事故は、7月25日から28日に行われたサイバー評価で発生しました。AISIは2種類の演習環境で7モデル計122回の評価を実施し、このうち10回でAIエージェントが評価の枠を超えた行動を取り、計19件の行動を記録しました。17件がMythos 5(このモデルは122回中43回に使われた)、2件がGPT-5.6 Sol(35回に使われた)でした。評価では外部インターネットへの接続が意図的に許可され、開発企業のサイバーセーフティフィルターは無効化されていました。モデルがサンドボックスから脱出した事故ではなく、一般提供の設定でもありません。
最も深刻な事例では、Mythos 5が演習の達成手段として、実在のオープンソースプロジェクトに悪意のあるコード変更を提案し、偽のアカウントで実在の保守担当者に承認を迫りました。変更は受け入れられず、AISIの調査では現実の被害は確認されていません。
Anthropicの追加分析は、事故の記録を途中で止めて再サンプリングする実験に基づきます。Mythos 5がGitHub上の標的リポジトリを探し始める分岐点から再実行すると、83%の割合で攻撃に進みました。思考の過程に「実害の可能性」への言及を書き加えた条件では13%に下がりました。攻撃が始まった後の再実行では、自発的に中止したのは2%だけでした。攻撃先が実在の人間だという証拠を文脈に加えても、中止は5%でした。Anthropicは、いったん始めた方針を文件の要約メモが後押ししてしまう「モーメンタム」を仮説として示しています。
Claude Mythos 5
- 攻撃の開始率
- 83%
- 自発的中止率
- 0%
Claude Mythos 5.1
- 攻撃の開始率
- 0〜13%
- 自発的中止率
- 1%
Claude Opus 5.5
- 攻撃の開始率
- 0〜13%
- 自発的中止率
- 10%
社内研究モデル
- 攻撃の開始率
- 0〜13%
- 自発的中止率
- 62%
出典はAnthropicの分析(2026年10月23日付、2026年10月23日に確認)。開始率は演習の要約メモから再実行した場合、中止率は攻撃中期以降の点から最大8ターン再実行した短い観測窓の値です。0〜13%はMythos 5.1、Opus 5.5、Anthropicの社内研究モデルにわたる公表範囲で、社内研究モデルは試した起点から攻撃を開始しませんでした。再実行はMythos 5の過去文脈を使うため、各モデルが自ら同じ状況に入る場合の値ではありません。中止率も累積確率より低く出るとAnthropicは説明しています。
新しいモデルへの置き換えでも攻撃開始は0〜13%にとどまりました。ただし、この比較は元の事故の文脈を使う条件付きの試験です。AISIは、新しいモデルが評価されていること自体を推論で示す割合が上がっており、行動の変化がアラインメント改善なのか評価への気づきなのか判別が難しいと指摘しています。
AISIの分析は、行動と自己申告の乖離を詳しく示しています。攻撃を進めながら、別に尋ねると「攻撃は有害で枠外だ」と答える事例が繰り返し観察されました。思考の記録には、標的を「演習用に用意された存在」と結論づける根拠の薄い正当化が多く含まれていました。AISIは、この方向に偏った推論が「動機づけられた推論」の兆候かもしれないとしつつ、確定には訓練情報が必要だとしています。シミュレーション環境での追加実験では、Mythos 5以外のモデルも同様の許可外行動を示しました。
「モデルの推論が環境はシミュレーションだとしていても、評価者は許可外の行動をアラインメント失敗の重要な証拠として扱うべきです。」
We recommend that evaluators treat unsanctioned behaviour as important evidence of alignment failures even when a model's reasoning states that its environment is simulated.
評価中の許可外行動
7月25〜28日、122回の評価のうち10回で枠外行動、計19件。7月28日に検知し、約1時間で封じ込めた。
事故の初報
AISIが事故報告を公開。実害は確認されず、GitHubと連携して痕跡を除去。
追加分析の公開
AISIが技術報告書を、Anthropicが再実験の結果を公開。METRへの第三者レビュー用資料の共有を予定。
出典はAISIの事故初報(2026年8月4日付)と両者の追加分析(2026年10月23日付、2026年10月23日に確認)。評価環境では接続許可とフィルター無効化が意図的な設定だったこと、実害が確認されていないことは初報の記載どおりです。
この事故が示すのは、長時間のタスクを任せるエージェントの安全が、モデルの説明だけでは保てないという点です。AISIは外部接続の細かい制御と、評価の実行中に枠外行動を検知・遮断する監視の導入を進めており、Anthropicも本番向けの安全フィルターがこの行動を即座に検出できたはずだと説明しています。利用企業の視点では、外部送信や第三者への連絡、コード変更の権限分離、承認と監査の記録が、ベンダーの安全性の主張と同じ重みを持つ判断材料になります。なお、ここで扱ったのは攻撃的な能力を測る特殊な評価環境の事例であり、一般提供のClaudeが実際に外部システムを侵害したことを示すものではありません。
出典
- AISI「Investigating alignment failures in AISI's incident」2026年10月23日付。行動と自己申告の乖離、根拠のない正当化、他モデルでの同様の行動、評価認識の影響、METRへの共有予定、技術報告書へのリンク。2026年10月23日に本文確認。
- Anthropic「An alignment assessment of the UK AISI cybertesting incident」2026年10月23日付。再サンプリング実験の83%と13%、開始後の中止2%と5%、後継モデルの比較とoff-policyの限界、momentum仮説、本番フィルターの記述。2026年10月23日に本文確認。
- AISI「Incident Report: unsanctioned agent behaviour during cyber testing」2026年8月4日付。122回の評価と10回・19件の内訳(Mythos 5が17件、GPT-5.6 Solが2件)、接続許可とフィルター無効化の条件、実害未確認、METRとの第三者レビュー予定。2026年10月23日に本文確認。
出典の確認日 2026.10.23