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人手不足倒産240件、過半が人件費。賃上げの日に値段も決める
公開 2026.10.05
人手不足倒産が半年で240件と過去最多になった。半分超は、人が来なかった会社ではなく、上がった給料を払いきれなかった会社だ。給料の値段は外で決まるのに、商品の値段を決める手順が社内にない。賃上げ1万円が値段の何%にあたるかまで、図で整理する。

社員10人の給料を月1万円ずつ上げると、会社の負担は年に約138万円増えます。これを値段で取り戻すなら、年商3億円の会社で0.46%の値上げです。
「人手不足」倒産が、半年で240件になりました。半分超は、上がった給料を払いきれなかった会社です。給料は外で決まるのに、値段を決める手順が社内にない。根はそこにあると見ます。
最初に結論:賃上げを決める日に、値段も決める
まず見るべき判断表|値段を誰が決めるかで変わる打ち手
| 値段を決めるのは | 代表的な業界 | 賃上げを決めた月にやること |
|---|---|---|
| 自社(人件費が重い) | 飲食・美容・小売・宿泊 | 賃上げと同じ月に価格表を改める。人の手がかかる品目から見直す |
| 元請け・荷主(人件費が重い) | 建設・運送・警備 | 賃上げの額を根拠に、取引先ごとに単価の協議を申し入れる |
| 国 | 介護 | 処遇改善の加算を取りこぼさず、少ない人数で回す工夫をする |
| 自社(人件費は軽め) | メーカー・ソフトウェア | 値上げの手順(いつ・何を根拠に見直すか)を先に決めておく |
| 取引先との交渉 | 部品製造・卸 | 材料費の交渉に、賃上げ額も載せる |
増えているのは「人が来ない」倒産ではなく、上がった給料を「払えない」倒産です。社員数×1万円×12か月×1.15を年商で割れば、賃上げ1万円が値段の何%にあたるかが出ます。その数字を、賃上げの会議に一緒に持っていってください。
半年で240件、過去最多。半分超は「給料を払えなかった」倒産
東京商工リサーチ(以下、TSR)は10月5日、今年4〜9月の「人手不足」倒産を発表しました。
件数は240件です。この期間の件数としては、調査を始めた2013年以来、最も多くなりました。
中身を分けると、景色が変わります。増えたのは「人件費高騰」による倒産で、前年の1.7倍の130件です。全体の半分超を占めます。TSRはこれを「賃上げ倒産」と呼んでいます。
一方、「人が来ない」「人が辞める」で倒れた会社は、合わせて減りました。TSRの数字から計算すると、131件から110件です。つまり、増えたのは「払えない」倒産のほうだということです。
出典:東京商工リサーチ「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件」(2026年10月5日)をもとに筆者作成。前年の「人件費高騰」(約74件)と、両年の「求人難・従業員退職」の件数は、同記事の件数と増加率から筆者が算出。
倒れた会社の多くは、小さな会社です。資本金1,000万円未満が、全体の約3分の2を占めます。
業種では、飲食や美容などを含む「サービス業他」と、建設業の2つで6割です。TSRは、人手に頼る労働集約型の産業で倒産が目立つと分析しています。
TSR DATA
2026年度上半期(4〜9月)の「人手不足」倒産
240件
人手不足倒産(2013年の調査開始以来、同期間で最多)
1.7倍
人件費高騰による倒産(前年の約74件→130件)
そもそも「人手不足倒産」とは? 入り口は3つある
TSRは、人手の問題が引き金になった倒産を「人手不足」倒産として数えています。対象は、負債1,000万円以上の倒産です。後継ぎの社長がいない「後継者難」の倒産は、ここに含みません。
入り口は3つあります。1つめは「求人難」です。募集しても人が来ず、仕事を回せなくなります。2つめは「従業員退職」です。中心になる社員が辞めて、回らなくなります。
3つめが「人件費高騰」です。人はいます。でも、上がった給料を払いきれずに倒れます。前の2つは「人がいない」倒産で、3つめだけは「人がいる」倒産です。
出典:東京商工リサーチ「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件」(2026年10月5日)の調査方法と件数をもとに筆者作成。
「人手不足」と聞いて思い浮かぶのは、前の2つでしょう。でも、いま増えているのは3つめです。人手不足倒産という名前のまま、中身が入れ替わり始めているということです。
本当に起きていること:給料の値段は外で決まり、商品の値段は社内で止まる
同じ形は、1〜6月の集計にも出ていました。TSRが7月3日に発表した数字では、人件費高騰による倒産が前年の2.4倍でした。TSRはこの結果について、「身の丈(収益力)を超えた無理な賃上げは、資金繰り悪化に拍車を掛けることを示している」と書いています。給料の支払いで資金がいつ苦しくなるかは、資金繰り表を作れば月ごとに先回りして見えます。苦しくなってからの相談の順番は事業再生の判断タイミングで扱っています。
報道の多くは、これを「賃上げ疲れ」や「人手不足の深刻化」として伝えています。けれども、このニュースの本質は、人が足りないことではありません。給料の値段を決める力が会社の外に移ったのに、商品の値段を決める手続きが会社の中にないことです。
給料の値段は、もう社長1人では決められません。最低賃金は、毎年秋から順に上がります。大手が賃上げをすれば、採用の相場も動きます。辞めそうな社員を引き留めるために、上げざるを得ない場面もあります。
商品の値段はどうでしょうか。決めるのは社長1人で、いつ見直すかも決まっていない会社が多いはずです。「お客さんに悪い」「次の機会に」と、先送りされがちです。外で決まるものは毎年上がり、中で決めるものは止まる。その差の分だけ、利益が細っていきます。
筆者の見立てをもとに作成。下段の数字は説明のための例。
成長に効くか、仕組みになるか、人が育つか。この3つの物差しで見ると、これは「仕組みになるか」の問題です。給料には、最低賃金や相場という外の仕組みがついています。商品の値段にも、いつ・何を根拠に見直すかという中の仕組みが要ります。値上げが社長の年1回の勇気に頼っているうちは、毎年上がる給料に追いつけません。
「人が育つか」で見ても同じです。引き留めのための賃上げは、その年は人を残します。でも、払い続けられない賃上げは、最後に職場そのものをなくします。給料を上げることと、上げた給料を払い続けられる値段をつけることは、本来は1つの決断です。払い続けられる賃上げを、等級や評価と一本の線でつなぐ設計は人事制度の見直しでエンゲージメント向上で扱っています。
数字で見ると:賃上げ1万円は「売上460万円」か「値段0.46%」か
社員10人の会社で、全員の給料を月1万円上げるとします。給料の増加は、年120万円です。
これに、会社が払う社会保険料などが約15%乗ります。合わせて、年約138万円です。
取り戻す道は2つあります。1つは、お客さんや数量を増やして、売上を伸ばす道です。でも、増えた売上の多くは、仕入れや外注費に消えます。粗利率(売上から仕入れや外注費を引いて残る割合)が30%なら、残るのは3割です。
138万円を残すには、約460万円の売上増が要ります。
しかも、売る量が増えれば、人手もまた要ります。人が足りなくて給料を上げたのに、さらに人を増やす話になります。
もう1つは、値段を上げる道です。値上げした分は、仕入れも人手も増えません。お客さんや数量が減らなければ、ほぼそのまま利益に残ります。年商3億円の会社なら、値上げ率は0.46%で済みます。
筆者試算。前提:値上げでお客さんや数量が減らない場合。粗利率は、売上から仕入れ・外注費など売上に比例する費用を引いた割合。社会保険料などの会社負担は約15%と置いた(厚生年金・健康保険・雇用保険など。介護保険を除くと約15〜16%)。
売上を増やして取り戻す(粗利率30%)
約460万円
増えた売上の多くは仕入れや外注費に消える。売る量が増えれば、人手もまた要る
値段を上げて取り戻す(年商3億円)
0.46%
値上げ分は仕入れも人手も増えない。138万円の増収で足りる
もちろん、値上げでお客さんが離れることはあります。それでも、3倍以上の売上を積み増し、人手も足すのと、値段を0.5%動かすのとでは、難しさが違います。つまり、賃上げの原資は「もっと売る」より「値段を見直す」ほうが、近くにあるということです。
うちの業界は? 値段を「誰が」決めるかで、打ち手が変わる
同じ賃上げでも、業界によって効き方が違います。分かれ目は2つです。1つは、売上に占める人件費がどれだけ重いか。もう1つは、値段を自社で決められるか、取引先や国が決めるかです。
意外なのは、値段を自社で決められる業界でも、倒産が増えていることです。TSRによると、飲食業の人手不足倒産は、1〜6月で前年の2.2倍になりました。
飲食や美容、小売は、メニューや料金を自分で書き換えられます。それでもTSRは、客数が減るのを心配して値上げしにくい実態を指摘しています。決める力はあるのに、動かせない。足りないのは、いつ・どの品目から動かすかを決めておく段取りのほうかもしれません。どの品目や部門で利益が残っているかを先に見ておくと、動かす順番が決めやすくなります。その出し方は部門別損益の作り方で扱っています。
建設や運送、警備のように、値段を元請けや荷主が握る業界もあります。こうした業界では、賃上げの額を根拠に、取引先へ値段の協議を申し入れることが打ち手になります。介護のように国が料金を決める業界では、値上げそのものができません。処遇改善の加算を取りこぼさないことと、少ない人数で回す工夫が中心になります。
筆者整理。業種の置き場所は代表的な例で、会社によって異なる。飲食業の件数は東京商工リサーチ「2026年上半期『飲食業』倒産 過去最多の509件」、建設業の件数は同「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件」による。
5問で確認する 賃上げと値段を一緒に決める準備度
賃上げのたびに利益が細る形になっていないかを確かめる簡易チェックです。
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5問で確認|賃上げと値段を一緒に決める準備度
直近1年の賃上げと値段の見直しを思い浮かべて選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。
※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
あなたの会社では? 賃上げを決める日に、値段も決める
給料は「春に」「最低賃金が上がる秋に」と、上げる時期が決まっている。なのに値段は「そのうち」になっている。あなたの会社がそうなら、このニュースと同じ形を抱えています。打ち手は、賃上げと値段の見直しを、同じ日に、同じ会議で決めることです。
取引先に納める会社なら(製造や修理の受託、IT・Web制作の受託、運送など)、賃上げを決めた月に、取引先ごとに単価の協議を申し入れます。2026年1月から、下請法は「取適法」に変わりました。取引の内容や会社の規模が条件にあてはまれば、受注側が協議を求めたのに、発注側が応じずに代金を一方的に決めることは禁止です。据え置くことも、この「決める」に含まれます。賃上げの額は、協議の根拠としてそのまま使えます。なお、建設工事の下請は取適法ではなく、建設業法のルールで扱われます。
協議を申し入れるときに根拠として使える公表資料と見積書の様式は「営業ヒアリングの技術」に、取適法で実際に勧告が出た例は「給湯器メーカーに取適法で勧告。手形と金型保管、支払条件を見直す」にまとめています。
お店で個人のお客さんに売る会社なら(飲食・美容・小売など)、賃上げと同じ月に価格表を改めます。全品一律でなくてかまいません。人の手がかかる品目やサービスから見直すと、お客さんにも説明しやすくなります。
明日やるなら、「月1万円の賃上げは、うちの値段の何%か」を計算してみてください。社員数×1万円×12か月×1.15を、年商で割るだけです。この%が、次の賃上げを決める会議に、一緒に持っていく数字になります。
筆者試算。前提:値上げでお客さんや数量が減らない場合。1万円を上げる人数は、実際に上げる人の数で計算する。
NEXT ACTION / 次にやること
「月1万円の賃上げは、うちの値段の何%か」を計算する
社員数×1万円×12か月×1.15を、年商で割るだけです。社員10人・年商3億円なら0.46%。この%を、次の賃上げを決める会議に一緒に持っていってください。
秋に上がる最低賃金が、パートの時給と働く時間にどう効くかは「最低賃金1,177円、106万円の壁撤廃。パート雇用はどう変わる」で扱っています。
出典・調査の対象範囲
- 東京商工リサーチ「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件 深刻な“賃上げ疲れ”、『賃上げ倒産』が1.7倍に増加」(2026年10月5日) — 負債1,000万円以上の倒産が対象。後継者難による倒産は含みません。
- 東京商工リサーチ「過去最多の237件 『人件費高騰』が2.4倍増の120件、賃上げが重荷に」(2026年7月3日) — 1〜6月の集計。
- 東京商工リサーチ「2026年上半期『飲食業』倒産 過去最多の509件 居酒屋倒産が初の100件超、人手不足・物価高が課題」(2026年7月8日)
- 公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」・公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月) — 協議に応じない一方的な代金決定の禁止。適用は取引の内容や会社の規模によります。
※賃上げ1万円あたりの値上げ率は、値上げでお客さんや数量が減らない場合の筆者試算です(社会保険料などの会社負担は約15%と置いています)。業界別の打ち手は代表的な例で、会社によって異なります。



