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インボイス経過措置は2026年10月に7割へ 中小企業がいま決めること

公開 2026.09.10

2026年10月1日から免税事業者等からの仕入れの控除割合が8割から7割に下がり、2割特例も2026年9月30日を含む課税期間で終了します。令和8年度税制改正の変更点と実務対応を国税庁資料で整理しました。

2026年10月1日から、未登録の事業者からの仕入れで控除できる割合が、8割から7割に下がります。
  • 経過措置は適用期限が2年延長され、控除割合は7割→5割→3割と段階的に下がって2031年9月30日で終了する
  • 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了。その次の課税期間からは、個人事業者だけが使える「3割特例」に置き換わる
  • 1者あたりの仕入れが年1億円を超える部分は経過措置の対象外になる(従来の上限は10億円)

令和8年度税制改正により、インボイス制度の経過措置は「8割控除」から「7・5・3割控除」へ組み替えられました。当面の控除割合は改正前の想定(5割)より有利になった一方、終了時期は2031年9月まで後ろ倒しされ、控除限度額という新しい制約が加わっています。法人にとっては2割特例が使える最後の課税期間が目前で、次の申告方法を選び直す時期にあたります。本稿では変更点を整理したうえで、発行側・受領側それぞれの実務対応をチェックリスト形式でまとめます。

最初に結論:2026年10月1日から変わる3つのこと

まず全体像です。今回の改正で動いたのは、控除割合・控除限度額・小規模事業者向けの特例の3点です。

まず見るべき判断表|改正で動いた論点と切り替わる基準

論点2026年9月30日まで2026年10月1日から切り替わる基準
未登録事業者からの仕入れの控除割合80%70%(改正前の予定は50%だった)課税仕入れを行った日
経過措置の終了時期-2031年9月30日(改正前の予定は2029年9月30日)課税仕入れを行った日
控除限度額(1者あたり・税込)年10億円年1億円課税期間の開始日
小規模事業者の納税額の特例2割特例個人事業者のみ3割特例(2027年分・2028年分)課税期間の初日(2026年9月30日以前に開始した課税期間まで2割特例)
簡易課税の選択届出(2割・3割特例の適用者)翌課税期間中まで翌課税期間に係る申告期限までに延長翌課税期間の終了日

論点ごとに切り替わり方が違います。控除割合は「課税仕入れを行った日」、控除限度額と2割特例は「課税期間」で切り替わる。まず取引先を登録番号の有無で分け、未登録の相手ごとに課税仕入れの額を出すことが、すべての判断の出発点です。

控除割合の欄は、左が現行、右が10月以降です。改正前の法令では10月以降は50%になる予定でしたが、改正で70%に引き上げられました。現行の80%からは下がりますが、改正前の想定よりは有利になっています。

ここで注意したいのが、適用の始まり方が論点ごとに違うことです。控除割合は「課税仕入れを行った日」で切り替わるため、12月決算の法人は同じ事業年度の中で9月までが80%、10月からが70%になります。一方、控除限度額の引下げは「令和8年10月1日以後に開始する課税期間から」適用されるため、12月決算なら2027年12月期からです。2割特例の終了も課税期間単位で、9月30日をもって一律に打ち切られるわけではありません(出典:国税庁インボイス制度に関する令和8年度税制改正について、令和8年4月)。

経過措置は「8割控除」から「7・5・3割控除」へ

インボイス発行事業者以外から仕入れた場合、原則として仕入税額控除は受けられません。ただし制度開始から一定期間は、区分記載請求書と同様の事項が記載された請求書等を保存すれば、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。この割合と期間が今回組み替えられました。

控除できる割合と期間

課税仕入れを行った日控除できる割合
〜2026年9月30日80%
2026年10月1日〜2028年9月30日70%
2028年10月1日〜2030年9月30日50%
2030年10月1日〜2031年9月30日30%
2031年10月1日〜0%(控除なし)

TRANSITIONAL MEASURE

未登録事業者からの仕入れで控除できる割合(課税仕入れを行った日で判定)

〜2026年9月30日80%
2026年10月1日〜2028年9月30日70%
2028年10月1日〜2030年9月30日50%
2030年10月1日〜2031年9月30日30%
2031年10月1日〜(控除なし)0%
出典:国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」(令和8年4月)。

改正前は2026年10月から3年間が一律50%で、2029年10月に0%となる予定でした。上の表と見比べると、控除割合と期間に限れば、改正後はどの時期をとっても改正前を下回らず、控除できる期間そのものが2年延びています。免税事業者との取引が多い会社ほど、当初の想定より2026年以降のコスト増は小さく収まります。ただし次章の控除限度額のように、同じ経過措置のなかで新たに絞られた部分もあるため、全体が緩和されたわけではありません。

見落としやすいのは帳簿の書き方

この経過措置を使うには、請求書等の保存に加えて、帳簿に経過措置の適用を受ける旨の記載が必要です。国税庁の資料では、記載すべき内容として「80%控除」と「7・5・3割控除」が併記されています。置き換わるのではなく、2026年9月30日以前の仕入れは「80%控除」のまま、10月1日以後の仕入れを「7・5・3割控除」に切り替えるという運用です。会計システムの摘要欄や税区分名をすべて「80%控除」のままにしていると、10月以降の仕訳で要件を満たさなくなります。

なお、簡易課税制度や2割特例・3割特例を適用している事業者は、消費税の計算上そもそも経過措置の適用がないため、この記載は不要です。

税抜経理をしている会社は仕入価額も変わる

税抜経理の場合、経過措置の対象となる仕入れについては、仮払消費税等の額のうち控除できる割合に相当する額だけを仮払消費税等とし、残額は仕入れ等の価額に算入して所得金額を計算するのが原則です。割合が変われば、損益計算書に載る金額も変わります。これは簡易課税制度や2割特例・3割特例を適用している事業者も同様で、前項の帳簿記載が不要であることと混同しないでください。

税込33,000円の仕入れ80%控除(〜2026年9月)70%控除(2026年10月〜)
仮払消費税等2,400円2,100円
仕入高に算入する額30,600円30,900円

1件あたりは300円の差でも、免税事業者への外注が積み上がる業種では原価率に効いてきます。月次の部門別損益を見ている会社は、10月以降に原価が数字上わずかに膨らむ理由をあらかじめ共有しておくと、現場の混乱を防げます。

新設された控除限度額は「1者あたり」年1億円

今回の改正で新しく加わった制約が、控除限度額の引下げです。一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込)が、その年またはその事業年度で1億円を超える場合、超えた部分について経過措置は適用できません。

課税期間控除限度額
2024年10月1日から2026年9月30日までの間に開始する課税期間10億円
2026年10月1日以後に開始する課税期間1億円

ポイントは「一の」という限定です。未登録の相手からの仕入れの総額ではなく、取引先1者ごとに判定します。10億円であれば中小企業には縁遠い水準でしたが、1億円となると話が変わります。

もうひとつ注意したいのが、対象は「免税事業者」ではなく「適格請求書発行事業者以外の者」である点です。免税事業者は基準期間の課税売上高1,000万円以下が前提ですから、1者で年1億円超を支払う相手は、実際には免税事業者よりも登録していない課税事業者であることが多くなります。取引先を「免税事業者かどうか」で切ると見落とします。

❌ 未登録の相手からの仕入総額が1億円未満だから関係ない、と総額で判断する ⭕ 登録番号のない相手ごとに、経過措置の対象となる課税仕入れの額(税込)を集計し、1者で1億円を超える先がないかを確認する

集計に含めるのは課税仕入れに該当する支払いだけです。非課税・不課税の支払いまで足すと過大に判定してしまいます。該当しそうな取引先がある場合は、相手方に登録を検討してもらうか、上限超過分のコストを織り込んだ価格の見直しを協議することになります。いずれも時間がかかるため、資金繰り表への影響も含めて早めに着手してください。

2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了 法人は次の一手を決める

免税事業者がインボイス発行事業者になったことで課税事業者となった場合、納付税額を売上税額の2割に抑えられる2割特例(正式には「小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置」)がありました。この特例は2026年9月30日までの日の属する課税期間で終了します。

見るのは課税期間の初日です。2026年9月30日以前に始まった課税期間であれば、その期は最後まで2割特例を使えます。12月決算の法人も個人事業者も2026年1月1日開始なので、2026年10月から12月までの取引は2割特例の対象に含まれます。8月決算の法人(2026年9月1日開始)であれば、2027年8月期まで使えます。日付で一律に切れるわけではありません。

代わりに創設されたのが3割特例です。個人事業者であるインボイス発行事業者の2027年分および2028年分の消費税申告について、課税標準額に対する消費税額に7割を乗じた額を控除することで、納付税額を売上税額の3割にできます。適用を受けるには確定申告書にその旨を付記する必要があります。

なお3割特例は、2割特例と同様に、免税事業者がインボイス発行事業者になったこと、または課税事業者選択届出書を提出したことにより免税事業者でなくなる課税期間に限って適用できます。もともと課税事業者だった個人事業者は対象外です。

12月決算法人は2027年12月期以降、どちらの特例も使えない

法人にとっての分岐はここです。3割特例の対象は個人事業者に限られます。ただし2割特例が切れる時期は決算月によって違い、1月決算から8月決算の法人は2027年中に終わる課税期間まで使えます(前項のとおり、判定するのは課税期間の初日です)。以下は12月決算を例にした表です。

2026年分2027年分2028年分2029年分
個人事業者2割特例3割特例3割特例適用不可
法人(例:12月決算)2割特例適用不可適用不可適用不可

つまり12月決算の法人であれば、2026年12月期が2割特例を使える最後の課税期間になり、2027年12月期からは原則課税か簡易課税かを選ぶことになります。ただし2割特例を適用した法人には届出期限の特例があり、期首前に決め切る必要はありません(次章で詳述します)。特例の対象外であれば、従来どおり課税期間の開始前に届け出ないと原則課税で確定します。

2割特例が終わると、同じ売上でも納める消費税は増えます。新規に発生する税金の滞納で最も多いのが消費税であることと、納付の遅れを資金繰り悪化の初期症状として扱う考え方は資金繰りを安定させる手元資金の決め方で扱っています。

3割特例が使えない課税期間もある

個人事業者であっても、次のような課税期間は3割特例の対象外です。基準期間(原則として前々年)の課税売上高が1,000万円を超える課税期間、特定期間の課税売上高による納税義務免除の特例で免税点制度の適用が制限される課税期間、課税事業者選択後2年以内に一般課税で調整対象固定資産を取得した場合、一般課税で高額特定資産を取得した場合、課税期間を1か月または3か月に短縮している場合などです(出典:国税庁インボイス制度に関するQ&A 問115-2、令和8年4月追加)。

売上が伸びて基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた個人事業者は、3割特例の枠から外れる点に注意してください。

簡易課税の届出期限が「申告期限まで」に延びた

消費税の簡易課税制度は、原則として適用を受けようとする課税期間の開始前までに届出書を提出する必要があります。期が始まってしまえば選べないという、実務上きわめて厳しい期限です。

ただし2割特例を適用した事業者については、以前から例外がありました。適用を受けた課税期間の翌課税期間中であれば届出でき、その翌課税期間から簡易課税を使えるという扱いです。今回の改正は、この期限をさらに延ばしました。2割特例または3割特例の適用を受けた事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出したときは、その翌課税期間から簡易課税を適用できます。この見直しは、その翌課税期間が2026年10月1日以後に終了する課税期間である場合に適用されます。

期中までだったものが申告期限まで動いた、というのが今回の変更点です。実務的な意味は大きく、期が終わって数字が固まったあとに選べるようになりました。

具体的には、12月決算の法人が2026年12月期に2割特例を適用した場合、2027年12月期については、2027年12月期の消費税の確定申告期限(2028年2月末)までに届出書を提出すれば、簡易課税を適用できます。1年間の実績を見てから、原則課税と簡易課税のどちらが有利かを判断できるわけです。

より期限が近いのは、その1期前です。2025年12月期に2割特例を適用した12月決算の法人であれば、翌課税期間である2026年12月期は2026年10月1日以後に終了するため、この特例の条件を満たします。つまり2027年2月末までに届出書を出せば、いま進行中の2026年12月期から簡易課税を選べます。すでに終わりかけている期について、決算を締めてから選び直せるということです。見落としやすいので、まず自社がこの1期に該当しないかを確認してください。

期限がいちばん近いのは、進行中の期です

2025年12月期に2割特例を適用した12月決算の法人は、2027年2月末までに届出書を出せば、2026年12月期から簡易課税を選べます。2割特例・3割特例を適用した事業者に限った特例で、もともと課税事業者だった会社には適用されません。

❌ 2027年12月期が始まる前に、手探りで簡易課税を選ぶか決めてしまう ⭕ 2027年12月期の実績が固まってから、申告期限までに有利なほうを選んで届け出る

ただしこれは2割特例・3割特例を適用した事業者に限った特例で、もともと課税事業者だった会社には適用されません。また簡易課税そのものにも、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることという要件があります。自社が対象かどうかを、顧問税理士と早めに確認してください。

発行側のチェックリスト 記載事項・端数処理・返還インボイス

適格請求書には次の6項目が必要です。一つでも欠けるとインボイスとして認められないため、相手方から修正版の交付を求められることになります(以下、記載事項・端数処理・返還インボイスは国税庁インボイス制度 基礎編(令和8年5月)による)。

  1. インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
  4. 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)および適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称

書類の名称は問いません。また、請求書と納品書のように相互の関連が明確であれば、複数の書類全体で記載事項を満たしていれば足ります。1枚の請求書にすべてを詰め込む必要はありません。

端数処理は「1インボイスにつき税率ごとに1回」

旧システムの設定に残りやすいのが端数処理です。税抜(または税込)価額を税率ごとに合計した金額に税率を乗じ、その結果に対して端数処理を行います。切上げ・切捨て・四捨五入のいずれを使うかは任意ですが、回数は一のインボイスにつき税率ごとに1回と決まっています。

❌ 明細行ごとに消費税額を計算して端数処理し、その合計額を「税率ごとに区分した消費税額等」として記載する ⭕ 税率ごとに税抜金額を合計してから消費税額を計算し、そこで1回だけ端数処理する

旧来の販売管理システムをそのまま使っている場合、明細行ごとの端数処理が残っていることがあります。バックオフィスのDXで業務を棚卸しする際に、あわせて設定を確認してください。

返還インボイスは1万円未満なら交付不要

返品や値引きなど、売上げに係る対価の返還等を行う場合は返還インボイスの交付が必要です。ただし返還等の金額が1万円未満であれば交付義務はありません。振込手数料相当額を売上値引きとして処理する運用が広く採られているのは、この免除があるためです。

受領側のチェックリスト 少額特例と帳簿の書き方

受け取る側は、インボイスの保存が要る取引と要らない取引を仕分けられているかが要点です。以下の要件は国税庁インボイス制度 基礎編(令和8年5月)によります。

少額特例は2029年9月30日で終わる

基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿の保存のみで仕入税額控除ができます(正式には「一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置」)。適用期間は2023年10月1日から2029年9月30日までに行う課税仕入れです。

  • 基準期間は原則として個人事業者は前々年、法人は前々事業年度
  • 特定期間は原則として個人事業者は前年1月1日から6月30日まで、法人は前事業年度開始の日以後6か月の期間
  • 1万円未満の判定は1商品ごとではなく、一回の取引の税込金額で行う
  • 帳簿に「少額特例の適用がある旨」を記載する必要はない
  • 2029年10月1日以後は、課税期間の途中であってもこの特例は使えない

判定単位で迷いやすいのが、月まとめ請求書です。国税庁は「月まとめ請求書のように複数の取引をまとめた単位により判定することとはならない」と明記しています。請求書1枚の合計額ではなく、その中の取引ごとに見ます。

❌ 別々の日に購入した5,000円と7,000円を1か月分まとめて請求されたため、合計12,000円で判定して対象外とする ⭕ 取引ごとに見てそれぞれ1万円未満と判定し、どちらも少額特例の対象として扱う(同時に購入して合計12,000円になった場合は1万円以上の取引となり対象外)

逆に、月額100,000円の清掃業務のように稼働日数で割れば1日あたり1万円を下回る契約は、一回の取引が10万円なので対象外です。まとめられているから対象外、分ければ対象、という単純な話ではなく、契約や精算の単位がどこにあるかで決まります(出典:国税庁インボイス制度に関するQ&A 問112)。

インボイス不要特例は帳簿の書き方が別に決まっている

3万円未満の公共交通機関の運賃、自動販売機での購入(3万円未満)、通常必要と認められる範囲の出張旅費・日当・宿泊費・通勤手当などは、事業者の規模を問わずインボイスの保存が不要です。この場合は帳簿に「特例の対象となる旨」の記載が必要になります。

相手方の住所または所在地の記載も原則として必要ですが、実務でよく使う特例はおおむね記載不要とされています。3万円未満の公共交通機関の運賃、通常必要と認められる範囲の出張旅費・日当・宿泊費・通勤手当、3万円未満の自動販売機での購入は、いずれも住所等の記載が要りません。自動販売機の場合は、たとえば「○○市 自販機」と書けば、相手方の名称と特例の対象となる旨の双方を表したものとして扱われます。

電子帳簿保存法との関係も同時に整理する

電子で受け取った請求書は、法人税・所得税の側では電子帳簿保存法に従った電子データでの保存が必要で、紙に出力しただけの保存は認められません。一方、消費税の仕入税額控除の要件としては書面に出力して保存することも認められており、両者で扱いが異なります。混乱しやすいところですが、電子データを残しておけば双方を満たせるため、インボイス対応と電子取引データの保存対応はまとめて整理するほうが手戻りが少なく済みます。

免税事業者との価格交渉 2026年1月に下請法は「取適法」へ

控除割合が下がると、免税事業者への支払いを見直したくなります。ここは法令上の注意が要る領域です。

インボイス制度を踏まえて取引条件を見直すこと自体が直ちに問題になるわけではありません。仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の支払いをも考慮したうえで、双方納得して価格を設定したのであれば、結果として引き下げられても独占禁止法上の問題にはならないとされています。ここで見落とせないのが「相手側の仕入れにかかる消費税も考慮する」という条件です。控除できなくなる分をそのまま相手に転嫁する計算では、この条件を満たしません。

一方で、再交渉が形式的なものにすぎず、買手の都合だけで著しく低い価格を設定し、免税事業者が仕入れ時に支払っていた消費税額も払えないような価格を設定した場合は、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となります。課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、応じなければ取引を打ち切ると一方的に通告する行為も、独占禁止法上または取適法上問題となるおそれがあります(出典:財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A、令和8年1月30日改正)。

さらに2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法が改正され、中小受託取引適正化法(取適法)として施行されました。従来の資本金基準に加えて従業員基準が導入されて対象が広がり、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止が加わっています。従業員数だけで新たに対象となる会社もあるため、自社が委託側として規制対象に入っていないかを確認してください(出典:公正取引委員会中小受託取引適正化法(取適法)関係)。

❌ 「10月から控除が7割になるので、消費税相当分を値引きしてください」と一斉に通知する ⭕ 影響額を試算して提示し、価格改定について個別に協議し、その記録を残す

協議の記録を残すことは、法令対応であると同時に自社を守る資料にもなります。取引条件を見直すときは、契約書のチェック観点もあわせて確認してください。協議の場で相手の回答の根拠を確かめ、その日のうちに記録に残す進め方は営業ヒアリングの技術を仕組みに変えるで扱っています。取適法の施行後に、支払条件をめぐって実際に勧告が出た例は「給湯器メーカーに取適法で勧告。手形と金型保管、支払条件を見直す」で取り上げています。

いま着手する順番

残された時間で優先順位をつけるなら、次の順です。

  1. 取引先を登録番号の有無で分類し、未登録の相手ごとに課税仕入れの額を集計する(控除限度額の判定と影響額の把握を同時に行える)
  2. 会計システムの税区分と摘要の表記を「7・5・3割控除」に対応させる(10月1日をまたぐ課税期間では、9月分と10月分で割合が変わる)
  3. 2割特例を使ってきた法人は、次の課税期間の申告方法を検討する(届出期限の特例が使えるかを税理士に確認する)
  4. 販売管理システムの端数処理と、返還インボイスの運用を点検する
  5. 価格改定が必要な取引先を洗い出し、協議の日程と記録の残し方を決める

5問で確認する インボイス改正への対応度

2026年10月をまたぐ実務の準備ができているかを確かめる簡易チェックです。

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5問で確認|インボイス改正への対応度

自社の経理と取引先の状況を思い浮かべて、いまの状態にいちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。

回答の進捗0 / 5
  1. Q1取引先を登録番号の有無で分類し、未登録の相手ごとの課税仕入れの額(税込)を集計している
  2. Q2会計システムの税区分と摘要を、10月1日以後の仕入れは「7・5・3割控除」で記載できるようにした
  3. Q32割特例が使える最後の課税期間と、次の申告方法(原則課税か簡易課税か)の検討状況を把握している
  4. Q4請求書の端数処理が「1インボイスにつき税率ごとに1回」になっているか点検した
  5. Q5免税事業者との価格を見直す場合に、個別協議と記録を残す段取りがある

※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。

まとめ

2026年10月1日は、インボイス制度の実務にとって制度開始以来の大きな区切りです。控除割合は8割から7割に下がり、経過措置の終了は2031年9月30日まで延びました。改正前より不利になる期間はなく、控除できる期間そのものが2年延びています。同時に、1者あたり年1億円という控除限度額が新設され、2割特例は2026年9月30日までの日の属する課税期間で終了します。個人事業者には3割特例という受け皿がありますが、法人にはありません。

まず着手すべきは、取引先を登録番号の有無で分類し、未登録の相手ごとに課税仕入れの額を出すことです。ここが決まれば、影響額の試算も、価格協議の要否も、申告方法の選択も判断できます。なお、自社にどの特例が使えるかは課税売上高や過去の届出状況によって変わるため、個別の判断は顧問税理士に確認のうえ進めてください。

NEXT ACTION / 次にやること

未登録の取引先ごとに、課税仕入れの額を集計する

取引先マスタに登録番号の有無を付け、登録番号のない相手ごとに経過措置の対象となる課税仕入れの額(税込)を出してください。1者で1億円を超える先がないか、10月以降の影響額はいくらかが、この1枚で判断できます。

※本稿は2026年9月7日時点で公表されている国税庁および公正取引委員会等の資料に基づいています。制度は改正されることがあるため、実際の判断にあたっては最新の公表資料をご確認ください。

よくある質問

Q12月決算の法人です。2026年10月1日をまたぐ事業年度は、控除割合をどう扱えばよいですか。
A

控除割合は課税仕入れを行った日で判定するため、同じ事業年度でも2026年9月30日までの仕入れは80%、10月1日以後の仕入れは70%になります。事業年度単位で一律に決まるわけではありません。一方、控除限度額の1億円への引下げは2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されるため、12月決算なら2027年12月期からです。

Q2割特例が終わったあと、簡易課税と原則課税のどちらを選ぶべきですか。
A

仕入れが少なく、みなし仕入率が実際の仕入率を上回る業種では簡易課税が有利になりやすい傾向があります。ただし設備投資を予定している場合は原則課税のほうが有利になることもあり、業種と個別事情で変わります。2割特例を適用した事業者は届出期限の特例が使えるため、実績を見てから判断できる余地があります。

Q未登録の取引先への支払いが年1億円を超えそうです。どの時点で判定するのですか。
A

その年またはその事業年度における、一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込)で判定します。未登録の相手全体の合計ではなく、取引先1者ごとです。また対象は免税事業者に限らず、登録していない課税事業者への支払いも含みます。超えた部分についてのみ経過措置が使えなくなります。

Q個人事業者ですが、3割特例の適用に届出は必要ですか。
A

事前の届出は不要ですが、確定申告書にその旨を付記する必要があります。ただし対象は、免税事業者がインボイス発行事業者になったこと等により免税事業者でなくなる課税期間に限られます。加えて、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間など、適用できない課税期間が定められています。

Q少額特例は2029年9月30日で終わりますが、期の途中でも打ち切られますか。
A

はい。2029年10月1日以後は、課税期間の途中であってもこの特例は適用できません。期首から期末まで一律に扱えない点に注意が必要です。

Q免税事業者に消費税相当額の値引きを求めるのは違法ですか。
A

一律に違法というわけではありません。免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の支払いも考慮したうえで、再交渉を経て双方が納得して価格を設定したのであれば問題とはされません。ただし再交渉が形式的で、買手の都合だけで著しく低い価格を設定した場合や、応じなければ取引を打ち切ると一方的に通告した場合は、独占禁止法上または取適法上問題となるおそれがあります。

出典・調査の対象範囲

※自己診断は実務の論点を整理するための編集部の目安です。どの特例が使えるかは課税売上高や届出状況で変わるため、個別の判断は顧問税理士にご確認ください。

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