営業戦略・商談ヒアリング
営業ヒアリングの技術を仕組みに変える 商談で必ず握る項目と記録の残し方
公開 2026.09.03
営業のヒアリングは話術ではなく、聞く項目・記録・レビューの設計で決まります。商談で必ず握るべき条件は取適法が明示を義務づける11項目とほぼ重なり、ここを詰められない会社ほど価格転嫁が進みません。一次情報で整理しました。

- 商談で握るべき条件は、取適法(中小受託取引適正化法)第4条が発注側に明示を義務づける11の事項とほぼ重なる。給付の内容・受領期日・検査完了期日・代金の額・支払期日など、聞くべきことは法令に列挙されている
- 価格交渉は待っていても始まらない。2026年3月の国の調査では、交渉が行われた案件のうち発注側からの申し入れは22.5%、受注側からの申し出は42.4%。自社から言い出した数が約2倍
- 交渉記録を作成し発注側・受注側の双方で保管することは、内閣官房・公正取引委員会の指針が12の行動指針の1つとして明記している。記録は担当者の備忘ではなく取引条件そのもの
「うちの営業は聞くのが下手だ」という悩みは、たいてい個人の資質の話に着地して終わります。しかし経営者が手を打てるのは、誰が担当しても一定の情報が取れる型のほうです。本稿では、商談で必ず持ち帰る項目を法令と公的統計から特定し、それを自社の商談シートに落とし、記録として残して組織の資産に変えるまでを扱います。話法のテクニックではなく、聞けていないと価格を上げられない・払ってもらえないという実務の因果から逆算して、経営者が決めるべきことを整理します。
最初に結論:商談で必ず持ち帰る13項目
最初に完成形を示します。この13項目が毎回の商談で埋まれば、ヒアリングとしては十分に機能します。左端の「根拠」欄が本稿の要点で、上から9項目は担当者の裁量ではなく法令が列挙している事項です。
まず見るべき判断表|商談で必ず持ち帰る13項目
| # | 商談で持ち帰る項目 | 埋まらないと後で起きること | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 1 | 何を納めるか(品目・品種・数量・規格・仕様) | 「言った・言わない」で仕様が膨らみ、無償のやり直しが発生する | 取適法4条 |
| 2 | いつ納めるか(受領期日/役務の提供期日・期間) | 納期の解釈がずれ、遅延の責任を一方的に負わされる | 取適法4条 |
| 3 | どこに納めるか(受領場所/役務の提供場所) | 運送費・立会費用が見積外になる | 取適法4条 |
| 4 | 検査をするか、するなら完了期日はいつか | 検収が下りず、支払が始まらない | 取適法4条 |
| 5 | 代金の額(決まらないなら算定方法) | 追加作業の単価が空欄のまま作業が始まる | 取適法4条 |
| 6 | 支払期日 | 資金繰り計画が引けない。受領日から60日超は違反になりうる | 取適法4条・3条 |
| 7 | 支払方法(現金か、電子記録債権か、振込手数料の負担者) | 額面どおり入らない。割引料や手数料を自社が負担する | 取適法4条 |
| 8 | 原材料等の有償支給があるか(品名・数量・対価・決済期日) | 支給材の代金を先に引かれ、手元資金が痛む | 取適法4条 |
| 9 | 決められない項目があるか、その理由と確定予定日 | 未定のまま着手し、あとから不利な条件を当てられる | 取適法4条 |
| 10 | 価格改定の協議ルール(いつ・誰と・何を根拠に) | コストが上がっても単価を据え置かれる | 労務費指針・取適法 |
| 11 | 意思決定者と決裁の段取り(誰が、いくらまで、いつ決めるか) | 窓口担当と合意しても社内で止まる | 編集部の整理 |
| 12 | 予算の枠と時期(金額の上限と、予算が付く月) | 提案が予算年度をまたぎ、案件が消える | 編集部の整理 |
| 13 | 判断基準(何と比べられ、何で選ぶのか) | 価格だけの比較に落ちる | 編集部の整理 |
商談で何を確定させるべきかは、法令がすでに答えを出しています。話し方を研修するより先に、商談シートの書式を変えるほうが早い課題です。
1から9は、後述するとおり取適法が発注側に明示を義務づけている事項です。つまり「商談で何を確定させるべきか」という問いには、法令がすでに答えを出しています。10は価格改定の協議に関する国の指針から、11から13は本媒体編集部の整理です。
まず自社の商談シートを開いて、この13行があるかを確認してください。1から9のうち欠けている行を足すだけで、ヒアリングの再現性は目に見えて上がります。話し方を研修するより先に、書式を変えるほうが早いという性質の課題です。
仕様と追加作業の単価を商談で握っておくことは、取引先から範囲外の作業を求められたときに断る線にもなります。2026年10月から全ての事業主の義務になったカスハラ対策では、取引先の担当者も「顧客等」に含まれます。契約の範囲で線を引く考え方は「カスハラ対策が全事業主の義務に。断る線は契約の範囲で決める」で扱っています。
❌ 「ヒアリング力を上げるために、営業全員に話法研修を受けさせる」 ⭕ 「商談シートに必須13項目の欄を作り、埋まっていない案件は提案書の作成に進ませない」
商談で握る条件は、法律が項目を決めている
2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法が改正され、「中小受託取引適正化法」(通称・取適法)として施行されました。この法律の第4条は、委託事業者に対し、発注のたびに一定の事項を書面または電磁的方法で中小受託事業者に明示することを義務づけています。
規定が設けられたねらいは条文解説に明記されています。口頭による発注は発注時の取引条件が不明確でトラブルが生じやすく、トラブルが生じた場合には中小受託事業者が不利益を受けることが多い——だから発注の都度、取引条件を明示させる。これは営業実務の言葉に翻訳すれば、「商談で詰め切れなかった項目は、後で必ず自社の損として跳ね返る」という経験則を、国が制度にしたものです。
明示すべき事項は次のとおりです。①から⑪が明示の対象となる事項で、⑫は決められない項目があるときの扱いを定めたものです。右列は、受注側の営業が商談の場で使う確認の言い回しに直したもので、編集部の整理です。
| 取適法4条の明示事項 | 商談での確認のしかた |
|---|---|
| ① 委託事業者・中小受託事業者の名称 | 契約主体はどちらの法人か。グループ内のどの会社が発注元か |
| ② 委託をした日 | 発注日はいつ付けになるか |
| ③ 給付の内容(役務なら提供される役務の内容) | 品目・数量・規格・仕様をどこまで書き切れるか。図面や仕様書の版はどれか |
| ④ 給付を受領する期日(役務なら提供を受ける期日・期間) | 納期はいつか。分納か一括か |
| ⑤ 給付を受領する場所(役務なら提供の場所) | 納品先はどこか。運送はどちらの負担か |
| ⑥ 検査をする場合は検査を完了する期日 | 検査はあるか。あるなら何日以内に終わるか |
| ⑦ 代金の額 | 単価と総額。決められないなら算定方法を文字にできるか |
| ⑧ 代金の支払期日 | 締日と支払日。受領日から何日目になるか |
| ⑨ 一括決済方式で支払う場合の金融機関名・額・期間の始期・決済日 | 一括決済を使うか。使うなら決済日はいつか |
| ⑩ 電子記録債権で支払う場合の額・期間の始期・満期日 | でんさいか現金か。満期日は支払期日の前か後か |
| ⑪ 原材料等を有償支給する場合の品名・数量・対価・引渡期日・決済期日・決済方法 | 支給材はあるか。その代金はいつ引かれるか |
| ⑫ 内容を定められない正当な理由がある未定事項がある場合の、理由と確定予定期日 | 決まっていない項目は何か。いつ決まるか |
支払期日については、別の条文でさらに具体的な上限が引かれています。委託事業者は、中小受託事業者の給付を受領した日(役務提供委託・特定運送委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内、かつできる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません。検査をするかどうかは関係ありません。「検収完了後、翌月末払い」という条件を商談で受け入れると、受領から60日を超える月が出てきます。
(出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」、令和7年11月)
適用がある取引と、ない取引を分けて考える
ここで前提を正確に押さえてください。取適法は、すべての商談に適用されるわけではありません。 適用されるのは、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託という取引類型に当たり、かつ発注側と受注側が資本金基準または従業員基準の組み合わせに当てはまる場合です。建設業を営む者が業として請け負う建設工事の下請負は対象外で、建設業法側で規律されます。
とはいえ、明示事項のリストそのものは、適用の有無にかかわらず使えます。国が「これを決めないまま発注するとトラブルになる」と判断して列挙した項目だからです。適用がある取引では法令上の義務、適用がない取引では商談チェックリスト——この二段構えで自社の書式に組み込むのが実務的です。
自社が発注側に回る場面がある会社は、話が逆になります。従業員基準の追加により、資本金が小さくても常時使用する従業員が300人を超えていれば(製造委託等の場合)委託事業者として規制を受けます。営業が持ち帰った条件をそのまま注文書にすると、明示漏れが法違反になりうるということです。契約書の条項としてどう落とすかは契約書のチェックポイント 取適法時代に経営者が見るべき順番で扱っています。商談で握った条件が契約になり、契約が資金繰りになる、という順番でつながっています。
❌ 「取引条件の細かい話は、契約段階で法務と先方の購買が詰めればよい」 ⭕ 「支払期日・支払手段・検査完了期日は商談の場で口に出して確認し、その日のメールに書いて送る」
聞けていない会社は、価格を上げられない
ヒアリングを仕組みにする理由は、受注率を上げるためだけではありません。取引条件を握れていない会社は、コストが上がったときに価格を上げられないからです。これは実感ではなく、国が半年ごとに公表している調査で確認できます。
中小企業庁は毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と定め、月間終了後に受注側の中小企業30万社へアンケートを送っています。2026年3月分の調査は、2025年10月から2026年3月末までの取引状況を対象とし、回答企業数は69,625社(回収率23.2%)、回答から抽出される発注企業数は延べ91,233社でした。
結果の中で、営業の現場に直結する数字はここです。「価格交渉不要」という回答を含めた全体の分布で見ると、発注企業から交渉の申し入れがあって価格交渉が行われた割合は22.5%、受注企業のほうから申し出て交渉が行われた割合は42.4%でした。交渉が行われた案件(64.9%)の中身は、自社から言い出したものが約2倍を占めています。一方で「価格交渉を希望したが、交渉が行われなかった」は6.7%残っており、うち5.0%は「コストが上昇したが、発注企業から申し入れがなく、発注減少や取引停止を恐れて交渉を申し出なかった」というものでした。
GOVERNMENT SURVEY
価格交渉は誰から始まり、どこまで転嫁できたか
54.2%
コスト全体の価格転嫁率(前回53.5%)
50.0%
労務費の価格転嫁率
待っていると、相手からは来ません。そして言い出せない理由の大半は、話し方の問題ではなく、取引を切られる恐怖です。恐怖を下げるのは、日ごろのヒアリングで「自社が何を提供していて、相手が何に困っていて、代わりがどれだけ効かないか」を把握できているかどうかです。
転嫁の結果も見ておきます。コスト全体の価格転嫁率は54.2%(前回53.5%)で、コスト要素別では原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%でした。「価格転嫁不要」を除いた分布では、全額転嫁できた企業が27.2%、まったく転嫁できなかった企業が15.2%、減額されたが0.8%です。上がった分の半分しか通っていないというのが平均像です。
| 指標(2026年3月調査) | 数値 | 商談で聞けていないと起きること |
|---|---|---|
| コスト全体の価格転嫁率 | 54.2% | 上昇分の半分近くを自社が飲む |
| 労務費の転嫁率 | 50.0% | 賃上げ原資が確保できない |
| 全額転嫁できた割合(転嫁不要を除く) | 27.2% | — |
| まったく転嫁できなかった・減額された割合 | 16.0% | 値上げどころか単価が下がる |
| 1次請けの転嫁率 | 55.2% | — |
| 4次請け以上の転嫁率 | 45.5% | 階層が深いほど条件が悪化する |
| 支払期日が60日超の割合 | 6.6% | 運転資金の立替えが増える |
| 支払手数料を受注側が負担している割合 | 18.9% | 額面どおり入金されない |
取引段階(自社が最終製品・サービスを提供する企業から数えて何次請けか)で見ると、1次請けの転嫁率55.2%に対し4次請け以上は45.5%で、4次請け以上では「まったく転嫁できなかった」または「減額された」企業が24.3%にのぼります。自社が何次請けの位置にいて、その先に誰がいるのかは、営業が商談で確認できる情報です。相手の先の顧客が誰かを聞けている会社と、目の前の窓口しか見えていない会社では、値上げ交渉の材料の量が違います。
支払条件は改善傾向にあります。支払手段を「現金のみ」とした回答は87.5%まで増え(前回82.2%)、手形の利用がある割合は3%まで減りました(前回5.8%)。支払手数料を受注側が負担している割合も18.9%まで下がっています(前回29.9%)。改善したのは取適法の施行が効いた部分が大きく、実際に調査の自由回答にも「今年1月から取適法が適用され、期日が短縮されるとともに振込手数料も発注側企業の負担になった」という声が載っています。裏を返せば、まだ改善していない1割前後の取引は、こちらから条件を確認しない限り放置されるということです。
(出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」、令和8年6月26日/経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」、2026年6月26日。本調査の回答には取適法の対象外取引も含まれ得ることに留意)
なお、この調査は受注側の中小企業に尋ねたものです。自社が発注側として回答者に選ばれている可能性もあります。中小企業庁は調査結果の公表後、発注者ごとの価格交渉・価格転嫁・支払条件の評価を記載した「発注者リスト」を公表する予定を示しています。取引先がどう評価されているかを見る道具であると同時に、自社の名前が載る側でもあるという前提で読んでください。
ヒアリング項目の設計 5つの軸と「取れた」の判定基準
ここから自社の商談シートを作ります。項目を並べるだけでは運用されません。それぞれの項目について「取れた」と言える状態を先に定義するのが要点です。定義がないと、担当者は「一応聞きました」と報告し、上司は確認しようがありません。
| 軸 | 何を聞くか | 「取れた」と言える状態 | 取れていないと |
|---|---|---|---|
| 課題 | いま何が起きていて、放置するといくら失うか | 金額・時間・件数のいずれかで表現できている | 提案が機能説明になり、価格で比較される |
| 意思決定者 | 誰が決めるか、いくらまで決裁できるか、社内で誰の合意が要るか | 決裁者の役職と決裁金額の目安、必要な合意先を言える | 窓口と合意しても社内で止まる |
| 予算 | 予算はあるか、いくらの枠か、いつ付くか | 金額のレンジと、予算が確定する月を言える | 提案が年度をまたぎ、案件が消える |
| 期限 | いつまでに解決したいか、その日付の理由は何か | 期限と、その期限が動かせない理由を言える | 「検討します」から進まない |
| 判断基準 | 何と比較するか、何を重視するか、過去に何を試したか | 比較対象と評価軸を3つ以内で言える | 差別化が伝わらず、相見積もりに落ちる |
この5軸に、前掲の取適法由来9項目を足したものが自社の商談シートになります。項目数は多く見えますが、初回商談ですべてを埋める必要はありません。初回で課題・意思決定者・期限、2回目で予算・判断基準、内示の前に取引条件9項目という順で埋める設計にすると、現場の負荷が現実的な水準に収まります。
質問は10問に固定し、残りは自由にする
属人化を防ぐ最短の方法は、質問文そのものを固定することです。5軸に対して各2問、合計10問の共通質問を作り、これは全員が必ず口にする。それ以外の質問は担当者の裁量に任せます。全部を型にはめると会話が尋問になり、全部を自由にすると人によって取れる情報が変わる。固定10問+自由という配分が、再現性と柔軟性の折り合いがつく形です。
質問文を作るときの原則は3つあります。第一に、公開情報で分かることは聞かない。決算公告、プレスリリース、採用ページの募集職種と人数、有価証券報告書は事前に見ておく。「御社の主力事業は何ですか」と聞いた瞬間に、その商談の情報価値は落ちます。第二に、事実から入って背景へ遡る。いまどういう手順で処理しているかという事実は答えやすく、なぜ困っているかは答えにくい。第三に、数字に落とす問いを必ず1問入れる。「月に何件ですか」「その作業に何人が何時間かけていますか」という問いは、相手の社内稟議の材料をこちらが作る作業でもあります。
❌ 「ヒアリングシートを30項目作り、初回商談で全部埋めるよう指示する」 ⭕ 「初回は課題・意思決定者・期限の3軸に絞り、10問の共通質問だけ全員に守らせる」
顧客の話を聞く仕組みは、売上の差になって出る
「聞くこと」を仕組みにする価値は、公的な調査でも裏づけがあります。中小企業庁が2026年版の白書でまとめた分析によると、外部環境(顧客・エンドユーザーのニーズや購買行動の変化、競合他社の特徴・動向、市場の変化など)の情報収集と、競合他社との差別化の両方に取り組んでいる小規模事業者は、3期前と比べて売上高が「増加」した割合が53.8%でした。いずれにも取り組んでいない事業者は34.2%です。
この調査は小規模事業者を対象としたもので、そのまま中規模の会社に当てはまるとは限りません。ただ、情報収集と差別化を切り離さずに両方回している会社が伸びている、という傾向は読み取れます。顧客の話を聞くこと自体が目的ではなく、聞いた内容を自社の立ち位置の設計に返す。この往復がポジショニング戦略の考え方につながります。
(出典:中小企業庁調査室「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」、2026年6月/経済産業研究所BBLセミナー配布資料。原資料は(同)デロイト トーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」)
値上げの根拠は、自社の帳簿ではなく公表資料で作る
商談ヒアリングのゴールの1つは、価格改定の協議を切り出せる状態を作ることです。ここには国が定めた行動指針があり、受注側が何をどう準備すべきかまで書かれています。
内閣官房と公正取引委員会は「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費指針)を策定し、発注者・受注者それぞれが採るべき行動を12の行動指針として整理しています。内訳は発注者側6つ、受注者側4つ、双方共通2つです。この指針は2026年1月1日付で改正され、受注者から協議の要請があったのに応じず一方的に取引価格を据え置くことが、取適法上の「協議に応じない一方的な代金決定」に当たる旨が明記されました。
受注者として求められる4つの行動は、そのまま営業の準備リストになります。
- 相談窓口を活用する。 全国47都道府県のよろず支援拠点に置かれた価格転嫁サポート窓口、取引かけこみ寺、商工会議所・商工会などに相談し、情報を集めてから交渉に臨む
- 根拠資料は公表資料を使う。 自社のコスト構造を開示すると、逆に発注者からコストを査定され原価低減を求められる可能性がある
- タイミングを選ぶ。 発注者が翌年度の予算を策定する前、定期の価格改定や契約更新、最低賃金の引上げ幅の方向性が判明した後など
- 発注者から価格を提示されるのを待たずに、自ら希望額を提示する。 先に相手の価格を出されると、それを上回る額を通すのは非常に困難になる
2の「公表資料」については、指針が具体的に列挙しています。使える資料を知らないまま交渉に行くのは、丸腰で行くのと同じです。
| 使える公表資料 | 主に効く場面 |
|---|---|
| 都道府県別の最低賃金やその上昇率 | 労務費の上昇を説明する。業種を問わず使える |
| 春季労使交渉の妥結額やその上昇率 | 賃上げ水準を業界横断で示す |
| 国土交通省が公表する公共工事設計労務単価(関連職種の単価・上昇率) | 建設・警備・保全など職種単価が公表されている業務 |
| 一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃(令和6年国土交通省告示第209号) | 運送を含む取引 |
| 厚生労働省「毎月勤労統計調査」の賃金指数・給与額とその上昇率 | 労務費上昇の一般的な裏づけ |
| 総務省「消費者物価指数」 | 物価上昇全般の説明 |
| ハローワークの求人票・求人情報誌に掲載された同業他社の賃金 | 採用競合との比較で人件費水準を示す |
指針は、発注者側にも「労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は公表資料に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示する希望価格は、合理的な根拠のあるものとして尊重すること」と求めています。公表資料で組み立てた要請は、相手が尊重すべきものとして指針に書かれている。これは営業担当者に持たせる最も強い武器の1つです。
指針には、受注者が実際に要請額を設定した方法の事例も収録されています。多くの発注者と毎年4月に契約更新している事業者が、自社の所在する都道府県の最低賃金の上昇率と同率の単価引上げを自ら求めた例(ビルメンテナンス業)。公共工事設計労務単価における関連職種の単価の引上げ率の範囲内で単価引上げを求めた例(警備業)。月次決算で損益を管理し、受注案件ごとに労務費・原材料価格・エネルギーコストの上昇分を積算して要請額を設定した例(はん用機械器具製造業)。労務費について、以前は作業時間分のみを見積計上していたが、移動時間分についても見積計上して転嫁を要請した例(技術サービス業)。いずれも話術ではなく、見積書の作り方の話です。
さらに指針には、価格交渉の申込みに使える見積書の様式例が別添として付いています。合計金額を「1 原材料価格」「2 エネルギーコスト」「3 労務費」「4 その他」に分け、それぞれ単価・数量・金額に加えて旧単価と単価上昇率を書く形式で、エネルギーコストと労務費には「貴社向け売上比率」を掛ける欄があります。自社で様式をゼロから作る必要はありません。
(出典:内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」令和5年11月29日策定・令和8年1月1日改正/同「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針の改正について」、令和7年12月)
説明に納得できないまま終わる交渉が4割近くある
交渉のテーブルにつけても、そこで終わりではありません。前掲の2026年3月調査では、価格交渉は行われたものの全額の転嫁には至らなかった企業(全体の41.3%)に対し、発注側の説明状況を尋ねています。「納得できる説明があった」は63.8%。残る「説明はあったが納得できる内容ではなかった」12.4%と「説明はなかった」23.9%を合わせた36.3%は、理由が分からないまま金額だけ削られたことになります。
取適法では、費用の変動その他の事情が生じた場合に受注側が代金額の協議を求めたにもかかわらず、協議に応じず、または求められた事項について必要な説明・情報提供をせずに一方的に代金額を決定して受注側の利益を不当に害することが禁止されています。「決定」には引き上げ・引き下げだけでなく据え置くことも含まれます。説明を求めるところまでが交渉です。 商談の場で「この金額になった理由を教えてください」と言えるかどうかは、担当者の性格ではなく、社内で「必ず聞く」と決めているかどうかで決まります。施行後に取適法で勧告が出た実例と、受注側が請求書と価格交渉に載せるべき負担は「給湯器メーカーに取適法で勧告。手形と金型保管、支払条件を見直す」で整理しています。
納得できる説明があった
63.8%
全額の転嫁には至らなかった企業(全体の41.3%)への設問
説明に納得できない・説明がなかった
36.3%
「納得できる内容ではなかった」12.4%と「説明はなかった」23.9%の合計
❌ 「値上げをお願いする立場だから、理由を聞き返すと角が立つ」 ⭕ 「回答額の根拠を必ず確認し、説明の内容をその日のうちにメールで送って記録に残す」
自社の賃上げの額を、そのまま値段の見直し幅に置き換える計算は「人手不足倒産240件、過半が人件費。賃上げの日に値段も決める」で扱っています。
商談記録を組織の資産にする
ヒアリングの成果が個人の頭の中にある限り、それは会社の資産ではありません。記録の作成と保管については、国の指針がはっきりと要求しています。
労務費指針の「発注者・受注者の双方が採るべき行動」の2つ目が、価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者の双方で保管することです。指針はその理由を、双方の認識のズレを解消しトラブルを未然に防ぐことに加えて、発注者・受注者ともに人事異動が発生するため、記録があれば次回以降の交渉をスムーズに開始できる点にあると説明しています。あわせて、記録の作成が目的化しては本末転倒であり、担当者の上司とも共有するなど効果的な活用方法を併せて検討することが求められる、とも書かれています。
指針が収録している実際の取組事例は、そのまま自社の運用に移せます。価格交渉の記録を作成後に相手と共有し、取引先ごとに交渉記録や資料を電子データで保存している例(プラスチック製品製造業)。交渉の都度、議事録を作成して相手と共有し、担当者限りにせずその上司に報告するよう依頼している例(はん用機械器具製造業)。口頭による要請があった場合でも必ずメールで回答し、双方に記録が残るようにしている例(情報サービス業)。担当者がオンラインを含む対面で商談を行った場合、後日、担当者が作成した面談記録を相手に確認のうえ署名してもらい、双方で保管している例(各種商品小売業)。
最後の事例は、議事メモを一方的に送りつける運用との差が大きい方法です。相手の確認を取る手順を入れると、認識のずれがその場で表面化します。
記録に何を残すか、法定の記録項目から逆算する
何を書けばよいか迷うなら、取適法が委託事業者に義務づけている記録項目が参考になります。委託事業者は、発注のたびに定められた事項を書類または電磁的記録として作成し、2年間保存しなければなりません。記録項目は17項目に及びますが、営業の記録として特に意味があるのは次の4つです。
| 法定の記録項目(取適法7条) | 自社の商談記録に置き換えると |
|---|---|
| 給付の内容について変更またはやり直しをさせた場合は、その内容と理由 | 仕様変更・手戻りが起きたとき、誰の指示で何が変わったかを日付付きで残す |
| 代金の額に変更があった場合は、増減額とその理由 | 値引き・追加請求の金額と、そう決まった理由を残す |
| 検査をした場合は、完了日・検査の結果・不合格の給付の取扱い | 検収がいつ下り、何が差し戻されたかを残す |
| 代金の額として算定方法を明示した場合は、その後定まった額。算定方法が変わったときは変更後の方法・金額・変更した理由 | 見積の前提が変わったときの経緯を残す |
共通しているのは「理由」を書かせていることです。金額と日付だけの記録は、次の交渉では使えません。なぜその条件になったのかが残っていて初めて、担当者が代わっても交渉を引き継げます。
自社の商談記録に最低限そろえたいのは、日付・出席者(相手側の役職を含む)・相手が言った言葉のままの引用・こちらが約束したこと・次回までの宿題と期限・未確定の項目とその確定予定日、の6点です。相手の発言は要約せず、言葉のまま残す。要約した瞬間に、書いた人の解釈が入り、次に読む人が判断を誤ります。
❌ 「商談メモは各営業のノートに任せ、報告は口頭の週報で済ませる」 ⭕ 「共通フォーマットに日付・出席者・相手の発言・約束・宿題・未確定項目を記入し、商談当日中に共有する」
記録を運用に載せる作業自体が重いなら、入力の手数を減らすほうが先です。手書きのメモを転記する工程が残っている限り、記録は溜まりません。何を仕組み化すべきかの見極めはバックオフィスDXの進め方の業務棚卸しと同じ考え方で進められます。
週1回15分のレビューで、聞けていない項目を潰す
シートを作り、記録を残すところまで来たら、最後に必要なのはレビューです。ここがないと、3か月で欄が空のまま提出されるようになります。
運用は軽くしてください。週に1回15分、案件を1件だけ選び、商談記録を全員で読む。見るのは提案内容の良し悪しではなく、13項目のうちどこが空欄かの1点です。空欄を指摘したら、その場で「次回いつ、誰に、どう聞くか」まで決めて終わります。改善案を議論し始めると15分では終わらず、翌週から開催されなくなります。
四半期に一度は、受注案件と失注案件の記録を並べて比較してください。見るのは「受注できた案件では埋まっていて、失注案件では空欄だった項目はどれか」です。多くの会社で、意思決定者と予算の確定時期が最初に浮かび上がります。自社にとって効く項目が分かったら、その項目だけ必須欄に格上げし、他は任意に落とす。項目を増やすのではなく、入れ替えるのが続けるコツです。
指標を置くなら1つに絞ります。「初回商談から2週間以内に意思決定者と会えた案件の割合」「必須9項目が内示前に埋まっている案件の割合」のような、行動の結果として動く数字を1つだけ追う。受注率のような遅行指標だけを見ていると、何を直せばよいかが分かりません。指標の選び方と運用の設計はKPI設計と運用の考え方が使えます。新人への引き継ぎは、記録が揃っていればOJTを成功させる仕組みづくりの教材になります。実際の商談記録ほど具体的な教材はありません。
なお、指針が求める「定期的なコミュニケーション」は、こちらから訪問することも含みます。指針の取組事例には、発注者側の行動として「受注者から営業に来るのを待たずに、自ら受注者を定期的に訪問し、受注者の状況を聞きに行くようにしている」(はん用機械器具製造業・情報サービス業)という例が挙がっています。相手が発注側としてこう動いている会社なら、こちらから条件の話を持ち出しても関係は壊れません。どの取引先がそういう相手かを見分けるのも、ヒアリングで取れる情報です。
❌ 「営業会議で受注件数と売上見込みだけを確認し、商談の中身には触れない」 ⭕ 「週1回15分、1件の商談記録を読み、空欄になっている項目と次の一手だけを決める」
ヒアリングの前と後 集客と契約は別の仕事
最後に、本稿が扱っていない範囲を明示しておきます。役割を分けておかないと、どれも中途半端になります。
商談の前は、そもそも誰と会うかの問題です。ヒアリングがうまくても、会っている相手が自社の解決できない課題を抱えていれば受注にはなりません。見込み客をどう集めるかはBtoBマーケティングの始め方で扱っています。
商談の後は、握った条件を契約の言葉にする作業です。支払期日・検査・責任の上限・知的財産の帰属といった条項の読み方は契約書のチェックポイント 取適法時代に経営者が見るべき順番にまとめています。商談で「60日以内の現金払い」と口頭で合意しても、契約書が「検収完了後、翌々月末に手形」になっていれば、効くのは契約書のほうです。
値下げを受けるかどうかの判断は、ヒアリングの外にあります。「この案件は限界利益がいくら残るか」を出せないと、営業は目の前の受注を守るために値引きします。判断の材料をどう作るかは部門別損益の作り方で扱いました。粗利率の社内基準ではなく限界利益で見ると、断るべき案件と受けるべき案件の線が変わります。
支払サイトの評価も別の仕事です。支払期日が60日か30日かは、その差だけ自社が立て替える金額の話です。何か月分の手元資金を持つべきかは資金繰りを安定させる基本、月次の入出金に落とす手順は資金繰り表の作り方で扱っています。商談で条件を握る意味は、最終的にこの表の数字が変わることにあります。
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直近3か月の商談を思い浮かべて、いまの状態にいちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。
※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
まとめ
営業のヒアリングを個人の技術として扱う限り、成果は担当者の当たり外れに左右され続けます。経営者が動かせるのは、聞く項目・記録の書式・見直しの頻度という3つの設計です。
聞く項目は、取適法4条が発注側に明示を義務づけている事項が土台になります。給付の内容、受領期日、受領場所、検査完了期日、代金の額、支払期日、支払方法、有償支給の条件。加えて、決められない項目があるならその理由と確定予定日まで確認します。ここに課題・意思決定者・予算・期限・判断基準の5軸を足したものが、自社の商談シートです。
記録は、日付・出席者・相手の発言・約束・宿題・未確定項目の6点を、商談当日中に共有する形にしてください。価格交渉の記録を作成し双方で保管することは、国の指針が12の行動指針の1つとして求めている行動でもあります。人事異動があっても交渉を引き継げるという、実利のある要求です。
見直しは、週1回15分で1件だけ。空欄になっている項目と、それを次にどう聞くかだけを決める。四半期に一度、受注案件と失注案件の記録を並べて、必須項目を入れ替える。
価格転嫁率が54.2%にとどまり、交渉の申し出の多くを受注側が担っている現状では、商談の場で条件を確定させる力そのものが、収益力です。話し方の研修より先に、書式と記録から手を付けてください。
NEXT ACTION / 次にやること
自社の商談シートを開き、必須13項目のうち欠けている行を足す
特に取適法4条に由来する1〜9の項目が欠けていないかを確認してください。埋まっていない案件は提案書の作成に進ませない、というルールとセットで運用すると効果が出ます。
よくある質問
Q取適法の対象にならない取引でも、11項目を聞く意味はありますか。
あります。取適法4条の明示事項は、口頭発注によるトラブルを防ぐために国が列挙した項目です。適用のある取引では発注側の法的義務ですが、適用がない取引でも「これを決めずに始めると揉める」という中身は変わりません。適用の有無は取引類型と資本金・従業員数の組み合わせで決まり、建設業を営む者が業として請け負う建設工事の下請負は対象外です。自社の商談シートには、適用の有無にかかわらず同じ欄を置き、適用がある取引だけ「明示書面の受領日」の欄を足す形が実務的です。
Q値上げを切り出すと取引を切られるのではないかと、営業が動きません。
その恐れは調査でも確認されています。2026年3月の調査では、「コストが上昇したが、発注企業から申し入れがなく、発注減少や取引停止を恐れて交渉を申し出なかった」という回答が全体の5.0%ありました。一方で、労務費指針は発注者の行動として「労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと」を明記しており、取適法でも協議に応じない一方的な代金決定が禁止されています。加えて、要請の根拠を自社の帳簿ではなく最低賃金の上昇率などの公表資料に置けば、「自社の都合」ではなく「経済の実態」の話になります。まず経営者が「この取引先には必ず年1回協議を申し入れる」と決め、担当者の判断にしないことです。
Q根拠資料として、自社の原価を開示してもよいのでしょうか。
労務費指針は、受注者が自主的な判断で自社の労務費の状況を示すことを否定していませんが、自社のコスト構造を開示することで、逆に発注者からコストを査定され原価低減を求められる可能性があると注意を促しています。そのうえで、何らかの根拠資料を示す必要がある場合は、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率、公共工事設計労務単価、標準的な運賃といった公表資料を用いるべきだとしています。原価は自社の判断材料として持ち、相手に見せる根拠は公表資料で作る、という使い分けが基本です。
Q商談で「予算はいくらですか」と聞くのは失礼にあたりませんか。
聞き方の問題であって、聞くこと自体の問題ではありません。金額を直接尋ねるのが難しければ、「同種の取り組みに、これまでどのくらいの規模で投資されてきましたか」「今回の件は、どの部署のどの費目から出る想定でしょうか」「予算が確定するのは何月ごろですか」と、費目と時期から入る方法があります。予算の時期が分かるだけでも、提案のタイミングと、年度内に決まるのか翌年度なのかの判断ができます。相手にとっても、予算に合わない提案書を読まされるほうが時間の無駄です。
Q商談記録は、どこまで細かく書けばよいですか。
日付・出席者(相手側の役職を含む)・相手の発言の引用・こちらが約束したこと・次回までの宿題と期限・未確定の項目とその確定予定日の6点が最低限です。分量より、相手の発言を要約せずに残すことのほうが重要です。要約すると書き手の解釈が混ざり、次に読む人が判断を誤ります。価格交渉に関する記録については、労務費指針が発注者と受注者の双方で保管することを求めており、取組事例には面談記録を相手に確認のうえ署名してもらい双方で保管している例(各種商品小売業)も挙がっています。自社だけで持つより、相手と共有したほうが記録としての価値は上がります。
Q支払期日は必ず60日以内にできるのですか。
取適法の適用がある取引であれば、委託事業者は給付を受領した日(役務提供委託・特定運送委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内、かつできる限り短い期間内に支払期日を定めなければなりません。検査をするかどうかは関係なく、「検収完了後、翌月末払い」という条件は60日を超える月が出るため危険です。2026年3月の調査では、支払期日が60日を超えている割合は全体の6.6%まで下がっていますが、まだ残っています。適用のない取引では法の縛りがないため、商談で条件として交渉するしかありません。いずれにせよ、受領から何日目に入金されるのかを商談の場で数えて確認してください。
Q営業が1人しかいない会社でも、この仕組みは必要ですか。
必要性はむしろ高くなります。1人の営業が抱えている情報は、その人が休んだ日や辞めた日にそのまま失われるからです。社長自身が営業を兼ねている場合も同じで、記録がなければ後継者や新しい担当者が引き継げません。労務費指針が記録の作成を求める理由として挙げているのも、双方に人事異動が起きるという現実です。人数が少ない会社では、13項目の商談シートを紙1枚にして、商談後にその場で埋めて写真を撮り共有フォルダに置く、という程度から始めれば十分に機能します。
Qヒアリングを強化すれば、受注率は上がりますか。
直接には結びつきません。会っている相手が自社の解決できる課題を持っていなければ、どれだけ深く聞いても受注にはなりません。誰と会うかは、その前段にある集客と、自社がどの領域で選ばれるかという立ち位置の設計で決まります。ヒアリングの仕組み化が確実に効くのは、取引条件を握れる確率のほうです。支払期日、支払手段、検査完了期日、価格改定の協議ルールを商談で確定させられれば、同じ受注件数でも入金の速さと利益の残り方が変わります。受注率より先に、そちらの指標を見てください。
出典・調査の対象範囲
- 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月) — 発注側の明示義務(4条)などの根拠。資料を見る
- 中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日) — 受注側の中小企業へのアンケート。取適法の対象外取引も含まれ得ます。調査結果/公表資料
- 中小企業庁調査室「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」(2026年6月、経済産業研究所BBLセミナー配布資料) — 原資料は(同)デロイト トーマツ「令和7年度小規模事業者の経営課題と事業活動に関する調査」。資料を見る
- 内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和8年1月1日改正) — 12の行動指針・交渉記録の作成と保管。指針/改正の概要
※商談シートの13項目のうち11〜13、ヒアリングの5軸、自己診断は編集部の整理です。個別取引への取適法の適用や法的判断は、専門家・所管官庁に確認してください。



