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IPO準備の全体像 自社は上場すべきかの判断軸と、東証の形式要件・費用・スケジュール
公開 2026.09.02
上場は目的ではなく手段です。東証の形式要件と上場維持基準、公表されている上場料金、直前々期からの逆算、TOKYO PRO Marketという選択肢、そしてM&Aへ切り替える判断まで、日本取引所グループと金融庁の一次情報だけで整理しました。

- 東証の形式要件は市場ごとに大きく違います。グロース市場は株主数150人以上・流通株式時価総額5億円以上・事業継続1か年以上で利益基準がない一方、プライム市場は株主数800人以上・時価総額250億円以上・連結純資産50億円以上を求めます。TOKYO PRO Marketには数値の形式基準そのものがありません
- 東証に払う料金は公表されています。上場審査料はプライム400万円・スタンダード300万円・グロース200万円、新規上場料はプライム1,500万円・スタンダード800万円・グロース100万円(いずれも税抜)。年間上場料は上場時価総額50億円以下ならプライム96万円・グロース48万円に、TDnet利用料12万円が加算されます
- グロース市場の上場維持基準は2030年3月1日から「上場5年経過後・時価総額100億円以上」に引き上げられます(現行は上場10年経過後・40億円以上)。東証は制度要綱で、この見直しの狙いとして早期の成長に加えて「企業間のM&Aや起業家の次なる創業などを促進する」ことを挙げています。100億円に届かない場合の道は上場廃止だけではなく、利益要件を適用しないスタンダード市場への区分変更も用意されています
上場準備の記事は「上場する前提」で書かれがちです。しかし中小企業の経営者にとって最初の論点は、準備の手順ではなく「そもそも自社が上場すべきか」です。本稿では、日本取引所グループ(JPX)と東京証券取引所が公表している形式要件・上場維持基準・上場料金、金融商品取引法の条文、金融庁の報告書だけを材料として、上場のメリットと負担を並べ、市場区分ごとの数字を示し、直前々期からの逆算と、途中でM&Aへ切り替える判断までを整理します。
最初に結論:上場すべきかは4つの問いで決まる
まず見るべき判断表|上場を手段として選べるか
| 判断の問い | 確認する数字・資料 | 届かないときの選択肢 |
|---|---|---|
| 調達資金の使途を説明できるか | 公募で調達する資金の使途と投資回収計画(設備資金・運転資金・研究開発費・借入金返済など) | M&A・金融機関からの調達で足りないかを先に比べる |
| 形式要件に届くか | グロース市場:株主数150人以上・流通株式時価総額5億円以上・事業継続1か年以上 | 数値基準のないTOKYO PRO Marketを検討する |
| 上場維持基準を満たし続けられるか | グロース市場は2030年3月1日以後、上場5年経過後に時価総額100億円以上 | 利益要件を適用しないスタンダード市場への区分変更を想定しておく |
| 体制整備の負担に耐えられるか | 申請直前2期間分の監査証明、独立役員・社外取締役、月次決算と予実管理の運用実績 | 上場時期を後ろにずらす、TOKYO PRO Marketで段階的に整える |
上場は「一度達成すれば終わり」ではなく、毎年、外部から数値で判定され続ける状態に自社を置く決定です。準備の手順より先に、上場・TOKYO PRO Market・M&A・非上場のままの4択で比べてください。
上場は何を得て、何を差し出すことなのか
東証自身が挙げる上場のメリットは3つです。①取引所市場における株式の流動性を背景に、公募による時価発行増資や新株予約権付社債の発行など直接金融の道が開かれ、資金調達能力が増大すること、②新聞報道などの機会が増えて会社の知名度が向上し、優秀な人材を確保できること、③企業情報の開示により投資者をはじめとした第三者のチェックを受けることから、組織的な企業運営がなされ、内部管理体制の充実が図られること(出典:日本取引所グループ「上場のメリット」、2026年9月閲覧)。
3つ目が「メリット」として書かれている点は、読み替えの余地があります。第三者のチェックを受ける体制を作ることは、そのまま継続的なコストです。上場後に法令上必ず発生する義務を、条文で確認しておきます。
| 義務 | 内容 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 有価証券報告書 | 企業集団および会社の経理の状況その他事業の内容に関する重要事項を記載 | 事業年度経過後3か月以内 | 金融商品取引法24条1項1号 |
| 半期報告書 | 事業年度開始日以後6か月間の経理の状況等 | 6か月経過後45日以内 | 同法24条の5第1項(上場会社等) |
| 内部統制報告書 | 財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保する体制の評価 | 有価証券報告書と併せて提出 | 同法24条の4の4第1項 |
| 決算短信 | 通期・四半期の業績開示 | 年度末から遅くとも45日以内が目安 | 東証「グロース市場事前チェックリスト」 |
(出典:e-Gov法令検索「金融商品取引法」第24条・第24条の4の4・第24条の5、2026年9月時点。決算短信は日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」Ⅴ3(3)、2026年7月)
これに、後述する年間上場料、監査報酬、株式事務代行手数料、開示体制の人件費が毎年乗ります。加えて、上場維持基準に適合しない状態が続けば上場廃止に至ります。上場は「一度達成すれば終わり」ではなく、毎年、外部から数値で判定され続ける状態に自社を置く決定です。
もうひとつ、資本金が動くことによる税務上の影響も見落とせません。公募増資によって資本金が1億円を超えると、法人事業税の外形標準課税(付加価値割・資本割)の対象になります。また法人税の軽減税率(年800万円以下の所得に15%。令和7年4月1日以後開始事業年度では所得10億円超の場合17%)は資本金1億円以下の中小法人向けの制度であり、適用から外れます(出典:総務省「法人事業税における外形標準課税」、国税庁「No.5759 法人税の税率」令和7年4月1日現在法令等)。なお外形標準課税は令和6年度税制改正で対象が拡大され、令和7年4月1日以後開始事業年度からは「前事業年度に対象だった法人で、資本金1億円以下かつ資本金と資本剰余金の合計が10億円超」も対象になります。減資すれば戻れる、という前提は成り立ちません。
❌ 「知名度が上がって採用に効くから」という理由だけで上場準備を始める ⭕ 上場で調達した資金を何にいくら使うのかを先に決め、それがM&Aや金融機関からの調達では実現できないことを確認してから始める
上場・M&A・承継 出口を3つ並べて比べる
上場は、会社の将来を決める選択肢のひとつにすぎません。第三者への譲渡(M&A)や親族・従業員への承継と同じ土俵に並べて比べておくと、判断の軸がぶれません。
| 上場(IPO) | 第三者への譲渡(M&A) | 親族・従業員への承継 | |
|---|---|---|---|
| 経営者の立場 | 通常は続投。上場後も株主への説明責任を負い続ける | 原則として退く(引継ぎ期間あり) | 退く。後継者の育成期間が必要 |
| 資金の入り方 | 会社に公募資金が入る。創業者個人の現金化は売出しの範囲に限られる | 株式譲渡なら株主個人に譲渡対価が入る | 資金は入らない。むしろ納税資金が要る |
| 経営の自由度 | 開示義務と上場維持基準の判定を毎年受ける | 譲受け側の方針に従う | 自社の裁量が残る |
| 所要期間 | 直前々期からの監査を含め数年単位 | マッチング次第で数か月〜1年程度 | 移行期間だけで3年以上が半数超 |
| 主な公的な相談先 | 東証IPOセンター、監査法人、証券会社 | 事業承継・引継ぎ支援センター、M&A支援機関登録制度 | 事業承継・引継ぎ支援センター |
(上場側は本稿の各章の出典による。M&A・承継側の期間と相談先は中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」「事業承継ガイドライン(第3版)」に基づく。比較の枠組み自体は編集部の整理)
比べる意味は、単に「どれが得か」を決めるためだけではありません。上場準備で整える内容の大半は、M&Aや承継でも価値になるからです。月次決算の早期化、予実管理、社内規程の整備、関連当事者取引の解消、労務の適正化は、譲渡価格の交渉でも後継者の意思決定でも効きます。逆に言えば、これらを整えないまま上場だけを目指すのは順番が違います。第三者への譲渡を選ぶ場合の実務はM&Aの基本プロセスに、承継先の選び方と逆算は事業承継の進め方にまとめています。
金融庁が設置した連絡協議会の報告書には、関係者からの指摘としてこう書かれています。「上場による資金調達の必要性が必ずしも明らかではないような小規模の企業が、IPO を前提に監査法人に契約を持ち込むことにそもそも意義があるかという観点からも検討が必要」(出典:金融庁「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会報告書」、2020年3月27日、Ⅱ(2)⑤)。少し古い資料ですが、上場を目的化することへの警告として、公的文書に残っている数少ない記述です。
4つの市場と形式要件 自社の数字を当てはめる
東証はプライム市場、スタンダード市場、グロース市場、TOKYO PRO Marketの4つを提供しています。上場審査は「形式要件」と「上場審査の内容(実質基準)」の2段構えで、形式要件は数値で機械的に判定されます。まず自社がどこに届くかを確認してください。
| 項目 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
|---|---|---|---|
| 株主数(上場時見込み) | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
| 流通株式数 | 2万単位以上 | 2,000単位以上 | 1,000単位以上 |
| 流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | 5億円以上 |
| 流通株式比率 | 35%以上 | 25%以上 | 25%以上 |
| 時価総額 | 250億円以上 | — | — |
| 純資産の額 | 連結50億円以上(かつ単体純資産が負でないこと) | 連結純資産の額が正であること | — |
| 利益の額・売上高 | 最近2年間の利益総額25億円以上、または最近1年間の売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上の見込み | 最近1年間の利益の額が1億円以上 | — |
| 事業継続年数 | 3か年以前から株式会社として継続的に事業活動 | 同左 | 1か年以前から |
| 公募の実施 | — | — | 500単位以上の公募(上場日の時価総額250億円以上の見込みがある場合等を除く) |
| 単元株式数 | 100株となる見込み | 同左 | 同左 |
(出典:日本取引所グループ「上場審査基準概要」プライム市場・スタンダード市場・グロース市場、いずれも形式要件は2023年4月1日現在。2026年9月閲覧)
表のうえで最初に効くのは、グロース市場には利益基準も純資産基準もないという点です。東証は「上場審査に関するFAQ集」で、「グロース市場において上場までの黒字化を求める制度はありません」と明記し、赤字のまま上場した実績が多く存在するとしています。同じFAQ集は、上場準備中のM&Aについても「上場できます。……上場準備中にM&Aを実施しないことを求める制度はありません」と回答しています(出典:東京証券取引所・日本取引所自主規制法人「上場審査に関するFAQ集」、2024年11月11日)。このFAQ集自体が、上場準備会社が過度に保守的な対応を採らずに済むよう作られたものです。
一方で、形式要件を満たすことと上場後に維持できることは別問題です。
| 項目 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
|---|---|---|---|
| 株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上 |
| 流通株式数/時価総額/比率 | 2万単位・100億円・35% | 2,000単位・10億円・25% | 1,000単位・5億円・25% |
| 売買代金/売買高 | 1日平均売買代金0.2億円以上 | 月平均売買高10単位以上 | 月平均売買高10単位以上 |
| 時価総額 | — | — | 40億円以上(上場10年経過後から適用) |
| 純資産の額 | 正であること | 正であること | 正であること |
(出典:日本取引所グループ「上場維持基準の概要」プライム市場・スタンダード市場・グロース市場、2022年4月4日現在。2026年9月閲覧)
ここに2つの変更が重なっています。ひとつは経過措置の終了です。2022年の市場区分見直しに伴う緩和された基準(たとえばプライム市場の流通株式時価総額10億円以上)は終了し、2025年3月1日以後に到来する判定基準日から本来の基準が適用されています。適合しない状態になると原則1年間(売買高基準は6か月間)の改善期間に入り、改善できなければ監理銘柄・整理銘柄の指定を経て上場廃止です(出典:日本取引所グループ「上場維持基準に関する経過措置の終了」、2026年3月18日更新)。
もうひとつがグロース市場の基準引き上げです。2025年9月26日に公表された内容は、「上場5年経過後・時価総額100億円以上」への見直しで、2030年3月1日以後最初に到来する事業年度の末日から適用されます。改善期間内に適合しなければ上場廃止ですが、追加期間を設けて適合を目指す計画を開示した場合には例外的に上場を継続できます。あわせて、グロース市場からスタンダード市場へ市場区分を変更する場合には、利益の額に関する形式要件(最近1年間における利益の額が1億円以上)を適用しないこととされました。スタンダードへの変更を希望する会社が、利益を捻出するために成長投資を抑制することがないようにする趣旨です(2025年12月目途の施行日以後に変更申請を行う会社から適用)。また、見直し後の時価総額の判定にあたっては、事業年度の末日以前3か月間における終値の平均値が用いられます。さらに、時価総額が100億円未満の会社は「事業計画及び成長可能性に関する事項」に見直し後の基準への適合を意識した成長戦略を記載する必要があり、2025年12月末日以後にグロース市場へ新規上場申請を行う会社についても、上場時に見込まれる時価総額が100億円未満なら同様の記載が求められます(出典:東京証券取引所「グロース市場の上場維持基準の見直し等の概要」、2025年9月26日)。
同じ資料には、経過措置のもとで長い計画期間を開示した上場会社ほど時価総額の変化率が低く、計画期間3年超の平均値は市場平均を下回るマイナスだったというデータが載っています。「計画を出して時間を稼ぐ」ことは市場から評価されない、というのが東証の示した事実です。
❌ 形式要件だけを見て「グロースなら利益基準がないから届く」と判断する ⭕ 上場5年後・10年後に時価総額100億円の判定を毎年受け続けられるかを、事業計画の数字で先に確かめる
TOKYO PRO Market 数値基準のない4つ目の市場
中小企業にとって現実的な選択肢がTOKYO PRO Marketです。2009年開設のTOKYO AIMを引き継ぎ、2012年7月から東証が運営しています。最大の特徴は、株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)がないことです。
| 項目 | TOKYO PRO Market | 東証の他市場 |
|---|---|---|
| 上場基準 | 形式基準:なし/実質基準:あり | 形式基準:あり(株主数、流通株式等)/実質基準:あり |
| 審査主体 | J-Adviser | 主幹事証券会社、東証 |
| 上場申請から上場承認までの期間 | 10営業日(申請前にJ-Adviserによる意向表明手続きあり) | 2、3か月程度(標準審査期間) |
| 上場前の監査期間 | 最近1年間 | 最近2年間 |
| 内部統制報告書 | 任意 | 必須 |
| 四半期開示(決算短信) | 任意 | 必須 |
| 主な投資家 | 特定投資家等(いわゆるプロ投資家) | 一般投資家 |
| 開示言語 | 英語または日本語 | 日本語 |
(出典:日本取引所グループ「概要(TOKYO PRO Market)」、2026年9月閲覧)
数値基準がない代わりに、J-Adviserという民間の審査主体が置かれます。J-Adviserは東証から認証を受けた事業者で、上場前の上場適格性の調査確認、上場後の適時開示の助言・指導、上場維持要件の適合状況の調査を担います。上場会社は上場を維持する限り常に1社のJ-Adviserと契約している必要があり、契約が解消されて新たな契約を結べなければ上場廃止です。J-Adviserは2026年8月24日更新時点で22社が登録されており、証券会社のほか銀行、監査法人系、印刷会社、コンサルティング会社、M&A仲介会社が含まれます(出典:日本取引所グループ「J-Adviserとは」、2026年8月24日更新)。
IPO DATA
2026年1〜8月の新規上場社数(市場別)
実績の面でも無視できない規模になっています。東証が公表する新規上場社数を見ると、2026年1月から8月までのIPOはプライム市場0社、スタンダード市場7社、グロース市場15社に対し、TOKYO PRO Marketは33社で、一般市場3市場の合計22社を上回っています(出典:日本取引所グループ「最近のIPOの状況」、2026年9月1日更新)。また、東証が毎月公表する「東証上場銘柄一覧」(2026年8月末)を市場区分別に集計すると、プライム(内国株式)1,556銘柄、スタンダード(内国株式)1,555銘柄、グロース(内国株式)596銘柄、PRO Market 187銘柄です(出典:日本取引所グループ「その他統計資料(東証上場銘柄一覧)」、2026年8月末データ。市場区分別の集計は編集部)。
東証自身がTOKYO PRO Marketの位置づけを言語化した資料もあります。2026年4月3日に公表された「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」は、グロース市場の上場維持基準の見直し等の施策を推進するなかで「将来を見据えてIPO時期・規模の見直しやM&Aなどの選択肢を検討する企業が増加するなど、エコシステムに変化の兆し」があるとしたうえで、TOKYO PRO Marketの活用ニーズが高まっているとしています。東証はウェブサイトで、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけ、その機能発揮に向けた取組みを進めていると説明しています(出典:東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの機能発揮に向けた対応」、2026年9月1日更新)。想定されるニーズとして挙げられているのは次の5つです(出典:東京証券取引所「TOKYO PRO Marketの今後の方向性」、2026年4月3日)。
- 知名度・信用力向上の効果を活かして、企業規模・業績を拡大させていきたい企業
- 社内体制整備に向けた段階的なステップとして活用したい企業
- プロ投資家から成長資金を獲得する場として活用したい企業
- 既存株主(役職員含む)に売却機会を提供し、新たな株主を迎え入れたい企業
- M&A・資本提携の相手となる他の事業会社を探したい企業
2番目と5番目は、そのまま中小企業の実務課題です。同資料は、2026年秋をめどに一般市場への上場審査の効率化(TOKYO PRO Market上場企業としての実績を勘案)や開示様式の見直しを進めるとも書いています。TOKYO PRO Marketを「本番前の助走」として使う設計が、取引所側の施策として動いている点は押さえておく価値があります。
ただし、投資家が特定投資家等に限られるため、一般市場と同じ流動性は期待できません。資金調達額の大きさを主目的にするなら、TOKYO PRO Marketは答えになりにくいという前提で検討してください。
準備期間 直前々期・直前期・申請期という数え方
上場準備の時間軸は、決算期を基準に数えます。上場を申請する事業年度を「申請期」、その前を「直前期(基準事業年度)」、さらに前を「直前々期」と呼びます。東証が公表しているモデルケース(3月期決算の場合)では、次のように並びます。
- X0年3月ごろ:ショートレビュー(監査法人による短期調査)。ここから上場準備と証券会社の引受けサポートが始まる
- X1年3月〜X2年3月:直前々期
- X2年3月〜X3年3月:直前期
- X3年3月〜:申請期。申請準備 → 上場審査 → 上場(X3年7月以降)
東証は「上場申請までに、申請直前2期間分の監査証明が必要になる点に留意しなければなりません」と明記しています。つまりショートレビューから数えて、最短でも3年強(法定監査を受け始めてからでも2年強)が上場までの実時間です(出典:日本取引所グループ「上場準備に必要な期間」、2022年4月3日更新)。
審査そのものの期間は市場で異なります。グロース市場の標準審査期間は2か月です。ただし東証は、これは審査の中で特段の問題が認められないケースを前提としており、申請会社グループの規模や繁忙時期によって変動する可能性があるとしています(出典:日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」Ⅰ、2026年7月)。TOKYO PRO Marketは上場申請から上場承認まで10営業日ですが、その前にJ-Adviserによる意向表明手続きがあります。
このスケジュールで最大のボトルネックになりやすいのが、監査法人の確保です。金融庁の連絡協議会報告書には、関係者の指摘として「実感としては、最初に大手監査法人、次に準大手監査法人と相談し、トータルで半年から1年程度かけて監査法人を探し回らなければならないほど厳しい状況にある」「監査法人によるショートレビュー(IPO に向けた課題抽出を行うための短期調査)を受けた後、相当期間が経過した後に内部管理体制の整備の遅れ等を理由に監査契約を断られ、新規上場までのスケジュールが大幅に後ろ倒しになった事例もある」と記録されています(出典:金融庁「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会報告書」、2020年3月27日、Ⅱ(2)①③)。
この報告書を受けて、日本公認会計士協会が「新規上場のための事前準備ガイドブック」を2020年11月に改訂しています。東証も、まだ監査法人や公認会計士の指導を受けていない会社に向けてこのガイドブックを案内し、上場に際して監査人は登録上場会社等監査人(日本公認会計士協会の品質管理レビューのうち通常レビューを受けた者に限る)である必要があると注意しています(出典:日本取引所グループ「上場関係者と役割」、2026年8月24日更新)。
主幹事証券会社についても、東証が候補となる証券会社の一覧を公表しています。2026年8月24日現在で19社が掲載されており、これは特定の証券会社との取引を推奨するものではないと注記されています。主幹事証券会社は、資本政策や社内体制整備のアドバイス、手続きのサポート、公募・売出しの引受けに加え、東証に対して「上場適格性調査に関する報告書」を提出する立場です(出典:同上)。
以下は、公表されている期間と要件をもとに編集部が組み立てた逆算の目安です。実際の割り付けは業種・規模・決算期で変わります。
| 上場までの残り | この時期にやること | 根拠・関門 |
|---|---|---|
| 4〜5年前 | 上場する理由(調達資金の使途)を言語化し、M&A・承継と並べて比較する。東証IPOセンターに相談する | 目的が曖昧なまま監査法人に持ち込むことへの懸念が公的資料に記録されている |
| 3〜4年前 | 監査法人にショートレビューを依頼し、課題一覧を受け取る。主幹事証券会社の選定に着手 | 東証のモデルケースはショートレビューを直前々期の期首より前に置いている |
| 直前々期 | 監査契約を締結して監査開始。社内規程の整備、月次決算の早期化、予算制度の稼働。関連当事者取引の整理に着手 | 申請直前2期間分の監査証明が必要 |
| 直前期(基準事業年度) | 整えた制度を1年間運用する。独立役員・社外取締役の候補選定。「Ⅰの部」作成の準備 | 監査意見は直前期で「無限定適正」が必要 |
| 申請期 | 上場申請、東証の審査対応(グロース市場の標準審査期間は2か月)、上場承認、公募・売出し | 独立役員は上場日までに確保し、独立役員届出書を提出 |
| 上場後1〜3年 | 有価証券報告書・半期報告書・内部統制報告書の提出。上場維持基準の毎年の判定 | グロース市場は上場後3年間、年間上場料が半額 |
(期間の枠組みは日本取引所グループ「上場準備に必要な期間」および「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」による。残り年数の割り付けは編集部の目安)
整える体制 東証が実際に見ているもの
上場準備で整える体制は、大きく「機関設計」「内部管理の運用」「取引の健全性」の3つに分かれます。
01 / GOVERNANCE
機関設計
独立役員・社外取締役各1名以上、取締役会と監査役会等、会計監査人。
02 / OPERATION
内部管理の運用
取締役会の実質的な議論、月次業績の早期把握、予実管理、内部監査。
03 / INTEGRITY
取引の健全性
関連当事者取引・経営者が関与する取引に、事業上の必要性と条件の妥当性があるか。
まず機関設計は、有価証券上場規程の「企業行動規範」で具体的に定められています。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 独立役員の確保 | 一般株主保護のため、独立役員を1名以上確保する(上場日までに確保し、独立役員届出書を提出) | 規程第436条の2 |
| コーポレートガバナンス・コード | 実施するか、実施しない場合の理由を「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」で説明。プライム・スタンダード市場は基本原則+原則、グロース市場は基本原則 | 規程第436条の3 |
| IR体制の整備 | 株主・投資者との関係構築に向けて必要な情報提供を行うための体制 | 規程第436条の5 |
| 機関設計 | 取締役会、監査役会・監査等委員会・指名委員会等のいずれか、会計監査人を置く | 規程第437条 |
| 社外取締役の確保 | 社外取締役を1名以上確保する | 規程第437条の2 |
| 内部統制システム | 職務執行が法令・定款に適合することを確保する体制等を決定し、適切に構築・運用する | 規程第439条 |
(出典:日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」Ⅳ、2026年7月)
コーポレートガバナンス・コードの適用範囲がグロース市場では基本原則のみである点は、負担の見積もりに直結します。上場する市場によって、初期に求められるガバナンスの水準は違います。
次に運用面です。東証の「グロース市場事前チェックリスト」は、取締役会について「十分な議論・検討がなされず、取締役会が形骸化しているような場合は、取締役会に求められる取締役の業務執行に対する監督機能が働かず、会社としての意思決定が特定の者により実質的に決定されてしまう」と書き、議案に係る検討資料や月次業績資料に基づいた議論と、その過程を経た組織的な意思決定・監督を求めています。業績管理については「月次の業績及び事業の状況の把握を早期に行うことができますか」「予算と実績及びその比較分析、その他の経営情報を通じて、適時・適切な経営判断を行うことができますか」が確認項目です。部門別の月次を回す手順は部門別損益の作り方に、目標の粒度の決め方はKPI設計と運用に整理しています。
内部監査については、「特定の部門の影響を受けない独立した部門により実施されることが望ましい」としつつ、「会社の規模や業種・業態及び成長ステージ等によっては、独立した部門によることが必ずしも効率的でない場合も考えられます」とも書かれており、内部監査部門を設けない場合は代替的な手段をとっているかが問われます。ここは会社の実態に合わせた設計が認められる領域です。
3つ目が取引の健全性、なかでも関連当事者取引と経営者が関与する取引です。東証のガイドブックは、オーナー企業についてこう書いています。「いわゆるオーナー企業の場合、非上場の時代には所有と経営が一致した状態であるため、会社にとって必要な取引なのかオーナー個人にとって必要な取引なのかを意識しなくてもあまり問題となることはないかもしれませんが、多数の一般株主を有する上場会社となる以上は、会社資産とオーナー等の個人資産とを適切に峻別するとともに、取引行為等を行う際には一般株主を含めた株主の利益に適うものであることが求められます」。
判定の構造も明快です。取引には「その取引を行うこと自体に対する合理性(事業上の必要性)」と「取引条件の妥当性」の両方が求められ、このいずれかを欠く取引は特定の者への利益供与という疑義が生じるとされます。しかも「取引条件が第三者との比較において妥当と認められる場合であっても、その取引行為の存在自体に合理性(事業上の必要性)がない場合には、ここでいうところの不当な利益供与とみなす場合がある」と明記されています。経営者個人が所有する不動産の賃貸、家族が経営する会社との取引、経営者への貸付金は、条件を市場並みに直せば済むとは限りません。契約条件そのものの読み方は契約書のチェックポイントを参照してください。
❌ 経営者個人所有の不動産の賃料を相場に合わせ、それで関連当事者取引の整理は終わったと考える ⭕ 「その取引を会社が行う事業上の必要性を説明できるか」を先に検討し、説明できないものは解消する
内部統制報告制度(J-SOX)と労務 上場後に効いてくる負担
内部統制報告制度は、上場後に必ず発生する制度です。金融商品取引法24条の4の4により、上場会社は事業年度ごとに内部統制報告書を有価証券報告書と併せて提出しなければなりません。そして同法193条の2第2項により、その内部統制報告書には公認会計士または監査法人の監査証明を受けることが原則として必要です。
ただし例外があります。同項第4号は、「資本の額その他の経営の規模が内閣府令で定める基準に達しない上場会社等」が、上場会社の有価証券の発行者に初めて該当することとなった日その他の政令で定める日以後3年を経過する日までの間に内部統制報告書を提出する場合には、監査証明を要しないと定めています。この「内閣府令で定める基準」は、資本金100億円以上または負債の部の合計額1,000億円以上です(出典:e-Gov法令検索「金融商品取引法」第193条の2第2項第4号、「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」第10条の2、2026年9月時点)。
取り違えやすい点:免除されるのは「監査」であって「提出」ではない
資本金100億円未満かつ負債総額1,000億円未満の新規上場会社は、上場後3年間、内部統制報告書の監査証明の免除を選べます。内部統制報告書の提出義務そのものは上場後最初の事業年度から生じます。
つまり、多くの新規上場会社は上場後3年間、内部統制報告書の「監査」を免除される選択ができます。ここで取り違えやすいのは、免除されるのは監査証明であって、内部統制報告書の提出そのものは免除されないという点です。東証も「上場後に適用となる財務報告に係る内部統制報告制度についても対応準備を進めていただく必要があります。会社の規模・業種、上場申請のタイミング等に応じて、その会社に適した準備計画を策定し、上場後に内部統制報告書の提出ができる体制を構築していただく必要があります」と書いています。
なお内部統制の評価・監査の基準と実施基準は2023年4月7日に企業会計審議会が改訂を取りまとめ、令和6年(2024年)4月1日以後開始する事業年度から適用されています(出典:金融庁「『財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに……実施基準の改訂について(意見書)』の公表について」、令和5年4月7日)。準備段階の設計をこれから始めるなら、改訂後の基準を前提にしてください。
労務については、東証の審査基準に「未払残業代」という語が直接置かれているわけではありません。しかし構造としては明確に組み込まれています。事前チェックリストは、整備すべき社内規程として「人事労務関係規程(就業規則、給与規程、退職金規程など)」を例示し、上場審査の内容では「最近において重大な法令違反を犯しておらず、今後においても重大な法令違反となるおそれのある行為を行っていない状況にあると認められること」を求め、法令等を遵守するための体制として内部監査・監査役監査の監査項目に法規制が反映されているかを確認するとしています。労働基準法違反は、この「法令違反」から外れません。
労働時間の把握は、それ自体が使用者の責務です。厚生労働省のガイドライン(平成29年1月20日策定)は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し記録すること、その方法は原則として①使用者による現認、②タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録のいずれかによることを求めています。自己申告制による場合は、実態調査と労働時間の補正、申告できる時間外労働の時間数に上限を設けて上限を超える申告を認めない等の措置を講じてはならないこと、36協定の延長時間を超えて労働しているのに記録上は守っているようにすることが慣習的に行われていないかの確認まで書かれています。出勤簿やタイムカード等の記録は、労働基準法109条が5年間の保存を定めており、附則143条1項により当分の間は3年間とされています(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」、平成29年1月20日策定)。
客観的記録と自己申告が乖離している状態は、上場準備の途中ではなく、いま是正すべき論点です。是正には遡及的な精算を伴うことがあり、金額が確定するまで事業計画も固まりません。順序としては、ショートレビューの前に自社で把握しておくほうが安全です。人事制度そのものの見直し手順は人事制度の見直しにまとめています。
費用 東証の料金表で確認できる部分と、見積を取るべき部分
上場費用は「取引所に払うもの」と「専門家に払うもの」に分かれます。前者は東証が料金表を公表しているので、金額を正確に置けます。以下はすべて税抜です。
| 料金 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 | 支払期日 |
|---|---|---|---|---|
| 上場審査料 | 400万円 | 300万円 | 200万円 | 上場申請日が属する月の翌月末日まで |
| 新規上場料 | 1,500万円 | 800万円 | 100万円 | 上場日が属する月の翌月末日まで |
| 公募に係る料金 | 公募株式数×公募価格×万分の9(全市場共通) | 同左 | 同左(グロース市場のみ公募・売出しに係る料金の上限1,900万円) | 上場日の属する月の翌月末日まで |
| 売出しに係る料金 | 売出株式数×売出価格×万分の1(全市場共通) | 同左 | 同左 | 同上 |
(出典:日本取引所グループ「新規上場に係る料金」、2025年6月17日更新。消費税額及び地方消費税額は含まれていません)
上場審査料には注記があります。過去に上場申請または予備申請を行い、直近の申請日から3年以内に再度上場申請を行う場合は半額です。予備申請を行う場合は上場審査料と同額の予備審査料が必要で、予備申請日から1年以内に上場申請をすれば上場審査料の改めての支払いは不要です。
上場後は年間上場料がかかります。次の表の金額に、TDnet利用料12万円を加算した額を、3月末日と9月末日に半額ずつ支払います。
| 上場時価総額 | プライム市場 | スタンダード市場 | グロース市場 |
|---|---|---|---|
| 50億円以下 | 96万円 | 72万円 | 48万円 |
| 50億円超250億円以下 | 168万円 | 144万円 | 120万円 |
| 250億円超500億円以下 | 240万円 | 216万円 | 192万円 |
| 500億円超2,500億円以下 | 312万円 | 288万円 | 264万円 |
| 2,500億円超5,000億円以下 | 384万円 | 360万円 | 336万円 |
| 5,000億円超 | 456万円 | 432万円 | 408万円 |
(出典:日本取引所グループ「上場後の料金」、2022年4月3日更新。消費税額及び地方消費税額は含まれていません。上場時価総額は毎年12月の売買立会最終日の最終価格と12月末日の上場株式数で計算)
グロース市場の上場会社(テクニカル上場を除く)は、上場後3年間を経過するまでの年間上場料が表の額の半額(+TDnet利用料12万円)です。
TOKYO PRO Marketの料金体系は独立しています。上場審査料は生じません。新規上場料は300万円(税抜)、新株発行等に伴う料金は他市場と同じく万分の9・万分の1です。年間上場料は上場時価総額50億円以下で48万円、以下250億円以下120万円、500億円以下192万円、2,500億円以下264万円、5,000億円以下336万円、5,000億円超408万円で、いずれもTDnet利用料12万円を加算します(出典:東京証券取引所「2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編」Ⅴ、2025年12月Web版)。
ここまでが公表されている料金です。一方、監査報酬、主幹事証券会社の引受手数料、上場準備コンサルティング費用、株式事務代行手数料には公表された料金表がありません。本稿では金額の目安を示しません。個社の規模・業種・体制整備の状況で大きく振れるうえ、推測の相場を持ち込むと予算全体を誤らせるためです。代わりに、次の順で見積を取ってください。
- 監査法人:ショートレビューの費用と、直前々期・直前期の監査報酬を分けて提示してもらう
- 主幹事証券会社:引受手数料の算定方法(公募・売出し価格に対する率)と、準備期間中のアドバイザリー費用の有無
- 株式事務代行機関:東証が承認する信託銀行と株式会社アイ・アールジャパンが対象。初期設定費用と年間費用
- 管理部門の人件費:経理・内部監査・法務の増員計画を人数と年収で置く
❌ 「上場費用は総額でいくらか」を1社に聞いて、その数字で予算を組む ⭕ 東証の料金表で確定する部分(審査料・新規上場料・年間上場料)を先に固定し、残りは複数社から算定方法ごと提示させて比べる
金融機関に対しても、上場準備に入ることと資金計画の変化は早めに共有しておくほうが安全です。平時から何を渡しておくかは金融機関との交渉術に、計画書の書き方は事業計画書のポイントにまとめています。
やめる判断・切り替える判断は失敗ではない
上場準備を始めた会社が、途中で上場しない判断をすることがあります。これは公的な資料のなかでも、否定的には扱われていません。
東証は2026年4月、TOKYO PRO Marketの方向性を示す資料のなかで、グロース市場の上場維持基準の見直し等の施策を推進するなかで「将来を見据えてIPO時期・規模の見直しやM&Aなどの選択肢を検討する企業が増加するなど、エコシステムに変化の兆し」があると書いています。またグロース市場の上場維持基準の見直しについては、その目的を「グロース市場上場会社に、機関投資家の投資対象となり得る規模への早期の成長を促すとともに、企業間のM&Aや起業家の次なる創業などを促進する観点から」と説明しています(出典:東京証券取引所「グロース市場の上場維持基準の見直し等について」(制度要綱)、2025年9月26日、Ⅰ趣旨)。取引所は、上場を続けることだけを想定しているわけではありません。
判断の分岐点は、おおむね次の3つに整理できます。
- 調達資金の使途が説明できるか。上場審査では、公募により調達する資金の使途とその投資回収計画を、設備資金・運転資金・研究開発費・借入金返済・有価証券の取得・関係会社への出資または融資に区分して説明することが求められます。この説明が作れないなら、上場は手段として合っていません
- 上場維持基準を継続的に満たせるか。グロース市場なら2030年3月1日以後、上場5年経過後に時価総額100億円の判定を毎年受けます。事業計画がその水準に届かないなら、適合計画の開示で猶予を求めるか、利益要件が外れたスタンダード市場へ移るかを、上場前から想定しておく必要があります
- 体制整備の負担が事業の成長を妨げていないか。東証のFAQ集は、上場準備がかえって成長を阻害しているとの指摘を踏まえて作られたものです
このうちどれかで詰まったとき、選べる道は「やめる」だけではありません。TOKYO PRO Marketに切り替えて社内体制整備を段階的に進める、上場時期を後ろにずらす、第三者への譲渡(M&A)に切り替える、という3つがあります。切り替えを検討するなら、企業価値の測り方を先に自社で持っておくと交渉が楽になります。資本効率の観点からの見方はROICの考え方と活用を参照してください。
❌ 上場準備に3年かけたので、条件が整わなくても申請まで走り切る ⭕ 毎年の予算策定時に「上場・TOKYO PRO Market・M&A・非上場のまま」の4択を見直し、切り替えのコストを事前に見積もっておく
相談先と、今週やること
無料または低コストで使える公的な入口があります。
- 東証IPOセンター:東京証券取引所上場推進部が窓口を設置し、上場審査基準などの上場制度や実際の上場準備の内容など、新規上場に関する相談を受け付けています
- 新規上場ガイドブック:プライム市場編・スタンダード市場編・グロース市場編・TOKYO PRO Market編が東証のサイトで公開されています。形式要件、上場審査の内容、事前チェックリスト、Q&Aまで含まれます
- 上場審査に関するFAQ集:赤字上場、上場準備中のM&A、予実乖離、業績予想の開示方法について、東証の考え方が示されています
- 日本公認会計士協会「新規上場のための事前準備ガイドブック」:まだ監査法人や公認会計士の指導を受けていない会社向けに、決算体制整備のポイントと監査契約締結に関する解説が載っています
- J-Adviser一覧:TOKYO PRO Marketを検討するなら、東証が公表する22社の一覧と「TOKYO PRO MarketにおけるJ-Adviserのご紹介」(2026年8月24日更新)から候補を絞れます
今週やることを1つだけ挙げるなら、直近の決算書を開いて、自社の純資産・利益・株主数を上の形式要件の表に当てはめてみることです。そのうえで、上場によって調達したい金額と使途を1枚に書いてください。この2つが埋まらない状態で監査法人や証券会社に相談しても、話は前に進みません。
5問で確認する 上場を検討できる準備度
上場準備に入る前に、自社がどこで詰まりそうかを確かめる簡易チェックです。
SELF CHECK / 無料・登録不要
5問で確認|上場を検討できる準備度
直近の決算と社内の運用を思い浮かべて、いちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。
※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
まとめ
IPO準備を検討する経営者が最初に答えるべき問いは、「何年かけて何を整えるか」ではなく「そもそも上場が自社の手段として正しいか」です。
上場で得られるものは、東証自身の言葉で言えば資金調達の円滑化・多様化、知名度の向上、内部管理体制の充実の3つです。差し出すものは、有価証券報告書(事業年度経過後3か月以内)、半期報告書(45日以内)、内部統制報告書という法定の開示義務と、毎年判定される上場維持基準、そして年間上場料をはじめとする継続コストです。資本金が1億円を超えれば外形標準課税の対象になり、法人税の軽減税率からも外れます。
市場の選択は数字で決まります。グロース市場は株主数150人以上・流通株式時価総額5億円以上・事業継続1か年以上で利益基準がなく、赤字上場を否定する制度もありません。ただし2030年3月1日以後、上場5年経過後に時価総額100億円以上という維持基準が待ちます。プライム市場は株主数800人以上・時価総額250億円以上・連結純資産50億円以上と、水準が一段違います。数値基準そのものがないTOKYO PRO Marketは、2026年1〜8月のIPO実績で33社と一般市場3市場の合計を上回っており、東証はウェブサイトで、TPMを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけています。
費用のうち東証に払う分は公表されています。上場審査料はプライム400万円・スタンダード300万円・グロース200万円、新規上場料はプライム1,500万円・スタンダード800万円・グロース100万円、TOKYO PRO Marketは審査料なしで新規上場料300万円(いずれも税抜)。年間上場料は上場時価総額50億円以下でプライム96万円からグロース48万円、TDnet利用料12万円が加わります。監査報酬と引受手数料に公表された料金表はありません。相場を鵜呑みにせず、算定方法ごと複数社から出させてください。
準備の時間軸は、直前々期・直前期の2期間分の監査証明が必要という一点で決まります。東証のモデルケースでは、ショートレビューから上場まで3年強です。監査法人の確保には半年から1年を要するとの指摘が金融庁の報告書に記録されており、ここが最初の関門になります。整える体制は、独立役員1名以上・社外取締役1名以上・取締役会と監査役会等・会計監査人という機関設計に加え、月次決算の早期化と予実管理の運用実績、そして関連当事者取引の整理です。取引条件が妥当でも、取引の存在自体に事業上の必要性がなければ不当な利益供与とみなされうる、という東証の書きぶりは押さえておいてください。
そして、途中で上場しない判断は失敗ではありません。東証自身がIPO時期・規模の見直しやM&Aを選択肢として認識し、グロース市場の基準見直しの目的にも「企業間のM&Aや起業家の次なる創業などを促進する」ことを挙げています。上場・TOKYO PRO Market・M&A・非上場のまま、という4択は、準備を始めた後も毎年見直してよいものです。
NEXT ACTION / 次にやること
直近の決算書で、自社の純資産・利益・株主数を形式要件の表に当てはめる
そのうえで、上場によって調達したい金額と使途を1枚に書いてください。この2つが埋まれば、監査法人や証券会社、東証IPOセンターへの相談が具体的になります。
※本稿は2026年9月9日時点で公表されている法令および公的資料に基づく一般的な情報提供であり、個別案件についての法務・税務・会計上の助言ではありません。上場基準・料金は改定されるため、実際の検討にあたっては日本取引所グループの最新の公表資料を確認し、監査法人・証券会社・弁護士にご相談ください。
よくある質問
Q東証の市場区分のうち、中小企業が現実的に狙えるのはどこですか。
数値の形式要件だけで見ると、グロース市場とTOKYO PRO Marketです。グロース市場は株主数150人以上、流通株式数1,000単位以上、流通株式時価総額5億円以上、流通株式比率25%以上、事業継続1か年以上が形式要件で、利益基準も純資産基準もありません。TOKYO PRO Marketは株主数・流通株式・利益の額などの形式基準(数値基準)自体がなく、J-Adviserが上場適格性を調査・確認します。スタンダード市場は株主数400人以上・流通株式時価総額10億円以上に加えて最近1年間の利益1億円以上が必要で、プライム市場は株主数800人以上・時価総額250億円以上・連結純資産50億円以上と水準が上がります。ただし形式要件を満たすことと、上場後に上場維持基準を満たし続けることは別の問題です。
Q上場準備には何年かかりますか。
東証は「上場申請までに、申請直前2期間分の監査証明が必要になる」と明記しており、東証が示すモデルケース(3月期決算)では、ショートレビューを起点に直前々期・直前期を経て申請期に上場するまでで3年強の絵が描かれています。これに加えて、監査法人を見つけるまでの時間がかかります。金融庁の連絡協議会報告書には、大手監査法人から準大手監査法人へと相談し「トータルで半年から1年程度かけて監査法人を探し回らなければならない」という関係者の指摘が記録されています(2020年3月時点)。審査そのものは、グロース市場の標準審査期間が2か月です。逆算するなら、上場を目指す年の4〜5年前から動き始めるのが現実的です。
Q上場費用は総額でいくらかかりますか。
東証に支払う分は公表されています。上場審査料がプライム市場400万円・スタンダード市場300万円・グロース市場200万円、新規上場料がプライム市場1,500万円・スタンダード市場800万円・グロース市場100万円(いずれも税抜)。これに公募株式数×公募価格×万分の9、売出株式数×売出価格×万分の1が加わります(グロース市場は公募・売出しに係る料金の上限が1,900万円)。上場後は年間上場料が上場時価総額50億円以下でプライム市場96万円・スタンダード市場72万円・グロース市場48万円から始まり、TDnet利用料12万円が加算されます。一方、監査報酬・主幹事証券会社の引受手数料・上場準備コンサルティング費用には公表された料金表がありません。本稿では相場を示さない方針です。算定方法を含めて複数社から見積を取ってください。
Q赤字でも上場できますか。上場準備中にM&Aをすると審査で不利になりますか。
いずれも東証が「上場審査に関するFAQ集」(2024年11月11日公表)で明確に回答しています。赤字上場については「グロース市場において上場までの黒字化を求める制度はありません」とし、主幹事証券会社が高い成長可能性を有すると評価して投資家に広く受け入れられると判断した結果、赤字で上場した実績が多く存在するとしています。上場準備中のM&Aについても「上場できます。これまでも上場準備中にM&Aを行っている事例が多くあります。上場準備中にM&Aを実施しないことを求める制度はありません」と回答しています。同FAQ集は、予算と実績の乖離についても「乖離だけを問題視することはありません」とし、乖離が生じた後の対応が重要だとしています。
QTOKYO PRO Marketに上場する意味はありますか。
東証はウェブサイトでTOKYO PRO Marketを「一般市場上場と非上場の間の多様な活用ニーズに対応する市場」と位置づけており、2026年4月3日公表の資料では、①知名度・信用力向上を活かして企業規模・業績を拡大させたい企業、②社内体制整備に向けた段階的なステップとして活用したい企業、③プロ投資家から成長資金を獲得したい企業、④既存株主に売却機会を提供し新たな株主を迎え入れたい企業、⑤M&A・資本提携の相手となる他の事業会社を探したい企業、といったニーズを挙げています。上場前の監査期間が最近1年間で済み、内部統制報告書と四半期開示(決算短信)が任意である点も、体制整備の負担を段階的にする設計です。一方、投資家が特定投資家等に限られるため、一般市場と同じ流動性や調達規模は期待できません。2026年秋をめどに一般市場への上場審査の効率化が進められる予定です。
Q内部統制報告制度(J-SOX)は上場したらすぐに始まりますか。
内部統制報告書の提出義務は上場後最初の事業年度から生じます(金融商品取引法24条の4の4)。ただし、公認会計士または監査法人による監査証明については、同法193条の2第2項第4号により、資本金100億円未満かつ負債総額1,000億円未満の会社であれば、上場会社の有価証券の発行者に初めて該当することとなった日その他の政令で定める日以後3年を経過する日までの間、免除を選択できます。免除されるのは「監査」であって「提出」ではない点に注意してください。また評価・監査の基準と実施基準は2023年4月7日に改訂が取りまとめられ、令和6年4月1日以後開始する事業年度から適用されています。準備計画は改訂後の基準を前提に立ててください。
Q上場準備を始めたあとで、やめる判断をしてもよいのでしょうか。
制度上、上場準備の途中で方針を変えることに不利益はありません。東証自身、2026年4月の資料で「将来を見据えてIPO時期・規模の見直しやM&Aなどの選択肢を検討する企業が増加するなど、エコシステムに変化の兆し」があると認識を示しており、グロース市場の上場維持基準を2030年3月1日から「上場5年経過後・時価総額100億円以上」へ引き上げる目的にも、早期の成長促進と並んで「企業間のM&Aや起業家の次なる創業などを促進する観点」を挙げています。むしろ問題なのは、上場維持基準に届かないまま上場し、適合に向けた長い計画を出し続ける状態です。東証の資料には、経過措置のもとで長い計画期間を開示した会社ほど時価総額の変化率が低く、計画期間3年超の平均値は市場平均を下回るマイナスだったというデータが示されています。切り替える場合の実務はM&Aの基本プロセスを参照してください。
出典・調査の対象範囲
- 日本取引所グループ「上場審査基準概要」「上場維持基準の概要」(プライム市場・スタンダード市場・グロース市場) — 形式要件・上場維持基準の根拠。
- 日本取引所グループ「新規上場に係る料金」・「上場後の料金」 — 上場審査料・新規上場料・年間上場料(いずれも税抜)。
- 日本取引所グループ「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」(2026年7月)・「上場準備に必要な期間」 — 機関設計、事前チェックリスト、準備期間の数え方。
- 日本取引所グループ「概要(TOKYO PRO Market)」・「最近のIPOの状況」 — TOKYO PRO Marketの制度と、2026年1〜8月の市場別IPO社数。
- 東京証券取引所・日本取引所自主規制法人「上場審査に関するFAQ集」(2024年11月11日) — 赤字上場・上場準備中のM&Aへの回答。
- e-Gov法令検索「金融商品取引法」 — 開示義務と内部統制報告書の監査証明免除の根拠。
- 金融庁「株式新規上場(IPO)に係る監査事務所の選任等に関する連絡協議会報告書」(2020年3月) — 監査法人確保の難しさに関する関係者の指摘。2020年時点の記録です。
※判断表・逆算スケジュール・自己診断は、公表資料をもとにした編集部の整理です。上場基準・料金は改定されるため、最新の公表資料を確認し、監査法人・証券会社・弁護士にご相談ください。



