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最低賃金1,177円、106万円の壁撤廃。パート雇用はどう変わる
公開 2026.09.24
10月1日、最低賃金の引き上げと「106万円の壁」の撤廃が同時に始まる。東京の最低賃金で週20時間働くと、年収は約133万円。扶養の130万円と社会保険の週20時間が重なった。最低賃金とは何か、壁とは何かから図で解説し、会社がパートの働く時間をどう決めるかまで整理する。

東京で、最低賃金で働くパートが週20時間働くとします。年収は約133万円です。家族の扶養から外れる「130万円」を、もう超えてしまいます。10年前は、全国平均の最低賃金なら週30時間働いても届かなかった線です。
10月1日から、最低賃金が上がります。同じ日に、パートの社会保険のルールも変わります。この2つが重なると、パートを雇う会社の仕事が1つ増えます。
最初に結論:パートの働く時間は、雇うときの契約で会社が決める
まず見るべき判断表|自社の状況から考える10月の打ち手
| 自社の状況 | 最初に検討すること |
|---|---|
| 厚生年金の加入者が51人以上 | 週20時間以上のパートは年収に関係なく社会保険に入る。雇うときの契約で働く時間を決め、社会保険に入る人と週20時間未満の人を書面で分ける |
| 厚生年金の加入者が50人以下 | 今回はすぐには効かないが、2027年10月から対象が広がる。扶養の範囲で働きたい人と、壁を越えて長く働きたい人を今のうちに聞き分ける |
| 最低賃金のすぐ上で働くベテランがいる | 新人との時給の差が縮む。一番低い時給と、そのすぐ上の人の差を並べて説明できる形にする |
| 労働条件通知書の時間が「シフトによる」 | 「週◯時間」をはっきり書く。書いてあれば扶養の判定で本人を迷わせない |
| 時給の引き上げと設備投資をセットで考えている | 業務改善助成金(最大600万円)の申請期限を管轄の労働局に確認する |
本当に変わるのは人件費の額より、パートが週何時間働くかを決めるのが「本人」から「会社」に移ることです。社会保険も扶養も、雇うときの契約でほぼ決まるようになりました。
10月1日、何が変わる? パートのルールが3つ同時に動く
変わるのは3つです。
1つめは、最低賃金です。全国平均で1,177円になる見込みで、前の年より56円上がります。
2つめは、社会保険です。これまでパートは、月8.8万円(年収にして約106万円)以上だと社会保険に入る決まりでした。この「106万円の壁」がなくなります。これからは、週20時間以上働くかどうかで決まります。
3つめは、正社員との待遇の差の説明です。パートを雇うとき、「正社員との差について説明を求めてよい」と伝えることが会社の義務になります。
出典:厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(2026年9月3日)、官報(2026年9月11日、令和8年政令第275号)、栃木労働局「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」をもとに筆者作成。最低賃金の発効日は予定。
最低賃金は、10月1日に東京・大阪・愛知など15都道府県から始まります。残りの県も、12月2日の沖縄まで順に上がっていきます。つまり、秋から冬にかけて、全国のパートの時給と社会保険の決まり方が一度に変わるということです。
そもそも最低賃金って何? 「これより安く雇ってはいけない」時給の線
最低賃金は、会社が払わなければいけない時給の下限です。正社員だけでなく、パートにもアルバイトにも派遣社員にも効きます。
もし最低賃金より安い時給で約束しても、その約束は無効です。最低賃金で約束したことになります。守らなければ、50万円以下の罰金もあります。
出典:厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」、「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(2026年9月3日)をもとに筆者作成。
金額は、毎年2段階で決まります。まず7月に、国の審議会が「今年はこれくらい上げよう」という目安を出します。今年の目安は54円か56円でした。次に、都道府県ごとの審議会が、地域の事情を見て金額を決めます。今年は33府県が、目安より多く上げました。一番上げたのは佐賀で、65円です。
そして、この上げ幅が毎年のように大きくなっています。
出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」各年度、「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(2026年9月3日)をもとに筆者作成。2026年度は答申額。
全国平均は、10年前の823円から1,177円になりました。4割以上の値上がりです。政府は、2030年代の前半のできるだけ早い時期に、全国平均1,500円を目指すとしています。つまり、最低賃金は「たまに上がるもの」ではなく、「毎年大きく上がるもの」だと考えておく必要があります。
そもそも「年収の壁」って何? 越えると手取りや負担が変わる線
パートの話でよく出てくるのが「壁」という言葉です。壁とは、年収や働く時間がその線を越えると、手取りや負担が変わる線のことです。
たとえば、夫や妻の扶養に入って働いているパートがいるとします。年収が一定の額を超えると、扶養から外れます。すると、自分で健康保険や年金の保険料を払うことになります。そのぶん手取りが減るので、線の手前で働く時間を抑える人が出てきます。これが「壁」と呼ばれる理由です。
主な壁は3つあります。
出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」、財務省「令和8年度税制改正の大綱」、厚生労働省 事務連絡(2026年3月9日)をもとに筆者作成。週20時間の線は、厚生年金の加入者が51人以上の会社など。178万円は2026・2027年分の特例を含む水準。住民税がかかり始める線は自治体によって異なる。
1つめは、週20時間の壁です。これを越えると、勤め先の健康保険と厚生年金に入ります。これまでは「月8.8万円以上」という条件もあり、年収にすると約106万円でした。10月からはこの年収の条件がなくなり、働く時間だけで決まります。これが「106万円の壁の撤廃」です。
2つめは、130万円の壁です。これを越えると、家族の扶養から外れ、自分で保険料を払います。こちらは10月以降も残ります(配偶者以外の19〜22歳は150万円)。
3つめは、178万円の壁です。これを越えると、本人に所得税がかかり始めます。こちらは160万円から178万円に上がりました。
つまり、税の壁は上がって「もっと働ける」ようになった一方で、保険の壁は残り、しかも「時間」で決まるようになった、ということです。
時給が上がると何が起きる? 同じ時間でも、壁に早くぶつかる
ここからが、このニュースのおもしろいところです。
時給が上がると、同じ時間を働いても年収が増えます。うれしい話に聞こえます。でも、扶養の範囲で働きたいパートにとっては、壁に早くぶつかるということです。
最低賃金で働く人が、130万円に届くのは週何時間か。計算してみると、こうなります。
筆者試算。130万円 ÷ 最低賃金 ÷ 52週。最低賃金は厚生労働省公表の各年度額(2026年度は答申額)。
ESTIMATE
最低賃金で働く人が、年収130万円に届く週の労働時間
10年前の全国平均なら、週30時間ほど働けました。今年の全国平均では週21時間です。東京では、週19.5時間で130万円に届きます。
ここで、さっきの週20時間の壁を思い出してください。東京では、2つの壁がほぼ同じ場所に来ています。
筆者試算。130万円 ÷ 最低賃金 ÷ 52週。週20時間の線は、厚生年金の加入者が51人以上の会社など。
東京の最低賃金で週20時間働くと、年収は約133万円です。社会保険に入る線と、扶養から外れる線を、ほぼ同時に越えます。扶養の範囲にとどまり、社会保険にも入らずに働けるのは、週19.5時間までです。
実は、最低賃金で週20時間働けば、いまでも月8.8万円は超えます。つまり、社会保険の線は前から実質的に週20時間にありました。10月の撤廃は、それを制度としてはっきりさせたものです。
本当に変わるのは? パートの働く時間を決めるのが「会社」になる
報道の多くは、最低賃金がいくら上がるか、人件費がいくら増えるかを伝えています。けれども、会社にとって大きいのは別のところです。パートが週何時間働くかを、本人任せではなく、会社が決める必要が出てきたことです。
これまでの職場を思い出してみてください。パート本人が年収の壁を見ながら、出勤を調整していました。会社は、それに合わせてシフトを組むしかありませんでした。年末が近づくと「今年はもう入れません」という声が増え、忙しい時期に人が足りなくなる。毎年のことなので、あきらめている社長も多いはずです。
時給が上がるほど、この調整は早く始まります。10月に入った時点で壁が見えてしまう人も出てきます。
筆者作成。週20時間の加入ラインは、厚生年金の加入者が51人以上の会社などが対象。
もう1つ大事な変化があります。壁の判定が「実際に稼いだ額」から「契約の中身」に移ってきたことです。
社会保険の週20時間は、原則として契約で決めた働く時間で判定されます。130万円の扶養の判定も、2026年4月から変わりました。給料だけで暮らしている人は、雇うときの書面(労働条件通知書)に書かれた時給・時間・日数から、年収を見込んで判定します。書面にない残業代は、原則として含めません(いつも大きく超えている場合は見直されることがあります)。
ただし、「シフトによる」のように時間があいまいな書面だと、この判定は使えません。これまでどおり、給与明細などで見込むことになります。募集や雇い入れのときに、仕事の内容や働く場所など、法律で示すよう決まっている項目は「中小企業の採用ブランディング」で整理しています。
つまり、社会保険も扶養も、雇うときの契約でほぼ決まるようになった、ということです。年末になってから出勤を減らすのではありません。誰に週何時間働いてもらうのか。誰には社会保険に入って長く働いてもらうのか。それを、雇う時点で会社が決めておく時代になりました。
見落としがち:ベテランとの時給の差が縮む
もう1つ、見落とされやすい話があります。最低賃金のすぐ上で働いている人たちのことです。
新人のパートの時給は、最低賃金に合わせて上がります。一方で、何年も働いているベテランの時給は、そのままになりがちです。すると、2人の差が縮みます。
筆者の例(東京の最低賃金は2025年度1,226円、2026年度1,280円)。調査は、労働政策研究・研修機構 ビジネス・レーバー・トレンド 2026年5月号による。
東京の例で見てみます。ベテランの時給が1,300円、新人が最低賃金の1,226円なら、差は74円でした。10月から新人が1,280円になると、差は20円です。何年も働いてきた経験の差が、ほとんど時給に表れなくなります。
2025年度|ベテラン1,300円と新人1,226円の差
74円
東京の最低賃金で働く新人との差
2026年度|ベテラン据え置きで新人1,280円
20円
経験の差が、ほとんど時給に表れなくなる
これは、実際に多くの会社が悩んでいることです。日本商工会議所と東京商工会議所の調査(2026年2月)では、最低賃金の大幅な引き上げが続いた場合の影響として、25.2%の企業が「他の従業員の賃上げ抑制、一時金等の削減」を挙げています。
差が縮んだまま放っておくと、辞めてほしくない人から辞めていきます。しかも10月からは、「正社員との差について説明を求めてよい」と雇うときに伝える義務も加わります。つまり、時給の差を「なんとなく」で決めていると、説明できずに困る場面が増えるということです。
うちの業界は? 同じ最低賃金でも、痛む場所が違う
最低賃金が上がると、すべての業界に影響があります。ただ、パートやアルバイトの多い業界ほど、影響は大きくなります。そして、痛む場所は業界ごとに違います。
筆者整理。
小売や飲食では、年末のシフトに効きます。扶養の範囲で働くパートが年末に出勤を減らすと、書き入れ時に人が足りなくなります。秋のうちに、年末に出勤を減らしそうな人の数を見込んでおくことが大切です。
介護や医療では、値段に乗せられないことが痛みになります。料金は国の報酬で決まるので、人件費が上がっても自分で値上げできません。処遇改善の加算を取りこぼしていないか確かめ、人の配置を見直して吸収することになります。
物流、倉庫、食品工場では、原価に効きます。短い時間の軽作業が多く、時給の上昇がそのまま原価に乗ります。取引先と単価を話すとき、最低賃金の上げ幅と発効日が、交渉の根拠になります。公表資料を使った値上げの頼み方は「営業ヒアリングの技術」で扱っています。
意外なのが、建設や専門サービス、ITです。本業の人の給料は最低賃金よりずっと高いので、関係ないと思いがちです。ところが、事務や補助のパートの時給が上がると、若手社員の給料を時給に直した額に追いつくことがあります。本業では関係なくても、社内の「逆転」で効くのです。一番低い時給と、そのすぐ上の人の差を一度並べてみてください。
うちの会社は何をすればいい? 「厚生年金の加入者51人」で分かれる
まず確かめたいのは、10月の社会保険の変更が、自社にすぐ効くかどうかです。分かれ目は「厚生年金に入っている人が51人以上か」です。ここでは、パートなど短い時間で加入している人は数えません。従業員が60人いても、パートが多ければ50人以下ということもあります。
出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」「保険料調整制度とは」をもとに筆者作成。労使の合意で任意に適用している事業所も、51人以上と同じ扱い。
51人以上の会社なら、週20時間以上で雇っているパートは、年収に関係なく社会保険に入ります。だから、雇うときの契約で働く時間を決めておきます。社会保険に入って長く働いてもらう人。週20時間未満で働いてもらう人。この2つを、書面の段階で分けておきます。社会保険に入る人には、手取りがどう変わるかを先に見せておくと、「入るくらいなら時間を減らしたい」という判断を減らせます。
50人以下の会社なら、今回の変更はすぐには効きません。ただし、この人数の条件は2027年10月から段階的に下がっていきます。130万円の壁も、時給が上がるたびに近づきます。今のうちに、扶養の範囲で働きたい人と、壁を越えて長く働きたい人を聞き分けておくと、あとで慌てずに済みます。
なお、新たに対象になった会社では「保険料調整制度」も使えます。加入するパートの保険料の本人負担の一部を、会社が通算3年間まで上乗せして負担し、その分を後の保険料から差し引く仕組みです(標準報酬月額12.6万円以下の人が対象など、条件があります)。つまり、どちらの会社でも、10月までに「誰に何時間働いてもらうか」を会社として決めておくことが出発点になります。
5問で確認する 10月のパート雇用の準備度
最低賃金と社会保険の変更に、自社がどこまで備えられているかを確かめる簡易チェックです。
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5問で確認|10月のパート雇用の準備度
パートやアルバイトを雇っている前提で、いまの状態にいちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。
※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
明日やること:パート全員の「年収の見込み」を1枚にする
どちらの会社でも、最初の一手は同じです。パート一人ひとりの年収の見込みを、1枚の表にします。
筆者試算。時給 × 週の時間 × 52週。厚生年金の加入者が51人以上の会社の場合。
計算は簡単です。新しい時給に、週の働く時間と52週を掛けるだけです。そのうえで、130万円と週20時間の線の近くにいる人に印をつけます。印がついた人が、年末のシフトの穴と、手取りの相談が起きる場所です。秋のうちに本人と話しておきましょう。
あわせて、雇うときの書面(労働条件通知書)に「週◯時間」がはっきり書いてあるかも確かめてください。書いてあれば、扶養の判定で本人を迷わせずに済みます。
最後に、国の助成金の話です。時給の引き上げと、仕事を効率よくするための設備投資をセットで行うと、「業務改善助成金」(最大600万円)が使える場合があります。ただし、申請の期限は各都道府県の最低賃金が上がる日の前日(または11月30日の早いほう)です。10月1日に上がる15都道府県では、9月30日が期限で、もうすぐです。事業場で一番低い時給を50円以上上げることなど、細かい条件があるので、管轄の労働局に確認してください。助成金と補助金の違いや、公式サイトでの探し方は「補助金・助成金の探し方」にまとめています。
NEXT ACTION / 次にやること
新しい時給で、パート全員の年収の見込みを1枚の表にする
時給×週の時間×52週で計算し、130万円と週20時間の線の近くにいる人に印をつけます。印がついた人と、秋のうちに働く時間を話しておきましょう。
賃金テーブルの下限の置き方や、パートと正社員の待遇差の説明の仕方は「人事制度の見直しでエンゲージメント向上」に、上がった人件費を値段に載せる考え方は「人手不足倒産240件、過半が人件費。賃上げの日に値段も決める」にまとめています。
出典・調査の対象範囲
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(2026年9月3日)および別紙「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」 — 原文を読む
- 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」 — 原文を読む
- 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」 — 原文を読む
- 官報(2026年9月11日)令和8年政令第275号 — 原文を読む
- 日本年金機構 特設サイト「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大」 — 原文を読む
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」 — 原文を読む
- 日本年金機構「保険料調整制度とは」 — 原文を読む
- 日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」 — 原文を読む
- 厚生労働省 事務連絡「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いに係るQ&A(第2版)」(2026年3月9日) — 原文を読む
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」 — 原文を読む
- 栃木労働局「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」 — 原文を読む
- 厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」 — 原文を読む
- 労働政策研究・研修機構 ビジネス・レーバー・トレンド 2026年5月号(日本商工会議所・東京商工会議所の最低賃金の影響に関する調査の紹介記事) — 原文を読む
※最低賃金の額と発効日は答申・官報にもとづく予定で、130万円に届く時間や年収の見込みは編集部の試算です。社会保険・扶養の個別の判定は、日本年金機構や加入する健康保険組合に確認してください。



