異なる。
出典の確認日 2026.10.01