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部門別損益の作り方 共通費を配賦しないで月次を回す最短ルート

公開 2026.09.01

部門別損益は共通費を配賦しない形から始めるのが最短です。限界利益・貢献利益・営業利益の使い分け、部門の切り方、配賦してもしなくても意思決定が変わらないことを数値例で示し、10営業日で締める実務まで整理します。

部門別損益は、共通費を配賦せず「限界利益と貢献利益まで」を毎月出す形から始めるのが最短です。
  • 配賦基準を売上比にしても人数比にしても、打つべき手は変わらない。数値例で後述します
  • 部門長が責任を負えるのは貢献利益(限界利益−部門固定費)まで。本社家賃や役員報酬を背負わせない
  • 採算の可視化に取り組む中小企業の61.2%は月1回の頻度で回している。精度より継続の勝負

「会社全体では黒字だが、どの事業が稼いでいるかを説明できない」。この状態を抜け出す手段が部門別損益です。ところが多くの会社は最初の一歩で「共通費をどう配賦するか」の議論に入り、答えが出ないまま止まります。本稿は、配賦の議論を意図的に飛ばして、来月から回せる形を作ることに絞ります。売上高1.2億円・3部門の会社を通しの数値例に使い、限界利益で見ると部門の順位が入れ替わること、配賦してもしなくても結論が同じであることを、実際の数字で確認していきます。

最初に結論:何を・どの単位で・いつまでに出すか

最初に完成形を示します。この6行が毎月出れば、部門別損益としては十分に機能します。項目を増やすのは、この形が3か月続いてからで構いません。

まず見るべき判断表|毎月出す6行の完成形

出すもの計算単位期限主な使い道
限界利益売上高 − 変動費部門ごと翌月10営業日以内価格改定・追加受注の可否
限界利益率限界利益 ÷ 売上高部門ごと同上注力先の選択・部門の順位づけ
部門固定費その部門をやめれば消える固定費部門ごと同上部門長が管理する対象
貢献利益限界利益 − 部門固定費部門ごと同上部門評価・撤退判断
共通費本社経費・役員報酬など全社に一括(配賦しない)同上総額の妥当性だけを見る
営業利益貢献利益合計 − 共通費全社のみ同上着地確認・金融機関への説明

部門ごとに出すのは貢献利益まで。共通費は配賦せず全社の1行に置く。精度7割・翌月10営業日・6か月継続が、完璧な資料より多くの判断を生みます。

ポイントは、部門ごとに出すのは貢献利益までで止めること、そして共通費は一括で下に置くことの2点です。部門別の営業利益は作りません。作らなくても意思決定はできますし、作ると誤った判断を招くことがあるからです。理由は後段で数字とともに説明します。

半数が採算の可視化に着手。ただし多くは「粗利どまり」

中小企業の採算管理の現在地を、国の調査で確認しておきます。着手率は約半数ですが、中身は財務会計の延長にとどまっているのが実情です。

中小企業庁は、全国の中小企業・小規模事業者2万社を無作為抽出し、2025年1月17日から31日にかけて採算可視化に関するアンケートを実施しました。回答数は2,529件(回収率12.6%)です。この調査によると、採算可視化に「取り組んでいる」と答えた事業者は49.4%、「取り組んでいない」は24.0%でした(出典:中小企業庁中小企業・小規模事業者の採算可視化に関する調査事業【調査報告書】、2025年3月/中小企業庁「会計」ページにて2025年5月30日公開)。

注目したいのは、その中身です。同調査で「採算可視化の範囲」を複数回答で尋ねた結果は、粗利68.1%、売上高61.2%、営業利益43.3%の順でした。報告書はこれについて「中小企業・小規模事業者の採算可視化の範囲は、既存の財務会計としている場合が多く、独自の集計が必要な管理会計は少ない」と分析しています。つまり、多くの会社は決算書の科目をそのまま部門別に割った資料を作っていて、変動費と固定費に分け直す作業まではしていないということです。

ここが本稿の出発点になります。粗利(売上総利益)は財務会計の利益概念で、製造原価に含まれる固定費が混ざっています。売上が半分になっても粗利は半分にならないため、「この部門を伸ばすといくら利益が増えるか」「値下げしても受けるべきか」という問いには答えられません。答えられるのは限界利益です。

同じ調査では、実施の頻度は「概ね月に1回」が61.2%と最も多く、「概ね1年間に1回」16.6%、「概ね四半期に1回」12.8%が続きます。集計方法は「汎用ソフトでの集計」39.2%、「紙ベースでの集計」22.6%、「専門ソフトでの集計」21.1%でした。専用システムを導入している会社より、表計算ソフトで回している会社のほうが多い。高価な仕組みがないから始められない、という言い訳は立たないということでもあります。

PUBLIC SURVEY

中小企業の採算可視化の実態

49.4%

採算可視化に「取り組んでいる」

61.2%

実施頻度は「概ね月に1回」が最多

可視化の範囲:粗利68.1%
可視化の範囲:売上高61.2%
可視化の範囲:営業利益43.3%
集計方法:汎用ソフト39.2%
集計方法:紙ベース22.6%
集計方法:専門ソフト21.1%
出典:中小企業庁「中小企業・小規模事業者の採算可視化に関する調査事業【調査報告書】」(2025年3月、回答2,529件)。範囲は複数回答。

財務会計と管理会計は目的が違う

前提として、この2つは別の仕事です。混同すると「税務上正しいか」という論点に引きずられ、いつまでも運用が始まりません。

財務会計は、税務署・金融機関・株主といった社外に向けて、決められたルールで過去を報告するものです。中小企業庁と金融庁が事務局を務める「中小企業の会計に関する検討会」が公表した中小会計要領も、中小企業には「会計情報の開示を求められる範囲が、取引先、金融機関、同族株主、税務当局等に限定されている」という実態を踏まえて整備されたルールです(出典:中小企業の会計に関する検討会中小企業の会計に関する基本要領、2012年2月公表。引用箇所は同ページ掲載のリーフレット)。

対して管理会計は、経営者が意思決定するための社内向けの情報です。ルールは自社で決めてよく、その基準について税務署の承認を求められることも、監査の対象になることもありません。 部門をどう切るか、何を変動費に入れるか、共通費を配賦するかしないかは、すべて自社の裁量です。判断基準は「正しいか」ではなく「判断に役立つか」の一点になります。

❌ 「部門別に分けた数字が税務上どう扱われるか、まず顧問税理士に確認してから設計する」 ⭕ 「社内で判断に使う資料だから自社で決める。決算書との一致は年1回、全社合計だけ合わせれば足りる」

なお、部門別損益で見えるのは損益(利益)だけで、手元資金の増減は見えません。利益が出ていても入金が遅ければ資金は減ります。この2つは別々に管理する必要があるため、資金繰りを安定させる基本や資金繰り表の作り方は別の仕組みとして持ってください。本稿は「利益をどの単位で分けて見るか」に絞ります。

限界利益・貢献利益・営業利益を使い分ける

部門別損益では、利益を一段ずつ積み上げて見ます。3つの利益はそれぞれ用途が違い、混ぜて使うと判断を誤ります。

まず定義を正確に押さえます。限界利益は売上高から変動費を差し引いた額で、「固定費の回収に貢献する利益」です。変動費は売上規模(販売量)に応じて金額が増減する費用、固定費は売上規模に関係なく一定金額が発生する費用を指します(出典:中小機構J-Net21「損益分岐点の計算方法と経営改善に向けた活用方法を教えてください。」、2026年9月閲覧)。ここから、損益分岐点売上高は「固定費 ÷(1 − 変動費率)」で求められます。

利益段階計算責任者主な用途
限界利益売上高 − 変動費部門長価格改定・受注可否・増販効果の試算
貢献利益限界利益 − 部門固定費部門長部門評価・撤退判断・投資判断
営業利益貢献利益合計 − 共通費経営者全社の着地確認・対外説明

線引きの原則は明快です。部門長が責任を負うのは貢献利益まで。 本社家賃、役員報酬、経理・総務の人件費、システム利用料といった、部門長が金額を動かせない費用まで背負わせると、評価に対する納得感が失われ、資料そのものが信用されなくなります。

変動費と固定費の分け方は勘定科目法で十分

理論的には回帰分析や高低点法といった手法がありますが、中小企業では勘定科目法(科目ごとにどちらかへ割り切る方法)で問題ありません。仕入高・材料費・外注加工費・運賃・販売手数料・支払報酬(案件連動分)を変動費、人件費・地代家賃・減価償却費・保険料・水道光熱費の基本料金を固定費とします。

迷う科目は「売上がゼロの月でも発生するか」で振り分けてください。発生するなら固定費です。前掲のJ-Net21も、実際の企業で費用を変動費と固定費に明確に分類することは困難であり、実状に合わせて簡便的に分類して分析手法を活用することを勧めています。精度は7割で構いません。毎月同じ基準で続けることのほうが、分類の精緻さより価値があります。

売上の順位と限界利益の順位は入れ替わる

ここから通しの数値例を使います。売上高1.2億円、3部門の会社です。売上で並べたときと限界利益で並べたときで、部門の順位が入れ替わります。

A事業部は機器販売、B事業部は受託加工、C事業部は保守サービスとします。単位は万円です。

項目A事業部(機器販売)B事業部(受託加工)C事業部(保守)全社共通合計
売上高6,0004,0002,000−12,000
変動費4,5002,200600−7,300
限界利益1,5001,8001,400−4,700
限界利益率25.0%45.0%70.0%−39.2%
部門固定費1,2001,0001,500−3,700
貢献利益300800△100−1,000
共通費−−−700700
営業利益−−−−300

この表から3つのことが読み取れます。

第一に、売上の順位はA→B→Cですが、限界利益の順位はB→A→Cに入れ替わります。 売上6,000万円のA事業部が生む限界利益は1,500万円、売上がその3分の2しかないB事業部は1,800万円。社内で「うちの主力はA事業部」と言われていても、固定費を回収しているのはB事業部のほうです。売上規模で発言力が決まっている会社ほど、この逆転は起きています。

第二に、限界利益率が高い部門が儲かっているとは限りません。 C事業部の限界利益率は70.0%と最高ですが、技術者を抱えているため部門固定費が1,500万円かかり、貢献利益は△100万円です。限界利益率だけを見て「保守を増やそう」と決めると、増えた分だけ人が必要になり、固定費も一緒に増えます。

❌ 「粗利率が高いC事業部が優良事業だから、営業リソースをここに寄せる」 ⭕ 「C事業部は限界利益率は高いが貢献利益がマイナス。固定費を回収できる売上規模まで伸ばせるか、固定費を減らせるかを先に検討する」

第三に、全社の営業利益300万円という数字だけを見ていると、この構造は一切見えません。 決算書は正しいのに、どこに手を打てばよいかが分からない。これが「全社黒字だが説明できない」状態の正体です。

共通費を配賦しても、打つ手は変わらない

多くの会社が止まるのが共通費700万円の扱いです。結論から言えば、配賦基準を変えると部門の黒字・赤字は簡単にひっくり返りますが、取るべき行動は変わりません。実際に計算します。

配賦の基準として、実務でよく使われる「売上高比」と「人数比」の2つを試します。人数はA事業部12人、B事業部8人、C事業部15人(本社5人は配賦対象外)とします。

項目A事業部B事業部C事業部合計
貢献利益(配賦なし)300800△1001,000
売上高比の配賦額(6:4:2)350233117700
売上高比での部門営業利益△50567△217300
人数比の配賦額(12:8:15)240160300700
人数比での部門営業利益60640△400300

見ての通り、A事業部は売上高比で配賦すると△50万円の赤字、人数比で配賦すると60万円の黒字になります。同じ月の同じ実績なのに、配賦基準を選ぶだけで評価が反転する。この議論に決着はつきません。どちらの基準にも一定の理屈があり、どちらを選んでもA事業部の営業活動は1円も変わらないからです。

A事業部|売上高比で配賦

△50万円

部門営業利益は赤字に見える

A事業部|人数比で配賦

60万円

同じ月の同じ実績で黒字に反転

一方で、どちらの基準でも変わらない事実があります。貢献利益がマイナスなのはC事業部だけであり、C事業部の固定費1,500万円が限界利益1,400万円を回収しきれていない、という構造です。打つべき手は「C事業部の固定費を見直すか、売上を伸ばして限界利益を1,500万円超にするか」の二択で、これは配賦の有無に左右されません。

❌ 「まず配賦基準を決めないと部門別の利益が出せないので、次の役員会で議論する」 ⭕ 「共通費は全社の1行にまとめて置く。配賦は情報を増やさないので、運用が3か月続くまで議論しない」

実際、国の事例集に載っている企業も同じ判断をしています。売上高の5割程度を占める主要12商品について変動費原価を集計している製造業の事例では、「変動費は商品に関連付けやすい一方、固定費は商品に配賦することが難しいため、商品にかかっているコストを把握するために、変動費に注目して固定費を推計」しており、「過度に複雑にならないよう、商品間のコスト配賦は極力少なくしている」と説明されています(出典:中小企業庁中小企業・小規模事業者の採算可視化に関する取組事例集、2025年5月)。配賦を減らすことは、手抜きではなく設計判断です。

部門の切り方と、共通の人員をどう扱うか

部門をどう切るかで、見える景色が変わります。事業別・拠点別・顧客別・製品別の4つが代表的で、自社がどれを選ぶべきかには判断基準があります。

切り方向いている会社長所つまずきやすい点
事業別複数の商材・サービスを持つ撤退・投資の判断単位と一致する兼務者の人件費をどこに置くか
拠点別支店・工場・店舗が複数ある売上と原価がそのまま紐づく拠点間の応援・売上振替の処理
顧客別上位数社に売上が集中している値上げ交渉の材料に直結する毎月続けると集計負荷が重い
製品別品目数が限られる製造業価格設定・見積精度に直結する品目が多いと運用が破綻する

選ぶ基準は3つです。(1) 売上と、それに直課できる原価が同じ単位で紐づくか。(2) その単位に責任者が実在するか。(3) その単位で打ち手を変えられるか。 3つとも満たすものが1つだけなら迷う必要はありません。複数当てはまる場合は、まず1つで始めて、後から2軸目を足すほうが確実です。

前出の事例集には、商品別・工場別・顧客別の3軸で採算を可視化している製造業の例もありますが、そこでも顧客別の営業利益分析は半年ごとの実施とされています。毎月回す軸は1つ、負荷の重い軸は半期に一度という切り分けは、現実的な落としどころです。

共通の人員は、原則として按分しない

経理も現場も、いちばん手が止まるのがここです。総務兼営業、社長、複数部門を見る工場長。この人たちの人件費をどうするか。

判断の順番はこうです。第一に、原則は按分せず全社共通費に置きます。 部門長が動かせない人件費を部門に載せても、意思決定は変わりません。

第二に、例外的に按分するのは「その人の人件費が、載せる先の部門固定費の1割を超える」場合だけにします。たとえば部門固定費1,000万円のB事業部に、年収600万円の兼務者が半分の時間を割いているなら300万円で3割。これは無視できないので按分します。逆に、月に数時間しか関与しない人を按分しても、金額が小さすぎて結論は動きません。

第三に、按分比率は四半期に一度だけ決め、期中は固定します。 毎月比率を変えると前月比較ができなくなり、数字が動いた原因が「実態の変化」なのか「比率の変更」なのか分からなくなります。

❌ 「兼務者の実態を正確に反映するため、全社員に日次のタイムシートを付けてもらう」 ⭕ 「按分するのは金額の大きい数名だけ。比率は四半期に一度、本人と上長の申告で決めて期中は動かさない」

タイムシートの全社導入は、部門別損益の運用が止まる典型的な原因です。集計コストが増えるのに、出てくる数字の使い道は増えません。導入するなら、部門別損益とは別の目的(工数見積の精度向上など)で判断してください。

部門コードと月次締め:10営業日で出すための実務

設計と締めのスピードは連動します。部門コードを細かくしすぎると仕訳入力が滞り、締めが遅れ、資料が使われなくなります。

部門コードはまず5〜8部門に留め、階層構造にしておきます。1000番台を営業、2000番台を製造、3000番台をサービス、9000番台を全社共通とし、後から枝番(1010、1020…)で細分化できる余地を残す形です。最小単位の目安は、売上と、それに直課できる原価が紐づく単位。この条件を満たさない単位を作ると、そこは必ず按分だらけになります。

締めを10営業日以内に収めるための実務は次のとおりです。

  • 請求書の受領締切を毎月5営業日目に固定し、それ以降の到着分は翌月処理とする
  • 減価償却費・賞与引当・年払保険料は、年額の12分の1を毎月概算計上する
  • 棚卸は四半期に一度の実地とし、月次は理論在庫で回す
  • 発生額が月10万円未満の科目は精緻化せず、前月と同額でよしとする
  • 部門コード未入力の仕訳を抽出するチェックを、月次ルーティンに組み込む
  • 締め日を「毎月◯営業日」とカレンダーに固定し、資料が揃わなくても出す

早さは精度に優ります。 翌月25日に出る完璧な資料より、翌月10日に出る8割の資料のほうが手を打てます。8割の資料で誤った判断をする確率より、資料が間に合わずに判断そのものをしない期間が続く損失のほうが大きい、というのが実務上の感覚です。締め作業そのものが重いなら、バックオフィスDXの7つのステップの観点から、入力工程を減らす方向で見直すのが先になります。

撤退判断は貢献利益で行う

部門別損益を作ったあとに起きる最大の事故が、営業利益の赤字を理由にした撤退です。共通費は撤退しても残るため、全社利益はかえって悪化します。

先ほどの数値例で、C事業部を撤退した場合を計算します。ポイントは、部門固定費のうち実際にいくら減らせるかです。

項目現状C撤退(部門固定費1,500を全額削減)C撤退(部門固定費1,000のみ削減)
限界利益4,7003,3003,300
部門固定費3,7002,2002,700
貢献利益1,0001,100600
共通費700700700
営業利益300400△100

固定費を全額削減できるなら営業利益は300万円から400万円に改善します(貢献利益△100万円が消えるため)。しかし、C事業部の人員のうち一部を他部門に配置転換して雇用を維持し、削減できるのが1,000万円にとどまるなら、営業利益は△100万円に転落します。貢献利益がマイナスでも、固定費を実際に落とせなければ撤退はマイナスになる。 これが撤退判断の核心です。

逆に、貢献利益がプラスの部門を「営業利益が赤字だから」という理由で撤退すると、確実に悪化します。前掲の売上高比配賦ではA事業部が△50万円の赤字に見えました。A事業部を撤退し、部門固定費1,200万円を全額削減できたとしても、限界利益1,500万円が消えるため、全社の貢献利益は1,000万円から700万円へ、共通費700万円を引いた営業利益は300万円から0円になります。赤字に見えた部門を切って、利益が300万円減る。 配賦した営業利益で判断してはいけない理由は、この一点に尽きます。

したがって撤退の検討順序は、(1) 貢献利益が継続的にマイナスか(単月ではなく6か月以上)、(2) 部門固定費のうち実際に削減できる額はいくらか、(3) 人員と設備を他部門へ転用できるか、(4) その部門が他部門の受注に貢献していないか、の4段階になります。(4)は特に見落としがちで、保守部門が新規機器販売の入口になっているようなケースでは、貢献利益の数字だけで切ると本体の売上まで落ちます。資金繰りが逼迫した局面での判断は時間軸が変わるため、事業再生の判断タイミングの観点も併せて検討してください。

出てきた数字を何に使うか

使い道が決まっていない数字は続きません。部門別損益から取れる打ち手は、価格・受注・投資・評価の4つです。

01 / PRICE

価格改定

値上げと増販のどちらが効くかは、限界利益率で逆転する。

02 / ORDER

受注可否

粗利率ではなく限界利益と、増える固定費で判断する。

03 / INVEST

投資判断

増える固定費を回収するのに必要な売上増を出す。

04 / REVIEW

評価

部門長は貢献利益で、四半期・半期の累計で評価する。

価格改定。 前掲の国の調査でも、採算可視化の用途は「既存のビジネス等の価格設定」が64.1%で最多、効果としても「適切な価格設定」が66.2%で最多でした。値上げと増販のどちらが効くかは、その部門の限界利益率で逆転します。ここを一般論で決めると打ち手を間違えます。

A事業部(売上6,000万円、変動費4,500万円、限界利益率25%)で3%値上げできれば、売上は6,180万円、変動費は数量が同じなので4,500万円のまま、限界利益は1,680万円で180万円の増加です。単価を据え置いて数量を10%増やすと、売上6,600万円・変動費4,950万円・限界利益1,650万円で150万円の増加。A事業部では値上げが勝ちます。

ところが同じ計算を3部門でやると、結論が割れます。

部門限界利益率3%値上げ10%増販効くのは
A25%+180万円+150万円値上げ
B45%+120万円+180万円増販
C70%+60万円+140万円増販

分岐点は「限界利益率が値上げ率÷増販率を下回るか」です。この例では3%÷10%=30%なので、限界利益率30%未満の部門は値上げ、それ以上の部門は増販が効きます。自社の部門ごとに、必ず両方を計算してください。なお増販側は残業や外注で固定費が増えることがあるため、その分は割り引いて見る必要があります。

受注可否。 「売上200万円、原価170万円(うち変動費150万円、製造現場の人件費など固定費が20万円)」の追加案件が来たとします。粗利率は15%で、社内基準の30%を下回るから断る、と判断する会社は多い。しかし原価に混ざっている固定費20万円は、この案件を受けても受けなくても発生します。変動費だけを引いた限界利益は50万円で、その仕事を追加しても部門固定費が増えないなら、貢献利益は50万円増えます。判断すべきは「その案件のために増える固定費(残業代・外注・設備)はいくらか」「その価格が既存顧客に波及しないか」の2点であって、粗利率の社内基準ではありません。粗利率で断ると、空いている設備と人を遊ばせたまま50万円を捨てることになります。

投資判断。 部門固定費を増やす投資(人員採用・設備導入)は、増える固定費を回収するのに限界利益がいくら必要かで判断します。年500万円の固定費が増えるなら、限界利益率45%のB事業部では約1,111万円(500 ÷ 0.45)の売上増が必要という計算になります。この数字を出さずに採用を決めると、翌期に貢献利益が沈みます。

評価。 部門長の評価は貢献利益で行い、共通費は経営者が責任を持ちます。ただし単月の貢献利益で評価すると、必要な投資を先送りする動きが出ます。四半期または半期の累計で見るのが現実的です。数字を現場の行動につなげる設計は、KPI設計と運用の考え方と重なります。

新規事業を立ち上げた直後の部門は、貢献利益がマイナスで当然です。この場合は「いつまでにいくらの限界利益に到達すれば継続」という判定条件を先に決めてから始めます。判定条件がないまま貢献利益だけを毎月眺めると、撤退の議論が延々と続きます。立ち上げ期の見極め方は新規事業の仮説検証の進め方の論点でもあります。

なお、貢献利益から先——投下した資本に対してどれだけ稼げているかを見る段階に進むなら、ROICの考え方と活用事例が次のステップになります。部門別損益はその前提となる数字を作る工程です。

半年で止まる会社と、続く会社の違い

最後に、運用が止まる理由と、止めないための条件を整理します。止まる原因は「やる気」ではなく設計にあります。

国の調査では、採算可視化の阻害要因として「効果が不明」37.3%、「費用がかかる」31.9%、「方法が分からない」29.8%が上位に並びました。一方で「実施したい」と答えた事業者は48.0%、「実施したいとは思わない」は11.0%です。やる気の問題ではなく、効果と方法が見えていないことが上位に来ています。なおこの設問は着手を阻む要因を尋ねたもので、いったん始めた運用が続くかどうかを調べたものではありません。ただ、続かない会社に同じことを聞いても、答えはそう変わらないはずです。

これを裏返すと、続く会社の条件は3つです。

第一に、使い道を先に決めていること。 「来期の値上げ交渉の材料にする」「C事業部を続けるかを9月に判断する」といった具体的な使途を決めてから作り始める。用途が「なんとなく把握したい」だと、3か月目に優先順位が下がります。同調査では採算可視化の活用状況について「よく活用している」27.5%と「多少活用している」44.6%の合計72.1%が、「あまり活用していない」「ほぼ活用していない」の合計23.5%の3.1倍にのぼっており、取り組んだ会社の多くは実際に使っています。

第二に、月次で回していること。 前述のとおり実施頻度は月1回が61.2%で最多です。年1回では判断のタイミングに間に合わず、記憶も残りません。

第三に、数字を経営者だけで抱えないこと。 事例集に掲載されている従業員82人の鋳造メーカーでは、全社および部門別の損益を管理職が朝礼で報告し、5か所の工場では限界利益を表計算ソフトで毎日集計して固定費と比較しています。限界利益が固定費を上回らない場合には原因と対策を検討する運用で、価格やコストへの関心が低かった製造現場の従業員が、商品の価格や納期を積極的に提案するようになったという行動変容が報告されています(前掲・取組事例集)。数字を共有すると、判断する人が増えます。

止まる会社の典型は2パターンです。一つは配賦基準の議論に数か月を費やして運用開始が遅れるケース。もう一つは初回から完璧な数字を求め、経理担当者が疲弊して半年で止まるケースです。どちらも「精度を上げれば価値が上がる」という前提から来ています。実際には、精度7割・翌月10日・6か月継続のほうが、精度10割・翌月25日・3か月で終了より、はるかに多くの判断を生みます。

まずは6か月続けることを目標にしてください。6か月分の推移が並ぶと、単月では見えなかった傾向が読めるようになります。そこまで来れば、部門の追加も配賦の検討も、必要になった時点で自然に判断できます。金融機関への説明資料としても、部門別の推移が示せる会社は説得力が違います。事業の見通しを数字で語る場面では、事業計画書の作成ポイントと組み合わせて使えます。

5問で確認する 部門別損益の運用準備度

来月から部門別損益を回せる状態かを確かめる簡易チェックです。

SELF CHECK / 無料・登録不要

5問で確認|部門別損益の運用準備度

自社の月次決算と部門の状況を思い浮かべて、いまの状態にいちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。

回答の進捗0 / 5
  1. Q1費用を変動費と固定費に分ける基準(売上ゼロの月でも発生するか)を決めている
  2. Q2部門ごとに限界利益と貢献利益まで出している
  3. Q3共通費は配賦せず、全社の1行にまとめて置いている
  4. Q4月次の部門別資料が、翌月10営業日以内に出ている
  5. Q5数字の使い道(値上げ交渉・撤退判断など)を先に決めている

※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。

まとめ

部門別損益は、共通費の配賦の議論を飛ばし、限界利益と貢献利益までを毎月出す形から始めるのが最短です。売上の順位と限界利益の順位は入れ替わり、配賦基準を変えると部門の黒字・赤字は反転しますが、打つべき手は変わりません。撤退は貢献利益と、実際に削減できる固定費で判断してください。

NEXT ACTION / 次にやること

先月の数字で、3部門分の限界利益と貢献利益を出してみる

勘定科目ごとに「売上ゼロの月でも発生するか」で変動費と固定費に振り分け、部門ごとに限界利益と貢献利益を計算してください。共通費は全社の1行に置いたままで構いません。売上の順位と限界利益の順位が入れ替わっていないかを確かめるところから始めましょう。

よくある質問

Q部門別損益は、会計ソフトの部門管理機能で作らないといけませんか。
A

必要ありません。国の調査では、採算可視化の集計方法は「汎用ソフトでの集計」が39.2%で最多、「紙ベースでの集計」22.6%、「専門ソフトでの集計」21.1%の順でした。表計算ソフトで回している会社のほうが多いのが実態です。ただし、仕訳に部門コードを付けておけば転記の手間が減り、締めも早くなります。会計ソフトに部門機能があるなら、まずは5〜8部門の粗い設定で使い始めるのが効率的です。

Q粗利ではなく限界利益で見るべき理由は何ですか。
A

粗利(売上総利益)は財務会計の利益で、製造原価に含まれる労務費や減価償却費といった固定費が混ざっています。売上が半分になっても粗利は半分にならないため、「この受注を取ると利益がいくら増えるか」「値下げしても受けるべきか」という問いに答えられません。限界利益は売上高から変動費だけを引いた額なので、売上の増減に比例して動きます。判断に使えるのはこちらです。なお国の調査では、採算可視化の範囲として粗利を挙げた事業者が68.1%と最も多く、報告書も「独自の集計が必要な管理会計は少ない」と分析しています。

Q共通費を配賦しないと、部門別の営業利益が出ません。問題ないですか。
A

問題ありません。部門別の営業利益は、配賦基準によって黒字にも赤字にもなる数字です。本稿の数値例では、同じA事業部が売上高比の配賦で△50万円、人数比の配賦で60万円になりました。どちらを採用しても部門長の行動は変わらず、情報は増えません。全社の営業利益は共通費を一括で引けば正しく出ますし、金融機関への説明もそれで足ります。配賦を検討するのは、運用が定着し、共通費の使われ方に部門間で明確な差があると分かってからで構いません。

Q部門固定費と共通費は、どうやって線を引けばいいですか。
A

「その部門をやめたら、その費用は消えるか」で判断します。消えるなら部門固定費、残るなら共通費です。部門専属の人件費、その部門だけが使う設備のリース料や減価償却費、部門の営業車の費用は部門固定費。本社家賃、役員報酬、経理・総務の人件費、全社共通のシステム利用料は共通費です。判断に迷うものは共通費に寄せてください。共通費に置いても意思決定は歪みませんが、動かせない費用を部門固定費に入れると貢献利益が歪みます。

Q貢献利益が赤字の部門は、すぐに撤退すべきですか。
A

すぐには決められません。確認すべきは4点です。(1) 単月ではなく6か月以上マイナスが続いているか、(2) 部門固定費のうち実際に削減できる額はいくらか、(3) 人員と設備を他部門に転用できるか、(4) その部門が他部門の受注や顧客維持に貢献していないか。本稿の数値例では、貢献利益△100万円のC事業部を撤退しても、部門固定費1,500万円のうち1,000万円しか削減できなければ、全社の営業利益は300万円から△100万円に悪化します。撤退の効果は「消える限界利益」と「実際に減らせる固定費」の差で決まります。

Q部門をまたいで働く社員の人件費は、どう扱えばいいですか。
A

原則は按分せず、全社共通費に置きます。按分を検討するのは、その人の人件費が載せる先の部門固定費の1割を超える場合だけで十分です。按分する場合も、比率は四半期に一度だけ決めて期中は固定してください。毎月比率を変えると、数字の増減が実態の変化なのか比率変更の影響なのか分からなくなります。全社員に日次のタイムシートを付けさせる方法は、集計負荷に対して得られる判断材料が見合わないことが多く、運用が止まる原因になりがちです。

Q部門別損益を作れば、資金繰りも良くなりますか。
A

直接には結びつきません。部門別損益で見えるのは損益であり、入出金のタイミングは別です。利益が出ていても、売掛金の回収が遅く在庫が積み上がっていれば手元資金は減ります。部門別損益は「どの事業が稼いでいるか」を示す道具、資金繰り表は「いつ現金が足りなくなるか」を示す道具で、役割が違います。両方を別々に持ったうえで、部門別損益で示された打ち手(値上げ、撤退、投資の見送り)が資金繰りにどう効くかを確認する、という順序で使ってください。

出典・調査の対象範囲

※売上高1.2億円・3部門の数値例は、考え方を示すための編集部の設例です。自社の部門設計や撤退判断は、実際の数字で確認してください。

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