Deepgramは音声認識・音声合成・音声エージェントのモデルをAPIや顧客環境で提供する会社で、AWSの技術記事によると年間でquadrillion(10の15乗)級のaudio tokenを処理し、20万人超の開発者と1,400組織に使われている。大量の音声を決まった予算で処理するには、アクセラレータ1台あたりの処理効率が費用を左右します。今回の取り組みは、こうしたバッチ処理の費用効率を上げることを目的に、DeepgramとAWS Forward Deployed Engineeringのチームが数か月かけて進めました。
移植は、Deepgramが標準のPyTorchコードとして提供したNova-3を、Neuron CompilerのPyTorch統合であるTorchNeuronでTrainium2向けに組み直す形で始まりました。まずeagerモードで動かし、CPUへフォールバックする演算を確認します。次にtorch.compileでコンパイルしました。コンパイル後はすべてのモデル演算がTrainium2で動き、CPUフォールバックは検出されていません。エンコーダーとデコーダーは別々の静的shapeグラフにコンパイルし、層ごとの出力と音声認識精度(WER)がDeepgramの参照値に沿うことを確認しています。
カーネル単位の調整
FFN
- 変更内容
- 参照カーネルはトークンタイルごとに重みをオフチップメモリから読み直し、メモリ帯域が律速になっていた。手書きカーネルは各重みタイルを1回だけ読み、複数のトークンタイルで再利用しながら読み出しと計算をパイプライン化
- 効果
- バッチサイズ96で参照カーネル比レイテンシー2.0分の1
depthwise conv1d
- 変更内容
- 実験的なNKILibカーネルは演算をGEMMとして扱いTensor Engineの稼働率が低かった。Vector Engine上のブロードキャスト乗加算ループに書き直してエンジンをフル稼働させた
- 効果
- バッチサイズ96で参照カーネル比1.5倍
conv2d
- 変更内容
- NKILibにカーネルがなく、NKIで新規に実装。プロファイリング結果をもとに数回の改良を重ね、バッチサイズ32を超えると単一グラフにコンパイルできなかった阻害を解消
- 効果
- convolutionモジュールで最大50倍(バッチサイズ32以下)
出典はAWS機械学習ブログの技術記事。効果の数値は同記事に記載された測定値で、FFNとdepthwise conv1dはバッチサイズ96、conv2dの最大50倍はconvolutionモジュール単位・バッチサイズ32以下の値。
調整は、Neuron Kernel Interface(NKI)で書かれた既存カーネル集NKILibへの差し替えで大部分を済ませ、残る箇所はプロファイリングツールNeuron Explorerで原因を特定し、Neuron Agentic Development(NAD)のプロファイリング・カーネル作成機能を使って手書きカーネルに置き換える流れで進めました。
モデルの実行環境も作り直しました。Trainium2デバイス1台の物理NeuronCore 8個を論理コア1個あたり1物理コアの設定にして、Nova-3のレプリカ8個(DP8)を1台に載せます。Deepgramの本番サーバーはRustで書かれているため、推論経路からPythonとPyTorchを外し、事前コンパイルしたNEFF(Neuron Executable File Format)をNeuron Runtime API経由で実行する軽量ランタイムをRustで構築しました。レプリカごとにスレッドを持つワークスティーリングキューで入力を分散し、テストしたすべてのバッチサイズで参照と一致するトークン列を再現しています。このRustランタイムは、Pythonのマルチプロセス構成比で7.5%のスループット向上を、スループットが最大になるバッチサイズで確認できました。
「1台構成のTrainium2(trn2.3xlarge)は、Deepgramがこれまで動かしていた計算選択肢より、1ドル当たり11〜70%多くの音声を処理した。」
the single-device Trainium2 setup (trn2.3xlarge) processed 11–70 percent more audio per dollar than the compute options Deepgram had been running
費用の測定は、評価時点のインスタンス価格を使い、Deepgramのオフラインのスループット志向バッチ負荷で行われました。記事は効果の範囲も明示しています。対象はオフラインバッチ処理に限られ、リアルタイム用途やあらゆるGPUとの比較ではありません。精度面では、移植後のWERがDeepgramの参照値と目標に沿うことを確認したとしています。
記事は、Amazon SageMaker AI上でDeepgramモデルを自社のVPC内で動かす顧客にも、こうした改善が及ぶ可能性に触れています。11〜70%という幅は負荷とバッチサイズで変わる値であり、DeepgramのAPI価格への反映については記事では触れられていません。音声AIの単位コストがGPU以外のアクセラレータでも下げられることを示した事例として、実測手順ごと公開された点が特徴です。
出典
- AWS機械学習ブログ「How Deepgram optimized voice AI at scale with AWS Trainium」2026年10月19日公開(太平洋時間)。Nova-3のTrainium2移植手順、trn2.3xlarge×8レプリカ構成、カーネル別の改善値(FFN 2.0分の1、depthwise conv1d 1.5倍、conv2d最大50倍)、Rustランタイムの7.5%向上、ドル当たり音声処理量11〜70%増の測定結果と測定条件。2026年10月21日に本文確認。
出典の確認日 2026.10.21