営業戦略・契約審査

契約書のチェックポイント 取適法時代に経営者が見るべき順番

公開 2026.09.07

先方の契約書は、責任の上限・解除・支払条件・知的財産・秘密保持・管轄の順に見れば足ります。2026年1月施行の取適法(旧下請法)で変わった支払と価格協議のルールを含め、一次情報で整理しました。

先方の契約書は、責任の上限・解除・支払条件・知的財産・秘密保持・管轄の順に見れば足ります。
  • 2026年1月1日、下請法が改正・改称され「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行された。資本金基準に加えて従業員基準(300人/100人)が入り、これまで規制の外にいた会社が委託側として規制対象になりうる。
  • 取適法では手形払が禁止され、電子記録債権などでも「支払期日までに満額の現金と引き換えられないもの」は支払遅延として扱われる。支払サイトを定める条項は、法違反にならないかを先に見る。
  • 会社どうしの売買では、受領時に遅滞なく検査し、不適合を見つけたら直ちに通知しないと追完・減額・賠償・解除を主張できなくなる(商法526条)。民法の「知ってから1年」より大幅に短い。

契約書は、取引が順調な間は誰も読み返しません。問題が起きて初めて条文が意味を持ち、そのときにはもう修正できないというのが実情です。しかも2026年1月に下請法が取適法へ生まれ変わり、支払手段や価格協議のルールが変わりました。旧法を前提に作られたひな形は、そのまま使うと違反になる可能性があります。本稿では、先方から出てきた契約書を経営者が自分の目で判断できるよう、見る順番と判断の基準を一次情報にあたって整理します。

最初に結論:契約書はこの順に見る

条文を頭から読むと、たいてい後半で集中力が切れます。読む順番を「取り返しがつかない順」に固定してください。金額と期間に直結する条項を先に潰せば、残りは多少不利でも運用でカバーできます。

まず見るべき判断表|契約書チェックの優先順位

優先見る条項一言でいう判断基準不利なままだと何が起きるか
1損害賠償・責任の上限上限額と損害の範囲が書いてあるか取引額の何十倍もの賠償請求を受けうる
2解除・契約期間・自動更新催告なしで切れる建て付けになっていないか売上の柱を突然失う/不要な契約に縛られる
3支払条件(検収・支払期日・支払手段)受領からいつ、何で払われるか資金繰りが読めない。取適法違反にもなりうる
4知的財産の帰属成果物と既存技術の切り分けがあるか自社ノウハウを他社案件に使えなくなる
5秘密保持・個人情報定義の広さと存続期間が現実的か管理負担が過大になり、実質守れない条項になる
6反社条項・準拠法・管轄排除条項があるか、裁判所はどこか関係を切る根拠がない/遠方での訴訟対応を強いられる

読む順番は「取り返しがつかない順」に固定する。責任の上限・解除・支払条件の3つを先に潰せば、残りは多少不利でも運用でカバーできます。

この6つのうち1から3までは、契約書の表題が「業務委託契約書」「取引基本契約書」「秘密保持契約書」のいずれであっても共通して効いてきます。まず契約の性質(請負なのか委任・準委任なのか)を確認したうえで、この順に読んでください。表題が「業務委託契約書」でも、仕事の完成を約束する中身であれば請負として扱われ、成果物に対する責任の重さが変わります。

2026年1月、下請法は「取適法」になった

2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法が改正され、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称「取適法(とりてきほう)」として施行されました。用語も変わり、「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」になっています。

改正法(令和7年法律第41号)は2025年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。主な改正内容は、特定運送委託の対象取引への追加、従業員基準の追加、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止、事業所管大臣等による指導・助言に係る規定の整備です。2026年1月1日以降に行う製造委託等について適用されます。

契約書を読むうえで押さえるべき変更点は次の5つです。

第一に、適用対象取引に「特定運送委託」が加わりました。販売・製造・修理・情報成果物の作成における取引の相手方(相手方が指定する者を含む)に対する運送を他の事業者に委託することが対象です。自社の工場から自社の別工場へ運ぶような拠点間の運送は、通常これに該当しません。

第二に、手形払が禁止されました。第三に、価格の協議に応じない一方的な代金決定が禁止されました。第四に、発注内容の明示について、相手の承諾の有無にかかわらず電子メールなどの電磁的方法が使えるようになりました。第五に、公正取引委員会・中小企業庁だけでなく事業所管省庁も指導・助言ができるようになりました。

なお、行政の相談・調査窓口も名称が変わっています。「下請Gメン」は「取引Gメン」に、全国47都道府県に設置されている「下請かけこみ寺」は「取引かけこみ寺」に、2026年1月1日付で改称されました(担う機能そのものは変更前と変わりません)。契約交渉でこじれたときの相談先として、名前を覚え直しておいてください。

(出典:公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」リーフレット、2025年8月/公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」、2025年11月/中小企業庁「令和8年1月1日より『下請Gメン』及び『下請かけこみ寺』の名称を『取引Gメン』及び『取引かけこみ寺』に変更します」、2025年9月)

自社が委託側になるとき 従業員基準で新たに規制対象に入る会社がある

今回の改正でもっとも見落とされやすいのが、従業員基準の追加です。資本金が小さいままでも、従業員数が基準を超えていれば、外注先との取引で自社が「委託事業者」として規制を受ける可能性があります。

適用の判定は、取引の内容と、資本金基準または従業員基準の組み合わせで決まります。

取引の類型委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託(プログラム作成)・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管、情報処理)資本金3億円超資本金3億円以下(個人を含む)
同上資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
同上常時使用する従業員300人超常時使用する従業員300人以下(個人を含む)
上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託資本金5千万円超資本金5千万円以下(個人を含む)
同上資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下(個人を含む)
同上常時使用する従業員100人超常時使用する従業員100人以下(個人を含む)

従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されます。つまり資本金1千万円以下の会社であっても、常時使用する従業員が300人を超えていれば(製造委託等の場合)、従業員300人以下の相手に発注した時点で委託事業者になります。

「常時使用する従業員」とは、労働基準法第9条の労働者のうち、日々雇い入れられる者(1か月を超えて引き続き使用される者を除く)以外のものをいい、その人数は賃金台帳の調製対象となる労働者の数で算定します。正社員だけでなく、契約社員・パートタイマー・アルバイトも含まれる点に注意してください。判定時点は「製造委託等をした時点」です。委託した時点で基準を満たしていれば、その後に従業員数が変動しても、その取引は適用対象のままです。グループ会社の従業員は事業者単位で判断するため合算しません。

委託事業者になると、4つの義務が課されます。発注内容等を書面または電磁的方法で明示する義務、取引記録を作成し2年間保存する義務、検査の有無を問わず受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定める義務、支払遅延等の場合に年率14.6パーセントの遅延利息を支払う義務です。加えて、受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、協議に応じない一方的な代金決定の11項目が禁止されます。

自社が発注側に回る場面がある会社は、外注先向けのひな形をそのまま使い続けていないか確認してください。とくに「検収完了後、翌月末払い」という運用は、受領日から60日を超える可能性があり、危険です。

建設工事の下請負は取適法の対象外

建設業の方は、ここで線を引いてください。建設業を営む者が業として請け負う建設工事は、取適法の対象になりません。建設工事の下請負については建設業法に同種の規律が置かれているためで、規制がないという意味ではありません。適用されるのは建設業法で、支払期日の考え方も取適法の「受領日から60日以内」とは異なります。

❌ 建設工事の下請契約に、取適法の60日ルールを当てはめて支払条項を設計する ⭕ 建設工事は建設業法で確認し、同じ建設業者でも設計図等の作成委託・建設資材の製造委託・現場警備の委託は取適法側で確認する

同じ会社の中で、取適法の取引と建設業法の取引が併存します。契約書のひな形を1つにまとめず、取引類型ごとに分けてください。

❌ 支払期日は、甲による検収完了の日から起算して翌月末日とする。 ⭕ 支払期日は、乙の給付を受領した日(役務提供委託・特定運送委託の場合は役務の提供を受けた日)から起算して60日以内である毎月◯日とし、検査の完了の有無にかかわらず同日に支払う。

(出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」、2025年11月)

支払条件と検収 いつ・いくら・何で払われるか

支払条項で見るのは、期日の起算点、検収の定義、そして支払手段の3つです。取適法の適用がある取引では、契約書に書いてあっても法に反する条件は通りません。

「検収後、翌月末払い」と書かれていても、検収の基準が定義されていなければ、相手はいつまでも検収しないという運用が可能になります。取適法の適用がない取引では、検収期間を「納品後10営業日以内」と定め、期間内に異議がなければ検収が完了したものとみなす、いわゆるみなし検収の規定を入れておくべきです。適用がないのは、取引が製造委託等の類型に当たらない場合や、発注側・受注側の資本金・従業員数が前掲の組み合わせに当てはまらない場合です。発注側が大企業であることは、むしろ取適法が適用される典型的な条件なので、「相手が大手だから守ってもらえない」と考えないでください。取適法の適用がある取引では、そもそも支払期日の起算点が「受領日」であり、検査をするかどうかを問わないため、みなし検収以前に60日ルールで守られます。

支払手段については、今回の改正がとくに実務を変えます。取適法では、代金の支払について手形を交付することは支払遅延に当たり、違反になります。手形以外でも、「支払期日までに代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難な支払手段」を使うことは禁止されます。具体的には、一括決済方式や電子記録債権(でんさい)で、次のいずれかに当たるものです。

  • 満期日・決済日等が代金の支払期日より後に到来し、支払期日に金銭を受領するために中小受託事業者が割引を受ける等の行為を要するもの
  • 受注側が決済手数料・振込手数料などの受取手数料等を負担する必要があるもの

逆に、満期日・決済日等が支払期日以前に到来するものを使うこと自体は認められています。契約書に「支払は電子記録債権による」とだけ書いてあったら、発生記録・譲渡記録の日と満期日がいつになるのかを必ず確認してください。取適法では、電子記録債権で支払う場合、その額、支払を受けられることとする期間の始期、満期日を発注時に明示することが求められます。

❌ 代金は、毎月末日締め、翌々月末日に約束手形により支払うものとする。 ⭕ 代金は、毎月末日締め、翌月◯日に銀行振込により支払うものとする。振込手数料は甲の負担とする。

手形での支払い、振込手数料の差し引き、金型の無償保管が、取適法の施行後に実際に勧告の対象となった例は「給湯器メーカーに取適法で勧告。手形と金型保管、支払条件を見直す」で取り上げています。

支払サイトが延びた分は、そのまま自社の運転資金として立て替える金額になります。契約条件の是非を判断するには、自社の資金繰りにどれだけ余裕があるかを数字で把握しておく必要があります。手元資金の考え方は資金繰りを安定させる基本を、締日と入金日を月次で並べる方法は資金繰り表の作り方を参照してください。

なお、遅延損害金の利率に定めがなければ、法定利率が適用されます。法定利率は3年ごとに見直される変動制ですが、2026年4月1日から2029年3月31日までの期については年3パーセントのまま据え置かれることが告示で確定しています。自社が受け取る側なら、契約で年14.6パーセント程度を設定しておくと督促に実効性が生まれます。

(出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」、2025年11月/法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」、2025年3月)

価格改定の協議を拒めなくなった

原材料費や労務費が上がったとき、受注側が値上げの協議を求めているのに応じない、あるいは根拠を説明しないまま従来価格を押し付ける。この行為が2026年1月から明確に禁止されました。自社が発注側でも受注側でも、契約書の価格条項の読み方が変わります。

禁止されるのは、中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、受注側が代金額の協議を求めたにもかかわらず、協議に応じず、または求められた事項について必要な説明・情報提供をせずに、一方的に代金額を決定して受注側の利益を不当に害することです。「その他の事情」には、労務費・原材料価格・エネルギーコストの高騰のほか、納期の短縮、納入頻度の増加、発注数量の減少といった取引条件の変更も含まれます。

「協議を求めた」は、書面か口頭かを問いません。従来の単価を引き上げて計算した見積書を出した場合のように、協議を希望する意図が客観的に認められる場合も含まれます。また「決定」には引き上げ・引き下げだけでなく、据え置くことも含まれます。値上げ要請を黙って握りつぶし、単価を据え置いた場合も対象になりうるということです。

該当しうる典型例として、公正取引委員会は次を挙げています。値上げの協議要請を拒否・無視し、または回答を引き延ばして協議に応じないこと。合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を求め、それを協議に応じる条件とすること。合理的な理由を示した値上げ要請に対し、具体的な理由の説明も根拠資料の提供もせずに要請額の一部を拒み、または従前の額を提示すること。値下げを要請する側が、説明を求められたのに根拠を示さず引き下げ後の額を提示すること。

❌ 単価は甲乙協議のうえ定める。ただし甲が必要と認めた場合、甲は単価を改定できる。 ⭕ 単価は甲乙協議のうえ定める。原材料費、労務費またはエネルギーコストに著しい変動が生じた場合、いずれの当事者も単価改定の協議を申し入れることができ、相手方は正当な理由なくこれを拒まず、協議に必要な資料および説明を提供する。

一方、多数の受注先に類似の取引を委託する会社が、個別協議を行わず一律に、コスト上昇分に十分見合う引き上げを決定し、受注側が申し入れた額を上回る代金が定められた場合などは、一方的な代金決定であっても利益を不当に害するとはいえないとされています。実務では、協議の記録(いつ、誰が、何を求め、何を説明したか)をメールで残すことが最大の防御になります。

(出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」、2025年11月)

責任の上限と契約不適合責任 民法が決めている期限

損害賠償条項は、上限額・損害の範囲・通知期間の3点で決まります。加えて、契約書に何も書かなくても民法が適用される部分があるので、書かないことのリスクも理解しておく必要があります。

論点責任を負う側にとって望ましい形危険な条文
賠償額の上限受領した委託料の総額を上限とする上限の定めがない
損害の範囲通常生じる直接損害に限定逸失利益・間接損害・第三者からの請求を含む
通知できる期間請負なら「引渡しから1年以内に通知されたものに限る」と区切る。商人間の売買なら、あえて書かず商法526条の原則に委ねるほうが有利請負で期間の定めがない(民法637条により、引渡しから何年後でも「知った時」から起算されうる)
除外事由故意・重過失の場合のみ上限を外す「一切の損害」を無限定に負担

「一切の損害を賠償する」という文言は、取引額が100万円でも数千万円の賠償リスクを抱えることを意味します。上限の設定は、交渉のテーブルに必ず載せてください。

期間については、自社の取引に効くのは民法ではなく商法だという点を先に押さえてください。ここを取り違えると、まだ間に合うつもりでいて権利を失います。

民法では、売買で引き渡された目的物が種類・品質に関して契約の内容に適合しない場合、買主がその不適合を知った時から1年以内に通知しないと、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除のいずれもできなくなります(民法第566条)。請負も同じく、注文者が不適合を知った時から1年以内の通知が必要です(民法第637条)。

ところが商人どうしの売買には、この1年ではなく商法第526条が適用されます。買主は目的物を受領したら遅滞なく検査しなければならず、検査で不適合を発見したときは「直ちに」売主へ通知しなければ、追完・減額・賠償・解除のいずれも主張できません。直ちに発見できない不適合であっても、受領から6か月以内に発見したものに限られます(種類・品質に関するもので、売主が不適合を知っていた場合を除く)。

ただし526条が及ぶのは「売買」だけです。業務委託契約書・取引基本契約書という表題でも、中身が請負や準委任であれば526条は適用されず、民法637条の「知った時から1年」が基準になります。自社の契約が売買か請負かを先に確定してください。ここを取り違えると、発注側が「6か月を過ぎたから諦めよう」と有効な請求を捨てたり、受注側が「6か月で消えたはず」と答えて後から請求を受けたりします。

民法(566条・637条)

知った時から1年

不適合を知った時から1年以内に通知すればよい。請負・準委任はこちらが基準

商法526条(商人間の売買)

直ちに通知

受領後に遅滞なく検査し、発見したら直ちに通知。直ちに発見できない不適合も受領から6か月以内に限られる

民法(566条・637条)商法526条(商人間の売買)
検査の義務なし受領後、遅滞なく検査
通知の期限不適合を知った時から1年以内発見したら直ちに
発見自体の期限定めなし直ちに発見できないものは6か月以内

商法526条は任意規定なので、契約で別に定めれば変更できます。受注側であれば「引渡しから◯か月以内に通知されたものに限る」と区切る意味があり、発注側であれば「検査期間を◯営業日とし、その間に通知すれば足りる」と伸ばす交渉に意味があります。なお請負には526条の適用がないため、請負契約では民法637条の1年が基準になります。

出典:e-Gov法令検索商法第526条、民法第566条・第637条(2026年9月時点)

不適合があったときに買主が取れる手段は4つです。修補・代替物の引渡し・不足分の引渡しによる履行の追完請求(第562条)、相当の期間を定めて催告しても追完がないときの代金減額請求(第563条)、そして損害賠償請求と契約解除(第564条)です。不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合は、追完も減額も請求できません。

さらに、債権そのものの消滅時効は、権利を行使することができることを知った時から5年間、または権利を行使することができる時から10年間です(民法第166条第1項)。契約書で「引渡しから1年」と短く区切ることは、この5年・10年を短縮する意味を持ちます。受注側にとっては有利、発注側にとっては不利な条項になるので、どちらの立場で読んでいるのかを意識してください。

(出典:e-Gov法令検索民法(明治二十九年法律第八十九号))

解除・契約期間・一般条項 切れるか、縛られないか

解除条項は「どんな事由で」「催告するのか」の2点、契約期間は自動更新の通知期限が実務上の急所です。末尾にまとまっている反社条項や管轄も、いざというときの手札の数を決めます。ここを外すと、取引を続けたいのに切られる、やめたいのに続くという事態になります。

解除事由に「相手方が本契約に違反したとき」とだけ書かれている契約は、軽微な違反でも解除されうる建て付けです。「催告後、相当期間内に是正されないとき」という催告解除の形にするのが原則です。ただし、支払停止、手形の不渡り、破産手続開始の申立て、差押え・仮差押えなどは、催告を要さず直ちに解除できる無催告解除の対象としておきます。

もう一つ確認したいのが、解除に伴う効果です。解除されたら、それまでに納めた分の代金はどうなるのか。前払金は返るのか。仕掛かり中の作業の費用はどう精算されるのか。これらが書かれていない契約は、解除の場面で争いになりやすい箇所です。

契約期間の自動更新条項も要注意です。「期間満了の1か月前までに申し出がなければ1年間自動更新」という条文は、更新拒絶の機会を逃すと1年間拘束されることを意味します。契約管理台帳に更新期限を記録し、期限の2か月前に通知が届く運用にしてください。締結済み契約の一覧化と期限管理は、契約書ファイルを紙で回している限り抜けやすい作業です。まず何を仕組み化すべきかの見極めには、バックオフィスDXの業務棚卸しの業務の棚卸しが使えます。

なお、株式譲渡や事業譲渡で経営権が移る場合に相手方が解除できるとする、いわゆるチェンジ・オブ・コントロール条項も見落としやすい論点です。将来的に事業承継やM&Aを検討する可能性があるなら、主要取引先との契約にこの条項が入っているかを棚卸ししておく価値があります(M&Aの基本プロセスと成功の鍵)。

反社会的勢力の排除条項が実務上ほぼ必須になっているのは、2007年6月19日の犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が起点です。同指針は、反社会的勢力が取引先や株主となって不当要求を行う場合の被害を防止するため、契約書や取引約款に暴力団排除条項を導入することを企業に求めています。指針の脚注は、条項に盛り込むべき内容として、①反社会的勢力が取引の相手方となることを拒絶する旨と、②取引開始後に相手方が反社会的勢力であると判明した場合や不当要求を行った場合に、契約を解除して相手方を取引から排除できる旨、の2点を挙げています。この2点のどちらかを欠く反社条項は、判明後に取引から抜ける手段がないため、実務上の効き目が落ちます。表明保証だけあって解除権がない条文、あるいは解除できるが損害賠償請求を排除していない条文は、書き直しの対象です。

管轄については、「専属的合意管轄裁判所」がどこかを見ます。相手方の本店所在地の裁判所が指定されていると、少額の紛争では回収額より旅費と弁護士費用が上回り、実質的に泣き寝入りになります。自社所在地の裁判所にできないなら、せめて「被告の住所地を管轄する裁判所」とする折衷案を提示してください。海外企業との契約では、準拠法と紛争解決手段(訴訟か仲裁か、仲裁地はどこか)が費用構造を決めます。

(出典:法務省「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」、2007年6月)

知的財産の帰属と秘密保持

成果物の権利が誰のものになるか、そして受け取った情報をいつまでどう管理するか。この2つは、契約終了後もずっと効き続ける条項です。

知的財産については、成果物の権利が誰に帰属するかを明記します。開発委託でよく問題になるのが、受託者が従来から保有していた汎用的なノウハウやライブラリの扱いです。「成果物の著作権は委託者に移転するが、受託者が本契約締結前から保有していた技術・ノウハウおよび汎用的に利用可能なモジュールは受託者に留保する」という切り分けを条文化しておくと、次の案件で自社の資産を使えなくなる事態を防げます。著作権法上、翻案権・二次的著作物の利用に関する権利は特掲しないと移転しないと解されているため、譲渡条項に「(著作権法第27条および第28条の権利を含む)」と書かれているかも確認してください。著作者人格権の不行使特約も忘れがちな論点です。

秘密保持条項では、秘密情報の定義と存続期間を確認します。「開示されたすべての情報」と広く定義されている場合、自社が受領側なら管理負担が過大になります。書面等に秘密である旨を明示したものに限る、口頭開示の場合は一定期間内に書面で特定する、といった限定が現実的です。存続期間は契約終了後3年から5年が実務上よく見られる水準で、無期限は避けるのが無難です。

個人情報を含むデータを受け渡す契約では、秘密保持条項とは別に、委託先の監督責任、再委託の可否と条件、漏えい時の通知期限と役割分担を書き分けます。漏えいが起きたとき「速やかに通知する」だけの条文は、実際には何時間以内に誰へ連絡するのかを決めていないのと同じです。契約条項で定めた対応を実際に回すには、社内の検知・報告体制がなければ機能しません。個人情報保護委員会への報告期限(速報は発覚から3〜5日以内、確報は30日以内)と社内の初動はサイバーセキュリティの基礎知識で整理しています。契約が終わった後も預けた名簿が委託先に残り、そこから漏れた事例は「委託先で顧客12.4万件流出の恐れ。預けた名簿は返却まで確かめる」で扱っています。

電子契約の実務 印紙税と電子帳簿保存法

電子契約は、押印の手間を省くだけの話ではありません。印紙税と保存義務の両面で、紙とは扱いが変わります。

印紙税の課税対象になるのは、印紙税法の課税物件表に掲げられている「文書」であり、電磁的記録は文書に含まれません。したがって、契約内容を記録した電磁的記録を電子メールで送信する形の電子契約に印紙税は課税されません(国税庁質疑応答事例、令和7年8月1日現在の法令等に基づく)。ただし、電子データで送ったあとに現物の契約書を別途作成して相手方に交付すれば、その現物には印紙税がかかります。

紙で締結した場合の税額は、契約の種類で変わります。

文書の種類該当例税額
第2号文書(請負に関する契約書)工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、会計監査契約書など契約金額1万円未満は非課税。1万円以上100万円以下は200円、100万円超200万円以下は400円、200万円超300万円以下は1,000円、300万円超500万円以下は2,000円、500万円超1,000万円以下は1万円、1,000万円超5,000万円以下は2万円、5,000万円超1億円以下は6万円(以降金額に応じて増加)。契約金額の記載のないものは200円
第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)売買取引基本契約書、貨物運送基本契約書、代理店契約書など1通につき4,000円。契約期間が3か月以内で更新の定めがないものは除く

取引基本契約書を年に何十本も紙で交わしている会社であれば、電子契約への切り替えは1通4,000円の削減として効いてきます。ただし、建設工事の請負契約書のうち契約金額が一定額を超えるものには、2027年3月31日までに作成するものについて軽減措置があるため、実際の削減額は自社の契約構成で試算してください。

保存については、電子帳簿保存法に注意が必要です。申告所得税・法人税に関して帳簿書類を保存する義務のある事業者が、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当する電子データをやりとりした場合、そのデータ自体を保存しなければなりません。受け取った場合だけでなく、送った場合も対象です。保存には、改ざん防止のための措置、「日付・金額・取引先」で検索できること、ディスプレイやプリンタ等の備付けが必要です。改ざん防止は、事務処理規程を定めて守る方法でも足ります。ファイル形式は問われず、PDFに変換したものやスクリーンショットでも差し支えないとされています。

(出典:国税庁質疑応答事例「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」/国税庁タックスアンサーNo.7102 請負に関する契約書・No.7104 継続的取引の基本となる契約書、令和8年4月1日現在法令等/国税庁電子帳簿等保存制度特設サイト)

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5問で確認|契約審査の体制

直近1年に締結・更新した契約を思い浮かべて、いまの状態にいちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。

回答の進捗0 / 5
  1. Q1契約書を、責任の上限→解除→支払条件の順に「取り返しがつかない条項」から確認している
  2. Q2損害賠償の上限額と損害の範囲が定められているかを、締結前に必ず確認している
  3. Q32026年1月施行の取適法(手形払の禁止・価格協議・従業員基準)に合わせて、ひな形や支払条件を見直した
  4. Q4自社の契約が売買か請負・準委任かを確認し、不適合の通知期限(直ちに/1年)を把握している
  5. Q5金額・期間・独占性の閾値を決め、顧問弁護士に回す契約を社内ルールにしている

※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。

顧問弁護士に見てもらう閾値を決める

全件を弁護士に回すのは現実的でない一方、勘で振り分けると抜けが出ます。金額・期間・独占性の3軸で閾値を決め、社内ルールとして文書化してください。

01 / AMOUNT

金額

年商の1%を超える取引、または賠償上限のない契約

02 / TERM

期間

2年超の契約、自動更新で3年以上続く契約は更新時に

03 / EXCLUSIVITY

独占性

競業避止・最恵待遇・独占販売権・専属供給のいずれかを含む契約

  • 金額:1件あたりの契約金額が年商の1パーセントを超える取引、または損害賠償の上限がない契約は外部確認を必須とする
  • 期間:契約期間が2年を超える契約、および自動更新で3年以上継続している契約は、更新時に一度見てもらう
  • 独占性:競業避止義務、最恵待遇条項、独占的販売権、専属的な供給義務のいずれかを含む契約は金額にかかわらず必須とする

これに加えて、初めての類型の契約(海外取引、ライセンス、共同開発、個人情報の大量取扱い)、相手のひな形をそのまま使う契約、M&Aや事業承継に影響しうる契約も対象に含めてください。

社内の一次審査は、次の運用で回せます。業務類型ごとに自社ひな形を3から5種類用意し、原則としてこちらから提示する。修正協議の記録をメールで残し、口頭合意で済ませない。締結済み契約を台帳で管理し、期間・更新期限・解除条件・賠償上限の有無を一覧化する。契約書に加えて注文書・注文請書・仕様書の内容が矛盾していないか確認する。実務では、契約書と個別契約や仕様書が食い違ったときにどちらが優先するかを、契約書の中で定めておく必要があります。

仕様書で仕事の範囲を書き切っておくと、取引先から範囲外の対応を求められたときに、断るか追加の見積もりで受けるかを判断する線になります。取引先の担当者からの理不尽な要求も、2026年10月から事業主に対策が義務づけられたカスハラに含まれます。線の引き方は「カスハラ対策が全事業主の義務に。断る線は契約の範囲で決める」で整理しています。

まずやることは1つです。締結済みの取引基本契約を並べ、賠償額の上限が定められていないものと、支払手段が手形または電子記録債権になっているものに印をつけてください。前者は自社のリスク、後者は取適法との整合の問題で、いずれも2026年のうちに手当てすべき論点です。

NEXT ACTION / 次にやること

締結済みの取引基本契約を並べ、2種類の契約に印をつける

印をつけるのは、損害賠償の上限が定められていない契約と、支払手段が手形または電子記録債権になっている契約です。前者は自社のリスク、後者は取適法との整合の問題として、優先して見直してください。

※本稿は2026年9月7日時点で公表されている法令および公的資料に基づく一般的な情報提供であり、個別案件についての法的助言ではありません。本文中の条項例は考え方を示すための簡略なもので、そのまま使える汎用のひな形ではありません。実際の契約審査にあたっては弁護士にご確認ください。

よくある質問

Q下請法という名前はもう使われないのですか。
A

2026年1月1日から、法律の題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」となり、通称は「取適法」です。あわせて「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」に変わりました。中小企業庁の窓口も「取引Gメン」「取引かけこみ寺」に改称されています。旧法時代のひな形や社内規程に「下請」の語が残っている場合は、実質の条件が改正後の基準に合っているかを含めて見直してください。

Q資本金1千万円の会社ですが、取適法で自社が規制される側になることはありますか。
A

あります。従業員基準が追加されたためです。従業員基準は資本金基準が適用されない場合に適用され、製造委託等では常時使用する従業員300人超の事業者が300人以下の事業者に委託する場合、それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託では100人超が100人以下に委託する場合が対象です。「常時使用する従業員」には契約社員・パートタイマー・アルバイトも含まれ、賃金台帳の調製対象となる労働者の数で算定します。資本金が小さい労働集約型の会社ほど、確認が必要です。

Q取引先から「支払は電子記録債権(でんさい)で」と言われました。断れますか。
A

取適法の適用がある取引であれば、支払手段が電子記録債権であること自体は直ちに違反ではありませんが、満期日・決済日等が支払期日より後に到来し、支払期日に現金化するために割引等が必要になるものや、受注側が決済手数料・振込手数料を負担する必要があるものは、支払遅延として違反になります。契約前に、発生記録・譲渡記録の日、満期日、手数料の負担者を確認してください。条件が合わない場合は、その旨を根拠とともに伝えて協議を求めるのが筋です。

Q納品した製品の不具合を後から指摘されました。いつまで責任を負いますか。
A

契約書に定めがあればそれによります。定めがない場合、会社どうしの売買では商法第526条が適用され、民法の「知ってから1年」ではありません。受領後は遅滞なく検査する義務があり、不適合を発見したら直ちに通知しなければ、追完・減額・賠償・解除を主張できません。直ちに発見できないものでも6か月以内に発見したものに限られます。1年あるつもりで年度末にまとめて申し入れると、権利がすでに消えていることがあります。民法の1年(売買は第566条、請負は第637条)が基準になるのは、商人間の売買に当たらない取引と、請負です。なお債権そのものの消滅時効は、知った時から5年、権利行使できる時から10年です。

Q損害賠償の上限を入れてほしいと言うと、交渉が壊れませんか。
A

上限そのものを削ってもらうのが難しくても、損害の範囲を「通常生じる直接損害に限る」と限定する、逸失利益や第三者からの請求を除外する、不適合を通知できる期間を引渡しから1年に区切る、といった代替案は通ることがあります。上限額を委託料総額とする案が拒まれた場合は、「故意または重過失の場合を除き、委託料総額を上限とする」という折衷案が実務上よく使われます。交渉では、上限が必要な理由(自社の規模で負担できる限度を超えると事業継続が困難になり、結果として相手方も供給を失う)を具体的に伝えるほうが通りやすくなります。

Q電子契約に切り替えると印紙税はかからないと聞きました。本当ですか。
A

印紙税の課税対象は課税物件表に掲げられた「文書」であり、電磁的記録は文書に含まれないため、電子データのやりとりで完結する契約に印紙税は課税されません。ただし、電子データを送ったうえで別途、現物の契約書を作成して相手方に交付すれば、その現物は課税文書になります。また電子で締結したデータは電子帳簿保存法の電子取引データとして保存義務があり、改ざん防止措置と「日付・金額・取引先」での検索性が求められます。印紙代の削減だけを目的に導入すると、保存要件で足をすくわれることがあります。

Q契約交渉でこじれたとき、どこに相談できますか。
A

全国47都道府県に設置されている「取引かけこみ寺」(2026年1月1日に「下請かけこみ寺」から改称)で、企業間取引に関する相談に無料で応じています。名称変更後も機能は変わりません。取適法違反が疑われる事案については、公正取引委員会・中小企業庁のほか、2026年1月からは事業所管省庁も委託事業者に対して指導・助言ができるようになりました。個別の契約条項の有利不利や、締結済み契約の解釈をめぐる争いについては、顧問弁護士に相談してください。

出典・調査の対象範囲

  • 公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」リーフレット(2025年8月) — 改正の概要。資料を見る
  • 公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(2025年11月) — 適用基準・支払条件・価格協議の根拠。資料を見る
  • 中小企業庁「『下請Gメン』及び『下請かけこみ寺』の名称変更」(2025年9月) — 相談窓口の改称。公表資料
  • 法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」(2025年3月) — 公表資料
  • e-Gov法令検索 商法第526条、民法第566条・第637条・第166条ほか — 商法/民法
  • 法務省「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(2007年6月) — 指針
  • 国税庁 質疑応答事例・タックスアンサー(No.7102・No.7104)・電子帳簿等保存制度特設サイト — 電子契約の印紙税・保存の扱い。質疑応答事例/No.7102/No.7104/電子帳簿等保存制度特設サイト

※確認の優先順位、外部確認の閾値、自己診断は編集部の整理です。個別の契約条項の判断は弁護士にご確認ください。

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