TOBの成立は、応募された株式数が買付予定数(および設定されていればその下限)に達するかどうかで決まります。
「TOBが成立した」「不成立に終わった」という報道の裏では、買付者が公告の時点で「最低ここまで買えなければ中止する」という設計を行っています。 本稿では、成立条件の法的枠組みと、応募する株主側の視点(撤回・支払い時期)を整理します。
結論:成立は「応募株式数」と「買付予定数・下限」で決まる
買付期間の末日に応募株式数が確定し、買付者が中止条件に該当しない限り、買付予定数の範囲内で応募された株式がすべて買われます。 逆に、下限を設定しているTOBで応募が下限に満たなければ、買付けは行われず不成立となります。対象会社側の意見表明や規制手続の未了(開始の後倒し)は、成立とは別のレイヤーの問題です。
不成立条項(下限)と中止事由は別の仕組み
公開買付けには「応募株式等の数が買付予定数の下限に満たない場合には買付けを行わない」という不成立条項を設定できます。下限を設けること自体には法的要件はなく、買付者が自由に条件を設定できます。 完全子会社化(買付後100%)を狙うTOBでも下限が設定されるのが実務の標準で、フェローテックによる日本抵抗器製作所のTOB(買付予定数1,237,203株・下限618,700株)がその例です。
一方、買付中止事由(公開買付開始後に生じる事情による中止)の1つとして、「応募株式等の数が買付予定数に満たないこと」による中止は、買付予定数が総株主の議決権の3分の2以下のときに限って認められています(金融商品取引法第27条の6およびその内閣府令)。 下限条項(公告時に定める成立条件)と、開始後の中止事由(3分の2以下のときのみ)は別の仕組みなので、公告を読むときは両方を確認します。
全部買付義務との関係
買付後の株券等所有割合が3分の2以上となるTOBでは部分買付けが認められず、応募のあった株式をすべて買う全部買付義務が課されます。 全部買付義務の対象でも下限条項(不成立条項)は設定できますが、「応募が買付予定数に満たないこと」を理由とする開始後の中止は、買付予定数が3分の2以下のときにしか認められません。 そのため実務では、全部買付型のTOBでも応募を確保する手段として主要株主との応募契約(あらかじめ応募を約束する契約)が広く使われます。
応募・撤回・応募契約と代金支払い
- 応募:株主は買付期間中に証券会社等を通じて応募します。同一のTOBに対して買付価格・条件は全応募者で均一です。
- 撤回:買付期間中はいつでも応募を撤回できます。撤回を理由とする違約金・損害賠償は請求されません。対抗TOBや価格引き上げがあった場合、より有利な条件へ乗り換えられるのはこの撤回権のためです。
- 応募契約:大株主が買付者と結ぶ「応募する(しない)」契約。TOBの成立見通しを大きく左右しますが、一般株主の応募義務は生じません。
- 代金支払い:買付けの実行後、売却代金は府令に基づく支払期限(買付期間末日から10営業日以内)で支払われます。応募株券等の数に減少があった場合などは期限が延長され得ます。
実例で見る成立と不成立の設計
| 案件 | 成立設計のポイント |
|---|---|
| フェローテック→日本抵抗器製作所 | 買付予定数1,237,203株に対し下限618,700株を設定(買付期間2026年9月18日〜11月5日)。3分の2以下の設計で不成立条項を付ける標準形 |
| プロジェクトホールディングス(TX1) | 主要3株主との応募契約59.27%で成立見通しを固め、成立後のスクイーズアウトまでセットで計画 |
| JPMC(MBO型TOB) | 2026年10月6日公表の結果で9,057,536株を取得し成立。決済・スクイーズアウト・上場廃止は未了という「成立後の段階」の実例 |
| 太陽ホールディングス(KJ005) | 未了の規制手続により開始予定を後倒し。公告済みでも開始・成立は規制手続の完結に依存する例 |
まとめ:株主側の読み方
- 公告で下限の有無と買付予定数を確認する。下限付きのTOBでは、応募が下限に満たなければ不成立の可能性が残る。
- 応募契約の公表有無を見る。大株主の応募契約が確定分として足を打っているかで、成立確率の読みが変わる。
- 撤回は買付期間中いつでも可能。価格引き上げや対抗TOBがあれば条件を比較して乗り換えられる。
- 成立後も決済・後続手続(スクイーズアウト・上場廃止)は別の段階。金銭の受取時期は各案件の公告日程で確認する。

