営業戦略・販路・代理店

整備工場の代理店切りに国が要請。販路は売上より役割で選ぶ

公開 2026.10.17

「金融庁の方針」を理由に、街の整備工場が損保の代理店契約を切られかけたと訴えた。10月13日、金融庁と国交省が損保協会に要請した。要請は基準の中身の再点検にも触れたが、重心は一律の当て方にある。代理店で売る会社は、店を役割で分け、運ぶ営業を育てた店で評価する。

「金融庁の方針」を理由に、損保に代理店の契約を打ち切られた。街の整備工場から、そんな訴えが上がっていました。

10月13日、その国が書面で返しました。金融庁と国土交通省が連名で、損保の業界団体に「待った」をかけたのです。

整備工場に求められた点検は、172項目にのぼったと報じられています。自賠責保険だけを扱う店向けのシートなら、約60項目です。報道によると、せめて自賠責だけでも扱わせてほしいと譲った店に、損保からは「どうせなら自賠責保険もやめませんか」と返ってきたといいます。

大きな店の不正を正すために作ったルールで、街の小さな店が外されかけた。逆さまに見えます。

保険の外でも、同じことは起こります。給湯器のメーカーなら、壊れた家から最初に電話が鳴るのは町の設備店です。その店を、売上の順に並べて下から外していないでしょうか。

最初に結論:店は役割で分け、運ぶ営業は育てた店で評価する

要請の重心は、基準を一律に当てないことにあります。基準の中身も、協会に再点検を求めました。

もう1つ、要請は営業の評価にも踏み込みました。店の品質が上がったら、それを営業の業績評価に反映させる、という項目です。

図1 代理店を売上の大きさで切ると、お客さんの窓口が消える。手数料の規模や態勢の数で一律の線を引くと、小さな店に同じ期限で同じ基準がかかり、事故や車検の窓口が減る。その店がお客さんの何の窓口かを先に決め、役割ごとに基準と期限を変えれば、窓口を残したまま品質を上げられる。直すべきは基準の当て方と、基準を運ぶ人の評価

筆者整理。

代理店や販売店を見直すときは、売上の横に、その店がお客さんの何の窓口かを書き出します。基準は店の役割ごとに変え、基準を運ぶ営業の評価に、店を育てたことを入れます。

10月13日、2省が損保協会に要請。7項目の最後は営業の評価

10月13日、金融庁と国土交通省は連名で、日本損害保険協会に要請文を出しました。行政処分ではありません。協会を通じて、損保各社に運用の見直しを求める文書です。

7つの項目のうち、最後の⑦が評価の話です。代理店の品質が上がったら、営業支社や役職員の業績評価に反映させる。要請文は、その一例として示しています。

図2 7項目は、損保の営業の動き方への注文。話す:趣旨を営業の現場に周知する、代理店への説明の体制を作る、渡す文書の表現を確かめる。合わせる:規模や業務に合わせて助言と支援をする、理由のない一律の期限や対応を求めない。見る:本社が現場の運用を把握し経営陣に報告する。報いる:品質が上がったら営業支社と役職員の業績評価に反映する

出典:金融庁・国土交通省「損害保険業界の信頼回復に向けた取組の適切な運用について(要請)」別紙(2026年10月13日)をもとに筆者作成。4つの分け方は筆者による。

対象は、協会が運営する「代理店業務品質評価制度」の使い方です。代理店が自分で業務を点検し、損保との対話を重ねて品質を上げる仕組みです。

この制度は、2025年度に試しの運用を始めました。2026年度から本格運用に入っています。

要請文によると、一部の代理店から「過度な態勢整備を求められている」「十分な対話を経ることなく委託契約の解除が一方的に示唆された」という声が寄せられました。

金融庁の調べでは、全体としては一定程度、適切な対話が行われていたと見る一方、改善が必要な事例も確認したといいます。

図3 大手の不正から生まれた品質の制度に、3年後「待った」。2023年に大手中古車販売店の保険金不正請求が発覚し、代理店業務品質評価制度は2025年度にトライアル運用、2026年度から本格運用。6月1日に改正保険業法が施行され、7月3日に金融相が会見で実態調査を表明、10月13日に金融庁と国交省が日本損害保険協会に要請した

出典:金融庁・国土交通省「損害保険業界の信頼回復に向けた取組の適切な運用について(要請)」(2026年10月13日)、日本損害保険協会(2025年3月28日)、日本経済新聞(2026年7月3日)、金融庁「保険業法の改正(令和8年6月1日施行)に伴い…」をもとに筆者作成。

7つの項目は、どれも損保の側に向いています。直すよう求められたのは、店よりも、店を見る側の動き方だということです。

そもそも兼業代理店とは? 保険を売る店の半分以上は、車の店

損害保険の売られ方は、メーカーと販売店に置き換えるとわかります。損保会社がメーカー、代理店が販売店です。代理店は売ることを任され、売れた分の手数料を受け取ります。

販売店には、保険だけを売る「専業」の店と、本業のついでに売る「副業(兼業)」の店があります。整備工場は、車検や修理のついでに保険を扱う店です。

自賠責保険は、車やバイクを持つ人が必ず入る保険です。整備工場なら、車検のときにその場で更新できます。整備工場は、お客さんが保険に入りそびれないための窓口でもあります。

図4 代理店は保険の「販売店」。整備工場は、車検のついでに売る店。損保会社をメーカーに見立てると、代理店は売ることを委託されて手数料を受け取る販売店にあたる。保険だけを売る専業代理店と、整備工場や車の販売店のように本業のついでに売る副業代理店がある。自己点検シートは、トライアルの2025年度は業界共通版の利用が任意で1種類だったが、2026年度版で利用が必須になり、自賠責のみ代理店用が加わった

筆者整理。自己点検シートの扱いは、日本損害保険協会「自己点検チェックの取組みの手引き」(2025年度版・2026年度版)、「代理店業務品質に関する評価指針」の一部改正(2025年12月25日)による。

2025年度末の損害保険代理店は、12万4,024店です。そのうち56.4%が、自動車の販売店と整備工場でした。

店の数は減っています。2025年度の1年間で、1万9,263店が廃止されました。ただし、理由の内訳は統計にありません。統合も含まれうるため、契約の解除がどれだけあったかはわかりません。

図5 保険を売る店の半分以上は、車の店。その店の数が減っている。2025年度末の代理店のうち、自動車関連業の代理店が56.4%、専業代理店が17.6%、不動産業の代理店が8.1%。代理店の数は2023年度末15万652店、2024年度末14万138店、2025年度末12万4,024店と減り、2025年度は1万9,263店が廃止、3,149店が新設された

出典:日本損害保険協会「2025年度損害保険代理店統計」(2026年8月7日)、「2024年度損害保険代理店統計」(2025年7月31日)をもとに筆者作成。「その他」は協会が挙げた主なチャネル以外の合計。専業代理店17.6%は主なチャネル別の構成比で、専業・副業別の構成比(専業18.1%)とは集計の区分が違う。

点検のシートは、自賠責だけの店から実態と合っていない項目が多いという声を受け、2026年度に専用のものが加わりました。協会は5月にもその見直しを公開しましたが、7月になっても打ち切りの声は続き、金融相が実態調査を表明しています。

本当に起きていること:同じ基準が、運ぶ人の評価と監督の重さで、店を減らす線になる

報道の多くは、「損保の代理店切り」と「国が一喝」に目を向けています。整備業界向けのメディアは、工場が生き残るために態勢を整えるよう勧めています。

けれども、このニュースの本質は、代理店の品質だけにあるのではありません。本質は、基準の厳しさ以上に、基準を運ぶ側の事情、つまり運ぶ人の評価と監督の重さにあります。

基準を作るのは本社です。その基準を一つひとつの店に当てるのは、営業の担当者です。

小さな店を一つ育てるには、手間がかかります。何度も足を運び、点検の書き方を一緒に考えます。それでも、その店から入る保険料は大きくありません。

店の品質を上げても、担当者の評価が変わらないとします。すると、期限を切って外すのが一番早い仕事になります。要請が⑦に評価の話を入れたのは、この形を直すためだと筆者は読みます。

図6 同じ基準が、店を育てる道具にも、店を減らす道具にもなる。制度が想定した流れは、業界共通の基準、店が自分で点検、損保と対話、店の規模に合わせて改善、お客さんへの対応がよくなる。要請文が挙げた運用の流れは、業界共通の基準、一律の改善期限、十分な対話なく解除を示唆と進み、要請文はその先に、小さな店が離れ地域の窓口が減ることを懸念している。分かれ目は、営業の現場が店を育てたことで評価されるかどうかだと筆者は読む

要請文の記述をもとに筆者整理。後半の2つは、要請文が「仮に」一律の運用が行われているとすれば招きかねない、と書いた懸念。分かれ目は筆者の解釈。

もう1つは、損保の側の事情です。

要請文の③には、「保険会社には、代理店の管理・指導・監督義務があり」と書かれています。損保は、店を指導し監督する側でもあるのです。

6月に施行された改正保険業法も、損保の責任を重くしました。手数料の大きい乗合代理店には、法令を守る責任者を置くことなどを直接求めています。そのうえで損保には、修理などを兼業する代理店に関連して、保険金の支払いなど自社の業務を適切に管理する体制を求めています。

監督の責任が重いまま評価だけ変えても、手のかかる店を切る動機は残ります。店の数だけ指導と監督の手間が増え、兼業の店に関わる自社の管理も問われるからです。どの店にも同じ重さの監督をかければ、小さな店ほど割に合わなくなります。だから、店の役割で基準そのものを分ける必要があります。自賠責だけの店に専用のシートを作ったのは、その一歩です。

不正の舞台は、大口の代理店でした。それなのに報道によれば、任意保険も扱う小さな工場には、大口と同じ共通のシートで172項目の点検がかかりました。筆者は、ここに今回のずれがあると見ます。

基準を作っただけでは、仕組みになりません。役割で分けた基準を、育てた店で評価される人が運んで、初めて仕組みになります。人が育つ方向に評価が向いていれば、同じ基準が店を育てる道具になります。

うちの業界は? 売上は小さいのに、お客さんが最初に相談する店

この形は、保険に限りません。代理店や特約店、販売店を通じて売る会社なら、どこでも起こりえます。

店を2つの軸で分けてみます。1店あたりの売上が大きいか小さいか。お客さんが困ったときや買うときに、最初に足を運ぶ店かどうかです。

意外なのは、左上の店です。売上は小さいのに、お客さんが最初に相談に来ます。住宅設備なら、町の設備店や工務店です。家電なら、高齢の世帯が買い替えを相談する地域の電器店です。業務用の会計ソフトなら、顧問先に勧める税理士事務所がそうです。

図7 売上は小さいのに、お客さんが最初に相談する店がある。販売店や代理店を、1店あたりの売上と、お客さんが最初に相談するかどうかの2軸で分けた。売上が小さく最初に相談される店は、整備工場やバイク店、工務店に設備を納める町の設備店、会計ソフトを勧める税理士事務所、高齢の世帯が頼る地域の電器店などで、一律に切ると一番痛い。売上が大きく最初に相談される店は主力の販売店、売上が大きく相談されない店は大口の卸、売上が小さく相談もされない店は役割を見直す対象

筆者整理。業種の例は代表的な置き場所で、会社によって異なる。

左上の店は、売上表の上では切っても痛くないように見えます。けれども、お客さんが最初に相談する場所を失った分は、あとから主力の店の売上に効いてきます。

あなたの会社では? 代理店制度の作り方は、役割を決めてから基準を決める

あなたの会社に、代理店や販売店の基準を見直す予定はないでしょうか。その基準は、どの店にも同じ期限でかけるものになっていないでしょうか。

代理店で売る仕組みを作り直すなら、順番は4つです。

  1. 何の窓口かを書く。 売上の横に、その店がお客さんの何の窓口かを書きます。故障の相談か、買い替えの相談か、新規の受注かです。

  2. 役割ごとに基準と期限を変える。 最初に相談を受ける店には、軽い基準と長い期限、厚い支えを用意します。主力の店には、最も重い基準をかけます。

  3. 運ぶ人の評価を変える。 営業担当の評価に、育てた店の数を入れます。店に取引件数などの目標を持たせるなら、一方的に割り当てず、話し合って双方が合意した数字にします。

  4. 外す前に話す。 理由と期限を書面で示し、見直しの申し出を受ける担当と連絡先を決めておきます。解除の条件や事前の通知の決め方は「契約書のチェックポイント」で扱っています。

一律の線で見直す

売上順に線を引く

同じ基準と同じ期限を全店にかける。売上の小さい店から外れていく

役割で見直す

相談の窓口を先に守る

店ごとに役割を決め、基準と期限を変える。育てた店で営業を評価する

住宅設備のメーカーで、5つの販売店を見直す例です(図8)。売上順では、工務店と電器店が下のほうにきます。けれども、工務店には地域の修理の電話が最初に入り、電器店には高齢の世帯が指名で相談に来ます。この2店は、支えて残す店です。

図8 明日やること:販売店を、売上の横に「何の窓口か」で並べる。住宅設備メーカーの架空の例では、売上1億2,000万円のA設備は新築の受注を担う主力で最も重い基準、800万円のB工務店は給湯器の故障や交換の最初の相談先、2億5,000万円のC商事は物流と代金の回収を担う卸、300万円のD電器店は高齢の世帯の買い替えの最初の相談先、50万円のE店はこの2年紹介も相談もなく対話のうえで見直す。売上順では下にくるB工務店とD電器店が、切ってはいけない窓口

筆者作成。記入例は架空。

代理店として売らせてもらう側なら、やることは逆です。自店がお客さんの何の窓口かを、数字で示します。整備工場なら、年間の車検の台数と、そのうち保険をその場で更新した件数です。

損保の代理店で、十分な話し合いがないまま契約が解消された店もあるかもしれません。要請は、そうした店から再交渉の申し出があれば、損保が改めて丁寧に対話するよう求めています。ただし、契約を元に戻すことまでは求めていません。話し合いには、先の数字を持って臨むことです。

育てた店を評価にどう入れるかは、指標の選び方の問題でもあります。月次で回す指標の決め方は「KPI設計」にまとめています。

NEXT ACTION / 次にやること

売上が下位の5店について、営業担当に1つだけ聞く

「お客さんは、困ったときにこの店へ何を相談に来ていますか」。答えが返ってきた店は、外す候補から外します。

頼む側として取引先に守るルールは「給湯器メーカーに取適法で勧告。手形と金型保管、支払条件を見直す」に、商談の記録を店ごとに残す方法は「営業ヒアリングの技術」にまとめています。

5問で確認する 代理店・販売店の選び方

代理店や販売店を通じて売る会社が、販路の見直し方を確かめる簡易チェックです。

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5問で確認|代理店・販売店の選び方

自社の代理店・販売店の管理を思い浮かべて、いちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。

回答の進捗0 / 5
  1. Q1販売店ごとに、お客さんの何の窓口になっているかを言える
  2. Q2販売店に求める基準を、店の役割や規模で分けている
  3. Q3基準を満たすまでの期限を、店ごとに決めている
  4. Q4営業担当の評価に、販売店を育てたことが入っている
  5. Q5販売店との取引をやめる前に、理由を示して話し合う手順がある

※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。

出典・調査の対象範囲

  • 金融庁「損害保険業界の信頼回復に向けた取組の適切な運用について」(2026年10月13日) 原文を見る
  • 金融庁資産運用・保険監督局保険課・国土交通省物流・自動車局保障制度参事官室「損害保険業界の信頼回復に向けた取組の適切な運用について(要請)」(2026年10月13日) 原文を見る
  • 国土交通省「損害保険業界の信頼回復に向けた取組の適切な運用について」(2026年10月13日) 原文を見る
  • 日本損害保険協会「2025年度損害保険代理店統計」(2026年8月7日) 原文を見る
  • 日本損害保険協会「2024年度損害保険代理店統計」(2025年7月31日) 原文を見る
  • 日本損害保険協会「『代理店業務品質に関する評価指針』(案)の意見公募結果を公表」(2025年3月28日) 原文を見る
  • 日本損害保険協会「代理店業務品質評価を行う業界共通の枠組み」 原文を見る
  • 日本損害保険協会「『自己点検チェックの取組み』の手引き《2025年度》」 原文を見る
  • 日本損害保険協会「代理店業務品質評価制度の本格運用に向けた『代理店業務品質に関する評価指針(損害保険代理店向け)』の一部改正について」(2025年12月25日) 原文を見る
  • 日本損害保険協会「『自己点検チェック』の取組みの手引き(2026年度版)」 原文を見る
  • 金融庁「保険業法の改正(令和8年6月1日施行)に伴い、規模が大きい特定保険募集人に該当する保険代理店が提出する事業報告書の様式が変わります」 原文を見る
  • 金融庁「保険業法の一部を改正する法律案 説明資料」 原文を見る
  • 日本経済新聞「損保の代理店契約解除、金融庁が実態調査 片山金融相『非常に遺憾』」(2026年7月3日) 原文を見る
  • 日本経済新聞「損保と代理店、『なれ合い』是正の販売改革で亀裂 遠のく顧客本位」(2026年9月9日) 原文を見る
  • 乗りものニュース「片山さつき大臣『実態調査はじめます』 街のクルマ屋の『保険代理店打ち切り』問題に新局面」(2026年7月7日) 原文を見る
  • MSRweb「損保の『モーター代理店打ち切り』が本格化? 金融庁の規制強化から街の整備工場が生き残る道」(2026年7月7日) 原文を見る
  • 乗りものニュース「『街のクルマ屋と保険大手を一緒にするな』金融庁&国交省が異例の“要請” 損保の『代理店切り捨て問題』実態調査を踏まえて一喝!」(2026年10月15日) 原文を見る

※要請の内容は、金融庁・国土交通省が公表した要請文に基づく、執筆時点の情報です。要請は行政処分ではなく、損保各社の今後の対応は報道などで確かめる必要があります。販路を2軸で分けた整理、業種の例、記入例と自己診断は、考え方を示すための編集部の整理です。

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