営業戦略・取引ルール
給湯器メーカーに取適法で勧告。手形と金型保管、支払条件を見直す
公開 2026.10.12
10月9日、資本金9,800万円の給湯器メーカーが、手形払い・振込手数料の差し引き・金型の無償保管で公取委の勧告を受けた。問われたのは値段ではなく、経理の規程や工場の棚に残る値札の外の条件だ。頼む側は直し、頼まれる側は交渉の議題にする。

代金を振り込むとき、振込手数料を差し引いて払う。多くの会社で見かけてきた、経理の処理です。
10月9日、この処理を含む3つの行為で、ある給湯器メーカーが公正取引委員会から勧告を受けました。改正前の法律で問われたのは、実際の手数料より多く引いた分でした。1月からは、手数料を引くこと自体が違反です。
勧告を受けた会社の資本金は9,800万円です。大企業ではありません。資本金が1,000万円を超える会社なら、あなたの会社も法律上の「発注側」になりえます。
最初に結論:値段の外で「待たせる・引く・預けさせる」をやめる
勧告で問われたのは、手形での支払い、振込手数料の差し引き、金型の無償保管の3つです。どれも値段そのものではありません。
受注側から見ると、3つとも値札の外の負担です。手形で待たされるのは、無利子でお金を貸すことにあたります。手数料を引かれるのは、毎回の小さな値引きです。型を預かるのは、タダで倉庫を貸すことです。
出典:公正取引委員会「パーパス株式会社に対する勧告について」(2026年10月9日)をもとに筆者作成。社数は延べ。約19万円は、改正前の実費を超えた分と改正後の手数料相当分の合計。
頼む側は、この3つを直します。頼まれる側は、この3つを次の価格交渉の議題に載せます。値上げ交渉で勝っても、値札の外で取り戻されていれば、手元に残るお金は増えません。
10月9日、給湯器メーカーに勧告。手形・振込手数料・金型の3つ
公正取引委員会は10月9日、パーパス(静岡県富士市)に勧告を出しました。給湯器などをつくって売る会社で、資本金は9,800万円です。
問われたのは、部品の製造などを頼んだ取引先との取引です。
1つ目は手形です。2026年2月から3月に、11社への代金計約2,282万円を手形で払いました。支払いの期日を過ぎても、現金を払っていませんでした。この代金は、その後支払われています。
2つ目は振込手数料です。改正前の下請法の期間には、実際にかかる手数料より多く代金から引いていました。超えた分は、71社で計15万7,100円です。
改正後の取適法の期間には、手数料そのものを引いたことが問われました。85社で計3万3,730円です。
3つ目は金型などの保管です。遅くとも2025年3月から、取引先に金型などを無償で保管させていました。
改正前の期間の分は、10社で計132個です。改正後の分は、12社で計64個です。
出典:公正取引委員会「パーパス株式会社に対する勧告について」(2026年10月9日)をもとに筆者作成。
勧告は、遅れた支払いの利息などを払うこと、差し引いた額を返すこと、保管の費用にあたる額を払うことを求めています。報道によると、パーパスは速やかに支払うとし、再発防止に努めるとコメントしました。
RECOMMENDATION DATA
パーパスへの勧告で認定された行為
約2,282万円
手形で払われた代金(11社)
約19万円
振込手数料の名目で減額とされた額(延べ156社)
196個
無償で保管させた金型など(延べ22社)
改正前から続いていた慣行が、1月に法律が変わったあとも残っていた。それが今回の勧告の形です。
そもそも取適法とは? 資本金1,000万円を超えれば「発注側」になりうる
取適法(中小受託取引適正化法)は、2026年1月1日に、下請法を改めてできた法律です。仕事を頼む側が、頼まれる側に対して守るルールを決めています。
対象になるかは、取引の中身と、両者の規模で決まります。部品の製造を頼む取引なら、資本金1,000万円を超える会社が、資本金1,000万円以下の会社に頼むと対象です。パーパスは、ここで「発注側」になりました。
1月からは、従業員数の基準も加わりました。製造の委託なら、従業員300人を超える会社が300人以下の会社に頼む取引です。資本金が小さくても、従業員数で対象になりえます。
出典:公正取引委員会・中小企業庁「取適法の概要 ー改正のポイントー」、公正取引委員会「取適法施行に当たり事業者の皆様に御留意いただきたい事項」をもとに筆者作成。一部の役務の委託などは区分が異なる。
ルールの中で、今回に関わるものは3つです。
手形での支払いは、2026年1月以降に発注した取引から禁止されました。電子記録債権なども、期日までに手数料を含めた満額の現金にできなければ違反です。
振込手数料は、1月以降に発注した取引では、相手の合意があっても受注側に持たせると「減額」になります。改正前は、書面で合意していれば、実際にかかった額の範囲で差し引くことが認められていました。ここが変わった点です。
金型などを無償で預けさせることも、違反になりえます。公正取引委員会は、1年以上発注していないのに保管させた例や、相手が廃棄や引き取りを望んでいたのに保管させ続けた例を、違反の例として挙げています。
つまり、取適法は、値段の外の条件まで細かく見る法律だということです。
本当に起きていること:問われたのは値段ではなく、値札の外の初期設定
この勧告の報道は、手形での支払いに目を向けています。1月に新しく禁止されたルールなので、わかりやすいからです。
けれども、このニュースの本質は手形ではありません。問われたのは値段ではなく、値札の外に何年も置かれてきた「初期設定」です。
値段は、社長や営業が交渉で決めます。毎年見直し、見積書や注文書にも書かれます。誰が決めたかを、誰でも言えます。
値札の外の条件は違います。手形は、経理の支払規程の中にあります。振込手数料の扱いは、振込の設定の中にあります。金型は、取引先の工場の棚にあります。どれも、いつ誰が決めたかを言える人がいないことが多いはずです。
筆者整理。
パーパスの例も、そう読めます。改正前は、実際の手数料より多めに引いていました。1月に、引くこと自体が違反に変わったあとも、2月と3月の支払いで手数料を引き続けています。ルールが変わっても、振込の設定は変わっていなかったと読めます。
成長に効くか、仕組みになるか、人が育つか。この3つの物差しで見ると、これは「仕組みになるか」の問題です。値段を見直す仕組みは、多くの会社にあります。値札の外の条件まで見直す仕組みを持つ会社は、それほど多くないはずです。つまり、法律が変わっても、初期設定は自分では変わらないということです。
数字で見ると:代金を120日待つのは、売上4か月分を貸すこと
頼まれる側から、値札の外の負担を数字にしてみます。
毎月300万円の部品を納める取引があるとします。代金が受け取りから60日後に入るなら、まだ受け取っていない代金は、いつも約600万円あります。2か月分です。
手形の期日まで含めて120日後に入るなら、いつも約1,200万円です。4か月分になります。
差の600万円は、相手に無利子で貸しているのと同じです。そのお金を借入金利2.5%で借りているなら、利息は年15万円になります。利上げが進むほど、この「待つコスト」は重くなります(日銀が31年ぶり1.25%へ利上げ。在庫も売掛金も「タダで寝かせておけない」時代に)。
筆者試算。前提:毎月同じ額を納め、代金はそれぞれの日数の後にまとめて入るとした場合。金利は例示。
受け取りから120日で現金
約1,200万円
いつも受け取れていない代金。売上4か月分
受け取りから60日で現金
約600万円
取適法の支払期日の上限。差の600万円が手元に戻る
年15万円は、値札には出てきません。値上げ交渉で値段を0.5%上げても、年3,600万円の取引で増えるのは18万円です。支払いの条件ひとつで、その大半が消えます。つまり、値札の外は、値段と同じくらい手元のお金を動かすということです。受け取れていない代金が手元のお金をどれだけ食うかの見方は、「資金繰りを安定させる手元資金の決め方」で扱っています。
うちの業界は? 頼む側か、頼まれる側かで見る場所が違う
同じ取適法でも、立場によって見る場所が違います。分かれ目は2つです。外に頼む仕事がどれだけ多いか。取引先から頼まれる仕事がどれだけ多いかです。
意外なのは、両方が多い会社です。中堅の部品メーカー、広告代理店やWeb制作会社、システムの受託開発がそうです。上からは頼まれ、下には頼む。頼まれる側としては守られ、頼む側としては守る義務を負います。
上から手形で受け取っていた会社ほど、下にも同じ条件で払いたくなります。けれども、下に向けた取引が取適法の対象なら、上の条件は言い訳になりません。
筆者整理。業種の置き場所は代表的な例で、会社によって異なる。取適法の対象かどうかは、取引の内容と資本金・従業員数で決まる。建設工事の下請取引は建設業法で扱われる。
あなたの会社では? 値札の外を、取引先ごとに1行に書き出す
あなたの会社の支払規程に、手形の文字が残っていないでしょうか。振込の設定が、「手数料は先方負担」のままになっていないでしょうか。取引先の工場に、何年も発注していない型が眠っていないでしょうか。どれか1つでもあれば、それがこのニュースと同じ形です。
製造業なら、まず金型と治具です。取引先ごとに、預けている型の数と、最後に発注した時期を並べます。1年以上発注していない型は、引き取るか、廃棄するか、保管料を払うかを決めます。頼まれる側なら、預かっている型の一覧を取引先に示して、同じことを相談します。価格交渉の場で、根拠をどう示すかは「営業ヒアリングの技術」にまとめています。
広告やWeb制作の会社なら、頼む側として外注先への支払いを見ます。振込手数料の扱いと、支払いまでの日数です。デザイナーや撮影会社に、素材や原稿の保管、修正の対応をタダで頼み続けていないかも確かめます。
頼む側の会社は、取引条件だけでなく、購買や発注の担当者の言動も見ておきます。10月1日に義務になったカスハラ対策では、取引先の担当者も「顧客等」に入ります。法律は、自社の社員が他社の社員に無理を言わないよう注意することも、事業主に努力として求めています。詳しくは「カスハラ対策が全事業主の義務に。断る線は契約の範囲で決める」で扱っています。
注意したいのは、直し方です。振込手数料を自社の負担に切り替えるとき、その分を一方的に代金から引き下げると、別の違反になるおそれがあります。手形を現金に変えるときに割引料を差し引くことも、減額として違反です。直すときは、取引先と話し合ってから決めます。
筆者作成。記入例は架空。
NEXT ACTION / 次にやること
取引先ごとに、値札の外を1行に書き出す
経理の担当者に、支払規程と振込の設定を出してもらいます。取引先ごとに、自社の立場、支払いの方法と期日、振込手数料、預けている物や預かる物を1行に並べます。頼む側の行は直し、頼まれる側の行は次の価格交渉の議題にします。
賃上げの原資と値段を一緒に決める考え方は「人手不足倒産240件、過半が人件費。賃上げの日に値段も決める」に、契約書で支払条件を見る順番は「契約書のチェックポイント」にまとめています。
5問で確認する 値札の外の取引条件
頼む側と頼まれる側の両方で、値札の外の条件を確かめる簡易チェックです。
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5問で確認|値札の外の取引条件
外注先や納品先とのやりとりを思い浮かべて、いちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。
※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
出典・調査の対象範囲
※認定された行為・金額・社数は公正取引委員会の公表に基づく、執筆時点の情報です。代金を待つ期間の試算と業種の整理、自己診断は、考え方を示すための編集部の試算・整理です。自社の取引が取適法の対象になるかは、取引の内容と規模によって異なるため、公正取引委員会の資料や専門家で確認してください。



