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人事制度の見直しでエンゲージメント向上 等級・評価・報酬を一本の線でつなぐ設計手順

公開 2026.09.08

人事制度を見直す順番を、等級・評価・報酬のつながりから解説。期待役割の定義、評価者が少ない会社の運用、昇給原資、社員への説明、エンゲージメントの測り方を整理します。

人事制度の納得感は、等級・評価・報酬の3つが一本の線でつながっているかどうかで決まります。
  • 賃金の決定・計算・支払の方法と昇給に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法89条2号)。制度を「作る」より前に「書いて届け出る」義務があり、書けない制度は運用もできない
  • 同一労働同一賃金ガイドラインは2026年(令和8年)10月1日から改正版が適用。待遇差の理由について「将来の役割期待が異なる」といった主観的または抽象的な説明では足りないと明記された。等級定義の曖昧さは、そのまま法的リスクになる
  • 令和8年度の地域別最低賃金は全国加重平均1,177円(56円引上げ)。これは答申額で、2026年10月1日から12月2日までに順次発効する(現行は令和7年度の1,121円)。賃金テーブルの下限は毎年動く前提で設計する

「評価しても、結局は社長の裁量で決まっている」と社員に思われている状態は、制度の不備というより設計の順序を誤った結果です。等級で期待役割を定義しないまま評価表だけを作れば、評価は印象に流れ、報酬への反映は説明できなくなります。本稿では、制度が形骸化する構造的な理由から始めて、等級の作り方と中小企業に適した段数、評価者が1〜2人しかいない会社での評価運用、昇給原資の決め方と賃上げ促進税制などの公的な後押し、設計上外せない法令の制約、そしてエンゲージメントを公的統計と突き合わせて測る方法までを、一次情報の数値で順に整理します。

最初に結論:見直しで「決めること」と「必ず守ること」

先に全体像を示します。上段は経営者が決めなければ前に進まない項目、下段は決め方の自由度が法令で縛られている項目です。

まず見るべき判断表|等級・評価・報酬と法令の論点

区分決めること/守ること判断のポイント
決める(等級)等級の段数運用できる数に絞る。国のキャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)は正社員・有期雇用それぞれ「3区分以上」を要件としており、下限の目安になる
決める(等級)各等級の期待役割の書き方「高い専門性」ではなく「不具合の原因を特定し是正処置を立案している」のように行動で書く。厚生労働省の職業能力評価基準が業種別の文例になる
決める(評価)評価項目の数と評価者評価者が1〜2人しかいないなら、項目を絞り、期初の目標合意と期末のフィードバックに時間を寄せる
決める(報酬)昇給原資の総額と配分原資を先に決めてから配分する。令和7年の1人平均賃金改定率は全体4.4%、100〜299人規模で3.6%
決める(報酬)賞与の算定ルール業績連動なら「何の業績に、どの比率で」を先に決める。決めていないと評価と賞与が別物になる
守る(法令)最低賃金令和8年度の全国加重平均は1,177円(答申額。2026年10月1日以降順次発効。現行は令和7年度の1,121円)。最低賃金法4条1項に違反すると地域別最低賃金では50万円以下の罰金
守る(法令)同一労働同一賃金パート・有期雇用労働法8条・9条。2026年10月1日から改正ガイドラインが適用され、退職手当・家族手当・住宅手当・褒賞などの記載が追加された
守る(法令)待遇差の説明義務同法14条2項。求めがあれば待遇差の内容・理由を説明する義務があり、説明を求めたことを理由とする不利益取扱いは禁止(同条3項)
守る(法令)就業規則の記載と手続労基法89条2号で昇給に関する事項は絶対的必要記載事項。90条で過半数代表者等の意見聴取と意見書の添付が必要
守る(法令)不利益変更労働契約法9条・10条。既存の処遇を下げる方向の変更は、合意か変更の合理性が要る

納得感は、等級・評価・報酬が一本の線でつながっているかで決まります。等級で期待役割を行動の言葉で定義し、それを評価の物差しにし、原資を先に決めてから報酬に配分する。この順序を崩さないことが出発点です。

この表の使い方は単純です。上段は決めなければ何も動かず、下段は決め方を間違えると後から巻き戻せません。そして下段の法令は、実は上段を決めるための材料でもあります。たとえば「待遇差の内容と理由を説明できるか」という法令上の要請は、そのまま「自社の等級定義は他人に説明できる言葉で書かれているか」というチェックリストになります。

制度が形骸化する構造:3つが別々に作られている

形骸化した制度には共通の症状があります。評価シートは毎年配られるが面談は数分で終わる、昇給額が実質一律で成果を出した人ほど不公平感を抱く、役職の役割定義がなく在籍年数で自然に昇格する、中途入社者の給与が高い理由を誰も説明できない。これらはばらばらの問題に見えて、原因は一つです。等級・評価・報酬が別々のタイミングに別々の目的で作られ、つながっていないことにあります。

この「つながっていない状態」がなぜまずいのかを、法令の側から見ると輪郭がはっきりします。同一労働同一賃金ガイドライン(平成30年厚生労働省告示第430号。令和8年4月28日厚生労働省告示第203号により改正)は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に基本給や賞与の相違がある場合、その要因が待遇の決定基準・ルールの相違にあるときであっても、「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、待遇の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りず、客観的及び具体的な実態に照らして不合理と認められるものであってはならないとしています(出典:厚生労働省改正後の同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)第2の⑵、令和8年10月1日適用)。

同じ指針は第1の目的で、事業主が最初にやるべきことを次のように書いています。「まずは、各事業主において、職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化するとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者を含む労使の話合いによって確認し、(中略)共有することが肝要である」。職務と能力の中身を明確にし、それと賃金の関係を体系として示す。これは正社員と非正規社員の間の話として書かれていますが、正社員同士の等級・評価・報酬にそのまま当てはまる要請です。

実態としても、昇給を評価で決めている企業は多数派です。厚生労働省の調査によると、令和7年に定期昇給制度が「あり」と答えた企業は81.2%(従業員100〜299人規模では78.7%)で、その内容は「自動昇給」が27.5%、「その他(業績評価など)」が72.4%でした(複数回答)。つまり、大半の会社はすでに「評価で昇給を決める」と宣言しているわけです。宣言しているのに評価の中身が説明できないなら、そこで納得感が失われます(出典:厚生労働省令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況第3表、2025年10月14日公表。常用労働者100人以上の企業が対象)。

❌ 評価制度が古いという指摘を受けたので、まず評価シートを新しくして項目を最新の言葉に入れ替える ⭕ 評価シートに触る前に、各等級で何ができている状態を期待するのかを1ページで書き、そこから評価項目を導く

順序を逆にすると、評価項目は「協調性」「積極性」のような、誰にも反証できない言葉で埋まります。反証できない項目は、評価者が変われば結果が変わり、変わった理由を説明できません。

等級制度:期待役割は「行動」で書き、段数は運用できる数に

等級制度は、社員を格付けするための道具ではなく、会社が期待する行動を宣言するための道具です。ここが曖昧なまま評価や報酬を動かすと、すべてが社長の裁量に見えます。

書き方の型を自前で発明する必要はありません。厚生労働省の職業能力評価基準は、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を業種別・職種別に整理した公的なツールで、業種横断的な事務系職種のほか、ものづくりからサービス業まで56業種が整備されています。人材育成、採用、人事評価などの場面で活用でき、各企業でカスタマイズして使うことが想定されています(出典:厚生労働省職業能力評価基準について、2026年9月閲覧)。

レベル区分の考え方も参考になります。職業能力評価基準は、会社において期待される責任・役割の範囲と難易度により4つの能力段階(レベル区分)を設定し、新入社員・担当者相当から部長・部門長までをレベル1からレベル4に区分しています。事務系職種の例では、レベル1がスタッフ、レベル2がシニア・スタッフ、レベル3がスペシャリストまたはマネジャー、レベル4がシニア・スペシャリストまたはシニア・マネジャーです。さらにキャリアマップは、このレベル1〜4をもとに能力開発の標準的な道筋と各レベルの習熟の目安年数を示したもので、職業能力評価基準の「レベル」と自社の資格等級制度をもとに、時間軸上に展開することで自社版を作れるとされています(出典:厚生労働省職業能力評価基準導入マニュアル、および同省キャリアマップについて、2026年9月閲覧)。

段数は何段が妥当か

段数に法令上の正解はありませんが、公的制度が要件として置いている下限は参考になります。厚生労働省のキャリアアップ助成金「賃金規定等共通化コース」は、正社員と共通の職務等に応じた賃金規定等を新たに作成した事業主に中小企業60万円(大企業45万円)を1事業所1回助成する制度ですが、その要件として、賃金規定等の区分を有期雇用労働者等と正規雇用労働者についてそれぞれ3区分以上設け、うち共通する区分を2区分以上設けていることを求めています。ここでいう「区分」とは等級(等級の下に号俸が存在する場合は号俸)などを指します(出典:厚生労働省キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)、令和8年4月8日現在)。

上限の目安を考えるうえでは、賃金の実額差を見るのが早道です。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によると、一般労働者のうち雇用期間の定めのない者の賃金は、部長級635.8千円、課長級529.2千円、係長級399.2千円、非役職者310.5千円でした。非役職者を100とした役職・非役職間賃金格差は、部長級204.8、課長級170.4、係長級128.6です。平均勤続年数は部長級22.6年、課長級20.9年、係長級17.5年、非役職者10.8年でした(出典:厚生労働省令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(役職別)第8表、2026年3月24日公表)。

役職賃金(千円)非役職者=100とした格差平均年齢平均勤続年数
部長級635.8204.853.1歳22.6年
課長級529.2170.449.5歳20.9年
係長級399.2128.645.4歳17.5年
非役職者310.5100.041.8歳10.8年

(出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」第8表。一般労働者のうち雇用期間の定めのない者。賃金は所定内給与額の月額)

ここで注意が要ります。この4区分は同調査が用意した役職の分類であって、企業の等級段数を測ったものではありません。調査は「役職者を『部長級』『課長級』『係長級』等の階級に区分し、役職者以外の者を『非役職者』としている」と定義しており、等級が3段の会社も8段の会社も、この4区分に丸め込まれて集計されます。ここから読み取れるのは段数ではなく段差です。

その段差は2つのことを示します。第一に、役職1段の差はおおむね1.2〜1.35倍であること。係長級と非役職者の差が1.29倍、課長級と係長級の差が1.33倍、部長級と課長級の差が1.20倍です。第二に、段の間には勤続年数の開きがあり、その幅は上に行くほど縮まること。非役職者10.8年と係長級17.5年では6.7年開きますが、課長級20.9年と部長級22.6年では1.7年です。等級の数は、隣り合う等級の期待役割の違いを経営者が口頭で説明できる範囲まで、というのが編集部の目安です。段数が増えるほど、この説明は難しくなります。

なお、企業規模による賃金水準の差も押さえておくべきです。同じ調査では、企業規模別の賃金は大企業385.1千円、中企業326.2千円、小企業305.6千円で、大企業を100とした格差は中企業84.7、小企業79.4でした。ここでの区分は常用労働者1,000人以上が大企業、100〜999人が中企業、10〜99人が小企業です(出典:厚生労働省令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(企業規模別)第4表)。全国平均をそのまま自社の等級別賃金レンジに転記すると、原資が破綻します。使うのは水準ではなく段差の比率です。

評価の運用:評価者が1〜2人しかいない会社の現実解

中小企業では、評価者が社長と役員1名、あるいは部門長を入れても数名という会社が珍しくありません。評価者訓練で目線を揃えるという大企業の定石は、そもそも揃える相手がいないため成立しません。ここでの現実解は、評価者を増やすのではなく、評価の材料を先に固定することです。

具体的には、期初の目標合意に時間を寄せます。期初に上司と本人が、その期に何ができている状態を目指すのかを合意し、文章に残す。期末に評価するのは、この文章に対する結果だけにする。こうすると、評価者が1人でも「そのとき何を約束したか」という外部の基準が残るため、印象評価に流れにくくなります。

材料としては、職業能力評価シートの使い方が参考になります。これは職業能力評価基準で定められている基準を簡略化したチェック形式の評価シートで、厚生労働省は使い方をこう説明しています。「本人と上司がそれぞれチェックしてみると、両者の間に認識の違いが生じる場合があります」「このような認識の違いを本人へ伝えること=フィードバック(面談)を通じて、本人に気付きを与え、成長へ向けた行動改善や自己啓発を促すきっかけにすることができます」。さらに、結果を集計することで組織全体の育成課題を洗い出すことも可能だとしています(出典:厚生労働省職業能力評価シートについて、2026年9月閲覧)。

評価の目的を「点数をつけること」から「認識の差を見つけること」に置き換える。これが評価者の少ない会社で効く転換です。点数の精度を上げようとすれば評価者の人数と訓練が必要になりますが、認識の差を見つけるだけなら、本人と上司の2人で足ります。

もう一つ、法令が用意している「説明できる形」の型を借りる手があります。パート・有期雇用労働法14条2項は、事業主に対し、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、通常の労働者との待遇の相違の内容および理由、ならびに待遇の決定に当たって考慮した事項を説明する義務を課しています。同条3項は、説明を求めたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁止しています(出典:e-Gov法令検索短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律、2026年9月時点)。

2026年10月1日施行の改正では、この説明の方法についても指針で整理されました。事業主は「資料を活用し、口頭により説明する方法」または「説明すべき事項を全て記載した分かりやすい内容の資料を交付する等の方法」のいずれかにより説明することとされ、口頭で説明する場合には説明に活用した資料等を交付することが望ましいとされています(出典:厚生労働省パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)、令和8年4月作成)。

❌ 評価結果は口頭で伝え、点数や順位は「余計な軋轢を生むから」開示しない ⭕ 評価に使った基準・目標合意書・結果を1枚にまとめ、本人に渡したうえで面談する

説明の資料を作ることは、法令対応であると同時に、評価者が自分の判断を検証する作業でもあります。文章にできない評価は、たいてい根拠がありません。育成の現場でどう回すかはOJTの仕組みづくりの領域なので、制度側は「何を評価するか」の定義に集中してください。

報酬への接続:昇給原資をどう決め、公的な後押しをどう使うか

評価が報酬につながらなければ、制度は事務作業になります。しかし報酬を先に決めるのは順序が逆で、まず原資の総額を決め、その中で配分ルールを設計するのが実務です。

原資の水準を考える出発点は、世の中の改定額です。厚生労働省の調査によると、令和7年中に賃金の改定を実施した企業等における1人平均賃金の改定額は13,601円(前年11,961円)、改定率は4.4%(同4.1%)でした。企業規模別では、100〜299人が10,264円・3.6%、300〜999人が12,308円・4.0%、1,000〜4,999人が15,859円・5.0%、5,000人以上が16,784円・5.1%です。労働組合の有無別では、組合ありが15,229円・4.8%、組合なしが11,980円・4.0%でした(出典:厚生労働省令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況第2表、2025年10月14日公表)。

PUBLIC STATISTICS

令和7年の1人平均賃金の改定率(企業規模別)

4.4%

1人平均賃金の改定率(全体)。改定額は13,601円

3.6%

100〜299人規模の改定率。改定額は10,264円

100〜299人3.6%
300〜999人4.0%
1,000〜4,999人5.0%
5,000人以上5.1%
出典:厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第2表(2025年10月14日公表)。常用労働者100人以上の企業が対象。

この調査は常用労働者100人以上を雇用する企業が対象なので、それより小さい会社の実態は含まれていません。使い方としては、編集部の目安として、100〜299人の3.6%を下回らない水準に置くのが現実的です。同調査に100人未満の企業は含まれないため、この値は自社に直接あてはまる基準ではなく、近い規模帯の相場観として使ってください。

同じ調査で、賃金の改定に当たり最も重視した要素を見ると、全体では「企業の業績」41.7%、「労働力の確保・定着」17.0%、「雇用の維持」11.9%の順でした。100〜299人規模では「企業の業績」44.4%、「労働力の確保・定着」17.1%、「雇用の維持」13.3%、「最低賃金」3.8%です。最大3つまでの複数回答で見ると、「企業の業績」63.8%、「労働力の確保・定着」49.8%、「雇用の維持」43.7%、「世間相場」38.1%となります(出典:同調査 第7表)。

読み方は2つあります。第一に、賃上げの主因はいまも業績であること。だからこそ原資の議論は損益から始めるのが筋です。第二に、複数回答では約半数が「労働力の確保・定着」を挙げていること。つまり多くの経営者が、賃上げを採用と定着への投資として位置づけています。原資の出どころを部門別に把握しておくと、この判断が具体的になります。部門別損益の作り方で扱う月次の粒度があれば、「どの事業の改善分を原資に回すか」という会話ができます。

国が用意している後押しを織り込む

昇給原資を考えるとき、税制と助成金は原資の一部として計算に入れられます。ただし要件と期限が毎年動くため、その都度の確認が必須です。

中小企業向け賃上げ促進税制は、青色申告書を提出する中小企業者等が、平成30年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において、雇用者給与等支給額の対前年増加率が一定以上のときに、控除対象雇用者給与等支給増加額の一定割合を法人税額から控除できる制度です(出典:国税庁No.5927-2 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)、令和7年4月1日現在法令等)。

令和8年度税制改正では、大企業向け措置が適用期限を待たずに令和7年度末で廃止され、中堅企業向け措置は要件を見直したうえで適用期限をもって廃止、そして教育訓練費に係る上乗せ措置は令和7年度末をもって廃止されました。一方で、中小企業向け措置については、人材獲得競争の中で防衛的賃上げに取り組む企業にも配慮し、令和8年度は現行制度を維持することとされ、期限到来時に適用状況等を踏まえて必要な見直しを検討するとされています(出典:財務省令和8年度税制改正の大綱の概要、令和7年12月26日閣議決定、および財務省「ファイナンス」2026年4月号特集令和8年度税制改正(国税)等について資料6)。

項目中小企業向け措置の内容(令和8年度)
対象青色申告書を提出する中小企業者等
通常要件全雇用者の給与総額が前年度比+1.5%以上 → 税額控除率15%
上乗せ(賃上げ率)全雇用者の給与総額が前年度比+2.5%以上 → 税額控除率30%
上乗せ(両立支援・女性活躍)くるみん等の認定を受けている場合 +5%(維持)
廃止された上乗せ教育訓練費に係る上乗せ措置は令和7年度末で廃止
控除上限当期の法人税額の20%
繰越控除しきれなかった額は5年間の繰越控除が可能

(出典:財務省「令和8年度税制改正(国税)等について」資料6「賃上げ促進税制の見直し」、および国税庁「No.5927-2」。適用にあたっては最新の要件を必ず確認してください)

助成金では、キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースが直接的です。有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用した場合に1人当たり、中小企業では引上げ率3%以上4%未満で4万円、4%以上5%未満で5万円、5%以上6%未満で6.5万円、6%以上で7万円が助成されます(1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は100人)。さらに、職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合、または有期雇用労働者等に適用される昇給制度を新たに規定した場合には、それぞれ1事業所当たり20万円(大企業15万円)が加算されます(いずれも1事業所1回のみ)。ここでいう職務評価とは、職務の大きさを相対的に比較し、その職務に従事する労働者の待遇が職務の大きさに応じたものとなっているかの現状を把握することをいいます(出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」、令和8年4月8日現在)。

❌ 賃上げ促進税制が使えると聞いたので、控除見込額を先に原資に組み込んで昇給額を決める ⭕ 控除は法人税額の20%が上限で、赤字なら効かない前提で原資を組み、控除は結果として回収する

税額控除は法人税が出ていて初めて効きます。原資の前提に置くと、業績が下振れしたときに約束した昇給だけが残ります。手元資金の厚みをどう見るかは手元資金を何か月分持つべきかを、複数年の人件費計画への落とし込みは事業計画書の作成ポイントを参照してください。

なお、報酬制度のうち退職金は「後払いの報酬」であり、いったん規程に書くと将来の資金繰りを長く縛ります。等級とポイントを連動させる設計を含め、器の選び方は退職金制度の設計で別に整理しています。

制度設計で外せない法令:最低賃金・同一労働同一賃金・不利益変更

自由に決められそうに見えて、実は外枠が決まっている領域があります。ここを外すと、制度そのものが無効になったり、罰則の対象になったりします。

最低賃金

最低賃金法4条1項は、使用者は最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないと定めています。同条2項は、最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約はその部分については無効とし、無効となった部分は最低賃金と同様の定をしたものとみなすとしています。地域別最低賃金について4条1項に違反した者は50万円以下の罰金です(同法40条。出典:e-Gov法令検索最低賃金法、2026年9月時点)。

令和8年度の改定額は、全都道府県で答申がまとまり、全国加重平均額は1,177円(前年度1,121円)となりました。引上げ額は47都道府県で54円から65円、最高額は1,280円、最低額は1,085円で、最高額に対する最低額の比率は84.8%(前年度83.4%)です。発効は令和8年10月1日から12月2日までの間に順次予定されています(出典:厚生労働省全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました、令和8年9月3日公表)。

時給で働くパートでは、最低賃金の引上げが「年収の壁」に早くぶつかる形でも効いてきます。10月からの変化とパート雇用への影響は「最低賃金1,177円、106万円の壁撤廃。パート雇用はどう変わる」で整理しています。

比較のしかたには決まりがあります。時間によって定められた賃金はその時間給を最低賃金額と比較し、日・週・月によって定められた賃金は、当該金額を各期間の所定労働時間数で除した時間当たりの額と比較します(最低賃金法4条、同法施行規則2条。出典:厚生労働省モデル就業規則 第6章 賃金第30条解説)。等級1の下限は、最低賃金が毎年上がる前提で余裕を持って設定してください。下限が最低賃金に追い抜かれると、等級2以上との差が毎年圧縮され、数年で等級構造が崩れます。

同一労働同一賃金

パート・有期雇用労働法8条は、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、職務の内容、職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質および目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。9条は、職務の内容が通常の労働者と同一で、雇用関係が終了するまでの全期間において職務の内容および配置の変更の範囲も同一と見込まれる者について、短時間・有期雇用労働者であることを理由とする差別的取扱いを禁止しています。

2026年10月1日から適用される改正ガイドラインでは、次の待遇について記載が追加・充実されました。

待遇改正での扱い内容の要点
賞与記載の充実労務の対価の後払い、功労報償等の目的が妥当するのに、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた内容を支給しない場合、不合理と認められる可能性がある
退職手当新規追加賞与と同様の考え方。目的が妥当するのに均衡のとれた内容を支給しない場合、不合理と認められうる
家族手当新規追加—
住宅手当新規追加「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」である場合、同一の転居を伴う配置の変更があるパート・有期雇用労働者には同一の住宅手当を支給しなければならない
無事故手当新規追加—
福利厚生施設記載の充実料金・割引率等の利用条件について不合理な待遇差を設けてはならない
病気休職記載の充実—
夏季冬季休暇新規追加パート・有期雇用労働者にも正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない
褒賞新規追加一定の期間勤続した労働者に付与するものである場合、同一の期間勤続した者にも同一の褒賞を付与する

(出典:厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」リーフレット、令和8年4月作成。および厚生労働省同一労働同一賃金特集ページ、2026年9月閲覧)

あわせて、雇い入れ時の労働条件明示事項に「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」の明示が追加されました。違反した者は10万円以下の過料に処されます。

基本給と昇給についてのガイドラインの原則も、制度設計に直接効きます。能力または経験に応じて支給する基本給については、同一の能力または経験を有する者には同一の基本給を、相違がある場合はその相違に応じた基本給を支給しなければならないとされています。業績または成果に応じて支給する基本給、勤続年数に応じて支給する基本給についても同じ構造です。昇給については、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、同様に勤続により能力が向上した者には同一の昇給を行わなければならないとされています。

この構造は、等級定義を「能力」「業績」「勤続」のどれで書くかを決めてしまうと、正社員以外への適用ルールも自動的に決まる、ということを意味します。基本給の性質を曖昧にしたまま非正規社員の処遇を別建てにしておくと、説明を求められた時点で答えられません。

不利益変更

制度改定で給与が下がる社員が出る場合は、労働契約法9条・10条の論点になります。ガイドライン自身も、待遇差の解消に当たっては「通常の労働者の労働条件を不利益に変更することなく、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の労働条件の改善を図ることが求められる」としたうえで、やむを得ず就業規則の変更により労働条件を不利益に変更する場合は労働契約法9条により原則として労働者との合意が必要であり、合意しない場合は同法10条により変更が合理的である必要があるとし、「基本的に、こうした対応は、望ましい対応とはいえないことに留意すべきである」と明記しています(出典:厚生労働省「改正後の同一労働同一賃金ガイドライン」第2の⑶。労働契約法は e-Gov法令検索労働契約法、2026年9月時点)。

❌ 非正規社員の手当を正社員と揃える原資が足りないので、正社員側の手当を減らして水準を合わせる ⭕ 正社員の労働条件は据え置いたまま、原資の範囲で非正規社員側を段階的に引き上げる年次計画を作る

賃金の支払方法

賃金の支払方法にも枠があります。労働基準法施行規則7条の2第1項3号に基づき、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)が可能で、指定を受けた資金移動業者は4社です(令和8年7月1日現在)。導入には労使協定の締結(対象となる労働者の範囲、対象となる賃金の範囲とその金額、取扱指定資金移動業者の範囲、実施開始時期を記載)と、個々の労働者の同意が必要です。また、使用者が賃金のデジタル払いを受取方法として提示する際は、銀行口座か証券総合口座を選択肢としてあわせて提示しなければなりません(出典:厚生労働省資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について、2026年9月閲覧)。制度改定にあわせて支払方法を変えるなら、労使協定と同意取得の工数を工程に入れてください。

エンゲージメントは何で測るか:公的統計との比べ方

「エンゲージメントが上がったか」を社内アンケートの肯定率だけで測ると、設問の書き方や実施時期で数字が動き、経年比較にも他社比較にも使えません。外部の基準と突き合わせられる指標を1つは持つべきで、その候補が離職率です。

厚生労働省の雇用動向調査によると、令和6年(2024年)1年間の入職率は14.8%、離職率は14.2%で、0.6ポイントの入職超過でした。就業形態別では、一般労働者の離職率が11.5%、パートタイム労働者が21.4%です。離職理由別に見ると、「個人的理由」(結婚、出産・育児、介護・看護、その他の個人的理由の合計)によるものが10.7%、「事業所側の理由」(経営上の都合、出向、出向元への復帰の合計)によるものが0.8%でした。ここでの離職率は、1月1日現在の常用労働者数に対する離職者数の割合です(出典:厚生労働省令和6年雇用動向調査結果の概況、2025年8月26日公表)。

辞める理由は社内だけにあるとは限りません。顧客や取引先からの理不尽な要求が、休職や退職につながることもあります。2026年10月から全ての事業主の義務になった対策は「カスハラ対策が全事業主の義務に。断る線は契約の範囲で決める」で扱っています。

比較のときに最も注意すべきは、規模の効果を織り込むことです。新規学卒者の就職後3年以内離職率を事業所規模別に見ると、次のようになっています。

事業所規模高校卒大学卒
5人未満63.2%57.5%
5〜29人54.6%52.0%
30〜99人45.2%41.9%
100〜499人36.7%33.9%
500〜999人29.9%31.5%
1,000人以上26.3%27.0%

(出典:厚生労働省新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)、2025年10月24日公表。全体では高校卒37.9%、大学卒33.8%)

30〜99人規模|大学卒の3年以内離職率

41.9%

自社と比べるべきは、同じ規模帯の数字

1,000人以上|大学卒の3年以内離職率

27.0%

全体平均は大学卒33.8%。規模の効果を織り込まずに比べない

規模が小さいほど離職率が高いという傾向は明確で、30〜99人規模の大学卒41.9%と1,000人以上の27.0%では15ポイント近い差があります。自社の3年以内離職率を全体平均の33.8%と比べても意味がありません。比べるべきは同じ規模帯の数字です。逆に、30〜99人規模で3年以内離職率が30%を切っているなら、それは同規模の平均を大きく上回る定着力であり、採用広報で堂々と開示できる材料になります。開示できる事実の作り方は採用時の開示の設計で扱っています。

測り方の実務は次の順序です。

  1. 分母と分子の定義を先に固定する。雇用動向調査に合わせるなら、分母は1月1日現在の常用労働者数、分子はその年の離職者数。定義を毎年変えないことが最優先です
  2. 自己都合と会社都合を分ける。統計側も「個人的理由」と「事業所側の理由」を分けています。分けないと、事業縮小に伴う離職が制度の失敗として記録されます
  3. 属性別に割る。新卒/中途、一般/パート、部門別。全社1本の数字では打ち手が決まりません
  4. 同規模帯の公的統計と並べる。差が出た属性から手をつける
  5. 年1回だけ測る。四半期で測ると季節要因に振り回され、制度の効果は見えません

❌ 社内アンケートの「働きがいがある」の肯定率を四半期ごとに測り、下がったら施策を追加する ⭕ 属性別の離職率を年1回、同じ定義で測り、同規模帯の公的統計との差が大きい属性に絞って手を打つ

指標を決めて回し続ける枠組みそのものは、KPI設計と運用の考え方がそのまま使えます。指標を増やすほど運用は止まるので、人事の指標は多くても3つに絞ってください。

導入の進め方と、社員への説明

最後に、決めたものを制度として成立させる手順です。ここは法定の手続が絡むため、順序が決まっています。

労働基準法89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に対し、就業規則の作成と行政官庁への届出を義務づけたうえで、2号で「賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」を記載事項としています。昇給に関する事項は絶対的必要記載事項であり、制度を持つか持たないかを選べる項目ではありません。また同法90条は、就業規則の作成・変更について、過半数労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないとし、届出の際にその意見を記した書面を添付しなければならないとしています(出典:e-Gov法令検索労働基準法、2026年9月時点)。

なお、賃金に関する事項は就業規則本体とは別に賃金規程として定めることもできますが、その場合も別に定めた規程は就業規則の一部になるため、所轄労働基準監督署長への届出が必要です(出典:厚生労働省「モデル就業規則 第6章 賃金」)。モデル就業規則の基本給の規定例は「基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する」というもので、解説では「基本給は、職務内容や職務遂行能力等の職務に関する要素や勤続年数、年齢、資格、学歴等の属人的な要素等を考慮して、各事業場において公正に決めることが大切です」とされています。どの要素にどれだけ重みを置くかを決めるのが等級設計の実体であり、モデル就業規則はその要素の一覧を示しているにすぎません。

進め方の手順は次のとおりです。

  1. 現行の支給実態を全社員分、一覧にする。等級を作る前に、いま誰にいくら払っているかを並べます。ここで説明のつかない差が見つかるのが普通です
  2. 等級の段数と各等級の期待役割を決める。行動で書き、隣り合う等級の違いを口頭で説明できるかを自分で試します
  3. 現行給与を新等級に仮置きする(格付けシミュレーション)。全社員分を必ず行い、新制度で下がる人が何人出るかを数えます
  4. 下がる人への経過措置を決める。調整給の額と期間を決め、労働契約法9条・10条の論点を社会保険労務士に確認します
  5. 昇給原資の総額と配分ルールを決める。評価結果と昇給額の対応表を作り、原資の総額と一致するかを検算します
  6. 就業規則・賃金規程を改定し、過半数代表者の意見を聴く。意見書を添えて労働基準監督署に届け出ます(労基法89条・90条)
  7. 全社説明会で、等級表・評価の流れ・昇給の決まり方を同時に開示する。3つを別々に説明すると、つながりが伝わりません
  8. 期初の目標合意を実施する。制度の初回はここが最も重要で、面談時間を確保できないなら開始時期を遅らせるほうが安全です

社員への説明で最も効くのは、「何が変わらないか」を先に言うことです。総額人件費を増やさない再配分なら、そう言う。増やすなら、いくら増やすのかを言う。曖昧にしたまま「納得感のある制度にします」と説明すると、全員が自分に有利な解釈をし、結果として全員が失望します。

制度は足すときに必ず何かを引いてください。1on1を月1回入れるなら、既存の週次報告を止める。評価項目を増やすなら、他を減らす。管理職の可処分時間は有限で、そこを無視した制度は初年度で止まります。

5問で確認する 人事制度の「一本の線」の準備度

等級・評価・報酬がつながっているかを確かめる簡易チェックです。

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5問で確認|等級・評価・報酬のつながり

いまの自社の人事制度に、いちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。

回答の進捗0 / 5
  1. Q1各等級の期待役割を、行動の言葉(例:原因を特定し是正処置を立案している)で書いている
  2. Q2評価項目が、等級の期待役割と対応している
  3. Q3期初に目標を合意して文章に残し、期末に面談でフィードバックしている
  4. Q4昇給原資の総額を損益から先に決め、そのうえで配分ルールを当てている
  5. Q5パート・有期社員との待遇差の内容と理由を、資料で説明できる

※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。

まとめ

本稿は、エンゲージメントを支えるのは福利厚生や社内イベントよりも、日々の仕事が正当に評価されているという実感だ、という前提に立って書きました。その実感を作るのは、等級・評価・報酬が一本の線でつながっているという構造そのものです。

出発点は等級です。厚生労働省の職業能力評価基準は、期待する能力を「成果につながる職務行動例」として業種別に整理しており、4つのレベル区分は新入社員相当から部長・部門長までをカバーしています。段数の下限としては、キャリアアップ助成金の賃金規定等共通化コースが求める「3区分以上」が目安になり、上限は隣り合う等級の違いを経営者が説明できる範囲です。全国平均で見れば、役職1段の賃金差はおおむね1.2〜1.35倍です(ただしこれは調査上の役職分類であって、等級段数を示すものではありません)。

次が評価です。評価者が1〜2人しかいない会社では、点数の精度を上げる方向に投資しても報われません。期初の目標合意を文章に残し、期末は認識の差を見つけるための面談にする。職業能力評価シートの使い方が示すとおり、本人と上司の認識の違いこそが、成長につながる情報です。

そして報酬です。令和7年の1人平均賃金の改定率は全体4.4%、100〜299人規模で3.6%でした。原資は損益から決め、賃上げ促進税制(中小企業向けは令和8年度も現行制度を維持。+1.5%で15%、+2.5%で30%、控除上限は法人税額の20%)やキャリアアップ助成金は、原資の前提ではなく結果としての回収と位置づけてください。

最後に法令です。令和8年度の最低賃金は全国加重平均1,177円で、2026年10月1日から順次発効します。2026年10月1日からは改正後の同一労働同一賃金ガイドラインが適用され、退職手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・褒賞などが追加されました。そして待遇差の理由は「将来の役割期待が異なる」といった抽象的な説明では足りないと明記されています。この要請に応えられる等級定義は、そのまま社員への説明にも使えます。法令対応と納得感の設計は、別の作業ではありません。

完璧な制度は存在しません。3年周期で見直す前提で始め、初年度は運用の粗さを許容してください。制度を作ることよりも、目標合意と面談という運用に時間を割けるかどうかが、成否を分けます。

NEXT ACTION / 次にやること

いまの等級ごとに、期待役割を行動の言葉で1行ずつ書き出す

「高い専門性」のような言葉で止まっている等級があれば、厚生労働省の職業能力評価基準の職務行動例を参考に書き換えてください。書けない等級があれば、そこが評価と報酬がつながらない場所です。

よくある質問

Q等級制度は何段にすればよいですか。
A

法令上の正解はありません。下限の目安としては、厚生労働省のキャリアアップ助成金(賃金規定等共通化コース)が、正規雇用労働者と有期雇用労働者等についてそれぞれ賃金規定等の区分を3区分以上設けることを支給要件としているため、この助成金を使うなら3区分が下限の目安になります。上限については、令和7年賃金構造基本統計調査で非役職者・係長級・課長級・部長級の賃金格差が100・128.6・170.4・204.8であることが参考になります。役職1段あたりおおむね1.2〜1.35倍の差がつく計算です。ただしこの4区分は調査上の役職分類であり、企業の等級段数を測ったものではありません。隣り合う等級の期待役割の違いを経営者が口頭で説明できないなら、その等級は多すぎます。

Q評価者が社長ひとりしかいません。それでも評価制度は作れますか。
A

作れます。ただし設計の重心を変えてください。評価者が複数いる会社は評価者訓練で目線を揃えますが、1人ならその必要がない代わりに、判断の根拠が本人の記憶だけになるリスクがあります。対策は、期初に本人と目標を合意して文章に残し、期末はその文章に対する結果だけを見ることです。厚生労働省の職業能力評価シートのように、本人と上司がそれぞれチェックして認識の違いをフィードバックする形式にすると、評価者が1人でも本人側の情報が入るため、判断が一方通行になりません。

Q制度改定で給与が下がる社員が出ます。どうすればよいですか。
A

労働契約法9条は、使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないと定めています。同法10条は例外として、変更後の就業規則を周知させ、かつ変更が労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的である場合に限り効力を認めています。実務上は、既得部分を保全し、一定期間の調整給を設け、説明会と個別同意の記録を残すのが防御線です。合理性の判断は総合考慮なので、事前に確実な結論は出せません。社会保険労務士に早い段階で相談してください。

Qパート社員にも同じ等級制度を適用しなければなりませんか。
A

同じ制度を適用する義務はありませんが、待遇差の説明義務があります。パート・有期雇用労働法14条2項は、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときに、通常の労働者との待遇の相違の内容および理由、待遇の決定に当たって考慮した事項を説明する義務を課しています。2026年10月1日からは、雇い入れ時に「説明を求めることができる旨」を明示することも必要になり、違反した者は10万円以下の過料の対象です。加えて、改正ガイドラインは「将来の役割期待が異なる」といった主観的・抽象的な説明では足りないとしています。別制度にするなら、なぜ別なのかを職務の内容と変更の範囲で説明できるようにしておいてください。

Q昇給原資はどう決めればよいですか。相場はありますか。
A

厚生労働省の令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査では、1人平均賃金の改定額は全体で13,601円、改定率は4.4%でした。企業規模別では100〜299人が10,264円・3.6%です。ただしこの調査は常時100人以上を雇用する企業が対象で、それより小さい会社は含まれていません。相場から入るより、損益から原資の総額を決め、そのうえで100〜299人の3.6%を「下回ると採用市場で見劣りする水準」として確認する順序が安全です。同じ調査では、賃金改定で最も重視した要素は「企業の業績」が41.7%で最多でした。

Q賃上げ促進税制を原資の計算に入れてよいですか。
A

回収として見込むのは構いませんが、原資の前提に置くのは避けてください。中小企業向け措置は、全雇用者の給与総額が前年度比+1.5%以上で税額控除率15%、+2.5%以上で30%、くるみん等の認定があれば+5%ですが、控除上限は当期の法人税額の20%です。法人税が発生していなければ効きません(控除しきれなかった額は5年間の繰越控除が可能です)。なお令和8年度税制改正で、教育訓練費に係る上乗せ措置は令和7年度末をもって廃止されました。中小企業向け措置は令和8年度は現行制度が維持されていますが、期限到来時に見直しが検討されるとされているため、適用の際は最新の要件を確認してください。

Q制度を変えたら、エンゲージメントが上がったかどうかはどう確認しますか。
A

社内アンケートの肯定率だけでは、設問や実施時期で数字が動くため経年比較に耐えません。外部基準と突き合わせられる指標として、属性別の離職率を年1回、同じ定義で測ることをおすすめします。令和6年雇用動向調査の全体の離職率は14.2%(一般労働者11.5%、パートタイム労働者21.4%)で、離職理由別では「個人的理由」10.7%、「事業所側の理由」0.8%です。新卒の定着を見るなら、事業所規模別の3年以内離職率と比べてください。30〜99人規模では高校卒45.2%、大学卒41.9%であり、全体平均(高校卒37.9%、大学卒33.8%)と比べても実態は読めません。

Q就業規則の改定は必ず必要ですか。賃金規程だけ直すのではだめですか。
A

賃金に関する事項を就業規則本体とは別に賃金規程として定めることは可能ですが、その場合も賃金規程は就業規則の一部になるため、所轄労働基準監督署長への届出が必要です。労働基準法89条2号は、賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項を絶対的必要記載事項としています。また同法90条により、作成・変更にあたっては過半数労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、その意見を記した書面を届出に添付する必要があります。等級表や評価基準そのものを規程に全部書き込む必要はありませんが、昇給がどう決まるかは書かなければなりません。

出典・調査の対象範囲

  • 厚生労働省「改正後の同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)」(令和8年10月1日適用) — 待遇差の説明は主観的・抽象的では足りないとする記載、不利益変更への留意の根拠。原文を読む
  • 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」 — 説明の方法の整理。原文を読む
  • 厚生労働省「令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(2025年10月14日公表) — 改定率・定期昇給制度・重視した要素。常用労働者100人以上の企業が対象で、それより小さい会社は含みません。第2表/第3表
  • 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(2026年3月24日公表) — 役職別・企業規模別の賃金。役職別/企業規模別
  • 厚生労働省「職業能力評価基準」「職業能力評価シート」「キャリアマップ」 — 等級定義・評価運用の文例。職業能力評価基準について
  • 厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」(令和8年4月8日現在) — 賃金規定等共通化コース・賃金規定等改定コースの要件。原文を読む
  • 国税庁「No.5927-2 中小企業者等における賃上げ促進税制」、財務省「令和8年度税制改正の大綱の概要」 — 国税庁/財務省
  • 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(令和8年9月3日公表) — 原文を読む
  • 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」 — 離職率の比較の基準。雇用動向調査/新規学卒者の離職状況
  • e-Gov法令検索 — 労働基準法、最低賃金法、パート・有期雇用労働法、労働契約法

※判断表・自己診断は編集部の整理です。就業規則の改定や不利益変更の判断は、社会保険労務士など専門家の確認のうえで行ってください。

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