MANAGEMENT / 経営戦略・戦略立案
中小企業の経営戦略のつくり方 ロカベンと経営デザインシートで1枚にする
公開 2026.10.07
経営戦略はフレームワークを並べるところからではなく、経済産業省のローカルベンチマークと内閣府の経営デザインシートに書き込むところから始まります。外部環境と自社の強みの棚卸し、やらないことの決め方、1枚への落とし込み、実行の当番表、経営革新計画の使い方までを一次情報で整理します。

- 経済産業省のローカルベンチマーク(ロカベン)は「6つの指標」「商流・業務フロー」「4つの視点」の3枚組。商流把握シートには、得意先やエンドユーザーが自社を選んでいる理由を書く欄があります。強みを自己申告で終わらせない仕掛けがシートの側に組み込まれています
- 内閣府の経営デザインシートは、(A)存在意義、(B)これまでの価値創造メカニズム、(C)これからの価値創造メカニズム、(D)移行の戦略を1枚に収める様式です。資料は「これまでの延長線で考えるのではなく、未来からバックキャストして考える」と明記しています
- 「やらないこと」は精神論ではありません。経営デザインシート(事業用)の「これから」欄には、予測し得ない環境変化も想定して事業の撤退基準を定義して記載するよう指示があります。始めるときに終わり方を書いておく、という順序が様式に組み込まれています
戦略づくりが止まる理由は、能力ではなく手順にあります。SWOTや3Cという言葉は知っていても、何を、どの欄に、どこまで書けば終わりなのかが決まっていないため、合宿で盛り上がって資料が棚に眠ります。ところが中小企業向けには、記入欄と記入順序まで確定した様式が無料で公開されており、金融機関や支援機関との対話でも同じ様式が使われています。本稿は、この公的ツールを骨格に据えて、現状を棚卸し、やらないことを決め、1枚にまとめ、実行の当番表に変えるところまでを扱います。
最初に結論:戦略づくりで決めるのは5つだけ
最初に全体像を示します。経営戦略の立案でやることは、突き詰めると次の5つです。それぞれに、国が公開している様式が対応しています。
まず見るべき判断表|戦略づくりで決める5項目と使う様式
| 決めること | 使う公的ツール | 出力物 | 目安の期間 |
|---|---|---|---|
| ①外部環境がどう動くか | RESAS(地域経済分析システム)、中小企業白書 | 自社の商圏と業界で起きている変化を3〜5行 | 2週間 |
| ②自社は何で選ばれているか | ロカベン「商流・業務フロー」「4つの視点」 | 取引先ごとの選定理由・選ばれている理由 | 2週間 |
| ③これからどうありたいか | 経営デザインシート(A)(B)(C) | 提供価値・ビジネスモデル・必要な資源 | 4週間 |
| ④何をやめるか | 経営デザインシート(事業用)の撤退基準、部門別損益 | やめる商品・顧客・活動と、その判定条件 | 2週間 |
| ⑤誰がいつ何をやるか | 経営デザインシート(D)移行戦略 | 担当者名・期限つきの行動一覧 | 2週間 |
戦略の中心は数値目標ではなく、「何をやり、何をやらないか」。①〜⑤を1周させれば、出力物は経営デザインシート1枚と当番表1枚に収まります。
合計で約12週間(90日)です。本業を回しながら進める前提の目安で、まとめの章に週ごとの割り振りを置きました。
順序に意味があります。②の前に③を書こうとすると「あるべき姿」が空想になり、④を飛ばして⑤に進むと現場の仕事だけが増えます。逆に、①〜⑤を1周させれば、出力物は経営デザインシート1枚と当番表1枚に収まります。分厚い中期経営計画書を作る必要はありません。
もうひとつ、この5つのどれにも数値目標が出てこないことに気づいたはずです。数値目標は戦略を決めたあとに置くもので、順序を逆にすると「達成しやすい数字」から逆算した戦略ができあがります。目標値の置き方と月次の回し方はKPI設計と運用で扱っているので、本稿は「何をやり、何をやらないか」を決めるところまでに絞ります。
❌ 「まず3年後の売上目標を決めて、そこから逆算して戦略を考える」 ⭕ 「先に提供価値とやめることを決める。数値目標は、決まった戦略に値札を付ける作業として最後に置く」
「全部やる」が成り立たなくなった 人手不足と価格転嫁の現在地
戦略が必要かどうかは、経営者の性格の問題ではありません。引き合いを全部受けても回った時代の前提が、統計上すでに崩れています。
人手の側から確認します。2026年版中小企業白書によれば、中小企業・小規模事業者の人手不足は依然として深刻で、企業規模別に見ると中規模企業の不足感が特に強くなっています。業種別では建設業、運輸業・郵便業、情報通信業などで不足感が強く、職種別では専門的・技術的職業従事者、サービス職業従事者の不足割合が高い状態です。最も重視する経営課題を尋ねた調査では、中規模企業で「人材確保」が最多、小規模事業者では「受注・販売の拡大」が最多で次いで「人材確保」が挙がっています(出典:中小企業庁2026年版中小企業白書 第1部第1章第3節 雇用・賃金、2026年4月24日閣議決定)。
さらに先の見通しも同じ白書に載っています。中小企業における雇用者数の将来推計(2018年比)では、中位推計にあたる「成長率ベースライン・労働参加漸進シナリオ」で2040年に約8%低下、低位推計の「一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオ」では約16%低下する可能性が示されています。白書が示すのは中位の約8%減と低位の約16%減という幅です。編集部の目安としては、1割減を最低ラインとして2040年の事業を設計しておくのが現実的だと考えます。
コストの側も見ておきます。2025年の春季労使交渉による賃上げ率は全規模で5.25%、中小で4.65%。2025年度の最低賃金は全国加重平均で前年度比66円、率にして6.3%引き上げられ、1,121円となりました。一方で労働分配率(付加価値額に占める人件費の割合)は中規模企業で約7割、小規模企業で約8割に達しており、白書は中小企業・小規模事業者の更なる賃上げ余力は大企業と比較して小さいとしています。2026年度の最低賃金とパート雇用への影響は「最低賃金1,177円、106万円の壁撤廃。パート雇用はどう変わる」で、上がる人件費を値段に載せる考え方は「人手不足倒産240件、過半が人件費。賃上げの日に値段も決める」で扱っています。
価格に転嫁できているかというと、まだ道半ばです。2023年3月から2025年9月にかけてのコスト全般に対する価格転嫁率は上昇傾向にあるものの、同白書が示す2025年9月時点の値は53.5%にとどまっています(出典:中小企業庁2026年版中小企業白書 第1部第1章第6節 価格転嫁。転嫁率の元データは中小企業庁「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果」)。コスト上昇のおよそ半分は自社が飲んでいるという水準が続いています。
PUBLIC DATA
「全部やる」が成り立たなくなった3つの数字
約8%減
中小企業の雇用者数の将来推計(2040年、中位推計)
4.65%
2025年春季労使交渉の賃上げ率(中小)
53.5%
コスト全般に対する価格転嫁率(2025年9月時点)
この3つ——人が減る、人件費が上がる、上がった分の半分しか転嫁できない——を並べると、結論は単純です。同じ人数で同じ品目をすべて維持したまま利益を保つことは、算術的に難しくなっています。戦略とは、この算術に対して「どこを捨て、どこに残った人を寄せるか」を先に決める作業です。
なお、外部からの要求も静かに増えています。同白書によれば、脱炭素化に向けた取組に関して取引先から協力要請を受けたと回答した割合は全体で15.8%(2025年調査。2024年調査では12.0%。ただし調査間で母集団が異なるため単純比較には留意が必要と白書は注記しています)、人権尊重に関する取組の要請を受けている事業者は13.3%、経済安全保障を背景に取引先から求められる可能性が高い取組としては「サイバーセキュリティ・技術情報管理強化」が3割を超えています(出典:中小企業庁2026年版中小企業白書 第1部第2章 中小企業・小規模事業者に求められる共通価値)。これらは「余裕ができたら考えること」ではなく、取引継続の条件として降ってきます。情報管理や事業継続の備えについてはリスク管理の実務を併せて確認してください。
❌ 「景気が戻れば人も採れるようになるので、それまでは今の体制を維持する」 ⭕ 「人が1割減る前提で、いまの品目・顧客・工程のどれを残すかを決める」
外部環境は地域から見る RESASとロカベンの二段階
外部環境分析というと、PESTの4文字を埋める作業になりがちです。しかし中小企業の商圏は全国ではなく、多くの場合は自社の立地する地域と特定の業界に限られます。抽象度の高い分析より、自社が立っている場所の人口と産業構造を見るほうが、判断に直結します。
ここで役に立つのが、経済産業省が公開している手順です。ローカルベンチマーク(略称:ロカベン)は「企業の健康診断」を行うツールで、経営者と金融機関・支援機関等がコミュニケーション(対話)を行いながらシートを使用し、企業経営の現状や課題を相互に理解することで、個別企業の経営改善や地域活性化を目指すものと説明されています(出典:経済産業省ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)、最終更新2026年1月16日)。そしてシートのページには、次のように書かれています。「ローカルベンチマークでは、個別企業の経営状態を把握する前に、企業が立地する地域の状態を把握しておくことを推奨しています(RESASを活用した地域実態の把握をロカベンの第一段階、ロカベンシートを使った個別企業実態の把握を第二段階と呼びます)」(出典:経済産業省ローカルベンチマーク(ロカベン)シート、最終更新2026年1月16日)。
RESAS(地域経済分析システム)は、産業の強み、人の流れ、人口動態などのデータを地図やグラフで可視化したシステムで、インターネット上で誰でも無料で利用できます。ここで見るべきものは3つに絞れます。自社の市区町村の人口動態(特に生産年齢人口の推計)、自社の業種の地域内での位置づけ、そして人の流れ。この3つが分かれば、「10年後もこの地域でこの商売の需要があるのか」「働き手を地元で採り続けられるのか」に、印象ではなく数字で答えが出ます。
第一段階を飛ばして自社の話から始めると、議論はほぼ確実に「うちの強みは技術力です」で止まります。地域の生産年齢人口が今後どう動くかを先に見ておくと、同じ「技術力」でも、それを誰に売るのか、そもそも継承できるのかという問いが自然に出てきます。
この段階での外部環境の記録は、数行で構いません。経営デザインシートの外部環境欄も、「自社を取り巻く環境のうち、事業ポートフォリオ等に影響を与えるものだが自社の力では変えるのが困難な事柄を記載(政治、経済、社会、技術等)」と定義しています(全社用シートの記入指示。事業用シートと事業が一つの企業用シートでは「収益の仕組みに影響を与えるもの」と表現されます。出典は後掲の内閣府資料)。変えられないものだけを書くという線引きが重要で、ここに自社の努力で変えられることを書き始めると、外部環境の欄が行動計画になってしまいます。
❌ 「PEST分析の4象限を、業界紙とニュースから網羅的に埋める」 ⭕ 「自社の市区町村の人口推計と業種の位置づけをRESASで確認し、自社では変えられない事実だけを3〜5行にする」
強みは自己申告しない ロカベンの商流・業務フローの使い方
ロカベンシートは、「6つの指標」(財務面)、「商流・業務フロー」(非財務面)、「4つの視点」(非財務面)の3枚組で構成されており、Excel形式で無料でダウンロードできます。最新版は2022年度版で、2024年4月1日には日本標準産業分類の改定にともなう業種分類の見直しが行われました。Excelを使わない場合は、中小企業庁が運営するミラサポplus上でも作成でき、こちらは入力フォームなどの作成補助機能があります(利用にはミラサポplusへの会員登録が必要です)。ミラサポplus上の非財務シートには、任意の相手に共有できる機能も実装されています(出典:経済産業省ローカルベンチマーク(ロカベン)シート、最終更新2026年1月16日)。
財務面の6つの指標については、算式と業種基準値との比べ方をKPI設計と運用で扱っています。本稿で使うのは、残る2枚のほうです。戦略立案で効くのは、決算書からは読み取れない「なぜ選ばれているか」の情報だからです。
商流把握シートの構造は、公開されている記入例で確認できます。中央に自社を置き、左に仕入先と協力先、右に得意先とエンドユーザーを配置する形です。記入欄は次のようになっています。
| シートの位置 | 書く相手 | 記入欄 |
|---|---|---|
| 左(仕入先) | 主要な仕入先と取引金額・内容 | 選定理由(なぜその先から買っているか) |
| 左(協力先) | 外注・提携先と取引金額・内容 | 選定理由(なぜその先に頼んでいるか) |
| 右(得意先) | 主要な販売先と取引金額・内容 | 選ばれている理由(なぜ自社から買うのか) |
| 右(エンドユーザー) | 最終顧客の属性(消費者・企業等) | 選ばれている理由 |
(出典:経済産業省(企業向け)ローカルベンチマークの活用に向けてに掲載のロカベンシート記入例)
この表の右側、「選ばれている理由」の欄が、戦略立案でもっとも使える部分です。社内で「うちの強みは何か」を議論すると、答えは技術力・品質・対応の速さのあたりに落ち着きがちです。ところがこの欄は、自社がどう思っているかではなく、相手がなぜ発注しているかを書く欄です。社長が答えられないなら、取引先に聞くしかありません。上位5社に「なぜ当社を使っていただいているのですか」と聞いて回るだけで、社内の議論は終わります。
もう1枚、業務フローのシートは、商品企画・商品開発・製造・デザイン・販売といった業務工程を横に並べ、各工程に「実施内容」と「差別化ポイント」を書き、右端に「提供内容/顧客提供価値」を置く構成です。ここで炙り出されるのは、差別化ポイントが1つも書けない工程です。書けない工程は、外注しても、やめても、顧客提供価値は変わらない可能性が高い。これが後段の「やらないこと」の候補リストになります。
「4つの視点」のシートは、経営者・事業・企業を取り巻く環境と関係者・内部管理体制の4区分について、現状認識、将来目標、現状と目標のギャップ、課題、対応策を文章で書く構成です。項目の一覧は前掲のKPI設計の記事に整理してあります。ここで注意したいのは、このシートには点数がつかないことです。財務指標側には各指標の評点と総合評価点があり、総合評価点はA(24点以上)、B(18点以上24点未満)、C(12点以上18点未満)、D(12点未満)にランク分けされますが、シート自身が「各項目の評点および総合評価点は各項目の業種基準値からの乖離を示すものであり、点数の高低が必ずしも企業の評価を示すものではありません。非財務指標も含め、総合的な判断が必要」と注記しています(前掲・企業向け活用資料に掲載のロカベンシート記入例)。
❌ 「役員会で『わが社の強みは技術力と対応の速さ』と決めて、それを戦略の前提に据える」 ⭕ 「上位5社に発注理由を聞き、商流シートの『選ばれている理由』欄に相手の言葉のまま書く」
「これから」から逆算する 経営デザインシートの4ブロック
現状が棚卸できたら、将来像を描きます。ここで使えるのが経営デザインシートです。内閣府の知的財産戦略推進事務局が作成し、2018年5月に知的財産戦略本部で公表した様式で、資料は「ひとことでいうと 将来を構想するための思考補助ツール(フレームワーク)」と自己定義しています。100文字の説明は次のとおりです。「環境変化に耐え抜き持続的成長をするために、自社や事業の(A)存在意義を意識した上で、(B)『これまで』を把握し、(C)長期的な視点で『これから』の在りたい姿を構想する。(D)それに向けて今から何をすべきか戦略を策定する」(出典:内閣府 知的財産戦略推進事務局「経営デザインシート」― 経営をデザインする ―)。
1枚のシートは左右に分かれ、左に「これまでの価値創造メカニズム」、右に「これからの価値創造メカニズム」を置きます。それぞれの内側は資源/ビジネスモデル/価値の3ブロックで、下段に「これからの姿への移行のための戦略」の帯が走ります。この構造そのものが、本稿でいう①〜⑤の作業に対応しています。
そして、この資料には他のフレームワークにはない指示が2つ書かれています。
第一に、順序です。「×これまでの延長線で考えるのではなく、○未来からバックキャストして考える」と明記され、(C)これから→(B)これまで→(D)移行戦略の順で考えるよう示されています。第二に、(C)の内側の順序です。「(C)これからは、『価値』→『ビジネスモデル』→『資源』の順に考える」とあります。つまり、誰にどんな価値を届けるかを先に決め、それを成り立たせる儲け方を考え、必要な資源を最後に洗い出す。手元にある設備と人から発想すると、今の延長線に着地しやすいという考え方が、様式の側にルールとして埋め込まれています。
作成のポイントとして挙げられているのは、書けるところから記載すること、シートを埋めること自体を目的にしないこと、構想を「見える化」するだけでなく対話しながら「磨き上げ」ること、財務的に実現可能かに配慮しつつも財務的な裏付けにこだわりすぎないこと、外部に開示する際は表現ぶりや公表の範囲に注意することの5点です。最後の1点は実務的に重要で、このシートは社外に見せる資料と社内で議論する資料を兼ねられます。
様式は用途別に用意されています。
| 様式 | 想定する会社 | 用途 |
|---|---|---|
| 全社シート | 複数事業会社等 | 各事業間の関係・シナジー等を含む、企業等全体の将来構想 |
| 事業シート | 複数事業会社等 | 企業等における特定事業の将来構想 |
| 事業が一つの企業用シート | 単一事業会社等 | 単一事業を営んでいる企業等の将来構想 |
| 簡易版 | 全般 | シンプルなシートでの将来構想 |
| 作成補助シート1〜4 | 全般 | 全社戦略の構築/資源の整理/SWOT分析/知財の活用 |
(出典:内閣府 知的財産戦略推進事務局経営をデザインする(知財のビジネス価値評価)。全社シート・事業シート・事業が一つの企業用シート・簡易版はPDF/PowerPoint/Excelの3形式、作成補助シート1〜4はPDF/PowerPointの2形式で配布されています)
単一事業の会社なら「事業が一つの企業用シート」1枚で足ります。SWOT分析は独立した作成補助シート3として位置づけられており、SWOTは戦略そのものではなく、シートを書くための下ごしらえという扱いです。この整理は覚えておく価値があります。SWOTの4象限を埋めて満足してしまう会議は、公的な様式の上では作業の途中で止まっていることになります。
活用場面として資料が挙げているものの中には、事業承継も入っています。現経営者が「これまで」を記載し、後継者候補が「これから」を記載して、支援者が移行戦略の話し合いを促す、という使い方です。承継を控えているなら、この使い方は検討する価値があります。手順の全体像は事業承継の進め方にまとめています。
やらないことを決める 撤退基準を先に書く
戦略の実質は、足すことではなく引くことです。そして引くことは、感情の問題ではなく手続きの問題です。判定条件を先に決めておかないと、撤退の議論は毎回ゼロから始まり、毎回結論が出ません。
ここでも様式が助けになります。経営デザインシート(事業用)の「これから」側にある事業概要欄には、記入指示としてこう書かれています。「左記の内容に加え、予測し得ない環境変化や自社の他事業との関係の変化が発生することも想定し、事業の撤退基準を定義して記載」。将来構想を書く欄に、撤退基準を書けと指示しているわけです。始めるときに終わり方を決めておく、という考え方が様式に組み込まれています。
撤退基準は、次の3つを埋めれば形になります。
- 判定する指標(例:貢献利益、受注件数、特定顧客への依存度)
- 判定するタイミング(例:毎年3月末、6か月連続で下回った時点)
- 下回った場合に何をするか(例:新規受注を停止する、担当者を1名に減らす、他部門へ配置転換する)
判定に使う数字をどう作るかは別の仕組みが要ります。事業や商品ごとに利益を見るなら部門別損益の作り方の考え方で、共通費を配賦せず貢献利益まで出す形が現実的です。ここで注意したいのは、共通費を配賦した「部門別営業利益」で撤退を判断すると、配賦基準しだいで結論が反転することです。撤退判断は貢献利益と、実際に削減できる固定費の額で行います。
やめる対象は事業単位とは限りません。むしろ中小企業では、次のような小さい単位のほうが実行しやすく、効果も早く出ます。
| やめる単位 | 判定に使うもの | 典型的な効果 |
|---|---|---|
| 商品・サービス | 品目別の限界利益率と数量 | 段取り替えと在庫が減る |
| 顧客 | 顧客別の粗利と回収サイト | 与信と督促の手間が減る |
| 業務工程 | ロカベン業務フローの差別化ポイント欄 | 外注・自動化の判断がつく |
| 販路 | 商流シートの取引金額とシェア | 営業の訪問先が絞れる |
| 社内会議・報告書 | 出席者数×時間 | 管理職の時間が空く |
工程については、前掲のロカベン業務フローで差別化ポイントが書けなかった工程が候補になります。差別化できていない工程を自社で抱え続ける理由は、原則としてコストしかありません。そこが本当に安いのかを検証し、安くないなら外に出す。これは「選択と集中」という言葉を使わずに済む、具体的な意思決定です。
やめる決定と同時に決めるべきことがひとつあります。空いた人と時間をどこに移すかです。ここを決めずにやめるだけの決定をすると、現場は「仕事が減った」ではなく「先行きが不安だ」と受け取ります。移す先が新しい領域なら、いきなり本格投資をせず小さく試す進め方が向いています。その手順は新規事業の仮説検証の進め方で扱う論点です。どの市場のどの位置を取りにいくかという問いは、ポジショニング戦略の考え方が正面から扱います。
❌ 「不採算の事業は、来期の状況を見てから判断する」 ⭕ 「『貢献利益が6か月連続でマイナスなら新規受注を止める』と条件を先に書き、期日をカレンダーに入れる」
1枚を実行の当番表に変える
シートが書けても、それだけでは何も起きません。経営デザインシートの下段にある移行戦略の帯には、「必要な資源」「解決策」「移行のための課題」を書く欄があり、解決策の記入指示には「これからの姿を実現するために必要となる資源をどのように調達するかを記載(例)自社で開発する、○○社と連携する、M&Aで買収する」「どのようにこれからの姿に移行させるかの具体的な手段を記載」「予測し得ない環境変化が起きることも予め想定し、会社の存続可能性を高める策も検討」とあります。
この欄を、そのまま当番表に展開します。実務上は、次の5列があれば足ります。
| 列 | 書く内容 | よくある失敗 |
|---|---|---|
| やること | 動詞で終わる1文(「〜を検討する」は不可) | 名詞句で終わり、誰も動かない |
| 担当者 | 個人名。部署名は不可 | 「営業部で」と書いて誰もやらない |
| 期限 | 日付。「今期中」は不可 | 期限が期末に集中して全部遅れる |
| 完了の定義 | 何が出来ていれば終わりか | 完了判定が人によって違う |
| 点検する場 | 既存の会議名 | 報告先がなく自然消滅する |
作り方の要点は3つです。第一に、動詞で終わらせること。「新規市場を検討する」は行動ではありません。「A業界の見込み先20社をリスト化し、10社に架電する」まで書きます。第二に、担当者を個人名にすること。兼務でも構いませんが、名前のない行は残りやすくなります。第三に、点検する場を既存の会議に置くこと。戦略のために新しい会議体を作ると、本業の繁忙とともに欠席者が出ます。
点検の頻度は月次で十分です。議題は、やった/やっていない、やっていないなら何が詰まっているか、来月の行動を変えるか、の3つに固定します。ここに「報告のための報告」が入り始めると、資料づくりに時間が移っていきます。
人と資金の裏づけも同じ場で決めます。新規領域の開拓を掲げながら担当者は既存業務との兼務のまま、予算も計上していない、という状態は計画倒れの典型です。戦略を決めた時点で、専任を置くのか外部に委託するのか、いつまでにいくら投じるのかまでを同じ会議で決めてください。設備投資や増員に資金が要るなら、金融機関との交渉の準備を並行して進めます。書いたシートは、そのまま金融機関に示す資料になります。内閣府の資料は、政府の「知的財産推進計画2019」の記述として、経営デザインシートを金融機関における事業性評価や中小企業における経営革新・経営支援に活用するよう促す、という方針を引いています。数字に落とした計画書の形式は事業計画書の作成のポイントで整理しています。
❌ 「戦略推進委員会を新設し、月2回の定例会で進捗を管理する」 ⭕ 「既存の月次会議の冒頭15分を戦略の点検に充て、当番表を1枚だけ映す」
つまずく典型パターンと、その場での直し方
戦略づくりが失敗する形は、おおむね決まっています。原因と直し方を整理します。
| 症状 | 実際に起きていること | その場での直し方 |
|---|---|---|
| 合宿で盛り上がって資料が棚に眠る | 当番表(担当者・期限)が作られていない | 解散前に、担当者名と日付の入った行を10行つくる |
| 「うちの強みは技術力」で議論が止まる | 強みを社内の自己申告で決めている | 上位5社に発注理由を聞き、相手の言葉で書き直す |
| やることが20個に増える | やめることを決めていない | 1つ足すたびに1つやめる、と会議の運用ルールにする |
| 幹部が戦略を説明できない | 社長だけが構想し、書く作業を共有していない | シートを幹部と共同で書く。経営デザインシートは対話のツールとされている |
| 3年計画が毎年ゼロから作り直される | 前提(外部環境)を書き残していない | 変えられない事実として書いた3〜5行を、毎年見直して差分だけ書き換える |
| 撤退の議論が毎年繰り返される | 判定条件が文章になっていない | 指標・タイミング・下回った場合の行動の3点を1行で書く |
内閣府が経営デザインシートの利用企業から集めた意見には、示唆的なものがあります。「書けない部分があり、自社(又は作成者)が考えるべき・明確化すべき部分に気づいた」「シートが1枚で完結しているので、社内外に説明しやすい」「関係者(社員、金融機関、協業先、支援者等)と目指す方向が共有できた」といった声です。書けない欄が出ることは失敗ではなく、それ自体が発見という設計思想が、ここに表れています。
もうひとつ、ありがちな失敗は「完璧な材料が揃うまで着手しない」ことです。経営デザインシートの作成ポイントにも「書けるところから記載」とあります。直近3期の試算表、主要顧客の取引推移、従業員名簿と年齢構成、借入金の返済予定表。この4点は経理と営業から数日で集まります。準備に何か月もかけるより、手元の情報で一度描き切り、走りながら精度を上げるほうが実務的です。
公的制度で「外部の目」と資金を確保する
自社だけで書き切れないときのために、無料または低コストの外部資源が用意されています。営業を受ける心配のない順に整理します。
| 相談先 | 何ができるか | 費用 |
|---|---|---|
| よろず支援拠点 | 売上拡大・経営改善などの経営相談全般。成果が出るまでフォローアップ | 無料・回数制限なし |
| 都道府県等中小企業支援センター | プロジェクトマネージャー等による相談、専門家継続派遣、情報提供のワンストップ支援 | 相談は無料(派遣等は事業により異なる) |
| 認定経営革新等支援機関 | 経営状況の把握(財務分析・課題抽出)、事業計画の策定支援、実行支援、モニタリング | 機関により異なる |
| 中小企業基盤整備機構 経営相談ホットライン | 電話での相談(平日9時〜17時、TEL 050-3171-8814) | 無料 |
(出典:中小企業庁経営革新計画進め方ガイドブック「経営革新計画の作成や、計画実施の相談先」、令和4年2月発行・令和7年4月改訂)
よろず支援拠点は、国が設置した無料の経営相談所で、47都道府県に設置されています。「経営上のあらゆるご相談に何度でも無料で対応します」と明示されており、中小企業・小規模事業者のほか、NPO法人・一般社団法人・社会福祉法人等の中小企業・小規模事業者に類する方、創業予定の方も対象です。2026年4月1日からは、全国のよろず支援拠点内に「生産性向上支援センター」が新規オープンしています(出典:中小企業基盤整備機構よろず支援拠点)。
認定経営革新等支援機関は、平成24年8月30日に施行された「中小企業経営力強化支援法」(現在の「中小企業等経営強化法」)に基づく認定制度で、税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援に係る実務経験が一定レベル以上の個人・法人・中小企業支援機関等が認定されています。税理士、公認会計士、弁護士、商工会、商工会議所、中小企業診断士、金融機関等が該当します。認定は継続的に行われており、2026年8月25日には新たに362機関が認定されました。どの機関を選ぶかは検索システムで比較できます。同システムでは、認定支援機関(金融機関を除く)の活動内容や支援実績等を検索できます(出典:中小企業庁認定経営革新等支援機関、2026年8月25日更新)。
経営革新計画は「外部に説明する期限」を作る道具
書いた戦略を制度に乗せる選択肢が、都道府県知事等の承認を受ける経営革新計画です。中小企業等経営強化法は「経営革新」を「事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ること」(第2条第9項)と定義しています。
「新事業活動」は次の5類型です(同法第2条第7項)。①新商品の開発又は生産、②新役務の開発又は提供、③商品の新たな生産又は販売の方式の導入、④役務の新たな提供の方式の導入、⑤技術に関する研究開発及びその成果の利用その他の新たな事業活動。個々の中小企業者にとって「新たな事業活動」であれば、既に他社において採用されている技術・方式を活用する場合でも原則として承認の対象となります。ただし、同業他社に既に相当程度普及している技術・方式等の導入は対象外です。世の中にない発明である必要はない、という点は誤解されがちです。
「経営の相当程度の向上」の要件は、事業期間3〜5年で次の2指標が向上することです。
| 事業期間 | 「付加価値額」又は「一人当たりの付加価値額」の伸び率 | 「給与支給総額」の伸び率 |
|---|---|---|
| 3年 | 9%以上 | 4.5%以上 |
| 4年 | 12%以上 | 6%以上 |
| 5年 | 15%以上 | 7.5%以上 |
(注)それぞれ年平均3%以上、年平均1.5%以上の伸び率にあたります。付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費、一人当たりの付加価値額=付加価値額÷従業員数、給与支給総額=役員報酬+給料+賃金+賞与+各種手当(残業手当・休日手当・家族手当・住宅手当等を含み、退職手当等及び福利厚生費は含みません)。計画期間終了時点の付加価値額または一人当たり付加価値額が正であることも必要です(出典:中小企業庁経営革新計画進め方ガイドブック、令和4年2月発行・令和7年4月改訂)。
対象は全業種で、業種による制約はありません。特定事業者として対象となる従業員基準は、製造業等500人以下、卸売業400人以下、サービス業300人以下、小売業300人以下です(サービス業のうちソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業は500人以下。常時使用する従業員には事業主、法人の役員、臨時の従業員を含みません)。単独だけでなく、任意グループや組合等での申請も可能です。
制度として押さえておきたいのは、承認後にフォローアップ調査があることです。都道府県等が承認企業に対して、計画開始時から1年目以後2年目以前に進捗状況の調査を行い、必要な指導・助言を行います。計画終了時には成果の状況を確認する終了企業調査も行われます。社内の意思だけでは進捗確認が続かない会社にとって、外部から期限つきで進捗を聞かれる仕組みは、それ自体が実行の担保になります。
承認を受けると、信用保証の特例、日本政策金融公庫の特別利率による融資制度、高度化融資制度、食品等流通合理化促進機構による債務保証制度といった支援措置の対象になります。ただしガイドブックは「承認は支援措置などを保証するものではありません。支援策を活用できる対象になったということです。各支援策にはそれぞれ実施機関の審査があります」と明記しています。承認と資金調達は別の手続きです。融資や保証を使う予定があるなら、計画申請と並行して関係機関に相談しておくよう同ガイドブックも勧めています。
利用実績も確認しておきます。経営革新計画の承認件数は、平成11年度から令和7年度までの累計で112,072件、令和7年度単年では3,519件です(出典:中小企業庁経営革新計画承認件数(都道府県年度別内訳)、令和8年3月末時点)。都道府県ごとの内訳を見ると、累計で埼玉県14,066件、東京都11,198件、福岡県10,195件など、地域差が大きいことも分かります。自県の運用がどうなっているかは、都道府県の担当部局に確認するのが確実です。申請方法や様式は都道府県ごとに異なります。
なお、承認を受けたからといって補助金が付くわけではありません。補助金・助成金の探し方と、申請でつまずく箇所については補助金・助成金の探し方を参照してください。
❌ 「経営革新計画の承認を取れば、低利融資が受けられるので資金の目処が立つ」 ⭕ 「承認は支援策の対象になるだけ。融資や保証は別途審査があるので、計画申請と並行して金融機関に相談する」
5問で確認する 経営戦略づくりの進み具合
5つの決めることが、どこまで埋まっているかを確かめる簡易チェックです。
SELF CHECK / 無料・登録不要
5問で確認|経営戦略づくりの進み具合
いまの自社の状態にいちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。
※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
まとめ 90日でここまで決める
最後に、着手の順序を時間軸に並べます。専任の企画部門がなくても、この範囲は社長と幹部数名で動かせます。
1〜2週目。 RESASで自社の市区町村の人口推計と業種の位置づけを確認する。自社では変えられない事実を3〜5行にする。ここが外部環境の全部です。
3〜4週目。 ロカベンシートをダウンロードし、商流把握シートと業務フローシートを埋める。埋まらない欄が出るので、上位5社に発注理由を聞きに行く。差別化ポイントが書けない工程に印を付ける。
5〜8週目。 経営デザインシートを書く。「これから」を先に、価値→ビジネスモデル→資源の順で書く。書けない欄は空けたまま次に進み、幹部と一緒に埋める。事業ごとに撤退基準を1行ずつ書く。
9〜10週目。 やめることを決める。印を付けた工程、下位の顧客、差別化のない品目から選び、空いた人と時間の移し先を同時に決める。
11〜12週目。 移行戦略を当番表に展開する。やること・担当者・期限・完了の定義・点検する場の5列を埋め、既存の月次会議に点検枠を置く。必要なら、よろず支援拠点か認定経営革新等支援機関に見てもらう。経営革新計画を申請するなら、この段階で都道府県の担当部局に問い合わせます。
ここまでで新たな支出はほぼ発生しません。ロカベンシートも経営デザインシートもRESASも無料で、よろず支援拠点の相談も無料です。必要なのは、決算書と試算表、取引先を訪ねる時間、そして毎月の会議の15分だけです。
戦略づくりで差がつくのは、分析の精緻さではありません。変えられない事実を数行で押さえ、選ばれている理由を相手の言葉で確かめ、やめることを条件つきで決め、担当者名と日付の入った行を残す。この4つが揃っているかどうかです。シート1枚と当番表1枚に収まらない戦略は、たいてい実行もされません。
NEXT ACTION / 次にやること
ロカベンの商流把握シートを開き、上位5社の「自社を選んでいる理由」の欄を埋める
埋まらない欄が、取引先に確かめに行くべき箇所です。相手の言葉で選ばれている理由が分かると、経営デザインシートの「これから」が空想ではなくなります。
よくある質問
Qローカルベンチマークと経営デザインシートは、どちらを先に使えばよいですか
現状把握が目的ならロカベン、将来構想が目的なら経営デザインシートで、通常は前者が先です。ロカベンは「企業の健康診断」を行うツールで、6つの指標(財務)、商流・業務フロー、4つの視点(非財務)の3枚組。経営デザインシートは「将来を構想するための思考補助ツール」で、これまでとこれからを1枚に並べます。ただし経営デザインシートの資料は「未来からバックキャストして考える」ことを勧めているため、ロカベンで現状を書いたあと、経営デザインシートでは「これから」から書き始める、という順序になります。どちらも無料で、様式はウェブサイトからダウンロードできます。
QSWOT分析や3C分析は不要ということですか
不要ではありませんが、位置づけが変わります。経営デザインシートでは、SWOT分析は独立した「作成補助シート3」として提供されており、本体のシートを書くための下ごしらえという扱いです。フレームワークを埋めること自体が成果物になっていないか、という点だけ注意してください。4象限を埋めて会議が終わっているなら、公的な様式の上では作業がまだ途中で止まっていることになります。
Q「やらないこと」を決めると、売上が落ちるのが怖いのですが
やめる対象を事業や部門から選ぶ必要はありません。品目、顧客、業務工程、販路、社内の会議や報告書といった小さい単位のほうが、実行しやすく効果も早く出ます。判定は貢献利益(限界利益から部門固定費を引いた額)と、実際に削減できる固定費の額で行ってください。共通費を配賦した部門別営業利益で判断すると、配賦基準を変えるだけで黒字と赤字が入れ替わるため、結論が定まりません。また、やめる決定と同時に、空いた人と時間の移し先を決めることが重要です。
Q撤退基準は、具体的にどう書けばよいですか
指標、タイミング、下回った場合の行動の3つを1行にします。例えば「A事業の貢献利益が6か月連続でマイナスになった場合、新規受注を停止し、技術者2名を保守部門へ配置転換する」といった形です。「赤字が続いたら考える」は基準になりません。経営デザインシート(事業用)の「これから」の事業概要欄には、予測し得ない環境変化や自社の他事業との関係の変化が発生することも想定し、事業の撤退基準を定義して記載するよう指示があります。始めるときに終わり方を決めておく、という考え方です。
Q経営革新計画の承認を取るメリットは何ですか
3つあります。第一に、信用保証の特例、日本政策金融公庫の特別利率による融資制度、高度化融資制度などの支援措置の対象になること。ただし承認は支援措置を保証するものではなく、各支援策にはそれぞれ実施機関の審査があります。第二に、都道府県等によるフォローアップ調査が計画開始時から1年目以後2年目以前に行われるため、外部から進捗を聞かれる期限が生まれること。第三に、社内および取引先に取組を簡潔に説明できることです。承認要件は事業期間3〜5年で付加価値額(又は一人当たりの付加価値額)と給与支給総額がそれぞれ所定の伸び率を満たすことで、3年計画なら9%以上・4.5%以上です。
Q相談先が多すぎて、どこに行けばよいか分かりません
費用が発生しない順に試すのが安全です。まず、よろず支援拠点。国が設置した無料の経営相談所で47都道府県にあり、回数制限もありません。次に、都道府県等中小企業支援センターや商工会・商工会議所。経営革新計画の申請書の書き方やビジネスプランの策定の仕方についてもアドバイスを受けられます。継続的な伴走支援が必要なら、認定経営革新等支援機関を検索システムで比較して選びます。同システムでは活動内容や支援実績等を確認できるので、自社の業種や課題に近い実績を持つ機関を選んでください。
Q戦略を作っても社員に伝わりません。どうすればよいですか
シートを社長が1人で書かないことが、いちばん効きます。経営デザインシートは「企業経営における対話のツール」と位置づけられており、経営層と社員が共同で作成することで経営課題の気づき・整理やビジネスモデルの見直しにつながる、という活用例が示されています。実際に利用した企業からは「関係者(社員、金融機関、協業先、支援者等)と目指す方向が共有できた」「シートが1枚で完結しているので、社内外に説明しやすい」といった意見が寄せられています。そのうえで、当番表に個人名と日付を書き、既存の月次会議で点検してください。伝わらない原因は表現力ではなく、多くの場合、自分の名前が書かれた行がないことです。
出典・調査の対象範囲
- 経済産業省「ローカルベンチマーク(通称:ロカベン)」、ロカベンシート、(企業向け)ローカルベンチマークの活用に向けて — 6つの指標・商流・業務フロー・4つの視点の様式。
- 内閣府「経営をデザインする」、「経営デザインシート」 — これまで・これからの価値創造メカニズムと撤退基準の記入指示。
- 中小企業庁「2026年版中小企業白書」(雇用・賃金、価格転嫁、共通価値) — 人手不足・雇用者数の将来推計・価格転嫁率・取引先からの要請。
- 中小企業庁経営革新計画進め方ガイドブック、経営革新計画承認件数、認定経営革新等支援機関、中小機構よろず支援拠点 — 外部の目と資金を確保する公的制度。
※5つの決めることの整理・期間の目安・自己診断は、本誌が公的様式をもとに整理した判断支援情報です。制度の申請要件や様式は都道府県・年度によって異なるため、各窓口の最新情報をご確認ください。



