01 / STRUCTURE
会社ではなく、
事業を切り出す
見出しの「128億円」は、ケー・エキスプレスという会社の値段ではない。
吸収分割
128億円
2026-12-01
サンマルクHDが新設する100%子会社が承継会社となり、ケー・エキスプレスから対象事業の資産・契約その他の権利義務を吸収分割で承継する。ケー・エキスプレスの株式を取得するわけではないため、対象会社の「取得比率」は該当しない。売り手の親会社であるカトープレジャーグループ(KPG)が持つほかの事業も、この取引には含まれない。
この構造は、欲しい事業だけを選んで移せる形と読める(編集上の整理)。法的な取引の相手(ケー・エキスプレス)と、経済的に買い手が手に入れたいもの(つるとんたんのブランド事業)は別で、記事もそのつもりで読む必要がある。
なお本件は効力発生日前である。分割契約の締結も、株主総会も、効力発生も「予定」の段階にあり、本稿は完了した取引としては扱わない。
- FACT
- サンマルクHD(東証プライム3395)は2026年9月17日、100%子会社を新設して承継会社とし、ケー・エキスプレスの「つるとんたん」等の対象事業を吸収分割で承継すると発表した。承継会社の設立と分割契約の締結は2026年9月30日、効力発生日は2026年12月1日が予定されている。
- FACT
- 分割対価は金銭12,800百万円(承継会社からケー・エキスプレスへ交付予定)。対象事業の2026/3期売上高は6,135百万円、2026年3月31日基準の承継資産の帳簿価額は1,216百万円で、承継対象の負債はない。取得原価配分とのれんの金額は精査中とされている。
- ANALYSIS
- サンマルクHDは2024年に京都勝牛・牛かつもと村を取得し、牛カツ業態を2026/3期に売上高18,020百万円まで育てた。今回も「和の専門業態」を共通基盤に載せる同じ型の延長と読める。ただし「型」という整理は本稿の編集上の見立てで、会社の公式用語ではない。
- HYPOTHESIS
- 牛カツで確認された再現性がつるとんたんでも観察されれば、「ブランド力は強いが店舗展開に制約のある和食の専門業態」は今後も承継・取得の候補になり得る。具体的な次案件は開示されていない。
2026-09-20時点の公開情報。以降の章は、開示事実を土台にしたRAXUSの分析・仮説です。根拠資料を見る ↓
02 / TIMELINE
意思決定の流れを追う。
2024.11.19
インバウンド・海外展開に強い和食業態の獲得と、物件情報・出店ノウハウ・調達・物流の共有を狙うと説明。
2026.03期
通期売上高88,432百万円、営業利益5,149百万円。牛カツ業態の売上高は18,020百万円。
2026.05
京都勝牛等を軸に「京都ブランド」で国内出店・グローバル展開を進める戦略背景。
2026.09.17
サンマルクHD・KPGが、吸収分割による事業承継を公表。
2026.09.30(予定)
本件の承継会社設立と分割契約締結を予定。
2026年10月下旬(予定)
承継会社における株主総会を予定。
2026.12.01(予定)
効力発生日として公表されている日付。
03 / SCOPE & NUMBERS
承継されるものと、
開示されている数字
13店舗のうどん店の話に見えて、対象はもう少し広い。
対象は、国内直営の「つるとんたん」13店舗、和食業態「日本の旬の味 百膳」1店舗(国内直営)、海外フランチャイズ2店舗、製麺事業、ギフト商品販売事業である。「つるとんたん13店舗が128億円」とは言えない。
開示された数字は、対象事業の2026/3期売上高6,135百万円、承継資産の帳簿価額1,216百万円(2026年3月31日基準)、承継対象負債なし、分割対価12,800百万円(予定)である。一方、対象事業の営業利益・EBITDA・店舗別の収益性、取得原価配分、最終のれん額、128億円の資金調達の内訳は開示されていない。
分割対価と帳簿価額の差を「のれん」と読み替えることはできない。会計上は企業結合会計基準の「取得」に該当する見込みとされ、取得原価配分は精査中である。売上高だけから企業価値倍率や投資回収期間を推し量ることもしない。利益が非公表である以上、128億円の妥当性は本稿では判断しない。
それでも言えることが一つある。帳簿上の資産に比べて対価が大きいという事実は、対価の対象が店舗設備だけではないことを示唆している。ブランド、顧客の支持、出店の余地といった無形の要素が取引の中心にあると読めるが、その内訳は今後の開示を待つ必要がある。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
開示されているのは、
売上・帳簿価額・対価まで。
利益、のれん、資金調達は未開示で、差額から計算しない。
04 / PLAYBOOK
M&Aを、一件ごとの
出来事にしない
本件を単独の案件ではなく、サンマルクHDのこれまでの動きの中に置いて読む。
事実として、サンマルクHDは2024年に京都勝牛・牛かつもと村を取得した。2024年11月の開示では、インバウンドと海外展開に強い和食業態を獲得し、物件情報・出店ノウハウ・調達・物流を共有する狙いが示されている。その牛カツ業態は、2026/3期に売上高18,020百万円、セグメント損益1,043百万円となり、同期のサンマルクHDの売上高88,432百万円が過去最高となる一因になった。
2026/3期の決算説明資料は、引き続きM&Aによる業態拡大を狙うこと、「主力ブランドの種となるような業態のM&A」を進めることを明示している。今回の開示も、インバウンドや海外展開に向く和の専門業態を対象にし、国内・海外871店舗(2026年6月末)のチェーン運営、物件情報網、物流網を活かした国内主要都市への計画出店、調達コストの低減、ASEANを含む海外展開を掲げている。
分析として、これらを並べると「知名度の高い専門ブランドを取得し、物件・出店・物流・調達といった共通基盤に載せて、主力ブランドへ育てる」という反復可能な型が見えてくる。M&Aを個別のイベントではなく、共通基盤にブランドを載せる成長モデルとして読むことができる。「型」「共通基盤」は本稿の整理で、会社の公式な呼び方ではない。
仮説として、この型が機能するかどうかは、牛カツ業態で見えた再現性が、つるとんたんのような店舗ごとに空間コンセプトの異なるブランドでも成り立つかにかかる。出店数、出店時期、海外の展開先や数値目標は開示されておらず、現時点で確かめられる材料はない。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
牛カツ2業態から続く
取得の型の延長として読める。
ただし再現性の検証はこれからだ。
05 / SELLER'S VIEW
売り手は、なぜ
手放すと説明したか
公式説明にあるのは「最適なスケール」という言葉である。
KPGの発表によれば、代表は「業態ごとにブランドスケールを定め、つるとんたんは現在の店舗数を最適なスケールとして設定していた」と述べている。その一方で、サンマルクHDならブランドのポテンシャルを引き出し、さらに大きく成長させられると判断した、と説明している。KPGは同じ発表で、1,000億円企業を目標にM&A・業務提携・資本提携等も活用する方針を示している。
公式説明は経営不振や資金繰りではなくブランドの規模と成長の話であり、本稿もそれ以上の理由を推測しない。分析として、ブランドを育てる力と、チェーンとして広げる力は別の能力であり、成長段階によって最適な持ち主が変わり得ることを示す事例と読める。
仮説として、KPGは概念づくりや体験設計に資本と人材を振り向け、サンマルクHDは出店・物流・海外展開を受け持つという役割分担に移る可能性がある。ただし承継後のKPGとの協業の範囲は開示されていない。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
売り手の説明は
「最適な規模」と「さらなる成長」。
それ以上の理由は本稿では推測しない。
06 / WATCH POINTS
これから、何を
確かめるか
効力発生前の案件では、確かめられる項目そのものが読みどころになる。
確認できる節目は、2026年9月30日の承継会社設立と分割契約の締結、2026年10月下旬の承継会社の株主総会、2026年12月1日前後の効力発生と承継完了の開示である。追加条件が開示されるかも見ておきたい。
サンマルクHDの次回以降の決算では、取得原価配分、のれんや商標権の扱い、資金調達、業績への寄与見通しが確認できる可能性がある。今回の128億円をどう調達するかは開示されておらず、決算説明資料の「追加のM&Aは借入で実施する想定」という方針から、本件が全額借入と決めつけることはできない。
仮説として、ブランドの希薄化を避けながら出店ペースを上げられるかが、統合後の大きな論点の一つになる。新規出店数、既存店の売上、海外フランチャイズ、調達・物流の効果といった指標が今後どう開示されるかで、この型の再現性は判断できるようになる。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
完了の確認は12月以降。
まずは分割契約、株主総会、その後の決算開示を順に見る。


