01 / CASE
「買収」ではない。
少数株主として、隣に座った。
2026年9月23日、Japan GoldはSolidcore Resourcesとの戦略提携を発表しました。金額の大きな見出しからは買収を想像しがちですが、開示された構造は違います。
C$35m
18.81%
49→70→80%
Japan Goldは、北海道・本州・九州で26 projects、3,000 sq km超の鉱業権ポートフォリオを持つカナダ籍の探鉱会社です。自社を「largest mineral exploration company in Japan」と位置付けています(会社の自己表記)。Solidcore Resources(旧Polymetal International)は、カザフスタンを中心に金鉱山を運営する上場鉱山会社です。
SolidcoreはJapan Gold株式78,775,000株を1株C$0.12、総額C$9.453 millionで引き受け、非希薄化ベースで18.81%の株主になりました。ワラント全行使時の19.9%はpartially diluted basisを仮定した数字で、現在の持分ではありません。取締役2名(Victor Flores氏、Tania Tchedaeva氏)が就任済みで、将来の増資にpro-rataで参加する権利も付与されています。
もう一つの柱が、Japan Goldの国内5つのTarget Areasへの探鉱費負担です。Solidcoreは3年間でC$35 million(会社表記で約US$25 million)を全額負担します。これは探鉱を実行するための支出コミットメントであり、JV持分の「取得価格」ではありません。
- FACT
- SolidcoreはJapan Gold株式78,775,000株をC$0.12/株・総額C$9.453 millionで引き受け、非希薄化ベースで18.81%を保有。指名した取締役2名は就任済みです。国内5つのTarget Areasには3年間でC$35 million(会社表記で約US$25 million)の探鉱費を全額負担し、支出完了後に最大5つのJVで各49%を取得できます。70%(PFS単独負担)・80%(BFS単独負担)は条件付きの選択肢で、確定した持分ではありません。
- ANALYSIS
- 一括買収ではなく、少数株式・取締役派遣・Alliance Committeeのcasting vote・ROFRで関与の席を確保しつつ、プロジェクト持分は探鉱と調査の進捗に応じて積み上げる設計と読めます。探鉱支出そのものが、対象資産を確かめる技術デューデリジェンスの役割を兼ねています。
- HYPOTHESIS
- 地質リスクを最初の価格に織り込むのではなく、支出マイルストーンで情報を得ながら持分を増やす設計は、創薬やdeeptechなど不確実性の高い領域の資本提携にも応用余地があります。
2026年9月24日時点の公開情報。以降の章は、開示事実を土台にしたRAXUSの分析・仮説です。根拠資料を見る ↓
02 / TIMELINE
意思決定の流れを追う。
2020
約5年間で大規模なgeochemical / geophysical databaseを構築。
2025.10.31
最終開示ベースの累計資金は約C$23.3 million / US$17.4 million。
2026.09.23
Solidcoreが18.81%を取得し取締役2名が就任。Equinoxの出資・転換社債の株式化も同日時点で完了。
2026.11.04まで(予定)
US$3 millionで追加0.5%、全物件のroyaltyは1.5%→2.0%に。
3 YEARS
C$35 millionの支出完了で、最大5つのJVで各49%をearn-in。
AFTER
いずれもSolidcoreの単独負担を条件とする選択肢。
03 / EARN-IN
49%→70%→80%。
持分は、払った調査費で「稼ぐ」。
Earn-inは、現金で持分を買う代わりに、プロジェクトへの資金投入によって持分を得る仕組みです。本件では、その段階が三つに分かれています。
第一段階。C$35 millionの支出を終えると、Solidcoreは最大5つのJVでそれぞれ49%を取得できます。各JVの当初持分はJapan Gold 51%、Solidcore 49%です。「最大5つ」であり、5件すべてでJVが組成されることは約束されていません。
第二・第三段階は選択肢です。PFS(予備的実現可能性調査)を単独で負担すれば70%、BFS(バンカブル・フィージビリティ・スタディ)を単独で負担すれば80%まで持分を増やせます。Solidcoreが70%への増加意思を示した場合は、原則としてSolidcoreがJV Managerになります。
BFSの後、Japan Goldは残る20%について三つの選択肢を持ちます。生産開始まで自ら資金を出す、10%をSolidcoreへ売却して残り10%を1% NSR(Net Smelter Return=製錬収入ベースのロイヤルティ)に転換する、20%すべてをSolidcoreへ売却する、のいずれかです。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
支払うのは、価格ではなく
「確かめるためのコスト」。
この設計では、持分の大きさがどこまで探鉱・調査費を負担したかに対応します。買い手は段階ごとに得られる地質情報を見てから、次の資金を出すかを判断できる構造と読めます。
04 / GOVERNANCE
過半数を持たずに、
意思決定の席を確保する。
18.81%は会社を支配する水準ではありません。一方で、提携の運営には複数の関与の仕組みが組み込まれています。
提携を運営するAlliance CommitteeはSolidcore 2名・Japan Gold 2名で構成され、意見が割れた場合はSolidcore側のchairmanがcasting voteを持ちます。提携期間中、SolidcoreはPipeline Areasへの第三者提案に対するROFR(Right of First Refusal)も持ちます。
本体株式18.81%、取締役2席、Committeeでのcasting vote、ROFR、増資へのpro-rata参加権。これらを並べると、Solidcoreは会社の支配権ではなく、探鉱の優先順位付けと将来案件へのアクセスに関与する位置を押さえた、と読めます。
Japan Gold側から見れば、会社の経営権を手放さずに3年間の探鉱資金を外部から確保する形です。
05 / OPTIONALITY
探鉱費は、
3年間の技術デューデリジェンスでもある。
この設計を買い手側から読むと、中心にあるのは「いくらで買うか」ではなく「どの順番で不確実性を減らすか」です。
探鉱段階の鉱区は、鉱量も採算性も確定していません。一括で買収すれば、その不確実性ごと価格を決める必要があります。Earn-inでは探鉱支出そのものが対象資産を調べる行為になり、結果を見てからPFS・BFSへ進むかを選べます。技術DDを取引の前ではなく、取引の中で実行する構造と読めます。
Solidcoreは成長戦略としてgreenfield explorationと新規資産取得を掲げ、今回の目的をreserve growthとgeographic diversificationと説明しています。2025年の売上高はUS$1.5 billion、gold equivalent productionは395 Koz。Japan Goldのリリースは、Solidcoreの2025年FCFを約US$348 million、時価総額をUS$5.5 billionと紹介しています。
この規模と比べると、3年間でC$35 million(約US$25 million)の探鉱コミットは、新しい国への参入を試しつつ、成果が出た案件にだけ追加資本を積む余地を残した配分とも読めます。なお、探鉱費のコミットは鉱量・埋蔵量・商業生産を保証するものではありません。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
一度に買い切るより、
確かめながら持分を増やす。
不確実性が大きい資産ほど、取得価格の交渉より「どの情報が出たら次に進むか」の設計が、買い手のリスクとリターンを左右します。
06 / CURRENCY
「$50 million」を、
一つの数字として読まない。
同日には、Solidcore以外の資金手当ても発表されました。C$建てとUS$建ての資金が並ぶため、通貨ごとに分けて読む必要があります。
Solidcore関連はいずれもC$建てです。本体への第三者割当がC$9.453 million、5つのTarget Areasへの探鉱費負担が3年間でC$35 million(会社表記で約US$25 million)。後者は支出コミットメントで、JV持分の取得価格ではありません。
Equinox PartnersはC$1.069 millionの第三者割当を引き受け、転換社債の元本C$2.763 millionと利息C$88,754を株式に転換しました。Japan Goldは、これにより転換社債についてdebt freeになったと説明しています。
OR RoyaltiesはUS$3 millionで追加0.5%のroyaltyを取得する権利を行使し、全物件に対するroyaltyは1.5%から2.0%になります。クロージングは2026年11月4日までの予定です。
リリースの見出しには「$50 million committed capital」とありますが、C$建てとUS$建ての資金が混在するため、本稿では合計額をUS$で示さず、上記の通貨別の内訳で記載しています。
07 / LESSON
不確実な資産ほど、
「買い方」を分割する。
この案件には、資源業界以外のM&Aにも持ち帰れる論点があります。
段階取得は、買い手だけに有利な仕組みではありません。Japan Goldは会社本体の経営権を保ったまま探鉱資金を得ており、BFS後には残る20%を自ら持ち続けるか、売却・NSR転換するかを選べます。売り手側にも、将来の選択肢が残る設計と読めます。
仮説として、創薬パイプラインやdeeptechの研究開発のように初期の不確実性が大きい資産でも、支出マイルストーンに応じて持分が増える設計は選択肢になり得ます。ただし、本件のearn-inは鉱業権や探鉱の実務慣行に支えられた面があり、他分野にそのまま移せるかは個別の検討が必要です。
「何%を、いくらで買うか」ではなく、「どの情報が出たら、誰が、次の資金を出すか」。本件は、その問いを契約として書き下ろした事例として読めます。


