01 / CASE
債務超過の子会社、
最初の処理が動く
STSデジタルの債務超過は新しい問題ではない。今回の開示は、その処理方法の最初の一手が決まった報告である。
156百万円
承継→吸収合併
純資産△74百万円
DEAL PROGRESS
DEAL PROGRESS
- 01債権放棄の決議
親会社取締役会が156百万円の放棄を決議。 (S1)
決議済み - 02債権放棄の実施
2026年10月31日実施予定。 (S1)
実施予定 - 03事業承継
デジタルマーケティング事業をイーネットソリューションズへ承継する方針。 (S1)
方針・方式未開示 - 04吸収合併
承継後のSTSデジタルを親会社が吸収合併する予定。 (S1)
予定・日程未開示
決議済みの行為と方針・予定の行為を分けて表示する。出典は記事末尾。
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2023.10
デジタルマーケティング事業を営む。資本金は30百万円。 (S1)
2026.06末
2026年6月末の純資産は△74百万円、総資産は114百万円。売上と損益、従業員数は開示されていない。 (S1)
2026.10.23
貸付債権156百万円の放棄を取締役会が決議。実施日は2026年10月31日の予定。事業承継と吸収合併の方針も同じ開示で示された。 (S1)
2026.10.31(予定)
執筆時点(2026年10月24日)では未実施。 (S1)
未定(方針)
イーネットソリューションズへ承継する方針。法的方式、承継対象の範囲、時期は未開示。 (S1)
未定(予定)
存続会社は親会社の予定。決議日と効力発生日は未開示。 (S1)
2027年6月期
親会社の個別決算で貸倒損失81百万円を特別損失に計上する見込み。 (S1)
STSデジタルは2023年10月設立のデジタルマーケティング会社で、システムサポートホールディングスの100%子会社である。2026年6月末の純資産は△74百万円、総資産は114百万円で、債務超過の状態が開示された。売上と損益、従業員数は開示されていない。 (S1)
親会社はクラウドとシステムインテグレーションを基幹にする東証プライム上場グループで、2026年6月期の連結売上は31,091百万円、営業利益は2,966百万円である。 (S2)
今回の開示で親会社が掲げた目的は、グループ内の経営資源を有効に使い、STSデジタルの財務体質を改善して債務超過を解消することである。 (S1)
方法は三段階に分かれる。親会社が貸付債権156百万円を放棄し、デジタルマーケティング事業をグループ会社へ移し、残った法人を吸収合併する。決議済みなのは最初の一段階だけで、残る二段階は方針と予定である。 (S1)
- FACT
- 2026年10月23日、システムサポートホールディングスは取締役会で、貸付債権156百万円の債権放棄を決議した。放棄の対象は、100%子会社STSデジタルへの貸付債権である。実施日は2026年10月31日の予定だ。デジタルマーケティング事業は、グループ会社イーネットソリューションズへの承継が方針である。承継後のSTSデジタルは、親会社が吸収合併する予定。承継と合併の方式、決議日、効力発生日は開示されていない。2027年6月期の個別決算では貸倒損失81百万円を特別損失として計上する見込みで、連結業績への影響はないと会社は説明している。 (S1)
- ANALYSIS
- 本件はグループ内部の再編である。株式はどこにも移動せず、グループの外へ出る当事者もいない。156百万円は、親会社がSTSデジタルへ貸し付けていた貸付債権の放棄額である。事業や会社の取引価格と読める根拠は、開示のどこにもない。
- HYPOTHESIS
- デジタルマーケティング事業を別のグループ会社へ移し、事業を失った法人を親会社が吸収合併する。この流れで、債務超過の解消とグループの整理を一度に終えられる可能性がある。仮説として、親会社は放棄を先に済ませ、残りの処理で帳簿上の混乱を狭める設計を選んでいる可能性がある。ただし移管の費用と合併の条件は未開示で、この読みを確かめる材料はまだ開示されていない。
2026年10月24日時点の公開情報。以降の章は、開示事実を土台にしたRAXUSの分析・仮説です。根拠資料を見る ↓
02 / SCHEME
三つの法的行為を、
分けて確かめる
取引を一括りにすると子会社の処分に見える。開示を分解すると、性質の違う三つの行為になる。
第一段階は債権放棄である。親会社がSTSデジタルへ貸し付けていた貸付債権156百万円を放棄する。取締役会の決議は2026年10月23日に出て、実施日は2026年10月31日の予定だ。 (S1)
第二段階は事業承継の方針である。STSデジタルのデジタルマーケティング事業を、同じグループのイーネットソリューションズが承継する。法的方式、承継する契約や資産の範囲、時期は開示されていない。 (S1)
第三段階は吸収合併の予定である。事業を移した後のSTSデジタルを親会社が吸収合併し、法人を消滅させる。存続会社は親会社で、決議日と効力発生日は未開示である。 (S1)
三段階に分けて見れば、決議済みの範囲と設計途中の範囲を読み手が区別できる。株式の移動はどこにもなく、グループの外へ出る当事者もいない。外部の買手が参加する取引である根拠は、開示のどこにも見つからない。
- 承継・合併の方式と日程は未開示。 (S1)
03 / ENTITIES
東証プライムの親会社、
債務超過の子会社
上場する親会社と、規模の小さな子会社。当事者の帳簿を並べて置く。
親会社の2026年6月期連結売上は31,091百万円で、営業利益は2,966百万円である。子会社1社の債権放棄156百万円は連結の規模に対して小さく、連結業績への影響がないという会社の説明と整合する。 (S2) (S1)
イーネットソリューションズは同じグループの会社で、デジタルマーケティング事業の承継先として計画されている。単体の事業規模は今回の開示では確認できない。 (S1)
事業は続く。STSデジタルの法人が消えるとしても、デジタルマーケティング事業はグループ内の別の会社へ移る。承継後も事業継続を目指す方針が開示に示されている。 (S1)
上場しているのは親会社だけで、STSデジタルもイーネットソリューションズも非上場である。確認できる数値は、開示に書かれた範囲にとどまる。
東証プライム・4396
クラウド / システムインテグレーション等
- 連結売上31,091百万円(2026年6月期連結) (S2)
- 連結営業利益2,966百万円(2026年6月期連結) (S2)
デジタルマーケティング
- 設立2023年10月 (S1)
- 資本金30百万円 (S1)
- 純資産△74百万円(2026年6月末) (S1)
- 総資産114百万円(2026年6月末) (S1)
- 売上・損益未開示
04 / ACCOUNTING
個別の損失と、
連結ゼロが両立する
本稿の主題である。81百万円の損失と連結への影響なしは、矛盾せずに両立する。
親会社の個別決算から読む。貸付債権156百万円のうち74百万円は、2026年6月期までに貸倒引当金としてすでに費用計上済みである。残る81百万円を、2027年6月期の個別決算で貸倒損失として特別損失に計上する見込みだ。 (S1)
引当金74百万円と見込損失81百万円の合計は、端数処理の関係で156百万円と厳密に一致しない可能性がある。開示が示すのは、既に費用化した分とこれから計上する分の合計がおよそ156百万円という読みである。 (S1)
STSデジタルの個別決算では、親会社からの債務免除益が計上される。子会社の負債が減り、債務超過△74百万円の解消が目的に掲げられている。 (S1)
連結決算では、この二つが相殺消去される。親会社の貸倒損失と子会社の債務免除益は、同じグループ内部の債権債務の消滅である。グループの外へ現金や損失が出ていく取引がないため、連結業績への影響はないと会社は説明する。 (S1)
この構造を自分の言葉で言い換えるなら、次のとおりである。個別の帳簿では親会社が損を認識し、子会社が得を認識する。連結の帳簿では両者がグループ内部の取引として消去され、グループ全体の損益は動かない。156百万円に見合う価値が外の誰かに支払われる場面は、どこにも存在しない。
金額・対象・開示形式が揃うと、156百万円を買収の価格と読みたくなる。だが買収取引である根拠は開示のどこにもない。この金額は、グループ内部の債権債務を帳簿から外す処理額である。
05 / UNCLOSED
決まったことと、
まだ決まっていないこと
開示済みと未開示を区別したまま、次の確認点を置く。
決議と実施予定日、放棄額、子会社の財務、会計影響の見込みは開示済みである。事業承継の法的方式と対象範囲、吸収合併の決議日と効力発生日、承継先単体の規模、移管に伴う費用は、いずれも未開示のままだ。 (S1)
債権者保護手続の要否も、今回の開示からは確認できない。会社側の追加開示を待つ必要がある。
今後の確認点は三つある。2026年10月31日の債権放棄の実施。事業承継と吸収合併の正式決議、その方式と日程。2027年6月期の親会社個別決算における貸倒損失81百万円の計上。 (S1)
2026年10月24日時点
- 債権放棄の決議
- 開示済み
- 2026年10月23日決議・156百万円 (S1)
- 債権放棄の実施
- 次の確認点
- (S1)2026年10月31日予定。執筆時点で未実施。
- 事業承継の方式・範囲・時期
- 未開示
- イーネットソリューションズへ承継する方針まで開示。
- 吸収合併の決議日・効力発生日
- 未開示
- 存続会社は親会社の予定。
- 連結業績への影響
- 開示済み
- なし(会社見解) (S1)
06 / LESSON
損失のありかは、
帳簿ごとに違う
債務超過の子会社を持つ事業会社にとって、本件は処理設計の実例である。
グループ内再編では、金額の大きさより帳簿の位置が意味を決める。156百万円は放棄額であり、81百万円は個別決算の損失であり、連結は動かない。三つの数字を一つの取引金額として束ねると、読み手は必ず間違える。
処理の順序も設計対象である。放棄が先に出て、事業移管と合併が後ろに続く構成は、損失の計上を2027年6月期の個別決算へ置く。順序を変えれば、損失の出る帳簿と時期も変わる。 (S1)
決議から実施予定日まで8日しかなく、第一段階はすでに動いている。自分の案件で同じ設計をする場合、先に置くべき問いは、どの行為をどの決議機関で通すかである。損失の額と出る時期は、その答えの後から決まる。


