01 / CASE
上場していても、
「次の担い手」は探さなければならない。
後継者問題は非上場の中小企業の話、と受け取られがちです。本件は、二次整理では東証スタンダード上場のメーカーが次の担い手を探し、TOBを選んだ案件です。
1,901円
〜2026.11.05
618,700株
フェローテック(6890)は、日本抵抗器製作所(6977)の普通株式を1株1,901円で公開買付けします。日本抵抗器製作所は取締役会で賛同と応募推奨を決議しています。TOB成立後は株式併合等の手続で完全子会社化・上場廃止を目指す、と開示されています。
最大買付予定数ベースの買付代金は約2,351百万円ですが、これは買付予定数×価格によるTOB部分の計算値です。企業価値(EV)や本取引全体の確定額ではないため、「23.5億円で買収」とは読みません。また、TOBは2026年11月5日まで進行中で、成立も確定していません。
- FACT
- 日本抵抗器製作所は2026年9月17日の取締役会で、フェローテックによる公開買付けへの賛同と株主への応募推奨を決議しました。買付価格は1株1,901円、期間は9月18日〜11月5日、買付予定数は1,237,203株(下限618,700株、上限なし)。公開買付け後の手続で完全子会社化・上場廃止を予定しています。2026年9月20日時点でTOBは進行中で、応募状況・成否は確定していません。
- ANALYSIS
- 開示をもとにした二次整理では、対象会社は2025年4月頃から提携先を探し、同年11月にフェローテックへ打診したとされます。「買い手が突然現れた」のではなく、対象会社側が次の担い手を探したプロセスと読めます。ただし後継者の問題は要因の一つで、業績や成長投資などの論点と併せた判断であり、本稿の「上場企業の後継者問題」という括りは編集上の整理です。
- HYPOTHESIS
- 技術や顧客基盤はあっても、経営人材の世代交代や単独での投資余力に制約を抱える小型の上場メーカーでは、事業会社による友好的な非公開化が選択肢になる場面が増える可能性があります。ただし他社へ一般化はできず、本件の具体的な下限設定の理由も、公開買付届出書の原文で確認するまで確定できません。
2026年9月20日時点の公開情報。以降の章は、開示事実を土台にしたRAXUSの分析・仮説です。根拠資料を見る ↓
02 / TIMELINE
意思決定の流れを追う。
2025.04頃
二次整理による。EDINET原文との突合前。
2025.11
二次整理による。
2026.02
経営陣の高齢化と、明確な後継者が定まっていないことを踏まえたと二次整理は伝える。価格は1,740円→1,825円→1,900円→1,901円と引き上げられたと整理されている。
2026.09.17
同日、東証が監理銘柄(確認中)に指定。期末配当予想の修正(TOB成立が条件)も決議。
2026.09.18
1株1,901円。公開買付届出書・意見表明報告書がEDINETに提出されたと整理されている。
2026.11.05
成否・応募状況はこの時点まで未確定。
2026.11.12
その後の株式併合等・上場廃止の具体日は未確定。
03 / PROCESS
買われたのではなく、
対象会社が買い手を探した。
この案件の特徴は条件よりも、そこに至る順序にあります。以下の経緯は、開示を引用する二次情報の整理で、EDINET原文との突合前です。
二次整理によれば、対象会社は2025年4月頃から提携先を探索し、同年11月にみずほ証券を通じてフェローテックへ打診しました。2026年2月時点では「経営陣の高齢化」「明確な後継者が定まっていない」ことを踏まえ、完全子会社化も有力な選択肢として協議したとされます。価格は交渉で1,740円から1,901円まで引き上げられた、とも整理されています。
後継者不在は、売却の唯一の理由とは読めません。同じ整理では、2024年12月期・2025年12月期は経常赤字で、2025年12月期は売上高約59.1億円、純損失約3.8億円、純資産約16.5億円です。赤字ですが純資産はプラスで、法的整理や債務超過を示すものではありません。「破綻」や「救済」の話ではなく、業績、成長投資、海外展開、経営人材といった複数の論点の中に、後継者問題が含まれていると読むのが妥当です。
買い手側のフェローテックは、2026年3月期の連結売上高が288,933百万円、連結従業員は16,858名(2026年3月31日時点)の企業グループです。会社は、対象会社の抵抗器・センサ等と、自社の顧客基盤・販売網・生産ノウハウの組み合わせを狙いとしています。海外販売拡大や生産効率化は期待・計画であり、実現済みではありません。
04 / STRUCTURE
TOBの成立と、
完全子会社化の実行は別の話だ。
下限618,700株は、買付予定数1,237,203株の約50.0%(本稿の計算)で、概ね過半数の水準です。3分の2ではありません。
上限はなく、買付予定数を超えて応募があれば、その分も買い付ける設計です。下限は、これを下回ればTOBが成立しない条件です。下限が過半数水準なので、TOBが成立しても、株式併合等に必要な株主総会決議を確実に通せる比率とは限りません。二次解説は、成立後のスクイーズアウトで株主総会の承認が確実とは限らない旨が開示されている、と指摘します。原文は未確認です。
社長の木村準氏と社外取締役の今井美彦氏は、合計146,663株(所有割合約11.85%)について応募契約を締結したと報じられています。これは応募の基礎になり得る数字ですが、下限に届くかどうかは、他の株主の応募を含め、11月5日の結果を待つ必要があります。
本稿の分析では、成立条件を過半数に置いて、経営支配権の確保を先に確実にする設計と読めます。仮説として、株主構成が分散した小型株では、3分の2を下限にして不成立の確率を高めるより、過半数で成立させて次の手続へ進む合理性があるのかもしれません。ただし、本件でその理由が語られているかは、公開買付届出書の原文確認が必要です。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
「TOB成立」と「100%取得」を、
同じ言葉で読まない。
TOB成立は最初の関門です。完全子会社化には株式併合等の追加手続があり、上場廃止の具体日も現時点で未定です。
05 / DIVIDEND
「15円から0円」は、
減配のニュースではない。
見出しだけを読むと誤解しやすいのが、期末配当予想の修正です。
日本抵抗器製作所は9月17日、TOB成立を条件として2026年12月期の期末配当予想を15円から0円へ修正することを決議しました。条件はTOB成立であり、業績悪化を理由とする通常の減配とは意味が異なります。
本稿の分析では、TOBの価格が期末無配を前提に設計されているのであれば、配当は取引条件の一部として読む必要があります。ただし価格算定の中で配当がどう扱われたかは、本稿では確認できていません。不成立時の扱いは本稿では確認できていません。
06 / LESSON
次の担い手探しは、
上場していても経営課題になる。
この案件から読み取れるのは、後継者問題が会社の規模や上場の有無だけで決まらないことです。
技術や認証、顧客仕様への対応力を持つ会社でも、経営陣の世代交代や、単独での投資余力に課題を抱えることがあります。本件は、対象会社が時間をかけて買い手を探し、価格を交渉し、取締役会で賛同を決議した、という順序で整理できます。売り手の側から見れば、探索の開始時期と、複数の論点を並べて選択肢を比べる姿勢が参考になります。
一方で、未確定のことは多く残っています。TOBの成否、応募状況、完全子会社化後の経営体制、シナジーの数値目標、工場・人員・設備投資の計画は、公開情報では確認できません。確認点は、2026年11月5日前後の結果、決済開始(11月12日予定)、その後の株式併合等と上場廃止の開示です。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
TOBは、探索の終点ではなく
承継の途中経過だ。
本件の評価は、TOB結果と、その後の手続・統合の開示で更新されるべきものです。


