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中小企業のKPI設計 ローカルベンチマークの6指標から選び月次で回す

公開 2026.09.04

中小企業のKPIをどう選び、毎月どう回すか。ローカルベンチマークの財務6指標を軸に、算式・業種平均との比較・目標値の置き方・担当と締切の決め方を整理します。

KPIは自社で発明せず、国が算式まで定義した指標セットから選び、定義を変えずに月次で回すのが最短です。
  • 経済産業省のローカルベンチマーク(ロカベン)は、売上増加率・営業利益率・労働生産性・EBITDA有利子負債倍率・営業運転資本回転期間・自己資本比率の6指標を、算式と入力ルールまで確定させています。Excelシートに決算値を入れると、業種・規模別の基準値と比べた1〜5点が自動で出ます
  • 同じ「労働生産性」でも定義は制度ごとに違います。ロカベンは営業利益÷従業員数、経営力向上計画は(営業利益+人件費+減価償却費)÷労働投入量。どちらで測るかを先に決めないと、前期比較そのものが意味を失います
  • 目標値も勘で決める必要はありません。経営力向上計画は5年計画なら労働生産性2%以上、経営革新計画は3年計画なら付加価値額9%以上・給与支給総額4.5%以上という伸び率を、制度として定めています

「KPIを決めましょう」と言われて止まる理由は、指標を選ぶ基準がないことにあります。売上、粗利、離職率、稼働率——どれも大事に見えて、優先順位がつきません。しかし中小企業の場合、国がすでに「この6つを見なさい」という指標セットを算式付きで公開しており、補助金や計画認定の場面でも同じ枠組みが使われています。本稿は、この公的な指標体系を骨格に据えて、何を測るかを決め、目標値を置き、月次で回し続けるところまでを扱います。

最初に結論:ロカベンの財務6指標と、その数字で何を決めるか

まず全体像を示します。ローカルベンチマーク(略称:ロカベン)は、経済産業省が公開している「企業の健康診断」ツールです。経営者と金融機関・支援機関等が対話しながらシートを使い、経営の現状や課題を相互に理解することを目的としています。「6つの指標」(財務面)、「商流・業務フロー」、「4つの視点」(非財務面)の3枚組で、Excel形式のシートが無料でダウンロードできます(出典:経済産業省ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)、ページ最終更新2026年1月16日)。

下表の算式と入力ルールは、公開されているロカベンシート(2022年度版)に記載されているものです。金額の単位は千円で統一されています。

まず見るべき判断表|財務6指標と、その数字で決めること

指標見ているもの算式主に決められること
①売上増加率売上持続性{(最新期売上高/前期売上高)-1}×100事業の伸びが止まっていないか
②営業利益率収益性(営業利益/最新期売上高)×100価格・原価のどちらに手を打つか
③労働生産性生産性営業利益/従業員数増員の可否、賃上げ原資の有無
④EBITDA有利子負債倍率健全性(借入金-現金・預金)/(営業利益+減価償却費)借入をあと何年分の利益で返せるか
⑤営業運転資本回転期間効率性{売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-買入債務(買掛金+支払手形)}/(売上高/12)回収・在庫・支払条件のどれを直すか
⑥自己資本比率安全性(純資産/負債・純資産合計)×100追加投資に耐えられるか

(出典:経済産業省ローカルベンチマーク(ロカベン)シート、2022年度版。日本標準産業分類の改定に伴い2024年4月1日に業種分類を見直し)

KPIは自社で発明しない。算式が決まった6指標をそのまま置いて3か月回し、足りないと分かったものだけ足す。差がつくのは指標の数ではなく、同じ定義で毎月出し続けられるかです。

この6つを最初のKPIに据えることを勧める理由は3つあります。第一に、算式が公開されているので社内で解釈が割れません。 「粗利率」と言ったときに誰が何を指しているか毎回確認する会社は珍しくありませんが、この6つは定義が固定されています。第二に、決算書と試算表からそのまま取れます。 新しい記録作業が発生しないので、集計が破綻しません。第三に、同じ枠組みが公的な場面で使われます。 後述するとおり、経営力向上計画の申請様式でも現状認識の欄でロカベンの活用が求められており、金融機関との対話でも通じる共通言語になっています。

入力時のルールも決まっています。従業員数は正社員で数え、パート・派遣・契約社員は含めず、従業員兼役員は含めます(役員のみで0名になる場合は1名とします)。借入金は長期借入・短期借入・1年以内返済長期借入金・社債の合計で、役員借入金は含めなくて構いません。減価償却費は製造原価と一般管理販売費等に計上されているものの合計、受取手形には割引手形を含め、支払手形に設備支払手形は含めません。この程度の細かさで定義が決まっていることが、指標を「毎期同じ数字」にします。

❌ 「うちの事業に合う独自KPIを、まず10個ほど洗い出して議論する」 ⭕ 「公開されている6指標をそのまま置いて3か月回し、足りないと分かったものだけ足す」

業種平均と比べる 自己資本比率45%は高いのか低いのか

自社の数値だけを見ても、良し悪しは判断できません。自己資本比率45%は、業種によって平均以上にも平均以下にもなります。比べ方には、手間の少ない順に2つの道があります。

方法1 ロカベンのExcelに任せる

ロカベンシートは、入力した決算値をもとに業種・規模別の基準値と比較し、6指標それぞれに点数を付けます。基準値は帝国データバンクが保有する2019年4月〜2022年2月の期間中に3期連続で決算書が収録されている企業、約37,000社を対象に作成されており、対象企業の3期平均の中央値を基準値として、各指標の上位7%を5点、続く24%を4点、続く38%を3点というように閾値が定められています。事業規模は「中規模(中堅含む)」と「小規模」の2区分で、小規模は製造業・その他が従業員20人以下、商業・サービス業が5人以下です。

ここで大事なのは、シート自身が付している注意書きです。「各項目の評点および総合評価点は各項目の業種基準値からの乖離を示すものであり、点数の高低が必ずしも企業の評価を示すものではありません」と明記されています。点数は順位ではなく、平均からどれだけ離れているかを見るための道具です。 3点だから普通、5点だから優秀、という読み方をすると判断を誤ります(出典:経済産業省財務指標の評価付与方法について、ロカベンシートのページに掲載)。

方法2 中小企業実態基本調査の業種別数値を見る

もう一段さかのぼって、公的統計そのものと比べる道もあります。中小企業庁「中小企業実態基本調査」は、中小企業基本法第10条に基づき平成16年から毎年実施されている一般統計調査で、全国の中小企業から約11万社を選出して財務情報・経営情報・設備投資動向を調べています。令和7年調査(令和6年度決算実績)の確報は2026年6月29日に取りまとめられ、e-Statで公開されています(出典:中小企業庁中小企業実態基本調査)。

同調査の速報値をもとに、2026年版中小企業白書が付属統計資料として掲げた業種別の経営指標が下表です。単位は%、総資本回転率のみ回です。

産業売上高経常利益率総資本回転率自己資本比率付加価値比率
全業種4.441.0744.9325.55
建設業5.711.0849.3827.79
製造業5.020.9649.2929.54
情報通信業6.281.0754.0844.46
運輸業,郵便業4.061.1436.8642.35
卸売業2.721.8743.7010.31
小売業2.611.7939.4319.65
不動産業,物品賃貸業8.980.3638.3839.95
学術研究,専門・技術サービス業12.970.4366.8652.41
宿泊業,飲食サービス業4.260.9631.0146.01
生活関連サービス業,娯楽業2.801.0031.3625.76
サービス業(他に分類されないもの)5.560.9443.4356.12

(出典:中小企業庁2026年版中小企業白書 付属統計資料15表 中小企業(法人企業)の経営指標(2024年度)。資料は中小企業庁「令和7年中小企業実態基本調査速報(令和6年度決算実績)」)

PUBLIC STATISTICS

業種で2倍以上違う自己資本比率(2024年度・中小企業)

学術研究,専門・技術サービス業66.86%
情報通信業54.08%
全業種44.93%
小売業39.43%
宿泊業,飲食サービス業31.01%
出典:中小企業庁 2026年版中小企業白書 付属統計資料15表(令和7年中小企業実態基本調査速報)。単位は%。

読み方の例を示します。自己資本比率は宿泊業・飲食サービス業で31.01%、学術研究・専門技術サービス業で66.86%と、業種間で2倍以上の開きがあります。売上高経常利益率も卸売業2.72%に対して学術研究・専門技術サービス業12.97%です。「利益率が低い」と嘆く前に、その業種の構造上そうなるのかを確認する必要があります。 卸売業の総資本回転率は1.87回と全業種平均1.07回を大きく上回っており、薄い利益率を回転で稼ぐ構造であることが数字に出ています。

付加価値比率の差はさらに極端で、卸売業10.31%に対してサービス業(他に分類されないもの)56.12%です。この表の付加価値額は、売上原価のうちの労務費・賃借料・減価償却費、販管費のうちの人件費・賃借料・減価償却費・租税公課、営業外費用のうちの支払利息・割引料、経常利益、能力開発費の合計として定義されています。後述するとおり、付加価値額の定義は制度ごとに異なるため、この数値をそのまま計画申請の目標値に流用することはできません。

❌ 「自己資本比率45%だから財務は健全、と役員会で結論を出す」 ⭕ 「自社の業種の水準と並べたうえで、5年前の自社と比べて上がっているかを見る」

「労働生産性」は3つある 制度ごとに定義が違うという落とし穴

KPI運用でいちばん静かに事故が起きるのが、この論点です。同じ名前の指標が、制度によって別の算式で定義されています。

出どころ指標名算式
ローカルベンチマーク労働生産性営業利益 ÷ 従業員数(簡易的な計算と明記)
経営力向上計画(基本方針)労働生産性(営業利益+人件費+減価償却費)÷ 労働投入量(労働者数 又は 労働者数×一人当たり年間就業時間)
経営革新計画一人当たりの付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)÷ 従業員数
2026年版中小企業白書 第2部労働生産性付加価値額 ÷ 従業員数(第2部では付加価値額に減価償却費を加えて算出)

ロカベンシート自身が「本分析の労働生産性は簡易的に計算したものとなりますので、経営力向上計画等に記載の際は、それぞれの定義に沿った数値を各自で計算して下さい」と注記しています。経営力向上計画の策定の手引きにも、「ローカルベンチマークで算出される労働生産性とは、計算式が異なりますので、必ずしも『4 現状認識 ③自社の経営状況』の労働生産性の数値とは一致するわけではありません」と書かれています(出典:中小企業庁経営力向上計画策定の手引き、2025年9月1日更新)。

公的資料が自ら「一致しません」と断っているほど、この差は大きいということです。人件費と減価償却費を足すかどうかで、労働集約的な会社の数値は数倍変わります。社内でどちらを使うかを決め、紙に書いて固定してください。 決め方の基準は単純で、計画認定や補助金の申請予定があるならその制度の定義に合わせ、なければロカベンの簡易式で構いません。

同じ構図は「付加価値額」にもあります。経営革新計画では営業利益+人件費+減価償却費、中小企業実態基本調査では前掲のとおり労務費や租税公課、支払利息、能力開発費まで含む算式です。2026年版中小企業白書に至っては、第1部と第2部で算出方法が違うことを本文で断ったうえで、第2部では付加価値額に減価償却費を加えて算出しています(出典:中小企業庁2026年版中小企業白書 第2部第1章 中小企業の労働生産性の状況、2026年4月24日閣議決定)。

測り方を変えると結論まで変わる、という実例も同じ白書にあります。中小企業の一人当たり労働生産性は直近10年おおむね横ばいで推移していますが、同じ期間を時間当たり労働生産性(付加価値額÷総労働時間)で見ると上昇傾向で、2015年度と比較して2024年度は25.5%上昇しています(名目値)。分母を人数にするか時間にするかだけで、「伸び悩み」と「25.5%改善」に分かれます。自社で残業削減を進めている最中なら、人数当たりで測ると成果が見えず、時間当たりで測ると見える、ということが普通に起こります。

一人当たり労働生産性(中小企業)

横ばい

直近10年、おおむね横ばいで推移

時間当たり労働生産性(2015→2024年度)

+25.5%

付加価値額÷総労働時間で見ると上昇傾向(名目値)

❌ 「今期から算式を見直したので、去年の数字と並べて前期比を出す」 ⭕ 「算式を1枚に書いて固定する。変えるときは過去3期分も新しい算式で引き直してから並べる」

目標値は制度が定めた伸び率から逆算する

「20〜30%増を目安に」といった経験則で目標を置くと、根拠を問われたときに答えられません。ここも公的な基準があります。中小企業等経営強化法に基づく2つの計画が、それぞれ達成すべき伸び率を制度として定めています。

計画指標3年4年5年
経営力向上計画労働生産性——2%以上(原則)
経営革新計画付加価値額 又は 一人当たりの付加価値額9%以上12%以上15%以上
経営革新計画給与支給総額4.5%以上6%以上7.5%以上

経営力向上計画は、計画期間を3年から5年とし、労働生産性を計画認定の判断基準としています。基本方針では「原則、5年間の計画の場合、計画期間である5年後までの労働生産性の目標伸び率が2%以上」とし、業種・事業規模等を勘案して弾力的に目標を設定できるとしています。計画期間が終了した時点での労働生産性の値は正であることも条件です(出典:中小企業庁事業分野別指針及び基本方針、基本方針全文は2026年1月1日改正)。

経営革新計画のほうは要求が高く、事業期間3〜5年で2つの指標が「相当程度向上する」ことを求めます。付加価値額(または一人当たりの付加価値額)は年平均3%以上、給与支給総額は年平均1.5%以上の伸び率で、3年計画ならそれぞれ9%以上・4.5%以上になります。給与支給総額は役員報酬+給料+賃金+賞与+各種手当で、残業手当・休日手当・家族手当・住宅手当等は含みますが、退職手当等と福利厚生費は含みません(出典:中小企業庁経営革新計画進め方ガイドブック、令和4年2月発行・令和7年4月改訂)。

申請の予定がない会社にとっても、この数字は使えます。国が「これくらいは伸ばせるはず」と置いた水準が公表されている以上、自社の目標をそこに合わせるか、外すなら理由を言えばよいことになります。 年平均3%を5年続ければ複利で約15.9%、給与支給総額の年平均1.5%を5年で約7.7%。この程度の刻みなら、現場が最初から諦めることもありません。

もうひとつ、経営力向上計画には「経営力向上の実施方法に関する事項」として、売上高増加率、営業利益率、一人当たり営業利益、EBITDA有利子負債倍率、自己資本比率等の指標を活用する旨が基本方針に書かれています。ロカベンの6指標とほぼ重なります。国の側でも、中小企業が見るべき指標はこの範囲だと整理されていると読めます。

なお、目標値を置く単位は全社に限りません。事業や拠点ごとに分けて見るなら、その前提として数字を分ける仕組みが要ります。分け方は部門別損益の作り方 共通費を配賦しないで月次を回す最短ルートで扱っています。KPIの元データは、そこで作られます。

非財務のKPIは、測れるものだけを選ぶ

財務6指標だけでは、来月の行動は決まりません。ロカベンが非財務面として用意しているのが「4つの視点」で、これが非財務KPIを選ぶときの母集団になります。シートに並んでいる項目は次のとおりです。

視点シートの項目
①経営者経営理念・ビジョン/経営哲学・考え・方針等/経営意欲/後継者の有無/後継者の育成状況/承継のタイミング・関係
②事業企業及び事業沿革/強み/弱み/技術力・販売力等/ITに関する投資、活用の状況/1時間当たり付加価値(生産性)向上に向けた取り組み/知的財産権の保有・活用状況/研究開発・商品開発の体制
③企業を取り巻く環境・関係者市場動向・規模・シェアの把握/競合他社との比較/顧客リピート率・新規開拓率/主な取引先企業の推移/顧客からのフィードバックの有無/従業員定着率/勤続年数・平均給与/取引金融機関数・推移/メインバンクとの関係
④内部管理体制組織体制/品質管理・情報管理体制/事業計画・経営計画の有無/従業員との共有状況/社内会議の実施状況/人材育成の取り組み状況/人材育成の仕組み

(出典:経済産業省ローカルベンチマーク(ロカベン)シート非財務ヒアリングシートの項目)

このリストを眺めて気づくのは、数値化できる項目とできない項目が混ざっていることです。顧客リピート率・新規開拓率、従業員定着率、勤続年数・平均給与、取引金融機関数は数えられます。経営理念、強み・弱み、承継のタイミングは数えられません。

そしてロカベンのシート自身は、これらに点数を付けません。非財務シートは「現状認識」「将来目標」「現状と目標のギャップ」「課題」「対応策」という順に文章で埋める構成になっています。測れないものを無理に測ろうとして失敗する典型が、この4つの視点を5段階で採点して平均点を出す運用です。 点数は動いても、何をすればよいかは1行も出てきません。

非財務のKPIとして毎月追うなら、数えられる4つ(顧客のリピート率・新規開拓率、従業員定着率、主な取引先の構成比、取引金融機関数)に絞り、残りは半期に一度、文章で更新するのが現実的な線引きです。②事業の「1時間当たり付加価値(生産性)向上に向けた取り組み」は、前章で見た時間当たり労働生産性とつながる項目で、残業削減と生産性を同時に見たい会社はここを起点にできます。人の定着を扱うなら、指標の置き方は等級・評価・報酬の見直しの観点と重ねて考えてください。

DXの進み具合のように、そもそも金額で測れない領域には、専用の自己診断が用意されています。経済産業省とIPAの「DX推進指標」は、現在のレベルと3年後に目標とするレベルをレベル0からレベル5までの6段階で評価する形式で、経営幹部・事業部門・DX部門・IT部門などの関係者が集まって議論しながら記入することが推奨されています。自己診断結果をIPAに提出すると、他社と比較できるベンチマークレポートを受け取れます(個々の企業の診断結果が公表されるものではありません)。IPAは活用方法として、年次で継続的に診断するほか、より短期のサイクルで確認したい指標はマネジメントサイクルに組み込むことを挙げています(出典:IPADX推進指標のご案内、最終更新2026年8月31日)。

❌ 「4つの視点の全項目を5段階で採点し、平均点を毎月の会議で報告する」 ⭕ 「数えられる4項目だけ月次で追い、残りは半期に一度、現状認識と課題を文章で書き直す」

月次で回す 誰が・いつ・どのデータから・どこで議論するか

指標が決まっても、更新する担当と締切が決まっていなければ運用は始まりません。ロカベンの6指標は決算値ベースですが、月次で回すなら試算表から同じ算式で作ります。下表は組み方の一例です。

指標データの出どころ出す人締切議論する場
売上増加率(前年同月比)月次試算表経理翌月10営業日月次会議
営業利益率月次試算表経理翌月10営業日月次会議
労働生産性試算表+給与台帳経理翌月10営業日月次会議
営業運転資本回転期間売掛・買掛・在庫の残高表経理翌月10営業日月次会議
顧客のリピート率・新規開拓率販売管理・受注台帳営業責任者翌月10営業日月次会議
従業員定着率人事台帳総務四半期末四半期の役員会
EBITDA有利子負債倍率・自己資本比率決算書経理年1回決算報告・金融機関面談

作り方の要点は3つです。第一に、月次で追う指標と、四半期・年次でよい指標を最初に分けること。 自己資本比率を毎月出しても、1か月で動く数字ではないので議論の材料になりません。第二に、指標ごとに1人の担当者を書くこと。 「経理部で」ではなく個人名にします。第三に、議論する場を先に押さえること。 出す先の会議がない指標は、数か月で作られなくなります。

締切を翌月10営業日に置くのは、早さが精度に優るからです。翌月25日に出る完璧な数字より、翌月10日に出る8割の数字のほうが打ち手を変えられます。この考え方と月次締めの実務は部門別損益の作り方で詳しく扱っています。

会議の議題も固定します。数値の確認、前月・前年同月との差の原因、翌月の打ち手の3つで足ります。ここに「報告のための報告」が入り始めると、資料づくりに時間が移っていきます。

進捗確認そのものに効果があることは、公的な調査でも示されています。2026年版小規模企業白書によれば、経営計画を策定している事業者のうち、策定後の実績と比較した進捗確認を「確認している」と回答した事業者は、「確認していない」と回答した事業者より、計画策定が「想定を超える効果が得られた」「想定した効果が得られた」と回答した割合が高くなっています。逆に「確認していない」事業者の約3割は「ほとんど効果が得られなかった」と答えています。同白書ではまた、経営計画を策定している小規模事業者は約2割にとどまる一方、策定している事業者は売上高・営業利益率が「増加」「上昇」と回答した割合が高いことも示されています(出典:中小企業庁2026年版小規模企業白書 第2部第1章第2節 小規模事業者の経営リテラシー向上、2026年4月)。

計画を作ることより、進捗を確認し続けることのほうが効果に直結するという順序は、KPI運用にそのまま当てはまります。作った時点で満足しないための仕掛けが、締切と会議です。

測定コストが高いKPIは、例外なく続かない

設計段階で最後に確認すべきは、その数字を毎月取れるかどうかです。ここを飛ばすと、3か月目に運用が止まります。

現実の集計体制を見ておきます。2026年版小規模企業白書によると、小規模事業者では売上高規模が小さいほど経理業務を経営者自身が担う割合が高く、売上高1千万円以下の事業者では経理業務に最も活用しているツールが「Excel等の表計算ソフト」または「紙の帳簿」で約5割を占めます。従業員の勤怠管理も約5割が「紙への手書き」、約3割が「Excel等の表計算ソフト」です。試算表の作成頻度も、売上高規模の小さい事業者ほど低くなっています。

この体制を前提にすると、判断基準ははっきりします。いま出ている帳票(試算表、給与台帳、受注台帳、売掛買掛の残高表)から取れる指標だけを選ぶことです。新しい記録作業を伴う指標は、記録が止まった時点で指標も止まります。

集計方法についても、専用システムが必須ということはありません。中小企業庁が2025年1月に全国の中小企業・小規模事業者2万社を無作為抽出して実施した採算可視化に関する調査(回答数2,529件)では、採算可視化の集計方法は「汎用ソフトでの集計」39.2%が最多で、「専門ソフトでの集計」は21.1%でした。実施頻度は「概ね月に1回」が61.2%で最も多く、阻害要因の上位には「効果が不明」37.3%、「費用がかかる」31.9%、「方法が分からない」29.8%が並びます(出典:中小企業庁中小企業・小規模事業者の採算可視化に関する調査事業【調査報告書】、2025年3月)。表計算ソフトで回している会社のほうが多い、というのが実態です。

SURVEY DATA

採算可視化の実態(中小企業・小規模事業者 回答2,529件)

39.2%

集計方法は「汎用ソフトでの集計」(最多)

61.2%

実施頻度は「概ね月に1回」(最多)

阻害要因:効果が不明37.3%
阻害要因:費用がかかる31.9%
阻害要因:方法が分からない29.8%
出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者の採算可視化に関する調査事業【調査報告書】」(2025年3月)。

ただし、入力そのものが重い場合は、指標を減らすより工程を減らすほうが早いことがあります。同じ小規模企業白書では、クラウド型の会計ソフトを導入して得られた効果として「経理業務に要する時間の削減」が最も多く挙げられ、月額費用は「無料」または「1万円以下」と回答した事業者が約6割を占めています。集計に時間がかかりすぎているなら、バックオフィスDXの7つのステップの観点で、入力と転記の回数を減らす方向を先に検討してください。

もうひとつ、原価を把握しているかどうかが打ち手の幅を決めるという結果も出ています。同白書では、原価を「ほとんど把握していない」事業者の4割超が「価格転嫁できなかった」と回答しており、原価を詳細に把握している事業者ほど価格に転嫁できた割合が高くなっています。測っていないものについては、交渉の材料も持てないということです。

❌ 「精度を上げるため、全社員に日次で作業時間を記録してもらってから指標を確定する」 ⭕ 「試算表と給与台帳から取れる指標で今月から始め、足りなければ半年後に記録を足す」

KPIと評価をどう切り分けるか

KPIを賞与や人事評価に直結させるかどうかは、経営者が決める論点です。連動させると、達成しやすい低い目標が申告されたり、期末に数字の調整が起きたりする副作用が知られています。一方で、まったく評価に関係しない数字を現場が真剣に追うか、という問題も残ります。

現実的な順序は、定義が2期以上安定してから評価に載せることです。1期目は算式の解釈が揺れ、データの取り方も定まりません。その状態で賞与に紐づけると、議論が「この数字は正しいのか」に終始します。

ロカベンの点数をそのまま評価に使うのも避けたほうが無難です。前述のとおり、シート自身が「点数の高低が必ずしも企業の評価を示すものではありません。非財務指標も含め、総合的な判断が必要」と注記しています。業種基準値からの乖離を示す道具であって、優劣を決める道具ではありません。

なお、投下資本に対する稼ぎまで見る段階に進むなら、ROICの考え方と活用事例が次のステップになります。本稿の6指標は、その手前で毎月見るべき数字を揃える工程です。

❌ 「初年度からKPI達成度を賞与に100%連動させ、未達部門の名前を全社で共有する」 ⭕ 「1年目は定義とデータの確認に使い、2年目以降に評価へ組み込むかを判断する」

5問で確認する KPI運用の準備度

月次でKPIを回せる状態になっているかを確かめる簡易チェックです。

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5問で確認|KPI運用の準備度

いま社内で追っている数字を思い浮かべて、実態にいちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。

回答の進捗0 / 5
  1. Q1追っている指標の算式が文書で決まっていて、誰が計算しても同じ数字になる
  2. Q2自社の指標を、業種平均(ロカベンの基準値や中小企業実態基本調査)と比べたことがある
  3. Q3労働生産性などの指標で、どの制度の定義を使うかを決めている
  4. Q4指標ごとに、データの出どころ・出す人・締切・議論する場が決まっている
  5. Q5目標値に、制度の伸び率など説明できる根拠がある

※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。

まとめ 4週間でここまで決める

最後に、着手の順序を時間軸に並べます。専任の管理部門がなくても、この範囲は社長の決裁で動きます。

1週目。 ロカベンシートをダウンロードし、直近3期の決算値を入力する。6指標の算出結果と点数、業種基準値を確認する。ここで自社の弱い指標が2つか3つに絞れます。

2週目。 弱かった指標のうち、月次で追うものを3つ選ぶ。労働生産性を含める場合は、どの算式(ロカベンの簡易式か、経営力向上計画の定義か)を使うかを決めて紙に書く。同時に、数えられる非財務指標を1つだけ足す。

3週目。 指標ごとに、データの出どころ・出す人・締切・議論する場を1枚の表にする。月次で追う指標と四半期・年次でよい指標を分ける。締切は翌月10営業日を目安に置く。

4週目。 目標値を置く。制度の伸び率(経営力向上計画なら5年で労働生産性2%以上、経営革新計画なら3年で付加価値額9%以上・給与支給総額4.5%以上)を出発点にし、自社の事情で上下させる。外す場合は理由を1行書いておく。

ここまでで新たな支出は発生しません。ロカベンシートもDX推進指標の自己診断フォーマットも無料で、必要なのは決算書と試算表、そして毎月の会議の時間だけです。数字を金融機関に説明する場面まで見据えるなら、事業計画書の作成ポイントと組み合わせて使えます。

指標を増やすことに価値はありません。定義が固定された数字を、同じ人が、同じ締切で、同じ会議に出し続ける。KPI運用で差がつくのは、その一点です。

NEXT ACTION / 次にやること

ロカベンシートに直近3期の決算値を入れ、弱い指標を2つに絞る

ダウンロードは無料で、必要なのは決算書だけです。点数は順位ではなく業種平均からの乖離として読み、月次で追う3指標を選ぶ材料にしてください。

よくある質問

QKPIは何個くらいが適切ですか
A

個数そのものに公的な基準はありません。判断の基準になるのは「毎月、同じ担当者が締切までに出せるか」です。本稿では、ロカベンの財務6指標のうち月次で意味のある3つ(売上増加率・営業利益率・労働生産性)に、数えられる非財務指標を1つ足す形を出発点として示しました。EBITDA有利子負債倍率や自己資本比率は1か月では動かないため、年1回の決算時に見れば足ります。指標を増やすかどうかは、3か月続いてから判断してください。

Qローカルベンチマークのシートは誰でも使えますか。費用はかかりますか
A

経済産業省のウェブサイトから無料でダウンロードでき、利用に申請や登録は不要です。最新版は2022年度版のExcelファイルで、ファイルをダウンロードしたあと、開き直してから使う形になります。Excelを使わない場合は、中小企業庁が運営するミラサポplus上でも作成でき、こちらは入力フォームなどの作成補助機能があります(利用にはミラサポplusへの会員登録が必要です)。なお2024年4月1日に、日本標準産業分類の改定にともなう業種分類の見直しが行われています。

Q自社の業種の平均値は、どこで調べればよいですか
A

3つの道があります。もっとも手間が少ないのはロカベンシートで、決算値を入力すると業種・規模別の基準値との比較が自動で表示されます。次に、中小企業庁「中小企業実態基本調査」の統計表をe-Statで確認する方法があり、確報は例年、調査翌年の年央に公表されます(令和7年調査の確報は2026年6月29日)。3つめは、中小企業白書の付属統計資料で、産業別の経営指標が1枚の表にまとまっています。本稿の業種別表はこの付属統計資料15表から引用したものです。

Q労働生産性は、どの計算式を使えばよいですか
A

計画認定や補助金の申請予定があるなら、その制度の定義に合わせてください。経営力向上計画の基本方針は「営業利益、人件費及び減価償却費の合計を、労働投入量(労働者数又は労働者数×一人当たり年間就業時間)で除したもの」と定義しています。申請の予定がないなら、ロカベンの簡易式(営業利益÷従業員数)で構いません。重要なのは、どちらかに決めて期中は変えないことです。ロカベンシート自身が、経営力向上計画等に記載する際はそれぞれの定義に沿って各自で計算するよう注記しています。

Q目標値はどう決めればよいですか
A

制度が定めた伸び率を出発点にするのが、根拠を説明しやすい方法です。経営力向上計画は原則として5年計画で労働生産性2%以上の伸び率を求め、業種・事業規模等を勘案して弾力的に設定できるとしています。経営革新計画はより高く、付加価値額(または一人当たりの付加価値額)が年平均3%以上、給与支給総額が年平均1.5%以上で、3年計画ならそれぞれ9%以上・4.5%以上です。自社がこの水準を上回るか下回るかを議論すれば、目標値の妥当性を役員間で共有できます。

QKPIを人事評価や賞与に連動させてもよいですか
A

連動させる場合は、指標の定義とデータの取り方が2期以上安定してからにするのが安全です。初年度は算式の解釈やデータの拾い方が揺れるため、その状態で賞与に紐づけると、議論が数字の正確さに終始します。ロカベンの点数をそのまま評価に用いるのも避けてください。シートには「各項目の評点および総合評価点は各項目の業種基準値からの乖離を示すものであり、点数の高低が必ずしも企業の評価を示すものではありません」と明記されています。

Q顧客満足度のような数値化しにくいものは、KPIにできますか
A

ロカベンの非財務シートは、これらの項目に点数を付けず、「現状認識」「将来目標」「現状と目標のギャップ」「課題」「対応策」を文章で書く構成になっています。この形をまねるのが実務的です。月次で追うのは数えられるもの(顧客のリピート率・新規開拓率、従業員定着率、主な取引先の構成比、取引金融機関数など)に絞り、数値化しにくい項目は半期に一度、文章で更新します。DXの進捗のように領域全体を評価したい場合は、IPAの「DX推進指標」のように6段階のレベルで現状と目標を置く自己診断の形式が用意されています。

出典・調査の対象範囲

※月次運用表の担当・締切は編集部の設計例です。制度の要件は改正されることがあるため、申請時は最新の手引きを確認してください。

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