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中小企業の採用ブランディング 法定の明示事項と認定制度で「自社らしさ」を事実で示す
公開 2026.09.05
採用ブランディングは作文ではなく、開示できる事実の設計です。2024年4月に求人票へ必須となった就業場所・業務の「変更の範囲」など法定の明示事項を起点に、青少年雇用情報の開示項目、ユースエールなどの認定制度、辞める理由の統計から逆算した中小企業の採用広報の組み立て方を整理します。

- 2024年4月1日から、求人票・募集要項には「従事すべき業務の変更の範囲」「就業場所の変更の範囲」「有期契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)」の明示が義務づけられた(改正職業安定法施行規則)
- 職業安定法5条の4は、求人情報について虚偽の表示・誤解を生じさせる表示を禁止し、募集を行う者に正確かつ最新の内容に保つ義務を課している。「盛った求人」は演出ではなく違法行為になり得る
- 若者雇用促進法では、応募者などから求めがあれば、離職者数・平均勤続年数・月平均所定外労働時間など3類型それぞれ1つ以上の情報提供が義務。開示項目のリストが、そのまま採用広報の骨子になる
「知名度で負けているから応募が来ない」と結論づける前に、自社が求職者に渡している情報の中身を確認してください。求人票に何を書かなければならないかは、実は法令で決まっています。そして法定の明示事項を具体的に書ききるだけで、多くの中小企業の求人は他社より情報量で上回ります。本稿は、精神論としての採用ブランディングではなく、法令上の明示義務・公的な開示項目・国の認定制度という3つの「事実で語る材料」を使って、自社の実像を伝える設計手順を整理します。
最初に結論:求人・採用広報で「必ず書くこと」と「書くと効くこと」
最初に全体像を示します。上段は書かないと法令違反になる項目、下段は義務ではないものの、候補者の判断材料として効く項目です。下段は求めがあれば提供義務が生じるものを含みます。
まず見るべき判断表|求人票・採用広報に書く項目
| 区分 | 項目 | 書き方の要点 |
|---|---|---|
| 法定(明示義務) | 従事すべき業務の内容 | 「(雇入れ直後)法人営業 (変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般」のように、雇入れ直後と変更の範囲を分けて書く |
| 法定(明示義務) | 就業の場所 | 「(雇入れ直後)大阪支社 (変更の範囲)本社および全国の支社、営業所」のように2段で書く |
| 法定(明示義務) | 契約期間・更新の基準 | 期間の定めの有無。有期なら更新の有無と判断基準、通算契約期間または更新回数の上限 |
| 法定(明示義務) | 試用期間 | 有無と期間。試用期間中の賃金が異なるならその額も |
| 法定(明示義務) | 就業時間・休憩時間・休日 | 始業終業時刻、休憩、休日。裁量労働制なら「企画業務型裁量労働制により、●時間働いたものとみなされます」等の記載が必要 |
| 法定(明示義務) | 時間外労働 | 有無と目安(例:月平均20時間) |
| 法定(明示義務) | 賃金 | 固定残業代を採用するなら、基本給・手当の内訳・対応する時間数・超過分は追加支給する旨を分けて書く |
| 法定(明示義務) | 加入保険 | 雇用保険、労災保険、厚生年金、健康保険 |
| 法定(明示義務) | 受動喫煙防止措置 | 屋内禁煙、喫煙専用室あり等 |
| 法定(明示義務) | 募集者の氏名または名称 | 実際に雇用する企業名。派遣として雇用する場合はその旨 |
| 求めがあれば提供義務 | 直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数 | 若者雇用促進法の(ア)類型。数値をそのまま出す |
| 求めがあれば提供義務 | 平均勤続年数 | 同(ア)類型 |
| 求めがあれば提供義務 | 研修・メンター制度・自己啓発支援の有無と内容 | 同(イ)類型。就業規則に規定がなくても継続実施し周知していれば「有」 |
| 求めがあれば提供義務 | 月平均所定外労働時間・有給休暇の平均取得日数 | 同(ウ)類型。前事業年度の実績値 |
| 求めがあれば提供義務 | 育児休業取得対象者数・取得者数(男女別)、役員・管理職の女性割合 | 同(ウ)類型 |
| 任意(差がつく) | 国の認定マーク | ユースエール、くるみん、えるぼし、安全衛生優良企業。求人票・広告に表示できる |
| 任意(差がつく) | 待遇制度の実額 | 退職金制度の有無と方式、賞与の実績、昇給の考え方 |
採用ブランディングは作文ではなく、開示できる事実の設計です。法定の明示事項を具体的に書ききり、求めがあれば出す義務のある数字を先に出す。それだけで情報量は同業他社を上回り、資金力の差が効きにくい土俵で戦えます。
この表の使い方は単純です。上段を具体的に書ききると、それだけで情報量が同業他社を上回ります。求人票が「若干名募集、経験不問、詳細は面談で」で埋まっている会社が多い中で、変更の範囲まで書いてある求人は目に見えて異質です。中段は求職者から求められれば出さなければならない数字なので、どのみち集計は必要になります。だったら先に出したほうが得です。
採用広報の骨格は法令が決めている:2024年4月に増えた3つの明示事項
まず、法令が何を求めているかを正確に押さえます。ここを曖昧にしたまま「魅力の言語化」に進むと、順番を間違えます。
職業安定法5条の3は、労働者の募集を行う者に対し、募集に応じて労働者になろうとする者へ、従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示する義務を課しています。求人の申込みをハローワークや職業紹介事業者に対して行う場合も同様です(出典:e-Gov法令検索職業安定法、2026年9月時点)。
そのうえで、2024年(令和6年)4月1日施行の改正職業安定法施行規則(令和5年厚生労働省令第89号)により、明示事項に次の3つが追加されました。
- 従事すべき業務の変更の範囲
- 就業場所の変更の範囲
- 有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限を含む)
ここでいう「変更の範囲」とは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲を指します(出典:厚生労働省令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます、および同省リーフレット募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!、2024年4月1日施行)。
同じリーフレットには、そのまま使える記載例が示されています。
| 項目 | 厚生労働省が示す記載例 |
|---|---|
| 業務内容 | (雇入れ直後)法人営業 (変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般/(雇入れ直後)経理 (変更の範囲)法務の業務 |
| 就業場所 | (雇入れ直後)大阪支社 (変更の範囲)本社および全国の支社、営業所/(雇入れ直後)渋谷営業所 (変更の範囲)都内23区内の営業所 |
| 契約期間 | 期間の定めあり(2024年4月1日〜2025年3月31日)、契約の更新 有(契約期間満了時の業務量、勤務成績により判断)、通算契約期間は4年を上限とする |
| 賃金(固定残業代) | (1) 基本給●●円((2)の手当を除く額)、(2) ■■手当(時間外労働の有無に関わらず、●時間分の時間外手当として▲▲円を支給)、(3) ×時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給 |
| 賃金(試用期間) | 月給25万円(ただし、試用期間中は月給20万円) |
(出典:厚生労働省「募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!」リーフレット記載例より)
更新の基準について、厚生労働省は「諸般の事情を総合的に考慮したうえで判断する」というような抽象的なものではなく、「勤務成績、態度により判断する」「会社の経営状況により判断する」など具体的に記載することが望ましいとしています。この「望ましい」は、そのまま採用広報の勘所でもあります。抽象的な条件は、候補者にとって何も言っていないのと同じだからです。
なお、求人広告のスペースが足りないなどやむを得ない場合には、「詳細は面談時にお伝えします」と付したうえで一部を別途明示することも可能です。ただしその場合でも、原則として面接など求職者と最初に接触する時点までに、すべての労働条件を明示する必要があります。募集広告として情報を提供するときは、掲載した時点を明示するなど、正確かつ最新の内容に保つ義務がある点も同じリーフレットに明記されています。
そして見落とされがちなのが、ハローワーク側の受理拒否です。職業安定法5条の6は、求人の申込みは全て受理しなければならないと定めつつ、例外として、法5条の3第2項による明示が行われない求人の申込みや、労働に関する法律の規定であって政令で定めるものの違反に関し法律に基づく処分・公表その他の措置が講じられた者からの求人の申込みは受理しないことができるとしています。採用ブランディング以前に、法令違反があると求人を出す入口そのものが閉じ得るという構造です。
労働市場の現在地:正社員の有効求人倍率1.00倍という数字の読み方
「募集をかければ来る」という前提はすでに成立していません。ただし、数字を正しく読むと、単純な「売り手市場だから採れない」よりも具体的な打ち手が見えます。
厚生労働省の一般職業紹介状況(職業安定業務統計)によると、2026年(令和8年)7月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍、新規求人倍率は2.10倍、正社員有効求人倍率は1.00倍でした。産業別の新規求人は前年同月比で製造業が6.8%増、サービス業(他に分類されないもの)が5.6%増となる一方、宿泊業・飲食サービス業が10.7%減、卸売業・小売業が7.3%減です。都道府県別の有効求人倍率(就業地別)は最高が福井県・山梨県の1.69倍、最低が大阪府の0.95倍でした(出典:厚生労働省一般職業紹介状況(令和8年7月分)について、2026年8月28日公表)。
PUBLIC STATISTICS
2026年7月の求人倍率と、都道府県別の開き
1.00倍
正社員有効求人倍率
1.18倍
有効求人倍率
2.10倍
新規求人倍率
正社員有効求人倍率1.00倍は、正社員を希望する求職者1人に対して正社員求人が1件ある状態です。全国平均で見れば、求人が求職者を圧倒しているわけではありません。それでも採れないのは、地域・職種・条件のミスマッチが起きているからで、都道府県別で1.69倍と0.95倍の開きがあることがその一端を示しています。
企業側の不足感は依然として高い水準にあります。厚生労働省の労働経済動向調査によると、2026年(令和8年)5月1日現在の正社員等労働者過不足判断D.I.は調査産業計で+47ポイントの不足超過、パートタイム労働者は+27ポイントでした。ここでいうD.I.は「不足」と回答した事業所の割合から「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値です。産業別では建設業、医療・福祉、運輸業・郵便業などで不足感が高くなっています(出典:厚生労働省労働経済動向調査(令和8年5月)の概況、2026年5月調査)。
同じ調査で注目したいのは、企業が実際に何をしたかです。労働者が不足している部門等に何らかの対応をした事業所の割合(2026年1〜3月期実績)は調査産業計で63%。対応内容(複数回答)は「中途採用の開始・拡大・強化」が69%で最も多く、次いで「新規学卒者の採用の開始・拡大・強化」「臨時、パートタイム労働者の採用」「業務の効率化の推進」がいずれも39%でした。
つまり、人手不足に直面した会社の約7割が採用の強化に走っているということです。同じ求職者を、同じタイミングで、同じ方法で奪い合っている。この状況で差がつくのは予算額ではなく、候補者が判断に使える情報をどれだけ渡せるかです。求人票の情報量で勝つという選択は、資金力の差が効きにくい数少ない領域です。
「盛った求人」は職業安定法5条の4に違反する
採用広報の実務で最初に確認すべきは、表現の上限です。ここには明確な法的ラインがあります。
職業安定法5条の4第1項は、労働者の募集を行う者などが広告等により求人・募集に関する情報を提供するときに、当該情報について虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならないと定めています。同条2項は、労働者の募集を行う者および募集受託者に対し、募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つ義務を課しています。この規定は2022年(令和4年)10月1日に施行されました(出典:e-Gov法令検索「職業安定法」、および厚生労働省職業安定法 改正のポイント、2022年10月1日施行)。
厚生労働省のQ&Aは、「虚偽の表示」の具体例として次を挙げています。
- 実際に求人を行う企業と別の企業の名前で求人を行う場合
- 「正社員」と謳いながら、実際には「アルバイト・パート」の募集をする場合
- 基本給○万円と表示しながら実際にはその金額よりも低額の賃金を予定している場合
- 実際には採用予定のない求人を出す場合
さらに「誤解を生じさせる表示」については、虚偽の情報でなくとも一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示が該当するとして、次の例が示されています。
- 優れた製品開発実績を持つグループ会社の実績を大きく記載し、あたかもその求人企業の実績であるかのように表示する
- 社内で給与の高い労働者の基本給を例示し、全ての労働者の基本給であるかのように表示する
- 固定残業代について基礎となる労働時間数等を明示せず、基本給に含めて表示する
- 営業職が中心の業務について事務職と表示する
賃金の幅表示についても整理されています。「モデル収入例」を併記することや「○万円〜○万円」のように幅を持った表示をすること自体は許容されますが、モデル収入例であるのに必ず支払われる基本給であるかのような表示や、賃金の幅の上限を実際よりも高額な賃金が支払われる可能性があるかのような表示をした場合は「誤解を生じさせる表示」に該当します(出典:厚生労働省令和4年 改正職業安定法Q&A、問2-1〜2-3)。
❌ 求人媒体の反応が悪いので、募集職種を「事務スタッフ」に変えて応募のハードルを下げる(実際の業務は法人向けの新規開拓が中心) ⭕ 職種は「法人営業」のまま、業務の内訳と1日の流れを具体的に書き、未経験者向けの立ち上がり期間を明記する
❌ 「月給30万円以上可」と幅の上限だけを大きく出し、内訳は面接で説明する ⭕ 基本給と固定残業代を分け、対応する時間数と超過分の追加支給を明記したうえで、モデル年収は「入社3年目・等級●の実例」と条件つきで併記する
求人企業には、募集を終了・内容変更したら速やかに求人情報の提供を終了・変更する、求人メディアを使っている場合は反映を依頼する、いつの時点の求人情報かを明らかにする、媒体側から訂正・変更の依頼があったら速やかに対応する、といった措置も求められています。掲載しっぱなしの古い求人を放置することも、正確・最新に保つ義務との関係で問題になり得ます。
「自社らしさ」は作文ではなく、開示できる事実で示す
ここからが本題です。「うちらしさをどう表現するか」で止まっている会社は多いのですが、その答えはすでに国が用意しています。若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)に基づく職場情報の提供制度の項目リストが、そのまま採用広報の骨子になります。
この仕組みは2016年(平成28年)3月1日に始まりました。新卒者等の募集を行う企業に対しては幅広い職場情報の提供が努力義務とされ、さらに応募者等や、求人申込みをしたハローワーク・特定地方公共団体・職業紹介事業者(学校を含む)、求人の紹介を受けた者等から求めがあった場合は、次の3類型それぞれについて1つ以上の情報提供が義務づけられています。
| 類型 | 情報提供項目 |
|---|---|
| (ア)募集・採用に関する状況 | 直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数/直近3事業年度の新卒採用者数の男女別人数/平均勤続年数 |
| (イ)職業能力の開発・向上に関する取組の実施状況 | 研修の有無および内容/自己啓発支援の有無および内容(教育訓練休暇制度・教育訓練短時間勤務制度を含む)/メンター制度の有無/キャリアコンサルティング制度の有無および内容(セルフ・キャリアドックを含む)/社内検定等の制度の有無および内容 |
| (ウ)職場への定着の促進に関する取組の実施状況 | 前事業年度の月平均所定外労働時間の実績/前事業年度の有給休暇の平均取得日数/前事業年度の育児休業取得対象者数・取得者数(男女別)/役員に占める女性の割合および管理的地位にある者に占める女性の割合 |
(出典:厚生労働省職場情報の提供制度、および同省リーフレット就労実態等に関する職場情報を企業に求めることができます!、2026年9月閲覧)
指針では、これら項目の全てについて、ホームページでの公表、会社説明会での情報提供、求人票への記載などにより積極的に情報提供を行うことが望ましいとされています。ハローワークは求人受理に際して求人申込書に「青少年雇用情報欄」を設けており、職業紹介事業者等には「青少年雇用情報シート」の活用が推奨されています。
この項目リストの価値は、「自社らしさ」を主観の言葉ではなく数値と有無で表現できる点にあります。「風通しがよい」は検証できませんが、「平均勤続年数8.2年」「前事業年度の月平均所定外労働時間9.4時間」「有給休暇の平均取得日数12.1日」は検証できます。数値が良くない項目があっても、開示したうえで改善計画を添えるほうが、黙っているより信用されます。
(イ)の類型は特に中小企業の見せ場になります。研修の有無および内容は、制度として就業規則等に規定されているものでなくても、継続的に実施していてそのことが従業員に周知されていれば「有」として情報提供されます。社内検定についても、業界団体等が実施する検定を活用する場合は「有」です。制度の名前がなくても、実態があるなら書けるということです。逆に言えば、ここに書けるものが本当に何もないなら、広報の前に育成の実体をつくる必要があります。現場での育成を仕組みにする考え方はOJTの仕組みづくりで整理しています。
待遇面では、退職金制度の有無は求職者が比較しやすい項目です。制度を持つかどうか、持つならどの器を使うかは将来の資金繰りを長く縛るため、採用広報の都合だけで決めるべきではありません。判断軸は退職金制度の設計にまとめています。
辞める理由から逆算する:候補者に先に渡すべき情報
「どう惹きつけるか」より、「なぜ辞めるか」のデータのほうが、経営判断には効きます。採用時に伝えるべきことは、離職理由の裏返しだからです。
厚生労働省の雇用動向調査によると、2024年(令和6年)1年間の入職率は14.8%、離職率は14.2%で、0.6ポイントの入職超過でした。前年と比べると入職率が1.6ポイント、離職率が1.2ポイント低下しています。入職率を職歴別にみると転職入職率が9.7%、未就業入職率が5.0%です(出典:厚生労働省令和6年雇用動向調査結果の概況、2025年8月26日公表)。
転職入職者が前職を辞めた理由は次のとおりです。「その他の個人的理由」「その他の理由(出向等を含む)」「定年・契約期間の満了」「結婚」「出産・育児」「介護・看護」「会社都合」を除いた、企業側が採用時の情報提供で扱える項目を抜き出しました。
| 前職を辞めた理由 | 男性計 | 男性25〜29歳 | 女性計 | 女性25〜29歳 |
|---|---|---|---|---|
| 給料等収入が少なかった | 10.1% | 16.9% | 8.3% | 7.9% |
| 職場の人間関係が好ましくなかった | 9.0% | 11.5% | 11.7% | 14.0% |
| 労働時間、休日等の労働条件が悪かった | 8.6% | 9.8% | 12.8% | 15.2% |
| 会社の将来が不安だった | 7.4% | 8.1% | 5.1% | 5.0% |
| 仕事の内容に興味を持てなかった | 4.4% | 5.6% | 3.6% | 4.8% |
| 能力・個性・資格を生かせなかった | 3.8% | 4.7% | 3.7% | 4.3% |
(出典:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」表5。転職入職者のうち前職雇用者で調査時在籍者についてみたもので、自営業からの転職入職者を含まない)
読み方は3つあります。
第一に、若手ほど賃金と人間関係が効いています。男性25〜29歳では「給料等収入が少なかった」が16.9%と、男性計の10.1%を6.8ポイント上回ります。女性25〜29歳では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」15.2%と「職場の人間関係が好ましくなかった」14.0%が上位です。若手を採るなら、賃金の決まり方と、誰と働くのかを先に開示する必要があります。
第二に、「会社の将来が不安だった」の伸びが目立ちます。前年と比べて上昇幅が最も大きかったのは、男性では「その他の個人的理由」2.9ポイントを除くと「会社の将来が不安だった」の2.2ポイント、女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」の1.7ポイントでした。将来不安は、待遇改善だけでは解けません。事業として何を伸ばし、何をやめるのかを説明できるかどうかの問題です。ここは採用の話ではなく経営戦略のつくり方の話であり、説明の材料としては事業計画書の作成ポイントで扱う数字がそのまま使えます。
第三に、賃金の比較は現実に起きています。2024年の転職入職者の賃金変動状況をみると、前職の賃金と比べ「増加」が40.5%、「減少」が29.4%、「変わらない」が28.4%で、「1割以上の増加」が29.4%でした。前年と比べて「増加」は3.3ポイント上昇しています。転職で賃金が上がる人のほうが多い市場で、賃金の考え方を曖昧にしたまま「やりがい」を語っても、比較の土俵に乗れません。
❌ 応募が減るのが怖いので、繁忙期の残業や休日出勤の実態には触れず、面接でも聞かれたときだけ答える ⭕ 前事業年度の月平均所定外労働時間の実績値と、繁忙期の月がいつかを求人票と採用サイトに書き、そのうえで削減の取組を併記する
前提を隠して採用しても、隠した前提はほぼ確実に入社後に露見します。採用で語ったことが入社後に嘘になると、その人は辞めます。採用時の説明と入社後の処遇・評価の整合をどう取るかは人事制度の見直しと処遇の設計の領域で、採用広報だけでは完結しません。
費用をかけずに第三者の評価を得る:4つの認定制度
自社で「働きやすい会社です」と言っても、それは自己申告です。国の認定制度は、同じ内容を第三者の基準で言い換える手段になります。申請そのものに費用はかからず、要件は公表されているので、取れるかどうかを自分で判定できます。取った認定を採用以外の広報、たとえば報道や自治体の名簿への掲載に広げる方法はメディア掲載を獲得する広報戦略で扱っています。
| 制度 | 根拠・所管 | 対象 | 主な要件(抜粋) | 主なメリット |
|---|---|---|---|---|
| ユースエール | 若者雇用促進法/厚生労働大臣 | 常時雇用する労働者300人以下の中小企業 | 直近3事業年度の新卒者等の離職率20%以下/前事業年度の正社員の月平均所定外労働時間20時間以下かつ月平均の法定時間外労働60時間以上の正社員が1人もいない/有給休暇の取得率が平均70%以上または年間取得日数が平均10日以上/直近3事業年度で男性の育児休業等取得者1人以上または女性の育児休業等取得率75%以上/雇用情報の公表 ほか計12要件 | ハローワーク等での重点的PR、認定企業限定の就職面接会等への参加、認定マークの使用、日本政策金融公庫(中小企業事業)「働き方改革推進支援資金」で基準利率から−0.65%、公共調達での加点評価 |
| くるみん/トライくるみん/プラチナくるみん | 次世代育成支援対策推進法/厚生労働大臣 | 一般事業主行動計画を策定・届出した事業主(常時雇用する労働者101人以上は届出が義務、100人以下は努力義務) | 行動計画の策定と目標達成を含む9項目。2025年度基準では男性労働者の育児休業等取得率30%以上などが求められる。労働者数300人以下の一般事業主には特例あり | 認定マークを商品・広告・求人広告に使用可、公共調達の加点評価 |
| えるぼし(1〜3段階)/プラチナえるぼし | 女性活躍推進法/厚生労働大臣 | 一般事業主行動計画の策定・届出を行った事業主 | 「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5基準のうち満たした数で段階が決まる。労働時間等の働き方は、法定時間外労働および法定休日労働の合計時間数の平均が各月ごとに全て45時間未満 | 認定マークを商品・広告・名刺・求人票等に使用可、ハローワーク求人票へのロゴ表示、公共調達の加点評価、日本政策金融公庫「働き方改革推進支援資金」の低利融資 |
| 安全衛生優良企業(ホワイトマーク) | 厚生労働省 | 全業種の企業(法人、協同組合、個人商店等) | 過去3年間に労働安全衛生関連の重大な法違反がないなどの必要項目を全て満たし、評価項目は分野別に総計の6割以上かつ全評価項目の総合点が総計の8割以上 | 認定マークの使用、厚生労働省ホームページでの企業名公表。認定期間は3年間 |
(出典:厚生労働省ユースエール認定制度、同省くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについておよび施行から2年間のくるみん認定基準の経過措置について、同省えるぼし認定・プラチナえるぼし認定のご案内、同省安全衛生優良企業の認定基準・評価項目、いずれも2026年9月閲覧)
認定基準は改正されます。上表は要点の抜粋であり、申請前には必ず所管の公式ページと最新のパンフレットで要件を確認してください。実例として、くるみん認定は2025年(令和7年)4月1日から認定基準とマークが改正され、男性の育児休業等取得率等の引き上げや、育児休業等をした女性有期雇用労働者の割合(75%以上)の追加が行われました。この改正には経過措置があり、2027年(令和9年)3月31日までは旧基準で申請することができます。また、2024年度末までに開始した行動計画で2025年度以降に認定申請を行う場合は、2024年度末までの計画期間を含めずに2025年度以降の計画期間を計画期間とみなすことができます(出典:厚生労働省「施行から2年間のくるみん認定基準の経過措置について」および「令和6年度末までの計画期間を含む行動計画の経過措置について」、2025年4月1日施行)。
中小企業にとって現実的な起点はユースエールです。要件がすべて数値または有無で書かれているため、自社が届いているかを今日その場で判定できます。離職率20%以下、月平均所定外労働時間20時間以下、有給取得率70%以上または平均10日以上。この3つを満たしていない会社は、そもそも採用広報の前に労働時間と定着の実態を直す段階にあります。逆に満たしているなら、その事実を認定という形で第三者に保証してもらったほうが、自社で書くコピーより速く効きます。
❌ 認定が取れそうにない項目があるので、制度の活用は数年先に見送る ⭕ 認定要件を「自社の採用KPIの目標値」として先に採用し、離職率と所定外労働時間を毎月の管理指標に入れる
要件を目標値に転用する考え方は、KPI設計と運用の発想と同じです。国が「優良」と定義した水準が公開されているのだから、自前で目標値を発明する必要はありません。
選考プロセスも「表示」の一部:変更明示と辞退の扱い
採用ブランディングは、求人票を出した時点で終わりません。選考の過程での情報の扱い方まで含めて、法令上の枠組みがあります。
職業安定法5条の3第3項は、労働契約を締結しようとする場合であって、第1項の規定により明示された従事すべき業務の内容等を変更する場合その他厚生労働省令で定める場合には、契約の相手方となろうとする者に対し、当該変更する内容等を明示しなければならないと定めています。厚生労働省のリーフレットも、面接等の過程で当初明示した労働条件が変更となる場合は、その変更内容を速やかに明示する必要があるとしています。
実務的な意味はこうです。「求人票は目安で、条件は面接で決める」という運用は、変更明示という手続を経る前提でしか成立しません。入社直前に条件が下振れするような進め方は、法令上の手当てが必要なうえ、候補者からの信頼を最も損ないます。
❌ 求人票では月給28万円と出し、面接での評価を踏まえて内定通知で25万円に下げる。理由は口頭で説明する ⭕ 当初明示から変更する場合は、変更内容を書面等で明示し、どの条件がどう変わるのかを対照できる形で示す
選考プロセスの設計で押さえるべき点を整理します。
- 選考フローと所要期間を事前に公開する。応募から一次面接まで、内定までにかかる日数の目安を書く。書けないなら、社内で決まっていないということです
- 質問への回答者を決めておく。若者雇用促進法の3類型は求めがあれば提供義務があります。誰が、どの資料を、何日以内に出すかを決めておかないと、対応の遅れが不信につながります
- 求めを理由に不利益な取扱いをしない。職場情報の提供を求めたことを理由とする不利益な取扱いについては、ハローワークが相談を受け付けています
- 不採用の連絡を期限どおりに出す。選考体験は口コミとして残ります。掲載中止の反映義務と同じで、放置が最も評価を下げます
- 辞退が増えることを織り込む。前提を正直に出せば、条件が合わない候補者は早く抜けます。これは失敗ではなく、選考コストの前倒し回収です
なお、採用広報と会社全体の広報は目的が異なります。会社の広報は取引先・顧客・金融機関を含む社会全体に向けた認知の獲得、採用広報は候補者の意思決定に必要な情報の提供です。メディア露出そのものを増やす取組はメディア掲載を獲得する広報戦略の領域で、採用広報とは指標も担当も分けて考えたほうが混乱しません。
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5問で確認|採用広報の「事実で語る」準備度
いま出している求人票・募集要項を手元に置いて、いちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。
※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
まとめ:採用ブランディングは「開示の設計」である
採用ブランディングを、広告費や表現力の勝負だと考えると、中小企業に勝ち目はありません。しかし、開示できる事実の量と具体性の勝負だと捉え直すと、状況は変わります。
出発点は法令です。2024年4月から、業務と就業場所の「変更の範囲」、有期契約の更新の基準を明示することが義務になりました。これを具体的に書くだけで、抽象的な求人票を出している同業他社との情報量の差が生まれます。同時に、職業安定法5条の4により虚偽・誤解を生じさせる表示は禁じられているため、「盛る」方向の差別化は最初から選択肢に入りません。
次が公的な開示項目です。若者雇用促進法の3類型は、離職者数、平均勤続年数、研修の有無と内容、月平均所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、育児休業取得者数、役員・管理職の女性割合という、検証可能な項目で構成されています。求めがあれば提供する義務がある以上、集計は避けられません。先に出すか、聞かれてから出すかの違いしかないなら、先に出したほうが得です。
そして、伝えるべき内容は離職理由から逆算します。2024年の統計で、男性25〜29歳の「給料等収入が少なかった」は16.9%、女性25〜29歳の「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」は15.2%、「職場の人間関係が好ましくなかった」は14.0%でした。前年からの上昇幅が最も大きかった項目のひとつは男性の「会社の将来が不安だった」です。賃金の決まり方、働く時間の実態、一緒に働く人、そして事業の見通し。この4つを事実で説明できれば、採用広報の中身としては十分です。
最後に、認定制度を使ってください。ユースエールの離職率20%以下、月平均所定外労働時間20時間以下、有給取得率70%以上という要件は、そのまま自社の目標値として使えます。認定が取れれば第三者の保証が付き、取れなくても改善すべき点が特定できます。採用ブランディングの実体は、実態を良くする作業と、それを検証可能な形で開示する作業の2つしかありません。言い換えを工夫する余地は、思っているより小さいのです。
NEXT ACTION / 次にやること
いまの求人票を、法定の明示事項の一覧と1行ずつ突き合わせる
業務と就業場所の変更の範囲、時間外労働の目安、固定残業代の内訳が書けているかを確かめてください。書けていない行が、そのまま最初に直す場所です。
よくある質問
Q求人票に「変更の範囲」を書かないと、どうなりますか。
2024年4月1日施行の改正職業安定法施行規則により、従事すべき業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲、有期労働契約を更新する場合の基準は、労働者の募集や職業紹介事業者への求人申込みの際に明示しなければならない事項です。また職業安定法5条の6は、法5条の3第2項による明示が行われない求人の申込みについて、ハローワーク等が受理しないことができると定めています。求人が受理されない、あるいは労働局から是正を求められる可能性があるため、記載を省略する運用は避けてください。記載例は厚生労働省のリーフレットに示されています。
Q「変更の範囲」には、将来ありうる異動をすべて書く必要がありますか。
「変更の範囲」とは、雇入れ直後にとどまらず、将来の配置転換など今後の見込みも含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲を指します。厚生労働省の記載例では「(変更の範囲)製造業務を除く当社業務全般」「(変更の範囲)本社および全国の支社、営業所」のように、範囲を示す書き方が採用されています。個別の異動先を列挙するのではなく、契約期間中に生じうる範囲を画するという考え方です。なお、いわゆる在籍出向を命じることがある場合で、出向先での就業場所や業務が出向元の会社の変更の範囲を超える場合には、その旨を明示するようリーフレットで求められています。
Q「月給25万円〜40万円」のような幅のある賃金表示は違法ですか。
幅を持った表示自体は許容されます。厚生労働省の改正職業安定法Q&Aは、「モデル収入例」を併記することや「○万円〜○万円」のように賃金について幅を持った表示をすること自体は許容されるとしています。ただし、モデル収入例であるのに必ず支払われる基本給であるかのような表示や、賃金の幅の上限を実際よりも高額な賃金が支払われる可能性があるかのような表示は「誤解を生じさせる表示」に該当します。上限額を出すなら、どういう条件の人がその額になるのかを併記してください。
Q中途採用が中心なので、若者雇用促進法の職場情報の提供は関係ないのでは。
情報提供の求めができるのは新卒者等(在学中で卒業見込みの者、職業訓練の修了見込みの者、およびその卒業者・修了者)で、当該募集・求人の対象外となっている場合は求めを行うことができません。したがって新卒採用を行っていなければ義務の対象外です。ただし、この3類型の項目は、中途採用の候補者が知りたい情報とほぼ一致します。平均勤続年数、月平均所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、研修とメンター制度の有無。義務としてではなく、採用広報の骨子として使う価値があります。
Q認定制度は取得にお金がかかりますか。取れなかった場合の不利益はありますか。
ユースエール、くるみん、えるぼし、安全衛生優良企業のいずれも、所定の様式に必要書類を添えて都道府県労働局に申請する制度で、審査手数料の定めはありません。ユースエールと安全衛生優良企業は電子申請や自己診断の仕組みも用意されています。要件を満たさず認定に至らなかったことによる不利益はありませんが、認定後は毎年の基準適合確認や実績公表が必要になる制度があります(ユースエールは認定後も毎年の適合確認、えるぼしは毎年少なくとも1回の実績公表)。取得後の運用負荷を含めて判断してください。
Q応募が減るのが怖くて、残業時間や離職率を出せません。出すべきでしょうか。
判断材料は2つあります。1つは、若者雇用促進法の対象となる新卒採用を行っているなら、求めがあった場合に3類型それぞれ1つ以上を提供する義務があるということです。隠し続けることは制度上できません。もう1つは、離職理由の統計です。2024年の雇用動向調査では、女性25〜29歳の「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が15.2%と上位に来ています。条件を伏せて採用した場合、条件が理由で辞める確率はそのまま残ります。応募数は減っても、選考の途中で抜ける人が前倒しになるだけであり、採用にかかる工数はむしろ減る方向に働きます。
Q求人を出したまま放置しています。問題がありますか。
問題になり得ます。職業安定法5条の4第2項は、労働者の募集を行う者および募集受託者に、募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つ義務を課しています。厚生労働省のリーフレットは求人企業の措置として、募集を終了・内容変更したら速やかに求人情報の提供を終了・内容を変更すること、求人メディア等を活用している場合は反映を依頼すること、いつの時点の求人情報かを明らかにすること、媒体から訂正・変更の依頼があったら速やかに対応することを挙げています。採用が終わった求人を出しっぱなしにするのは、実務上も候補者の信頼を失う原因になります。四半期に一度は掲載中の求人を棚卸ししてください。
出典・調査の対象範囲
- 厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」「募集時などに明示すべき労働条件が追加されます!」 — 2024年4月から必須になった明示事項。解説ページ/リーフレット
- 職業安定法・改正のポイント・改正職業安定法Q&A — 虚偽・誤解を生じさせる表示の禁止(5条の4)。職業安定法/改正のポイント/Q&A
- 厚生労働省「職場情報の提供制度」「就労実態等に関する職場情報を企業に求めることができます!」 — 若者雇用促進法の3類型。職場情報の提供制度/リーフレット
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」「労働経済動向調査(令和8年5月)の概況」 — 求人倍率と人手不足感。一般職業紹介状況/労働経済動向調査
- 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」(2025年8月26日公表) — 転職入職者が前職を辞めた理由。前職雇用者で調査時在籍者についての集計です。原文を読む
- 国の認定制度 — ユースエール認定制度/くるみん/くるみん認定基準の経過措置/えるぼし/安全衛生優良企業
※判断表・自己診断は編集部の整理です。求人票の個別の記載が法令に合っているかは、ハローワークや社会保険労務士に確認してください。



