01 / OVERVIEW
HYUGAのMBOは、
二つの価格を持つ。
まず押さえるべきは、2,110円と1,718円が同じ公開買付けの価格ではないことだ。
2,110円
1,718円
成立前
2026年9月25日、HYUGA PRIMARY CAREは、JGIAが管理・運営するファンドの100%出資会社JG44によるTOBに賛同し、応募を推奨すると発表した。一般株主等が対象となるTOB価格は1株2,110円である。 (S1)
一方、TOB後にはHYUGA自身が、エムスリーグループの保有株の一部を対象に自己株TOBを行う予定だ。その価格は1株1,718円。一般株主がJG44へ応募するTOB価格と、エムスリーグループがHYUGAへ売却する自己株TOB予定価格を分けて扱う必要がある。 (S1)
黒木哲史氏は1,357,200株、所有割合18.27%を保有する筆頭株主で、本取引後も経営を継続する予定とされている。ただし、2026年9月28日時点ではTOB成立前で、株式併合や上場廃止も完了していない。上場廃止日は未決定である。 (S1) (S2)
- FACT
- 2026年9月25日、HYUGA PRIMARY CARE取締役会はJG44によるTOBに賛同し、株主・新株予約権者へ応募を推奨した。一般株主等向けのTOB価格は1株2,110円。TOB後には、HYUGAがエムスリーグループ保有株の一部を1株1,718円で買い付ける自己株TOBが予定されている。 (S1) (S2)
- ANALYSIS
- 2,110円と1,718円は、同じ株主が同じ公開買付けで選べる二つの価格ではない。買付主体、対象株主、取引の順番が異なる複合スキームであり、まず価格の対応関係を分けて読む必要がある。
- HYPOTHESIS
- 価格差だけを見て「エムスリー向けの優遇/不利」と評価すると、法人株主に生じる税務上の手取り調整を見落とす可能性がある。最終判断は、自己株TOBの正式条件と実施結果の開示後に行うべきである。
2026年9月28日時点の公開情報。以降の章は、開示事実を土台にしたRAXUSの分析・仮説です。根拠資料を見る ↓
02 / TIMELINE
意思決定の流れを追う。
2025年10月
HYUGAは別の先行提案者から非公開化提案を受けたが、その後の検討を経てJGIA案へ移行した。 (S1)
2026年7月14日
JGIAがMBOの意向表明書を提出。JG44は本件TOBのために設立されたSPCである。 (S1)
2026年9月25日
一般株主等向け2,110円TOBと、その後の自己株TOB・株式併合・非公開化の予定を公表した。 (S1) (S2)
2026年9月28日
TOB期間は2026年9月28日から11月10日まで。執筆時点では成立前で、取得株数・成立結果は確定していない。 (S2)
2026年11月10日(予定)
成立後の自己株TOB、株式併合、上場廃止の時期は、応募状況と後続手続きに依存する。
03 / TWO PRICES
2,110円と1,718円は、
誰に支払う価格か。
価格差を評価する前に、買付主体と対象株主を切り分ける。
2,110円は、JG44が一般株主等から普通株式や新株予約権を取得するTOBの価格である。公開買付けの開始日は2026年9月28日、期間は11月10日までとされている。 (S2)
1,718円は、TOB後にHYUGAが自己株式を取得する公開買付けの予定価格である。対象はエムスリーグループが保有する株式の一部で、一般株主全体に提示された価格ではない。 (S1)
したがって、「HYUGA株は2,110円でも1,718円でも売れる」という整理は正確ではない。どの株主が、どの買付主体に、どの段階で応募するかによって、価格の意味が変わる。これは二重価格を読むうえでの出発点である。
04 / TAX LOGIC
1,718円は、
税務上の手取りを考慮した価格。
会社側の説明は、価格差を法人株主の税務上の手取りから説明している。
開示資料では、1,718円は法人株主であるエムスリーグループの税務上の手取りを考慮して設定されたと説明されている。法人株主が自己株TOBに応じる場合の税務上の扱いを踏まえ、一般株主向けTOBの2,110円との関係を調整するための価格と読むことができる。 (S1)
ここで注意したいのは、1,718円を「一般株主向けTOBの値下げ」と扱わないことだ。一般株主等向けの2,110円と、法人株主のエムスリーグループ向け自己株TOBの1,718円は、対象株主と取引主体が異なる。税務上の手取りを考慮した価格差を、株式価値そのものの差と混同してはいけない。
一方、開示だけから個別の実効税率やエムスリーグループの最終手取り額を計算することもできない。本稿では税額を推計せず、「法人株主の税務上の手取りを考慮した」という会社側の説明を事実として扱う。
05 / VALUATION
2,110円は、
算定レンジとどう向き合うか。
TOB価格の評価と、自己株TOBの税務調整は、別の論点として見る。
HYUGA側の第三者算定機関であるみずほ証券は、市場株価基準法で1,145〜1,343円、類似企業比較法で307〜729円、DCF法で621〜2,516円の株式価値レンジを示した。2,110円は市場株価基準法と類似企業比較法の上限を上回り、DCF法のレンジ内にある。 (S1)
この算定結果は、2,110円がどのような評価手法と並べて検討されたかを示すものだが、将来企業価値の保証ではない。DCF法の前提となる事業計画も将来予測であり、確定業績ではない。
一般株主向け2,110円の株式価値評価と、エムスリーグループ向け1,718円の税務上の手取り調整は、同じ「価格」の話でも目的が異なる。前者を評価手法、後者を取引設計として分けることで、価格差の読み違いを避けられる。
06 / NEXT STEPS
成立後に予定される手続きと、
まだ決まっていないこと。
非公開化は発表された計画であり、2026年9月28日時点で完了した事実ではない。
JG44によるTOBには買付予定数の下限1,518,400株が設定され、上限はない。まず応募状況と成立結果が確定し、その後にHYUGAによるエムスリーグループ向け自己株TOB、株式併合によるスクイーズアウト、一部自己株式取得が予定されている。 (S1) (S2)
これらの手続きが予定どおり進む場合、HYUGAは上場廃止となる予定だが、2026年9月28日時点ではTOB成立前であり、上場廃止済みではない。成立結果、自己株TOBの正式条件、株式併合の実施日、上場廃止日は後続開示で確認する必要がある。
取引総額や最終取得総額、JG44の最終出資構成、非公開化後の具体的な資本政策も、このPacketの範囲では断定しない。開示されていない数字を株価や株数から逆算して補わないことが重要である。
07 / LESSON
二重価格を見たら、
まず取引の相手を分ける。
M&Aの価格は、数字だけでなく、誰が誰に何を売るのかで意味が変わる。
HYUGAのケースで、一般株主等向け2,110円とエムスリーグループ向け自己株TOB予定1,718円を同じ土俵の価格として比べると、スキームを誤読する。一般株主向けTOBはJG44が買い付け、自己株TOBはHYUGAが買い付ける。対象となる株主も異なる。
さらに、1,718円の設定理由として法人株主の税務上の手取りが説明されている。税務上の手取りを考慮した価格差を、ただちに少数株主への不利益や株式価値の差と断定することはできない。逆に、税務説明だけで取引全体の妥当性が確定するわけでもない。
結論を急がず、TOB成立、自己株TOBの実施、株式併合、上場廃止の各開示を追う。2026年9月28日時点で言えるのは、二つの価格を持つ複合MBOが始まったことまでであり、MBO完了や上場廃止済みではない。


