マーケティング戦略・価格・値上げ

サイゼリヤ6%値上げでビールは値下げ。値上げは守る品から決める

公開 2026.10.17

10月14日、サイゼリヤはメニュー全般を平均6%上げると発表し、ランチ・モーニング・100円のワインは据え置き、ビールは値下げと報じられた。1人約25円しか利益が残らない会社が守ったのは、お客さんが店の高い安いを測る数品の値札だと読める。価格設定は、上げない品を決めるところから始まる。

サイゼリヤが、メニュー全般の値上げを発表しました。その同じ日に、ビールは値下げすると報じられました。

全体を上げる日に、1品だけ下げる。ちぐはぐに見えますが、筋は通っています。

サイゼリヤの国内の事業で、お客さん1人あたりに残る営業利益は約25円です。

看板のミラノ風ドリアの値上げ幅は、税抜で約18円です。1人分の利益の7割にあたる額を、1皿で動かします。

それほど利益の薄い会社が、値上げの中にあえて「上げない品」と「下げる品」を残しました。値上げで先に決めるべきなのは、どれを上げないかです。

10月29日、メニュー全般が上がる。ランチと朝とワインは据え置き

サイゼリヤは10月14日、価格の改定を発表しました。実施は10月29日です。

改定はメニュー全般で、平均6%の値上げです。報道によると、値上げはメニューのおよそ8割に及びます。

看板のミラノ風ドリアは、300円から320円になります。

400円のメニューは、420〜430円になります。

レジャー施設の周辺や都市部の一部24店は、平均10%の改定です。

一方で、値段を変えない品もあります。「フレッシュワイン」と、「ランチ」「モーニング限定メニュー」です。ワインは、グラス1杯100円のままです。

さらに日本経済新聞などによると、ビールは400円から390円に下がります。日経は、客足確保に向けて「価格のメリハリもつける」と伝えています。

図1 同じ日に「上げる・据え置く・下げる」を並べた。サイゼリヤは10月29日から、メニュー全般を平均6%(報道ではおよそ8割の品)上げる。ミラノ風ドリアは300円から320円、400円の品は420〜430円、一部24店は平均10%。フレッシュワイン(グラス100円)、ランチ、モーニング限定メニューは据え置き、ビールは400円から390円に値下げと報じられた

出典:サイゼリヤ「10月29日(木)価格改定のお知らせ」(2026年10月14日)、日本経済新聞(2026年10月14日)、テレ東BIZ(2026年10月15日)をもとに筆者作成。「8割」とビールの価格、「メリハリ」は報道による。グラスワインの価格はサイゼリヤ公式サイトの表示。

メニュー全般の改定は、約6年ぶりです。前回の2020年7月は、税込価格の端数をそろえる調整で、多くの品が小幅に上がりました。テレビ東京は、ほぼ全般に及ぶ大規模な値上げは上場以来初めてだと伝えています。

会社は発表文で、理由を原材料とエネルギーのコスト上昇と説明し、自社の「努力不足」をわびました。一方で松谷秀治社長は記者会見で、「経営方針の転換ではない。供給網強化や品質維持に向けた設備投資のために利益率の確保が必要だ」と説明しています(日本経済新聞)。謝る言葉の裏で、経営としては利益率を取りにいった改定です。

同じ日には、2027年8月期の最高益の見通しも出ていました。翌日、株価は一時14%上がりました。

市場はこの値上げを歓迎したのです。この会社にとって10円がどれほど重いかを知っていたからでしょう。

1人860円のうち、残る利益は約25円。だから10円が重い

サイゼリヤの国内の事業には、この1年で延べ約2億3,640万人のお客さんが来ました。1人あたりの売上(税抜)は、平均860円です。

国内の事業の営業利益は、約60億円でした。1人あたりに割ると、約25円です。

860円のうち、手元に残るのは3%ほどしかありません。

図2 1人860円のうち、利益で残るのは約25円。サイゼリヤ国内の事業では、お客さん1人あたりの売上(税抜)860円のうち、営業利益は約25円で、3%ほどにあたる。客数が同じなら、客単価が10円上がると売上は年に約24億円増え、国内の営業利益約60億円の約4割にあたる

筆者試算。前提:サイゼリヤ「2026年8月期 決算説明会資料」の国内客数(約2億3,640万人)・国内客単価(860円。国内売上高÷国内客数で、税抜)と、「決算短信」の日本セグメントの営業利益(約60億円)による。費用の内訳は営業利益を差し引いた残り。

この薄さで見ると、10円の重みが変わります。客数が同じなら、客単価が10円上がると、売上は年に約24億円増えます。

費用が同じなら、この分はほぼそのまま利益になります。国内の営業利益の、約4割にあたる額です。

日本経済新聞は7月、「客単価10円上げで20億円増益」と報じていました。

この記事の約24億円との差は、客数の違いです。前の期の国内客数(約2億500万人)で計算すると、日経の数字とほぼ同じになります。

それでも、サイゼリヤは長く値段を上げずにきました。4年前と比べると、国内の客数は約1.8倍です。

一方で客単価は、4年で80円しか上がっていません。

図3 4年で客数は1.8倍。客単価は80円しか上がっていない。サイゼリヤ国内の客数は、2022年8月期の約1億2,940万人から2026年8月期の約2億3,640万人へ増えた。客単価は780円から860円への上昇にとどまる

出典:サイゼリヤ「2026年8月期 決算説明会資料」(2026年10月14日)の「客数客単価-国内」をもとに筆者作成。起点の2022年8月期は、まだコロナ禍で客数が戻りきっていない年にあたる。1.8倍には、客足の回復分と新しい店の出店の効果が混ざっている。

値段ではなく、来る人の数で伸びてきた会社です。こういう会社にとって、値上げで一番怖いのは客数が減ることです。全部の値札を同じように上げるわけにはいかない理由は、ここにあります。

そもそも、お客さんは値段をほとんど覚えていない

では、どの値札なら上げてよいのか。手がかりは、お客さんが値段をどう覚えているかにあります。

米国のスーパーで、かごに入れた直後の商品の値段を聞いた研究があります。正しく答えられた人は、半分に届きませんでした。1990年に発表され、この分野で最もよく引かれる研究の1つです。

その代わり、お客さんはよく知っている数品の値段から、店全体が高いか安いかを推し量ります。価格の研究では、こうした品を「道しるべの品(signpost item)」と呼びます。スーパーなら、牛乳やパンがこれにあたります。

図4 お客さんは、知っている数品の値段で店全体を測る。米国のスーパーの研究では、かごに入れた直後の商品の値段を正しく言えた人は半分に届かなかった。お客さんは値段をよく知っている「道しるべの品」を見て、値段をよく知らない品も含めた店全体が割安かを推し量る。テニス用品店ならボール1缶、スーパーなら牛乳やパン

出典:Dickson, P. R. and Sawyer, A. G. (1990) "The Price Knowledge and Search of Supermarket Shoppers," Journal of Marketing、Anderson, E. T. and Simester, D. I. (2008) "Price Cues and Customer Price Knowledge" をもとに筆者作成。「半分未満」は Anderson and Simester (2008) による Dickson and Sawyer (1990) の紹介に基づく。下部の「値上げに当てはめると」は筆者の解釈。

つまり、道しるべの値札が上がると、お客さんは店ごと高くなったと感じやすくなります。値札には、それぞれ役割があるということです。

サイゼリヤが守ったのは「道しるべ」の値札と読める

ここで、1つ謎があります。サイゼリヤでいちばん有名な値札は、ミラノ風ドリアです。そのドリアを、会社は平均より大きく上げました。道しるべを守るなら、逆ではないでしょうか。

先に、残した値札を見ます。ここからは筆者の読みです。

1つ目は、他店と並べて比べられる値札です。ビールは、居酒屋やほかのチェーンと値段を比べやすい品です。ランチやモーニングも、ほかの店の昼や朝と比べられます。日経は、据え置きと値下げをまとめて「価格のメリハリ」と表現しています。比べられる値札だから守った、というのは筆者の解釈です。

2つ目は、店の安さの看板になる値札です。グラス1杯100円のワインは、会社が自社の「提案商品」と呼ぶ品です。

では、ドリアはどうか。上げ幅は約6.7%で、平均より大きめです。値段そのものは、守っていません。

それでも、ドリアは320円です。300円台には収まっています。

値上げ幅の大きい24店でも、ドリアは330円にとどまります。

400円を切ったビールも、300円台になりました。守り方は、値段を動かさないことだけではありません。値段の帯を越えさせないことも、守り方の1つです。

図5 守ったのは、お客さんが店を選ぶときに見る値札と読める。他店と並べて比べられるビールは値下げして300円台に、ランチ・モーニングは据え置き。店の安さの看板になるグラス100円のワインは据え置き。看板のミラノ風ドリアは約6.7%上げたが、300円台という帯は越えていない。それ以外のグランドメニューの多くは平均6%、レジャー施設周辺・都市部の24店は平均10%の値上げ

出典:サイゼリヤ「10月29日(木)価格改定のお知らせ」(2026年10月14日)、日本経済新聞(2026年10月14日)をもとに筆者整理。役割の分け方は筆者の解釈で、会社がこの区分で説明しているわけではない。

一方で、利益を取る側に回ったのが、グランドメニューの多くです。パスタやハンバーグのような一品です。1品ずつの値段を、ドリアやワインほど覚えている人は多くないと筆者は見ています。

場所でも分けています。レジャー施設の周辺や都市部の24店は、平均10%です。

こうした立地には、ふだん通わない人も多いと考えられます。いつもの値段と比べる人が少ない場所だ、と筆者は見ています。ただ、別の説明もありえます。日経は、サイゼリヤが原材料価格に加えて店舗賃料の高騰にも直面していたと伝えています。賃料の高い立地ほど、上げ幅が大きくなるのは自然です。会社は、この24店の理由を示していません。

本質は「何%上げるか」ではありません。客を呼ぶ値札と、利益を取る値札を分けることです。道しるべの値札で店を選んでもらい、それ以外の値札で利益を取る。全品を同じ率で上げるのとは、考え方が違います。

一律で上げる

全品 +5%

計算は簡単です。ただ、お客さんが覚えている値札も一緒に動きます。店ごと高くなったと感じさせやすい上げ方です

役割で分けて上げる

守る品と取る品

比べられる値札は動かさず、看板の値札は値段の帯を越えさせない。上げ幅は、覚えられていない品と、比べる人が少ない場所に寄せます

判断の軸で言えば、これは「仕組みになるか」の話です。一律の率で上げるなら、決めるのは社長の度胸です。役割で分けるなら、どの品をどちらに入れるかという基準が残ります。基準があれば、次の値上げも同じ手順で決められます。

うちの業界は? お客さんが比べる値札はどこにあるか

道しるべの値札は、業種ごとにある程度の傾向があります。

飲食なら、ランチや生ビールです。美容室なら、カット料金です。車の整備なら、車検の基本料金がそうです。どれも、お客さんが他店と並べて比べる値段です。

利益を取る値札は、その横にあります。飲食なら一品料理やデザート、美容室ならトリートメント、整備ならオイルや部品です。

図6 業種ごとに、お客さんが比べやすい値札がある。個人のお客さん向けでは、飲食はランチや生ビール、美容室はカット料金、車の整備は車検の基本料金が道しるべで、一品料理やトリートメント、オイルや部品が利益を取る値札。会社のお客さん向けでは、製造の受託は相見積もりで並ぶ単価、保守やITは月額の基本料、制作会社は1本の制作費が道しるべで、急ぎや小ロット、追加作業、修正の追加が利益を取る値札。会社向けでは右の列が料金になっていないことがある

筆者整理。業種の例は代表的なもので、会社によって異なる。

意外なのは、会社向けの仕事です。道しるべは、相見積もりで横に並べられる行です。製造の受託なら1個の単価、保守なら月額の基本料、制作会社なら1本の制作費です。

ところが、利益を取るはずの行が、そもそも料金になっていないことがあります。急ぎの対応や小ロット、修正の追加を、無料で受けているケースです。これでは、上げ幅を寄せる先がありません。

会社向けの値上げが、本体の単価の交渉だけで行き詰まりやすいのは、このためです。比べられる行だけを上げれば、相手は他社の見積もりと並べて、高いと判断しやすくなります。

あなたの会社では? 値上げ表に「上げない列」を足す

あなたの会社でも、値上げを検討する場面があるかもしれません。その値上げ表には、上げない品の列があるでしょうか。

全品を一律で上げる表だけなら、まず道しるべの品を探します。売上の上位から順に、他店と比べられる品か、来店のきっかけになる品かで印をつけます。

印のついた品は、据え置くか、値段の帯(例:300円台、1,000円以内)を越えない幅に抑えます。残りの品で、上げ幅を割り戻します。

飲食の例では、道しるべの品を据え置き、残りの品の上げ幅を少し大きくします(図7)。ランチを1,000円のまま残しても、客単価は一律に上げたときと同じになります。

図7 同じ5%の値上げでも、ランチを1,000円のまま残せる。客単価2,000円で道しるべの品が売上の3割の飲食店の例。全品を一律5%上げると、ランチは1,000円から1,050円になり客単価は2,100円。道しるべを据え置き、残り7割の品を約7.1%上げても客単価は同じ2,100円。残りの品の上げ幅は、目標の値上げ率を残りの品の売上の割合で割って求める

筆者試算。記入例は架空。客単価はすべてのお客さんの平均で、値上げのあとも注文の中身が変わらない前提。

会社向けの保守なら、月額の基本料が道しるべです。基本料は据え置き、駆けつけや追加作業の単価を見直します。単価がない作業は、まず料金表に載せるところからです。

道しるべの品を残すのは、値上げをやめることではありません。お客さんが店を選ぶ理由を残したまま、利益を取りにいく手順です。

NEXT ACTION / 次にやること

売上上位20品に、道しるべの印をつける

売上の上位20品(会社向けなら見積書の行)を書き出します。他店と比べられる品と、来店や問い合わせのきっかけになる品に印をつけます。印のついた品は、据え置くか、値段の帯を越えない幅に抑えます。目標の値上げ率を、印のない品の売上の割合で割り、上げ幅を出します。

値上げの原資と値段を同じ日に決める考え方は「人手不足倒産240件、過半が人件費。賃上げの日に値段も決める」に、決めた値上げをお客さんの単位で伝える方法は「シャウエッセンが6本から5本に。値上げはお客さんの数え方で伝える」にまとめています。会社向けの取引で、値札の外の負担を見直す話は「給湯器メーカーに取適法で勧告。手形と金型保管、支払条件を見直す」で扱っています。

5問で確認する 値上げの品目の決め方

値上げする品目と、据え置く品目の決め方を確かめる簡易チェックです。

SELF CHECK / 無料・登録不要

5問で確認|値上げの品目の決め方

直近の値上げ、または検討中の値上げを思い浮かべて、いちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。

回答の進捗0 / 5
  1. Q1自社の商品・サービスのうち、お客さんが他店と比べる値札がどれかを言える
  2. Q2値上げ表に、据え置く品目や上げ幅を小さくする品目の列がある
  3. Q3据え置く品目の分を、ほかの品目の上げ幅で割り戻して計算している
  4. Q4急ぎ・追加・小ロットなど、本体の外の作業に料金がついている
  5. Q5値上げのあと、道しるべの品の売れ数と客数を分けて追っている

※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。

出典・調査の対象範囲

  • サイゼリヤ「10月29日(木)価格改定のお知らせ」(2026年10月14日) 原文を見る
  • サイゼリヤ「2026年8月期 決算短信」(2026年10月14日) 原文を見る
  • サイゼリヤ「2026年8月期 決算説明会資料」(2026年10月14日) 原文を見る
  • サイゼリヤ「グラスワイン(120ml)」(公式サイトのメニュー、2026年10月17日確認) 原文を見る
  • 日本経済新聞「サイゼリヤ最高益 27年8月期、ミラノ風ドリアは20円値上げ」(2026年10月14日。松谷社長の発言、店舗賃料の高騰、価格のメリハリ) 原文を見る
  • テレ東BIZ「サイゼリヤ 平均6%値上げ メニュー全般 29日に」(2026年10月15日) 原文を見る
  • 日本経済新聞「『値上げしない』サイゼリヤ、物価高限界 客単価10円上げで20億円増益」(2026年7月28日) 原文を見る
  • 日本経済新聞「サイゼリヤ、ミラノ風ドリア299円→300円 端数ゼロに」(2020年6月) 原文を見る
  • ハフポスト日本版「サイゼリヤ株が一時14%高の急反発。6年ぶりの値上げで『ミラノ風ドリア』20円アップ」(2026年10月15日、Yahoo!ニュース掲載) 原文を見る
  • Dickson, P. R. and Sawyer, A. G. "The Price Knowledge and Search of Supermarket Shoppers," Journal of Marketing, 54(3), 1990 原文を見る
  • Anderson, E. T. and Simester, D. I. "Price Cues and Customer Price Knowledge"(2008年1月) 原文を見る

※価格・店舗数・業績は各社の発表と報道に基づく、執筆時点の情報です。1人あたりの営業利益、客単価10円あたりの売上、値札の役割の整理、業種の例、記入例と自己診断は、考え方を示すための編集部の試算・整理です。

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