01 / CASE
PEファンドに託した会社が、
創業家のもとへ戻る。
2023年にPEファンドの支援で上場をやめた介護グループの株式を、約3年後、ファンドが創業家の設立した会社へ譲渡した。
2026.09.24
創業家SPC
非開示
ロングライフホールディングは1986年に民間介護サービス会社として設立され、2002年に上場した (S6)。在宅介護と富裕層向け有料老人ホームを中核とし、NPMIは同社を介護専任事業者として国内初の上場企業だと説明している (S1)。2023年にはNPMIファンドが100%保有するNPMI-LLH株式会社による公開買付けが成立し (S2)、同年10月25日に上場廃止となった (S4)。
今回の発表で、NPMIファンドは保有するロングライフホールディング株式のすべてを、創業家が設立したSPCへ譲渡した (S1)。注意したいのは、開示されているのが「ファンドが保有する全株式」の譲渡だという点だ。それが発行済株式の100%にあたるのか、取引後に誰がどれだけ保有するのかは、現時点の公表資料からは確認できない。
同様に、9月24日は発表日である。譲渡は実行済みとされているが、正確な実行日は示されていない。本稿は、開示された事実と、そこから読める構造を分けて扱う。
- FACT
- 2026年9月24日、日本PMIパートナーズ(NPMI)は、同社がGPとして運営する地域医療活性化ヘルスケアファンド投資事業有限責任組合(NPMIファンド)が保有するロングライフホールディングの全株式を、同社創業家が設立した特別目的会社(SPC)へ譲渡したと発表した。NPMIは本件を「創業家によるMBO型・事業承継型のEXIT」と位置付け、2021年に組成した同ファンドにとって初のEXITだと説明している。譲渡価額、取引後の持株比率、SPCの名称、正確な譲渡実行日は開示されていない。 (S1)
- ANALYSIS
- 2023年の非公開化の時点で、創業家側の一部株式は公開買付けに応募しない設計とされ、創業者と長男は非公開化後も経営に関与する予定だった (S3)。今回の譲渡は、その「創業家が残るスポンサー付きMBO」の延長線上で、スポンサーが退出し、所有と経営の主体を創業家側へ戻す取引と読める。
- HYPOTHESIS
- 後継者はいるが上場したままでは事業の再構築が難しい中堅企業にとって、「創業家の一部残留+PEによる非公開化+一定期間のハンズオン支援+創業家による再取得」という順序は、事業承継の選択肢の一つになり得る。ただし今回の取得資金・契約条件は開示されておらず、この形がどこまで再現可能かは断定できない。
2026年9月24日時点の公開情報。以降の章は、開示事実を土台にしたRAXUSの分析・仮説です。根拠資料を見る ↓
02 / TIMELINE
意思決定の流れを追う。
1986
在宅介護と有料老人ホームを中核とする介護グループへ。 (S1)
2002
NPMIは同社を「介護専任事業者として国内初の上場企業」と説明している。 (S6) (S1)
2021
地域医療活性化ヘルスケアファンド投資事業有限責任組合。GPは日本PMIパートナーズ。 (S1)
2023.06.15 → 07.27
NPMIファンドが100%保有する会社が1株186円で実施し、成立。創業家関係者を含む21.02%は不応募とされた。 (S2) (S3)
2023.10.25
株式併合の効力発生日は同年10月27日。 (S4)
2023 → 2026
NPMIは現地常駐メンバーを出向させ、事業の集中、採用・管理体制、介護報酬加算、DX、財務体質の改善を支援したと説明。 (S1)
2026.09.24
NPMIファンドが保有する全株式を譲渡済みと発表。正確な実行日・譲渡価額は非開示。 (S1)
03 / EXIT ROUTE
出口は、再上場でも
第三者への売却でもなかった。
PEファンドの出口として一般に想起されるのは、再上場、事業会社への売却、別のファンドへの売却だ。今回の譲渡先は、そのどれでもない。
NPMIは譲渡先を創業家のSPCとし、取引を「MBO型・事業承継型のEXIT」と呼んでいる (S1)。買い手は外部の新しいオーナーではなく、同社を創業した一族の側が設けた会社である。同社の現在の代表取締役社長は遠藤拓馬氏で (S5)、2023年の開示では、創業者・遠藤正一氏の長男として非公開化後も経営に関与する予定とされていた (S3)。
この構図は、ファンドの保有期間を「オーナーの交代」ではなく、「期限付きの共同経営」として使った事例と読める。上場を続けたまま事業の組み替えを進めるのが難しい局面で、いったん外部資本と組んで非公開化し、スポンサーが退出する段階で所有と経営の主体を創業家側へ戻す、という順序である。
譲渡先の選択について、NPMIは、同社の歴史と地域を最もよく知る創業家のもとで、高品質なサービスと経営陣・従業員の力を引き続き発揮し、地域の医療・介護インフラの担い手として事業を継続すると説明している (S1)。一方で譲渡価額は開示されておらず、どのような売却プロセスを経たのかも外からは確認できない。
04 / ROLLOVER
2023年の設計に、
創業家の席が残されていた。
今回の出口を理解する前提は、2023年の非公開化が「ファンドが創業家を退出させる買収」ではなかったことにある。
2023年の公開買付けは1株186円、買付期間は6月15日から7月27日まで (S3)。当時の開示では、創業者の遠藤正一氏(13.80%)と遠藤拓馬氏(0.81%)は非公開化後も経営に継続関与する予定とされ、ロングライフ総研など創業家関係者を含む合計2,171,200株(21.02%)が公開買付けに応募しない株式として示されていた (S3)。上場廃止は2023年10月25日、株式併合の効力発生日は同年10月27日である (S4)。
創業家が株式の一部と経営への関与を持ち続ける設計は、スポンサーが退出する段階で「次の持ち主」を用意しやすくする。今回、創業家側がSPCを設けて買い手になったことは、2023年からの継続関与が所有の継続性(ownership continuity)を作りやすくした可能性を示唆する。
ただし、2023年の資料が示すのは創業家の不応募と経営継続の予定までであり、2026年に創業家がファンドから株式を取得することが当時から合意されていたとまでは確認できない。また、186円は3年前の上場株式に対する公開買付価格であり、今回の譲渡価額を推し量る基準にはならない。今回の対価は開示されていない (S1)。
05 / HANDS-ON
約3年間、ファンドは
何をしたと説明しているか。
NPMIは保有期間中の支援内容を具体的に列挙している。ただし、これはファンド自身の説明であり、成果を示す数値は公表されていない。
NPMIによれば、保有期間中は現地常駐のメンバーを出向させ、①在宅介護と富裕層向け有料老人ホームへの経営資源の集中、②集客・採用・管理体制の強化、③介護報酬の加算取得と運営力の強化、④内製システム開発を含むAI活用・デジタル化、⑤財務体質の改善を支援した (S1)。NPMIはヘルスケア特化型のPE運用会社として「ヘルスケア×PMI×DX」を掲げている (S2)。
介護事業は労働集約的で、収入の多くが公定価格の枠組みに左右される。そのため企業価値に効きやすいのは、採用と定着、管理業務の生産性、加算の取得、稼働率、財務体質といった運営の積み重ねだ。列挙された5項目はまさにその領域に並んでおり、スポンサー期間が創業家へ引き継ぐ前の「経営の組み直し」に充てられたと読める。
一方で、非公開化後の売上・利益、利用者数、職員数などの最新値は公表されていない。NPMIは企業価値の向上を実現したと述べているが、これは同社の自己評価であり、独立した評価や売却倍率は開示されていない。本稿では、改善の度合いを数値で推測しない。
06 / UNDISCLOSED
開示されていないこと。
今回の発表で確認できるのは、誰が誰に株式を渡したかという骨格までだ。
非開示の事項は次のとおり。創業家SPCの名称・出資者・資本金、譲渡価額、買収資金の調達方法(借入の有無を含む)、取引後の持株比率と資本構成、正確な譲渡実行日、今回の取引に関わったフィナンシャル・アドバイザーやリーガル・アドバイザー、NPMIファンドの投資倍率やIRR、非公開化後の業績数値 (S1)。
したがって「創業家が100%を取得した」「9月24日にクロージングした」「ファンドが3年で何倍にした」「高値で買い戻した」といった評価は、現時点の開示からは導けない。
今後の確認点は、ロングライフホールディングまたは創業家SPC側からの追加の開示、法人登記などで明らかになるSPCの概要、そして事業面では、スポンサー退出後も採用・DX・財務改善の取り組みが続くかどうかである。
07 / LESSON
PEを「永久のオーナー」ではなく、
「変革期の資本パートナー」として使う。
本件は、事業承継の選択肢に「いったんファンドと組み、再び創業家へ戻す」という経路があり得ることを示している。
事業承継の議論では、PEファンドへの売却は「創業家が手放す」選択として語られやすい。本件は、創業家が一部株式を残す設計で非公開化し、経営への関与も続け、スポンサー期間に運営改革を進め、その後に創業家側がファンドの保有株式を引き受けるという順序をたどった (S1) (S3)。
仮説として、後継者が社内にいる一方で、上場を維持したままでは事業の組み替えが難しい中堅企業にとって、この順序は再現可能な資本政策の一つになり得る。ただし成立するかどうかは、創業家側が取得資金をどう用意するか、スポンサーの出口として価格面で折り合えるかに左右されるはずで、今回はそのいずれも開示されていない。
RAXUS VIEW / EDITORIAL TAKEAWAY
ファンドの保有期間は、
所有者が替わる時間ではなく、
経営を組み直す時間にもなり得る。
問われるのは出口の形そのものより、スポンサー期間に何を作り、誰がそれを引き継ぐかだ。本件はその問いへの一つの回答例だが、条件が開示されていない以上、数字で「成功」と評価できる段階にはない。


