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BUSINESS REVIEW #046 · LT FOODS × KAMEDA SEIKA

「市場を創る」ために結んだJVを、
9年後、
どう評価するか。

2017年、亀田製菓とLT Foodsは「インドにおける米菓市場を創造する」ことを目的にKAMEDA LT FOODS(KLT)を設立した。9年後の2026年9月16日、亀田製菓はKLT持分49%の全てをLT Foodsへ譲渡するSPAを締結した。日本側開示は譲渡価額を非開示とする一方、LT FoodsがNSE/BSEへ提出した開示は対価を₹1.12 croreと明示している。取引はまだ完了していない。両国の一次開示を突き合わせながら、市場創出目的のJVをどう評価し、いつ・何を基準に手放すかを考える。

公開日 · 2026.09.23 · M&A / BREAKDOWN REVIEW · FACT / ANALYSIS / HYPOTHESIS

市場を創るJVを、経済性で問い直す。を表現した編集イメージ(AI生成)
M&A / BREAKDOWN / AI EDITORIAL IMAGEISSUE 046

01 / CASE

「市場を創る」ために結んだJVから、
9年後、株主が一本化される。

2026年9月16日、亀田製菓とLT Foodsは、同じ取引の別の側面をそれぞれの本国開示で明らかにした。

STAKE TRANSFER28,026,726株の全株式をLT Foodsへ譲渡。完了後LT Foodsは51%→100%(予定)

49% → 0%(亀田製菓)

CONSIDERATIONLT Foods側開示(NSE/BSE, Regulation 30)。日本側(TDnet)は非開示

₹1.12 crore(現金)

STATUS亀田製菓「10月下旬予定」/LT Foods「indicative 12月31日」。FEMA等手続が前提

未クロージング

KLTは2017年3月、亀田製菓の米菓製造技術とLT Foodsのインド国内流通・市場知見を組み合わせ、「インドにおける米菓市場を創造する」目的で設立された合弁会社です。設立時点の持分はLT Foods 51%、亀田製菓49%でした。

2026年9月16日、亀田製菓の取締役会は保有する残り49%(28,026,726株)の全てをLT Foodsへ譲渡することを決議し、同日SPA(株式譲渡契約)を締結しました。取引完了後はLT Foodsの持分が51%から100%となり、KLTは同社の完全子会社となる計画です。ただし、亀田製菓の適時開示は譲渡価額を非開示としています。

一方、LT FoodsがインドのNSE/BSEへ提出したRegulation 30開示は、同じ49%持分の取得対価を₹1.12 crore(現金)と明示しています。「価格非開示」とだけ書くと、この事実を見落とします。取引はまだ完了しておらず、亀田製菓側は完了時期を「2026年10月下旬予定」、LT Foods側は「indicative completion period 2026-12-31」(FEMA等の規制手続が前提)としており、両社の表現には差があります。

FACT
KLT(旧Daawat KAMEDA (India) Private Limited)は2017年3月14日、「インドにおける米菓市場を創造する」ことを目的に、LT Foods 51%・亀田製菓49%の共同出資により設立されました。2026年9月16日、亀田製菓は保有する残り49%(28,026,726株)の全てをLT Foodsへ譲渡するSPAを締結。取引完了後はLT Foodsが100%子会社化する計画ですが、Packet作成時点(2026-09-23)では未クロージングです。
ANALYSIS
譲渡価額は、亀田製菓の適時開示(TDnet)では非開示である一方、LT FoodsがNSE/BSEへ提出したRegulation 30開示では対価を₹1.12 crore(現金)と明示しています。「価格非開示」で終わらせず両国の一次開示を突き合わせることで、価格・規制条件・完了時期の情報を補完できるケースと読めます。
HYPOTHESIS
亀田製菓は売却理由として、北米事業の構造改革を経た海外事業展開全体の総合的な勘案を挙げており、KLTの3期連続営業赤字・債務超過だけを理由としていません。仮説として、本件は不採算JVの整理というより、TH FOODS完全子会社化・Mary's Gone Crackers売却を含む海外JVポートフォリオ全体の資本配分見直しの一環である可能性がありますが、会社が資本配分の判断基準を明示しているわけではなく、断定はできません。

2026年9月23日時点の公開情報。以降の章は、開示事実を土台にしたRAXUSの分析・仮説です。根拠資料を見る ↓

02 / TIMELINE

意思決定の流れを追う。

2017.03.14

KLT設立(Daawat KAMEDA (India) Private Limitedとして)

インドの経済発展に伴う菓子需要拡大を見込み、「インドにおける米菓市場を創造する」目的でLT Foods 51%・亀田製菓49%の共同出資により設立。

2024.03期〜2026.03期

3期連続の営業赤字、2026.03期末は債務超過

亀田製菓開示ベースで、KLTの営業損益は▲99,480千ルピー→▲56,233千ルピー→▲58,415千ルピーと3期連続赤字。2026.03期末純資産は▲31,703千ルピー、当期純損失は▲121,114千ルピー。

2025.05.26

北米事業の構造改革を発表

TH FOODSの完全子会社化とMary's Gone Crackersの売却を組み合わせ、米菓製法とのシナジーが大きい事業へ経営資源を集中する方針を公表。

2026.09.16

亀田製菓取締役会がKLT株式の全譲渡を決議、LT FoodsとSPAを締結

譲渡株式数28,026,726株(議決権割合49.0%)。譲渡価額は日本側開示で非開示(直前連結純資産の15%未満・守秘義務契約を理由に明示)。同日、LT FoodsはNSE/BSE向けRegulation 30開示で取得対価を₹1.12 crore(現金)と開示。

未クロージング

完了時期の表現に差

亀田製菓側は「2026年10月下旬予定」。LT Foods側は「indicative completion period 2026-12-31」(FEMA等の通常の規制手続が前提)。Packet作成時点(2026-09-23)ではいずれも未確定・未完了で、どちらか一方を確定日とはしない。

03 / MARKET THESIS

「市場を創る」という前提は、
9年間でどこまで実現したか。

KLTは成長市場そのものではなく、「市場を創る」という前提から出発したJVでした。9年間の実績と、その前提の現在地を分けて読みます。

亀田製菓の開示によれば、KLTの営業損益は2024/3期▲99,480千ルピー、2025/3期▲56,233千ルピー、2026/3期▲58,415千ルピーと3期連続の赤字で、2026/3期末の純資産は▲31,703千ルピー(債務超過)、当期純損失は▲121,114千ルピーでした。なお、LT Foods側開示のKLT turnover(2024/3期 ₹736 lakhs、2025/3期 ₹1,432 lakhs、2026/3期 ₹1,403 lakhs)は、亀田製菓の売上高開示と会計定義・集計範囲が異なる可能性があり、本稿では出典・単位を分けたまま併記し、両者を混在させたり換算したりしません。

3期連続の営業赤字と債務超過は事実ですが、これだけを売却理由と断定することはできません。亀田製菓自身が挙げる理由は、北米事業の構造改革を経た「今後の海外事業展開等を総合的に勘案」した結果であり、赤字はその判断材料の一つと読める範囲に留まります。

「市場を創造する」という設立目的に対して9年間の財務実績をどう評価するかは、単純な二択では決まりません。市場そのものがまだ育っていないのか、市場は育ちつつあるが自社が持つべき持分構造ではなかったのか——この2つは区別して検討する必要があります。ブランド形成、現地知見、LT Foodsとの関係資産など、公開資料だけでは測れない非財務的な成果がある可能性も残るため、「9年で失敗した」と単純化するべきではありません。

04 / CAPITAL ALLOCATION

買い増すJVと、
手放すJV。

この売却は赤字だけで説明されていません。亀田製菓自身が挙げる理由は、北米事業構造改革後の海外事業全体の再評価です。

亀田製菓は2025年5月26日、北米事業の構造改革として、TH FOODSの完全子会社化とMary's Gone Crackersの売却を組み合わせ、自社の米菓製法とシナジーが大きい事業へ経営資源を集中する方針を公表しています。今回のKLT持分譲渡は、この北米再編の後に位置づけられる海外事業の見直しの一環として説明されています。

一方で、亀田製菓はタイ・ベトナム・カンボジア等でJVを継続しており、KLT一件の売却をもって「インド市場から完全撤退」あるいは「海外JV戦略からの撤退」と一般化することはできません。同社は2030年代前半に海外売上比率約50%を目標に掲げており、海外事業そのものを縮小する方針ではないと公表しています。

RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY

「買い増す」と「手放す」は、
同じ資本配分の意思決定として読める。

北米ではシナジーの大きいJV持分を買い増して完全子会社化する一方、インドでは現地51%パートナーへ持分を売却する——両者を並べると、市場規模だけでなく、自社がBest Ownerかどうか、収益性、資本配分の観点でJVを選別しているという読み方ができます。ただし会社は3件を横断する資本配分の判断基準を公表しておらず、これは本稿の解釈であって会社の公式説明ではありません。

05 / LESSON

市場創出JVは、
定期的に「経済性」で
再評価する。

中堅・中小企業が新興市場でJVを組む場面でも、同じ論点が起こります。

「市場を創る」という設立目的は、当初から一定の investment horizon(投資期間)を前提にしています。しかし、その期間や再評価のタイミング・基準を事前に決めておかないと、赤字が続く中で「まだ市場が育っていないから待つ」のか「持分構造そのものを見直す」のかの判断が遅れます。

本件は、クロスボーダーM&Aの実務観点でも示唆があります。日本側の適時開示だけでは「価格非開示」で終わる情報が、相手国の証券取引所開示(本件ではインドのRegulation 30開示)を確認することで、価格・規制条件・完了時期まで補完できました。相手企業が上場している国の開示制度を合わせて確認することは、クロスボーダー案件のリサーチにおいて有効な手順です。

最後に、取引はまだ完了していません。SPA締結時点の報道・記事を「完了した」かのように扱わないこと、両社が示す完了時期の表現差を安易にどちらかへ確定させないことも、本件を扱ううえでの留意点です。

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