NTTは2026年10月23日、長年運用したシステムの仕様書、設計書、コード、テストを「AIが読める開発資産」へ変換する研究技術を発表しました。既存システムでは改修を重ねるうちに文書が古くなり、実際のコードと食い違うことがあります。この状態では、生成AIにシステムの構造や仕様を正確に把握させるのが難しく、どこを直せばいいか、別の機能に影響しないかの確認に手間がかかります。
発表の2要素の1つ目は、トレーサビリティ解析技術です。要求工学のISOなどの国際標準をもとに、会議ログ、仕様書、設計書、コード、テストケースに散らばる情報を機能単位に整理し、工程間の対応関係を自動で構造化します。文書ごとに記載形式や情報量が違うため、分割粒度を内容に応じて動的に調整し、前工程の要点で後工程の情報を復元して粒度をそろえてから、依存関係の不整合や記載漏れを判定します。
2つ目は、網羅的なテスト自動生成技術です。ISO品質特性をもとに、どの機能をどの観点で確認すべきかを整理した「テスト観点空間」を作り、蓄積された既存テストを対応づけます。これで確認済みの領域と不足している領域が見え、異常系、境界値、複数条件の組合せ、機能間連携といった弱い部分を決定表などのテスト技法で補完し、自動実行できるテストを生成します。
- 01 入力
既存の開発資産
会議ログ、仕様書、設計書、コード、テストケースなど。内容が一致していないことがある。
- 02 技術1
トレーサビリティ解析
機能単位への分割と粒度調整で、工程間の対応関係を構造化。不整合や記載漏れを検出・補完する。
- 03 技術2
テスト観点空間の構築
ISO品質特性に基づく観点空間に既存テストを対応づけ、不足領域を可視化する。
- 04 出力
AI-Readyな資産と補完テスト
生成AIがシステムを理解・検証できる状態にし、自動実行可能なテストを追加する。
出典はNTTのニュースリリース(2026年10月23日付)の「技術のポイント」の記述に基づく。図は発表内容の構成を整理したもので、製品の処理画面ではない。
評価には、NTTが運用に関わるMacchinetta FrameworkのサンプルアプリケーションATRSを使いました。設計書に意図的に埋め込んだ41件の誤り(仕様書やコードとの矛盾、抜け漏れ)の検出では、文書を検索して渡す従来のRAG方式が11件(27%)だったのに対し、提案手法は33件(80%)を検出しました。
従来手法(RAG)
- 検出件数
- 11件/41件
- 検出率
- 27%
- 方法
- 関連ドキュメントを検索・参照して判定
提案手法
- 検出件数
- 33件/41件
- 検出率
- 80%
- 方法
- 仕様・設計・コードの対応関係を構造化し、あるべき関係と照らして整合性を確認
出典はNTTのニュースリリース(2026年10月23日付)の表1。Macchinetta FrameworkのサンプルアプリATRSに設計書の誤り41件を意図的に埋め込んだ予備実験。
テスト生成の評価では、意図的に埋め込んだ6件のバグのうち4件(67%)を検出しました。加えて、埋め込みバグとは別に、既存の潜在バグを3件見つけています。潜在バグは入力検証とエラーメッセージのテストが不足していた部分で出ました。仕様書などから生成AIに直接テストを作らせた比較手法は、これらのバグを1件も検出できなかったとNTTは報告しています。
数値の読み方には留保が要ります。実験は1つのサンプルアプリへの意図的な誤り埋め込みという予備実験で、実際の開発案件での誤検出率や工数への影響は測られていません。リリースは、ソフトウェアレビューの既存研究で報告された平均68%の欠陥検出率と比べても評価条件が異なるため単純比較はできないと断っています。追加開発がソフトウェア開発の約6割を占めるという背景数字も、『ソフトウェア開発分析データ集2022』の出典付きで、現在の市場全体の実測とは述べられていません。
NTTはこの成果を2026年11月18日から25日のNTT R&D FORUM 2026で展示する予定です。今後はさまざまな規模の既存システムへの適用評価と、実際の開発・保守案件でシステム理解から改修、テスト生成・実行までを生成AIと連携して実行する有効性を検証するとしています。製品、価格、公開API、対応言語の一覧は発表されていません。
生成AIによる開発支援の議論が新規開発に偏るなか、既存資産の整理とテスト補完を先に済ませる発想は、保守業務が重心の日本の基幹システムに向けた動きです。効果の実証はこれからで、サンプルアプリの結果が実案件でも再現するかが最初の関門になります。
出典
- “人が読む”既存ソフトウェア資産を、“AIが読む”開発資産へ(NTT)2026-10-23付。2つの技術の構成、ISO標準にもとづく整理、分割粒度の動的調整、テスト観点空間、ATRSでの41件誤り実験(RAG 11件27%、提案手法33件80%)、6件埋め込みバグの4件検出と潜在バグ3件検出、直接生成の比較手法は不検出、レビュー研究68%との比較不可の断り書き、追加開発約6割が『ソフトウェア開発分析データ集2022』由来、R&D FORUM 2026(11月18〜25日)展示、実案件適用は今後を本文で確認。2026-10-25確認。
- Macchinetta/ATRS(GitHub)予備実験で使われたサンプルアプリケーションの公開リポジトリ。リリースの注釈※7で参照先として示されている。実験環境全体の公開を意味しない。2026-10-25確認。
出典の確認日 2026.10.25