研究の中心は、情報を段階的に集めて診断に至る過程を評価するSDBenchです。米国医師免許試験のような従来のベンチマークは、最初から全情報が与えられ、答えを1つ選ぶ形式です。実際の診療では、何を尋ね、どの検査を頼み、新しい所見で仮説をどう変えるかを順に決めます。SDBenchはNEJMの症例検討会から出た複雑症例304件と、救急外来の来院記録データベースMIMIC-IV-ED由来の、より典型的な救急外来症例を使い、正診率に加えて要求した情報と推定検査費用を測ります。
- 01 エージェント
情報を選ぶ
診断が分からない要約だけを与えられ、検査の依頼や質問、診断の確定を順に決める。
- 02 Gatekeeper
結果を返す
依頼された検査や質問に対し、症例の全文から結果を答える。原文にない項目は合成結果を返す。
- 03 Judge
診断を採点
確定した診断を正解と照合し、1〜5段階で採点する。4以上を正診として数える。
- 04 費用推定
検査費を計上
エージェントが頼んだ検査の推定費用を合計し、正確さと費用の両面で評価する。
出典はGitHubのmicrosoft/sdbenchリポジトリREADME(2026年10月23日確認)。GatekeeperとJudgeのモデルとプロンプトは設定で固定し、評価対象はエージェント側のモデル。
MAI-DxOは単一のモデルに即答させず、仮想の医師パネルのように複数の役割を設けた構成です。各々が診断を提案し、有用な質問や検査を選び、浮上した見解に反論します。MAI-DxOは数ラウンドの議論を調整し、証拠が揃うにつれ判断を更新しながら、各検査の価値を費用と引き換えに評価します。会社の報告では、NEJM症例でMAI-DxOは83%、一般診療医は資料なしで22%、資料ありで36%でした。救急外来症例ではMAI-DxO 80%に対し医師は47%でした。
NEJM難病例304件複雑症例
- MAI-DxO
- 83%
- 医師(資料あり)
- 36%
- 医師(資料なし)
- 22%
救急外来症例MIMIC-IV-ED由来
- MAI-DxO
- 80%
- 医師(資料あり)
- ―
- 医師(資料なし)
- 47%
出典はMicrosoft AI公式発表(2026年10月22日付、2026年10月23日確認)。救急外来症例では資料あり・なしの区分が公表されていないため「―」とする。数値はMicrosoftの報告で、第三者検証ではない。
費用を重く設定した構成では、NEJM症例で81%の正診率を保ちながら、比較対象のシステムの半分未満の推定検査費用で済んだと会社は報告しました。両方の症例セットを通じて、より正確かつ低費用を同時に満たす人間やAIの手法はほかになかったと発表しています。また、手法を変えずにGPT-5.5を含む新しいモデルで評価を繰り返しても、傾向は維持・向上したとしています。
「ベンチマークは重要ですが、本当の試金石は実際の診療環境での性能です。」
Benchmarks matter, but the true test is performance in real clinical environments.
公開の範囲には制約があります。SDBenchは選ばれたNEJM症例について、ベンチマーク本体とGatekeeper、Judge、費用推定のコードを公開しました(MITライセンス)。ただしNEJM症例の元データはNEJM社とのライセンス契約が必要で、MIMIC由来のデータはPhysioNetの配布ページから別途アクセス申請します。リポジトリに同梱されるのは、動作確認用の合成症例5件だけです。
次の段階として、Microsoft AIはボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターと組み、複数の病院設定で臨床推論を評価する前向き研究を計画しています。患者がシステムと直接やりとりし、性能を医師の独立した判断と比べる設計です。診療での利用はまだ始まっておらず、一般向けの提供や医療機器としての扱いは発表されていません。2025年6月の先行研究から段階を進めた今回の結果は、過去症例の統制された評価であり、実臨床で医師を上回ることを示したものではない点には注意が必要です。
出典
- Microsoft AI「Building Medical Superintelligence」2026年10月22日公開(MAI Health Team)。Science掲載の発表、SDBenchの構成(NEJM 304件+MIMIC-IV-ED)、正診率83%/36%/22%と80%/47%、費用重視構成の81%と半分未満の費用、SDBench公開の範囲、Beth Israel Deaconessとの前向き研究計画、Mayo Clinicとの協働。2026年10月23日に本文確認。
- GitHub microsoft/sdbench評価コードの公式リポジトリ(MITライセンス)。エージェント・Gatekeeper・Judgeの評価ループ、臨床データセットは同梱せずNEJMのライセンスとPhysioNetのアクセスが必要なこと、合成症例5件のみ同梱。2026年10月23日にREADME確認。
- Science「Sequential diagnosis with language models」(DOI 10.1126/science.aeh7930)掲載論文。Crossref APIで論題・掲載誌・著者(Nori、Daswani、Lundberg、Sounderajahら)を確認。本文は2026年10月23日時点で取得できておらず、数値はMicrosoft公式発表に依存。
出典の確認日 2026.10.23