01 / OVERVIEW
議決権は40%。
それでも「連結子会社化」と発表された。
2026年9月16日、フジタコーポレーションは市川牧場(北海道美深町の農地所有適格法人)の株式取得と連結子会社化を決議したと発表しました。しかし手続完了後にフジタコーポレーションが持つ議決権は40.0%——過半数に届きません。S1が示した手続完了予定日は2026年9月30日で、2026年10月1日時点、S1とフジタコーポレーション公式IRアーカイブの最新の一次開示では実行完了を確認できない(完了状況未確認)状態です。
2026.09.16
40.0%
99.4%
2026.09.30
一般的な感覚では「議決権の過半数を持たない会社」を連結子会社と呼ぶのは違和感があります。ですが会計基準上の「支配」は、議決権比率だけで決まるとは限りません。
本稿では、このケースで何が開示され、何を根拠に連結子会社と判断されているのかを、事実・分析・仮説を分けて読み解きます。S1が示した手続完了予定日は2026年9月30日でしたが、2026年10月1日時点、S1とフジタコーポレーション公式IRアーカイブの最新の一次開示では実行完了を確認できない(完了状況未確認)状態として整理します。
- FACT
- S1は、一連の手続完了後にフジタコーポレーションが市川牧場の普通株式4株+無議決権A種優先株式990株を保有し、議決権比率40.0%・経済的持分99.4%となる計画を開示しています。常時従事役員予定者が普通株式6株・議決権60.0%を保有する計画です。手続完了予定日は2026年9月30日でしたが、2026年10月1日時点、S1とフジタコーポレーション公式IRアーカイブの最新の一次開示では実行完了を確認できない(完了状況未確認)状態です。
- FACT
- 会社は連結子会社化の根拠を実質支配力基準としており、フジタコーポレーション派遣役員が取締役会の過半数を占める計画であること、株主間契約で事業計画・予算、多額の借入、重要財産処分、代表取締役等の選任にフジタコーポレーションの事前承諾を義務付ける計画であることを開示しています。これは手続完了後の計画であり、2026年10月1日時点、S1とフジタコーポレーション公式IRアーカイブの最新の一次開示では実行完了を確認できない(完了状況未確認)状態です。
- ANALYSIS
- 「支配」を議決権比率だけで判定すると40.0%は過半数に届きませんが、取締役会構成・契約上の同意権・経済的持分を合わせて見ると、経営の実質的な意思決定はフジタコーポレーション側に厚く設計されていると読めます。議決権比率と会計上の支配は別の指標です。
- HYPOTHESIS
- 農地所有適格法人のように議決権保有に法定上限がある業界では、種類株式や株主間契約を組み合わせて「法定の議決権要件」と「取得側の経済インセンティブ・経営関与」を両立させる設計が今後も使われる可能性があります。ただし要件・認定基準は業種ごとに異なり、他業界へそのまま一般化はできません。
2026年10月1日時点の公開情報。以降の章は、開示事実を土台にしたRAXUSの分析・仮説です。根拠資料を見る ↓
02 / TIMELINE
意思決定の流れを追う。
2022.12(公表)/2023.02(連結開始)
フジタコーポレーションが種類株式を用いた酪農M&Aを実施した先行事例(黒松内町)。今回の市川牧場案件は同社にとって農業参入方針の継続にあたります。
2026.09.16
取締役会で市川牧場の株式取得と連結子会社化を決議し、適時開示。
2026.09.30(予定されていた日付)
S1が示した予定日。既存個人株主6名から市川牧場の発行済株式全部を取得する計画でした。2026年10月1日時点、S1とフジタコーポレーション公式IRアーカイブの最新の一次開示では実行完了を確認できない(完了状況未確認)状態です。
2026.09.30(予定されていた日付)
S1が示した予定日に実施する計画だった手続。普通株式1,000株を普通株式10株+無議決権A種優先株式990株へ変更する計画でした。農地法第2条第3項の農地所有適格法人の議決権要件を遵守するための設計です。2026年10月1日時点、最新の一次開示では実行完了を確認できない(完了状況未確認)状態です。
2026.09.30(予定されていた日付)
S1が示した予定日に実施する計画だった手続。譲渡後、フジタコーポレーションは普通株式4株+A種優先株式990株(議決権40.0%・経済的持分99.4%)を保有し、役員予定者が普通株式6株・議決権60.0%を保有する計画でした。2026年10月1日時点、最新の一次開示では実行完了を確認できない(完了状況未確認)状態です。
03 / SCHEME
100%取得してから、
議決権を60%手放す。
今回のスキームは一度に「40%を取得する」のではなく、3段階を踏みます。
S1の計画では、まず既存の個人株主6名から普通株式1,000株(100%)を一旦取得し、次にこの普通株式1,000株を普通株式10株+無議決権のA種優先株式990株へ種類変更し、最後に普通株式10株のうち6株を市川牧場の常時従事役員予定者へ譲渡する構成でした。
この計画の最終形では、フジタコーポレーションが普通株式4株+A種優先株式990株(議決権40.0%・経済的持分99.4%)、常時従事役員予定者が普通株式6株(議決権60.0%)を保有します。「40%を取得した」のではなく、「100%取得後に議決権の過半数を手放す設計」である点が特徴です。手続完了予定日は2026年9月30日でしたが、2026年10月1日時点、S1とフジタコーポレーション公式IRアーカイブの最新の一次開示では実行完了を確認できない(完了状況未確認)状態です。
04 / CONTROL
連結の根拠は、
議決権ではなく「実質支配力」。
会社が示す連結子会社化の根拠は、議決権比率ではなく実質支配力基準です。開示されている要素は主に3つあります。
第一に、フジタコーポレーションが派遣する役員予定者が市川牧場の取締役会の過半数を占める計画であること。第二に、株主間契約により、事業計画・予算、多額の借入、重要財産の処分、代表取締役等の選任といった重要事項にフジタコーポレーションの事前承諾を義務付ける計画であること。第三に、計画上の経済的持分99.4%です。
この3つを合わせて「経営の実質的な意思決定への関与」を根拠に連結子会社と判断している、というのが開示内容から読める構造です。経済的持分99.4%だけを取り出して「99.4%を支配している」と単純化するのは正確ではありません。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
議決権40%と経済的持分99.4%は、
別の指標として読む。
株主間契約の事前承諾権や取締役会構成といった「契約・人事による統制」は、議決権比率には表れません。この記事が問うのは、開示された支配の根拠が何で構成されているかです。
05 / FARMLAND LAW
議決権40%という数字は、
農地法が求める設計条件でもある。
議決権を40.0%に抑えている理由は、農地法第2条第3項が定める農地所有適格法人の議決権要件にあります。
市川牧場は農地所有適格法人であり、非農業者であるフジタコーポレーションの議決権比率を一定以下に抑える必要があります。今回のスキームは、この要件を遵守しながら経済的な関与と経営統制を確保するための設計と説明されています。
これは「規制の抜け道」や「回避策」ではありません。農地法上の適格要件を満たした上で、株主間契約・役員構成・種類株式という別のレイヤーで経営関与を設計している、という説明が開示資料の内容です。
06 / PRECEDENT
牧場M&Aは、
今回が初めてではない。
フジタコーポレーションにとって、農地所有適格法人の子会社化は今回が初めてではありません。
同社は2023年2月からTOMONIゆめ牧舎(黒松内町)を連結子会社化しており、2022年には食の販売から製造・原材料まで事業領域を広げる農業参入方針を公式に表明しています。市川牧場の取得は、この方針の延長線上にあると読めます。
仮説として、市川牧場とTOMONIゆめ牧舎の間で生乳調達や商品開発の連携が生まれる可能性はありますが、具体的な統合計画は今回の開示では示されていません。確定したシナジーとしては書けません。
07 / UNDISCLOSED
開示されていないことも、
同じくらい重要だ。
今回の開示には含まれていない情報がいくつかあります。
株式価値算定を行った第三者評価機関、FA・リーガルアドバイザーの名称は非公表です。取得価額113百万円(アドバイザリー費用等の概算26百万円を含めた合計概算は139百万円で、企業価値・EVを示すものではありません)の算定手法・レンジ・前提も開示されていません。
A種優先株式の配当・残余財産分配・取得条項など経済条件の詳細、株主間契約の承諾権の例外・期間、乳量・牛頭数・農地面積等のPMI関連KPIも、現時点の資料からは確認できません。市川牧場の営業損失11.671百万円に対して経常利益17.129百万円・当期純利益16.379百万円となっている差額要因も、一次情報からは特定できず、補助金等と推測しません。
08 / LESSON
支配は、
議決権比率の外側でも設計できる。
今回のケースが示すのは、M&Aにおける「支配」が議決権50%超だけで決まるとは限らない、という点です。
議決権に法定上限がある業界(今回のような農業のほか、規制がある業界は他にも存在します)では、経済的持分・取締役会構成・契約上の同意権を組み合わせて経営関与を確保する設計があり得ます。ただし各業法の要件は個別に異なるため、他業界のケースと安易に横並びで比較すべきではありません。
読み手にとっての実務的な問いは、「何%を取得したか」ではなく、「誰が、何を根拠に、何を決められるのか」です。今回の市川牧場のケースは、その問いを開示ベースで具体的にたどれる事例です。


