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中小企業の金融機関交渉術 経営者保証を外す3要件と、平時に渡す材料の決め方
公開 2026.09.08
中小企業が平時に進める金融機関との融資交渉を解説。経営者保証の解除に向けた3要件、プロパー融資と保証付き融資の違い、面談に持参する資料と確認すべき数字を整理します。

- 民間金融機関529機関の新規融資件数に占める経営者保証に依存しない融資の割合は2025年度で55.7%。2015年度は12.2%でした。加えて、無保証融資と「有保証だが適切な説明を行い記録した融資」の合計は99.9%に達しています。保証を求められたら理由の説明を受けられる、が制度上の建前ではなく実態になりました
- 金融庁の監督指針は、保証契約を締結する場合や既存の保証契約がある場合に、「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」を個別具体的に説明し、記録することを金融機関に求めています(Ⅱ-3-2-1-2(2)①ニ)。2026年の改正で、この対象が一部の既存契約から既存の保証契約全般に広がりました
- 信用保証協会は経営者保証を不要とする類型を公開しており、直近決算が債務超過でない、直近2期連続で減価償却前経常利益が赤字でない、代表者への貸付金がないといった要件が並びます。これが決算書のどこを見られているかの答えでもあります
金融機関との交渉というと、金利を何ポイント下げるかの駆け引きを思い浮かべるかもしれません。しかし、融資条件のうち経営者個人の資産にまで効果が及ぶのは経営者保証です。金利や返済期間とは、影響の性質が違います。そしてこの数年、経営者保証の扱いは制度側が大きく動きました。本稿は、金融機関の種類ごとの役割、プロパー融資と信用保証付き融資の構造の違い、経営者保証を外すための要件、金融機関に課された説明義務の条文、面談に持っていく材料、業績が下振れしたときの伝え方までを、一次情報に沿って整理します。返済条件の変更を申し出る段階の話は扱いません。ここは「資金繰りが回っているうち」の記事です。
最初に結論:交渉は「頼む」ではなく「要件を示す」
まず見るべき判断表|場面ごとに最初にやること
| 場面 | 最初にやること | 根拠になる制度・資料 |
|---|---|---|
| 取引金融機関の構成を決める | 主取引先を1行決めて残高と月次の情報を寄せ、残り1〜2行とは口座と決算報告の関係を維持する | 監督指針Ⅱ-5-2-1(主たる取引金融機関への期待)。行数は本誌の目安 |
| 経営者保証を外したい | 自社が満たしている要件と満たしていない要件を1枚に整理してから相談する | ガイドライン第4項の3要件、信用保証協会の類型、公庫の経営者保証免除特例制度 |
| 保証を求められた・外れない | 「どの部分が十分でないか」「どう改善すれば解除の可能性が高まるか」を定量的に説明してもらう | 監督指針Ⅱ-3-2-1-2(2)①ニ。2026年改正で既存の保証契約全般が対象 |
| 面談・決算報告 | 決算書と内訳明細・月次試算表・資金繰り表・事業計画書・資金使途の内訳の5点を持参する | 事業再生等ガイドラインQ&A(平時の情報開示) |
| 業績が下振れした | 幅・原因・打ち手・返済原資への影響の4点を自分から報告する | ガイドライン第4項(1)③(自発的な報告) |
| 事業承継・M&A | 保証の解除または後継者への移行を、最終契約のクロージング条件に書き込む | 監督指針Ⅱ-3-2-1-2(5)①、経営者保証情報ネットワーク |
最初に動かすべきは金利ではなく経営者保証です。外すための要件は公開されているので、決算書の数字で満たしていることを示しにいく。外れなければ、何が足りないのかの説明を求めてください。
どの金融機関に、何を材料に、いつ話すか
最初に全体像を示します。以下は、それぞれの金融機関の根拠法・設立目的から整理した早見表です。
| 相手 | 位置づけ | 主に向く場面 | 押さえる制度 |
|---|---|---|---|
| 銀行(都市銀行・地方銀行) | 銀行法に基づく株式会社。大企業を含む全国の企業と取引可能 | 規模の大きい設備投資、複数行での分散 | プロパー融資、責任共有制度 |
| 信用金庫 | 信用金庫法に基づく協同組織の非営利法人。会員資格は従業員300人以下または資本金9億円以下の事業者 | 小規模・地域密着。会員として長期の関係を持つ | 会員外貸出の制限、卒業生金融 |
| 信用組合 | 中小企業等協同組合法・協金法に基づく協同組織。会員資格は従業員300人以下または資本金3億円以下(卸売業は100人または1億円、小売業は50人または5千万円、サービス業は100人または5千万円) | さらに小規模。組合員としての取引 | 融資は原則として組合員が対象 |
| 日本政策金融公庫 国民生活事業 | 政策金融機関。小規模事業者・創業企業向け | 創業、小口の運転・設備資金 | 一般貸付の限度額4,800万円(特定設備資金7,200万円)、経営者保証免除特例制度 |
| 日本政策金融公庫 中小企業事業 | 同上。中小企業向けの長期資金 | 長期の設備資金、事業承継、再生 | 対象規模は製造業等で資本金3億円以下または従業員300人以下など |
| 信用保証協会 | 信用保証協会法に基づく公的機関。金融機関に対して債務を保証する | 担保が乏しい、取引実績が浅い | 一般保証の限度額2億8,000万円(組合4億8,000万円)、責任共有制度 |
(出典:全国信用金庫協会「信用金庫と銀行・信用組合との違い」/日本政策金融公庫「業務の概要」および「一般貸付」、「融資対象」/全国信用保証協会連合会「ご利用条件」、いずれも2026年9月閲覧)
信用金庫・信用組合は「協同組織の非営利法人」で、融資の相手は原則として会員・組合員です。株式会社である銀行とは、そもそも誰の利益を優先する組織かが違います。自社の従業員数と資本金が会員資格の範囲に収まっているかどうかは、取引の入口として先に確認しておく価値があります。なお、会員資格の規模を超えて成長した先への融資(卒業生金融)は、全国信用金庫協会の整理では信用金庫にはあり、信用組合にはありません。会社が伸びる前提で長い付き合いを設計するなら、ここは効いてきます。
では、どこを主取引先にするか。判断の手がかりは監督指針にあります。監督指針は「貸付残高が多いなど、顧客企業から主たる相談相手としての役割を期待されている主たる取引金融機関については、コンサルティング機能をより一層積極的に発揮し、顧客企業が経営課題を認識した上で経営改善、事業再生等に向けて自助努力できるよう、最大限支援していくことが期待される」と書いています(出典:金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」本編Ⅱ-5-2-1、令和8年8月)。
つまり、貸付残高が多い先=相談相手として期待される先という関係が、当局の側からも整理されています。残高を薄く広く分散させると、どの金融機関にとっても自社は「主たる取引先」になりません。逆に一行に集中させると、その一行の判断ひとつで資金調達の道が塞がります。実務上の落としどころは、主取引先を1行決めて残高と情報の両方をそこに寄せ、残り1〜2行とは口座と決算報告の関係を切らさずに維持するという形です。以下は本誌が実務上の観点から整理した目安であり、公的な基準ではありません。
| 取引の形 | 得られるもの | 失うもの |
|---|---|---|
| 1行集中 | 相談相手としての深い関与、条件交渉の一元化 | その1行の方針転換で調達が止まる |
| 主取引先+1〜2行 | 主取引先の関与を維持しつつ代替手段が残る | 各行への報告の手間が増える |
| 多行分散(横並び) | 一行依存の回避 | どこにとっても主たる取引先にならず、平時の関与が薄くなる |
話す時期についてもひとつだけ原則があります。資金が必要になってからでは遅い、ではなく、要件を満たしたときに話すです。後述する経営者保証の要件も、信用保証協会の制度要件も、決算書の数値で判定されます。決算が出た直後は、金融機関に対して「今期はこの要件を満たした」と示せる最も自然なタイミングです。
❌ 「金利が0.1%安い先に借り換えを繰り返し、どの金融機関とも残高が同じくらいになっている」 ⭕ 「主取引先を1行決めて残高と月次の情報を寄せ、他行とは口座と決算報告の関係だけ維持する。条件の比較は借換ではなく新規調達の場面で行う」
金利を軽く見てよいという意味ではありません。政策金利の引上げで借入金利がどこまで動き、利益にどう効くかは「日銀が31年ぶり1.25%へ利上げ。在庫も売掛金も「タダで寝かせておけない」時代」で試算しています。
プロパー融資と信用保証付き融資 審査する主体が二つある
同じ「銀行からの借入」でも、信用保証協会の保証が付くかどうかで構造がまったく変わります。ここを理解していないと、面談で誰に向かって何を説明しているのかが分からなくなります。
| 論点 | プロパー融資 | 信用保証付き融資 |
|---|---|---|
| 審査する主体 | 金融機関のみ | 金融機関と信用保証協会の両方 |
| 保証の仕組み | なし(金融機関が全額のリスクを負う) | 信用保証協会が金融機関に対して保証 |
| 事業者の負担 | 金利 | 金利+信用保証料 |
| 信用保証料 | − | 経営状況に応じた9つの料率区分から適用。担保提供や会計参与設置会社は割引、事業者選択型経営者保証非提供制度の利用時は割増 |
| 限度額 | 金融機関の判断 | 一般保証で2億8,000万円(普通保険2億円+無担保保険8,000万円。組合は4億8,000万円)。別枠保証は別建て |
| 代位弁済後 | − | 信用保証協会が金融機関に弁済した後、事業者は信用保証協会に返済する |
(出典:全国信用保証協会連合会「信用保証料」および「ご利用条件」、2026年9月閲覧。保証料率の具体的な数値は改定されるため、必ず最寄りの信用保証協会で最新を確認してください)
見落とされやすいのが代位弁済後の扱いです。信用保証協会は「信用保証料は保険料ではありません。したがって信用保証協会による代位弁済が行われた後は、中小企業・小規模事業者の方から信用保証協会へ弁済していただきます」と明記しています。保証は債務を消す仕組みではなく、支払う相手が金融機関から信用保証協会に変わる仕組みです。
責任共有制度があるので、保証付きでも金融機関の目線は入る
2007年(平成19年)10月から責任共有制度が導入され、原則としてすべての保証が対象になりました。信用保証協会が80%、金融機関が20%のリスクを負う形です。方式は2つあり、個別貸付金の80%を信用保証協会が保証する「部分保証方式」と、保証時点では100%保証だが代位弁済状況に応じて金融機関が負担金を支払う「負担金方式」を、各金融機関が選択します(出典:全国信用保証協会連合会「信用保証制度を支えるしくみ」、2026年9月閲覧)。
ただし例外があります。経営安定関連保証(セーフティネット保証)1号〜4号・6号、災害関係保証、創業関連保証(再挑戦支援保証、スタートアップ創出促進保証制度を含む)、特別小口保険に係る保証、事業再生保証、小口零細企業保証、危機関連保証など13の制度が責任共有制度の対象外です(出典:同上)。
この制度は事業者にとって二つの意味を持ちます。第一に、保証付きであっても金融機関は20%のリスクを負うので、金融機関自身の審査が入ること。「保証協会が付くなら通る」という前提は成り立ちません。第二に、責任共有制度を口実にした謝絶は監督指針が名指しで戒めていることです。監督指針は「営業上の判断に即した本来の説明を的確に行うことなく、平成19年10月より『責任共有制度』が導入されたことを口実として融資を謝絶するといった不適切な対応を行っていないか」を検証項目に挙げています(前掲・監督指針Ⅱ-3-2-1-2(5)②)。
2026年5月に選択肢がひとつ増えた
もうひとつ、2026年に新しい調達手段が制度化されています。事業性融資の推進等に関する法律が令和8年(2026年)5月25日に施行され、企業価値担保権が使えるようになりました。会社の総財産を担保目的財産とし(法7条)、商業登記簿に登記され(法15条)、担保権者は制度概要等の説明義務を負います(法40条)。極度額の設定は任意ですが、借り手からの請求があれば設定されます(法9条)。事業の継続に支障を来すような他の担保権の実行等に対しては異議を述べられます(法19条)。一方で、将来性に基づく融資判断の前提を超える財産処分(事業譲渡等)をする際は、担保権者との事前のコミュニケーション・同意が必要です(法20条)(出典:金融庁「金融仲介機能の発揮/事業性融資の推進(企業価値担保権等)」掲載の「制度の概要」、令和8年7月27日更新)。
想定される活用例として金融庁が挙げているのは、スタートアップ企業への融資、地域の中小・中堅企業への融資、事業再生・事業承継、M&Aやプロジェクトファイナンスです。ただし同資料は、いずれも「既存の借入をすべて借り換えて(リファイナンスして)行う、または、(スタートアップ等)借入がない企業に行う融資の類型」と注記しています。既存借入の全額借換が前提になる類型である以上、複数行取引との両立は簡単ではないと読めます(編集部の見方)。有形資産に乏しいが技術力や顧客基盤で評価されうる会社にとっては強力な選択肢ですが、取引金融機関の構成そのものを組み替える意思決定になります。導入事例はまだ限られるため、検討する場合は主取引金融機関に取扱いの有無から確認してください。
❌ 「保証協会が保証してくれるのだから、審査は形式的なものだと考えている」 ⭕ 「保証付きでも金融機関が20%のリスクを負い、代位弁済後は保証協会に返済する。審査する主体が二つあると理解して、両方に通る材料を用意する」
経営者保証は「外してください」と頼むものではない
ここが本稿の中心です。経営者保証は頼み込んで外すものではなく、要件を満たしたことを示して外しにいくものです。要件は公開されています。
ただし、先に限界を書いておきます。「経営者保証に関するガイドライン」そのものに法的拘束力はありません。ガイドライン第2項(1)は、これが中小企業団体と金融機関団体の関係者が学識経験者・専門家とともに策定した準則であり、「法的拘束力はないものの、主たる債務者、保証人及び対象債権者によって、自発的に尊重され遵守されることが期待されている」と明記しています。金融機関に課されているのは、要件が将来にわたって充足すると見込まれるときに経営者保証を求めない可能性を検討することであって、解除の義務ではありません。つまり要件を整理して示すことは、解除の必要条件ではあっても十分条件ではない。満たしているのに解除されないことは起こりえます。その場合に何ができるかは、次章の説明義務のところで扱います。
「経営者保証に関するガイドライン」は、経営者保証を提供せずに資金調達することを希望する場合に求められる経営状況として、次の3つを挙げています(出典:経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」第4項(1)、平成25年12月公表・令和4年6月改定)。
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離。法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等)を社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備する
- 財務基盤の強化。財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する
- 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保。資産負債の状況(経営者のものを含む)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等について、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明する。開示後に事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には自発的に報告する
そして金融機関の側は、同ガイドライン第4項(2)に沿って、次の要件が将来にわたって充足すると見込まれるときに、経営者保証を求めない可能性を検討することとされています。イ)法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている、ロ)法人と経営者の間の資金のやりとりが社会通念上適切な範囲を超えない、ハ)法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る、ニ)法人から適時適切に財務情報等が提供されている、ホ)経営者等から十分な物的担保の提供がある(出典:同上)。
3つ目の「経営の透明性確保」を軽く見ないでください。金融庁が公表した金融機関の取組事例集には、ある銀行が「3要件のうち『経営の透明性』は必須とし、その上で、『法人・個人の分離』と『財務基盤』はいずれかを満たせば原則無保証と判断している」という運用を採っている例が載っています。別の地域銀行は、税理士団体との連携により、「財務基盤」要件を満たす先のうち、中小企業の会計に関する基本要領の適用に関するチェックリスト、税理士法第33条の2に基づく添付書面、記帳適時性証明書のいずれかを受領している場合は「法人・個人の分離」「経営の透明性」要件を満たしているものとして原則無保証とする運用を展開しています(出典:金融庁「経営者保証徴求時における金融機関の説明プロセスやモニタリング等に係る事例集」、2024年12月。同事例集は「各種取組に対する評価等については、各金融機関における見解であり、金融庁の見解を表したものではありません」と注記しています)。
信用保証協会には、経営者保証を不要にする取扱いと制度がある
信用保証付き融資の場合は、金融機関だけでなく信用保証協会の基準も通る必要があります。全国信用保証協会連合会が公開している資料は、「1.金融機関との連携等により経営者保証を不要とする取扱い(信用保証料の上乗せなし)」と「2.経営者保証を提供しないことを選択できる制度(信用保証料の上乗せあり)」を分けて示しています。1に挙がっている類型は次のとおりです。
| 類型 | 主な要件 | 信用保証料の上乗せ |
|---|---|---|
| 金融機関連携型 | ①申込金融機関に、保証を付さず経営者保証も担保もない融資残高がある(または同時に実行する)②直近決算で債務超過でなく、かつ直近2期連続で減価償却前経常利益が赤字でない ③法人と経営者の一体性解消を申込金融機関が確認 | なし |
| (類型名の記載なし) | 直近決算期において一定の財務要件を満たしている | なし |
| (類型名の記載なし) | 法人または経営者が所有する不動産の担保提供があり、十分な保全が図られている | なし |
| 事業者選択型経営者保証非提供制度(上記1ではなく2の制度) | (1)過去2年間、決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出 (2)直近決算で代表者への貸付金等がなく、役員報酬等が社会通念上適切な範囲を超えていない (3)直近決算で債務超過でない/直近2期連続で減価償却前経常利益が赤字でない、の両方またはいずれか (4)(1)(2)を継続的に充足する誓約書面の提出 (5)料率引上げを条件に保証人を提供しないことを希望 | あり |
(出典:全国信用保証協会連合会「信用保証協会では、次のいずれかの類型に該当する法人の場合、経営者保証を不要とする取扱いをすることができます」、2024年3月。同資料は類型の末尾に「など」と記し、「上記以外にも経営者保証を不要とする制度等もございますので、詳細については各信用保証協会までお問い合わせください」と明記しています。網羅列挙ではありません。また、名前が付いているのは金融機関連携型だけで、下2つの類型名欄は空欄です。個別の信用保証協会が独自の呼称を使っている場合があるので、実際の類型名と運用は取引先の協会で確認してください)
事業者選択型経営者保証非提供制度は、経営者保証改革プログラムが「経営者保証ガイドラインの要件のすべてを充足していない場合でも、経営者保証の機能を代替する手法(保証料の上乗せ、流動資産担保)を用いることで、経営者保証の解除を事業者が選択できる制度」として創設を明記したものです。ガイドラインの3要件を満たしきれていなくても、保証料率の上乗せで経営者保証を外す道があるということです。上乗せ幅は、債務超過でないことと2期連続で減価償却前経常利益が赤字でないことの両方を満たす場合が0.25%、いずれか一方の場合または法人設立後2事業年度の決算がない場合が0.45%。無担保保険(限度額8,000万円)に係る保証などが対象です。加えて、上乗せ分の一部を国が補助する「事業者選択型経営者保証非提供促進特別保証制度」があり、補助率は保証申込日に応じて段階的に下がります。2026年4月1日〜2027年3月31日の保証申込分は0.05%で、取扱期間は2027年3月31日までです(出典:中小企業庁「保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します」、令和6年3月15日)。
同じ告知には「プロパー融資借換特別保証制度」も載っています。経営者保証ありのプロパー融資を、経営者保証なしの信用保証付き融資に借り換える制度で、要件は①資産超過であること②EBITDA有利子負債倍率((借入金・社債−現預金)÷(営業利益+減価償却費))が15倍以内であること③法人・個人の分離がなされていること④申込日において返済緩和している借入金がないこと。保証限度額2億8,000万円(組合等4億8,000万円)、保証料率0.45%〜1.90%、取扱期間は2027年3月31日までです(出典:同上)。
日本政策金融公庫にも免除の仕組みがある
日本政策金融公庫の国民生活事業には「経営者保証免除特例制度」があり、7つの類型のいずれかに該当し、経営状況等から借入返済が可能と見込まれる法人が対象です。中心となる類型は、税務申告を2期以上実施しており、(1)法人と代表者の一体性の解消が一定程度図られていることを公庫が確認でき(事業上の必要が認められない法人から経営者への貸付金等がないこと)、(2)最近2期の決算期において減価償却前経常利益が2期連続して赤字でない、または直近の決算期において債務超過となっていない、を満たすものです。利率の上乗せはなく、担保提供の有無は申込時に選択できます(出典:日本政策金融公庫「経営者保証免除特例制度」、2026年9月閲覧)。
同事業の実績を見ると、令和7年度の法人向け融資のうち新規に無保証で融資したのは54,465件で、法人向け融資全体の48.1%でした(出典:日本政策金融公庫「保証人に依存しない融資」、2026年9月閲覧。普通貸付(直接扱)および生活衛生貸付(直接扱)の合計、公表時点の速報値)。
❌ 「経営者保証は慣行なので、外してほしいと頼んでも無駄だと思っている」 ⭕ 「ガイドラインの3要件、信用保証協会の4類型、公庫の免除特例の要件を並べて、自社が満たしている項目と満たしていない項目を先に整理してから相談する」
金融機関には「なぜ保証が要るか」の説明義務がある
要件を満たしていなければ保証を求められます。それ自体は避けられません。ただし、理由の説明を受けることは制度上の権利に近いところまで来ています。
金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」は、経営者等との間で保証契約を締結する場合や既存の保証契約がある場合に、「経営者保証に関するガイドライン」に基づいて次の3点を主債務者と保証人に対して丁寧かつ具体的に説明し、保証人に説明をした旨を確認して、その結果等を書面または電子的方法で記録することを金融機関に求めています。
| 説明が求められる事項 | 監督指針の該当箇所 |
|---|---|
| a. どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか、個別具体の内容 | Ⅱ-3-2-1-2(2)①ニ |
| b. どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、個別具体の内容 | 同上 |
| c. 原則として、保証履行時の履行請求は一律に保証金額全額に対して行うものではなく、保証履行時の保証人の資産状況等を勘案した上で履行の範囲が定められること | 同上 |
| 顧客から求められた場合の、当該経営者等と保証契約を締結する客観的合理的理由 | Ⅱ-3-2-1-2(2)②ハc |
| 信用保証協会の保証付き融資における、利用する保証制度の内容や信用保証料の料率 | Ⅱ-3-2-1-2(2)①チ |
| 個人保証契約についての、実際に保証債務を履行せざるを得ない事態を想定した説明 | Ⅱ-3-2-1-2(2)①ハ |
| 連帯保証契約についての、補充性や分別の利益がないことの説明 | Ⅱ-3-2-1-2(2)①ホ |
| 経営者保証への取組方針、態勢整備、相談対応、代替的融資手法のメニュー充実 | Ⅱ-10-2(1)〜(6) |
(出典:金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」本編Ⅱ-3-2-1-2およびⅡ-10-2、令和8年8月。監督指針の本文はHTML版でも公開されています)
aとbの説明について、監督指針は「『経営者保証に関するガイドライン』第4項(2)に掲げられている要素を参照の上、債務者の状況に応じた内容を説明。その際、可能な限り、資産・収益力については定量的、その他の要素については客観的・具体的な目線を示すことが望ましい」と注記しています。「財務内容が弱いので」で終わる説明は、監督指針が求める水準を満たしていません。求めてよいのは、第4項(2)のイ)〜ホ)のどれが、どの数値でどれだけ足りないのか、という粒度の回答です。
2026年の改正で、既存の保証契約全体が対象になった
この説明義務は2023年4月に始まりましたが、当初の対象は「保証契約を締結する場合」と「一部の既存の保証契約」でした。一部とは、M&A・事業承継など主たる株主等が変更になることを金融機関が把握した保証契約と、令和5年3月以前に締結した根保証契約を指していました。
金融庁は令和7年12月19日に改正案を公表し、令和8年2月20日にパブリックコメントの結果を公表。現行の監督指針では、この「一部の」が外れ、既存の保証契約全般が説明・記録の対象になっています(出典:金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」等の一部改正(案)新旧対照表、令和7年12月19日/「経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策等について」、令和8年7月31日更新)。
実務上の意味は明快です。新しく借りるときだけでなく、すでに差し入れている保証についても、説明を求める根拠ができました。決算報告の場で「この保証は、いま何が足りないから続いているのか」と尋ねることは、監督指針の枠内の質問です。
そもそもこの一連の動きの起点は、2022年12月23日に経済産業省・金融庁・財務省が策定した「経営者保証改革プログラム」です。①スタートアップ・創業、②民間金融機関による融資、③信用保証付融資、④中小企業のガバナンスの4分野が掲げられ、②では「無保証融資件数」+「有保証融資で、適切な説明を行い、記録した件数」=100%を目指すという目標が明示されました(出典:経済産業省・金融庁・財務省「経営者保証改革プログラム」、2022年12月23日)。
冒頭で触れた99.9%という数字は、この目標に対する2025年度の実績です。民間金融機関529機関(主要行等9行、その他銀行24行、地域銀行97行、信用金庫255金庫、信用組合144組合)の集計で、新規融資件数に占める「経営者保証に依存しない融資」の割合は55.7%、これに「有保証融資のうち適切な説明を行い記録した融資」を加えた割合が99.9%でした。保証契約を解除した件数は2025年度上期33,307件、下期30,425件です(出典:金融庁「経営者保証に関するガイドライン」等の活用実績について(2025年度の実績)、令和8年6月26日公表)。
FSA DATA
民間金融機関の新規融資に占める割合
55.7%
経営者保証に依存しない融資の割合(2025年度)
99.9%
無保証融資+有保証だが適切な説明を行い記録した融資の割合
説明に納得できない場合の窓口も用意されています。金融庁は令和5年4月3日に「経営者保証ホットライン」(0570-067755、IP電話は03-5251-7755、平日10時〜17時)を開設しており、「銀行等から経営者保証に関する適切な説明がない」といった情報を受け付け、寄せられた情報は金融機関へのフィードバックや検査・監督に活用されるとしています(出典:金融庁「経営者保証ホットラインの開設について」、令和5年4月3日、令和8年5月1日更新)。
❌ 「保証は必要だと言われたので、そういうものだと思ってサインした」 ⭕ 「監督指針が求めている『どの部分が十分でないか』『どう改善すれば変更・解除の可能性が高まるか』を、定量的な目線で示してもらう。既存の保証契約についても同じ説明を求める」
決算書のどこを見られているかは、制度の要件から逆算できる
「決算書のどこを見られるのか」という問いに、公的な統一基準はありません。ただし、経営者保証を外す制度の要件は公開されているので、そこから逆算できます。下表は、本稿で確認した各制度が実際に判定に使っている項目を並べたものです。
| 見られている項目 | 具体的な水準 | その水準を定めている制度 |
|---|---|---|
| 代表者への貸付金・仮払金・未収入金等 | 直近決算でないこと(少額のものや事業の実施に必要なものは除く) | 事業者選択型経営者保証非提供制度/公庫の経営者保証免除特例制度 |
| 役員報酬・賞与・配当 | 社会通念上相当と認められる額を超えていないこと | 事業者選択型経営者保証非提供制度/ガイドライン第4項(1)① |
| 純資産(債務超過でないこと) | 直近決算で純資産の額がゼロ以上 | 事業者選択型経営者保証非提供制度/信用保証協会 金融機関連携型/公庫の免除特例 |
| 減価償却前経常利益 | 直近2期連続で赤字でないこと | 同上 |
| EBITDA有利子負債倍率 | 15倍以内(プロパー融資借換特別保証制度)/10倍以内(事業承継特別保証) | 中小企業庁/信用保証協会 |
| 決算書等の提出 | 過去2年間、申込金融機関の求めに応じて提出していること | 事業者選択型経営者保証非提供制度 |
| 返済緩和している借入金 | 申込日においてないこと | プロパー融資借換特別保証制度/事業承継特別保証 |
(出典:前掲・中小企業庁「保証料率の上乗せにより経営者保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を開始します」/全国信用保証協会連合会「事業承継をお考えの方」/前掲・日本政策金融公庫「経営者保証免除特例制度」。各制度の最新の要件は必ず窓口で確認してください)
この表から読み取れることが3つあります。
第一に、役員貸付金はどの制度でも見られています。本稿で確認した制度は、いずれも代表者への貸付金等の不存在か、法人・個人の分離を要件に置いています。しかも事業者選択型経営者保証非提供制度と公庫の免除特例では、金額の大小ではなくあるかないかが判定の形になっています(前者は「少額のものや事業の実施に必要なものは除く」、後者は「事業上の必要が認められない」ものが対象という注記付き)。決算書に役員貸付金が残っている会社は、まずここから着手してください。役員報酬を先に決めて精算し、既存分は返済計画を作る。他のどの改善よりも効きます。
第二に、利益は「減価償却前経常利益」で見られています。経常利益が赤字でも、減価償却費を戻して黒字なら要件を満たす可能性があります。設備投資の直後で会計上の赤字が出ている会社は、この定義で計算し直してから相談してください。
第三に、借入の重さはEBITDA有利子負債倍率で測られています。算式は(借入金・社債−現預金)÷(営業利益+減価償却費)。同名の指標が経済産業省のローカルベンチマークの財務6指標にも含まれていますが、ロカベンの算式は(借入金−現金・預金)÷(営業利益+減価償却費)で、社債を含めません。少人数私募債などを発行している会社は、ロカベンのExcelで出した数値をそのまま保証制度の基準に当てはめないでください。業種平均との比べ方はローカルベンチマークの6指標で扱っています。自社の数値を年に一度は自分で計算しておいてください。面談で聞かれてから電卓を叩く数字ではありません。
なお、この表は「経営者保証を外すための制度要件」から逆算したものであり、融資審査そのものの基準ではありません。融資の可否は資金使途・回収可能性・事業の内容を含めた総合判断です。監督指針も「健全な融資慣行はできる限り担保・保証に頼ることなく、貸付けは、借り手の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断して行うもの」としています(前掲・監督指針Ⅱ-3-2-1-2(3)①)。
❌ 「営業利益が赤字なので、保証を外す相談はできないと諦めている」 ⭕ 「減価償却前経常利益で計算し直し、純資産と役員貸付金を確認する。どの要件を何で満たせていないかを1枚にしてから面談に持っていく」
面談に持っていくものと、即答できるようにしておく数字
材料は決まっています。金融機関側が何を見て、何を記録しているかが公開されているからです。
金融庁の事例集によれば、金融機関は「経営者保証の必要性に関するチェックシート」「お客様説明シート」「確認書兼説明書」といった様式を使い、ガイドライン3要件の具体的な基準(決算書の提供がある、貸付金・仮払金が具体的な水準の範囲内となっている、資産超過となっている等)を明示したうえで、どの項目の何が不十分なため保証が必要となるのかを説明する運用を採っています。ある地域銀行はチェック項目を点数化し、3要件に該当する項目の合計を100点満点、保証解除の基準を60点に設定して、3要件のすべてを充足しなくても他の項目の加点でカバーできる仕組みにしています(前掲・金融庁「経営者保証徴求時における金融機関の説明プロセスやモニタリング等に係る事例集」)。
つまり、面談は「点数がつく場」です。持っていくものは次の5点で足ります。
| 持参するもの | 何のために | 更新の頻度 |
|---|---|---|
| 直近3期の決算書と勘定科目内訳明細書 | 純資産、減価償却前経常利益、役員貸付金の確認 | 年1回 |
| 月次試算表 | 期中の財務状況の報告。ガイドライン第4項(1)③の情報開示 | 毎月 |
| 資金繰り表(実績6か月+予定12か月) | 経常収支と返済原資の説明 | 毎月 |
| 事業計画書(前提を明記したもの) | 将来の返済能力の説明 | 年1回、下振れ時は随時 |
| 資金使途の内訳(設備なら見積書、運転資金なら増加運転資本の計算) | 使途と金額の妥当性 | 案件ごと |
資金繰り表は、求められてから作るものではありません。「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」のQ&Aは、平時における「適時適切な情報開示等による経営の透明性確保」として中小企業者に求められる対応の例に、決算書類や法人税申告書の提出と並べて「期中の財務状況を確認するための試算表・資金繰り表等の定期的な報告」を挙げています(出典:中小企業の事業再生等に関する研究会「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」Q&A、令和4年4月1日制定・令和8年3月16日一部改定、Q5)。作り方そのものは資金繰り表の作り方と改善の進め方で、手元資金をいくら持つかの基準は手元資金は月商の何か月分必要かで扱っています。数字で見通しを語る資料の組み立ては事業計画書の作成ポイントを参照してください。
即答できるようにしておく数字
面談でその場で答えられるかどうかは、管理体制への評価に直結します。次の数字は、聞かれてから調べる性質のものではありません。
- 直近決算の純資産額と、債務超過か否か
- 減価償却前経常利益(直近2期分)
- EBITDA有利子負債倍率((借入金・社債−現預金)÷(営業利益+減価償却費))
- 役員貸付金・仮払金・未収入金の残高と、その解消予定
- 金融機関別の借入残高と、毎月の元本返済額の合計
- 今後12か月で最も手元資金が薄くなる月と、その残高
- 今回の資金使途の内訳と、返済原資をどこから出すか
6番目は特に効きます。最も薄くなる月を自分から先に指摘することは、資金繰り表を出す目的そのものです。指摘されてから答えるのと、先に示すのとでは、その後の話の進み方が変わります。
補助金を使う設備投資を計画しているなら、つなぎ資金の相談は補助金の申請前に行ってください。補助金は後払いで、いったん全額を自社が支払います。採択されてから相談すると、審査期間が事業実施期間を食います。金融機関側も補助金つなぎには慣れており、公募要領と交付決定通知書を材料に話が進みます(補助金・助成金の探し方で扱っているとおり、採択されたこと自体が資金繰りを圧迫する場面は珍しくありません)。
業績が下振れしたときに何を伝えるか
平時の記事なので、返済条件の変更に踏み込む段階の話はしません。元本返済の据置きや期日の延長を申し出るかどうかを検討し始めたら、そこからは事業再生の領域です。「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、資金繰り等の悪化のため事業活動の継続性に問題が生じ、資金繰りを安定化するために元本返済期日の延長や元本返済の据置き等を金融機関に要請する場合は、通常「有事」に該当するとしています(前掲・同ガイドラインQ&A、Q11)。判断の順序は事業再生の判断タイミングを参照してください。
ここで扱うのは、その手前です。計画から下振れしたが、返済は続けられるという局面で何を伝えるか。
ガイドライン第4項(1)③は、情報開示について「開示・説明した後に、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告するなど適時適切な情報開示に努める」と書いています(前掲・経営者保証に関するガイドライン)。自発的に、が要件の一部です。聞かれてから答えたのでは、透明性確保の要件を満たしたことになりません。
伝える内容は4点に絞れます。第一に、下振れの幅。第二に、それが一過性か構造的か。第三に、構造的な場合の改善策と着手時期。第四に、その結果、返済原資がどう変わるか。この4点目を飛ばして「頑張ります」で終わると、相手は自分で最悪のシナリオを置いて判断します。
隠した場合に何が起きるかも、制度の側から読めます。監督指針は、顧客の要望を謝絶し貸付契約に至らない場合について「可能な範囲で、謝絶の理由等についても説明する態勢が整備されているか」を検証項目に挙げ、さらに「長期的な取引関係を継続してきた顧客に係る手形貸付について更なる更改を謝絶する場合、信義則の観点から顧客の理解と納得が得られるよう、原則として時間的余裕をもって説明することとしているか」としています(前掲・監督指針Ⅱ-3-2-1-2(5)②)。長期の取引関係があること自体が、謝絶時の説明の丁寧さを左右する要素として書かれているということです。逆に言えば、平時に情報を出していない先は、この「長期的な取引関係」の中身が薄くなります。
もうひとつ、断られたときの対応です。謝絶の理由の説明を受ける態勢が求められている以上、理由を聞かずに帰らないでください。前章の逆算表に照らして、どの項目が足りなかったのかを特定できれば、次に何を直すかが決まります。同じ資料のまま他行を回っても結果は変わりません。
❌ 「四半期の数字が計画を下回ったが、次の面談まで様子を見てから報告する」 ⭕ 「下振れが分かった時点で、幅・原因・打ち手・返済原資への影響の4点を自分から報告する。ガイドラインは自発的な報告を情報開示の要件に含めている」
事業承継・M&Aで保証が残る 42.7%という数字と、2026年5月に開いた窓口
平時の資金調達の話の最後に、時間軸の長い論点をひとつ置きます。事業承継です。
金融庁の集計によれば、旧経営者が保証を提供している融資先で代表者交代手続きが行われたことを民間金融機関が把握したケース(2025年度は4区分の合計で40,170件。合計は本誌が算出)の内訳は次のとおりでした。
| 代表者交代時の保証の扱い | 2025年度の件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 旧経営者の保証を解除し、後継者とも保証契約を締結しなかった | 6,710件 | 16.7% |
| 旧経営者の保証を解除する一方、後継者と保証契約を締結した | 16,304件 | 40.6% |
| 旧経営者の保証は解除しなかったが、後継者とは保証契約を締結しなかった | 15,932件 | 39.7% |
| 旧経営者の保証を解除せず、かつ後継者とも保証契約を締結した(二重徴求) | 1,224件 | 3.0% |
(出典:前掲・金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績について(2025年度の実績)」。割合は小数点以下第2位を四捨五入したもの)
二重徴求は3.0%まで下がりました。2017年度は36.9%だったので、大きく改善しています。しかし、旧経営者の保証が残ったケースは39.7%+3.0%で42.7%。代表者交代が把握された案件の4割以上で、会社は譲ったのに保証だけが残っています。
二重徴求の割合(2017年度)
36.9%
前経営者・後継者の双方から保証を取っていた割合
二重徴求の割合(2025年度)
3.0%
大きく改善した
旧経営者の保証が残ったケース(2025年度)
42.7%
39.7%+3.0%。会社は譲ったのに保証だけが残っている
制度としては、令和元年12月に「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」が公表されています。原則として前経営者・後継者の双方から二重には保証を求めないこととし、例外的に二重徴求が許容される場合を4類型に限定したうえで、「事業承継時に乗じた安易な保全強化や上記の例外的に二重徴求が許容される事例の拡大解釈による二重徴求を行わないようにする必要があり、事業承継を機に単に単独代表から複数代表になったことや、代表権は後継者に移転したものの、株式の大半は前経営者が保有しているといったことのみで二重徴求を判断することのないよう留意する必要がある」と明記しています。また前経営者については、「実質的な経営権・支配権を保有しているといった特別の事情がない限り、いわゆる第三者に該当する可能性がある」としています(出典:経営者保証に関するガイドライン研究会「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」、令和元年12月公表・令和2年4月1日適用)。
現行の監督指針も、この特則を踏まえた態勢整備を求めています。M&A・事業承継時には、前経営者が負担する保証債務を後継者に当然に引き継がせるのではなく、前経営者に対する丁寧な意向聴取や必要な情報開示を得た上で保証契約の必要性等を改めて検討すること、M&A・事業承継の成立前における事前相談の推奨、そして前経営者の保証解除または後継者への移行がなされる場合にはM&A・事業承継の最終契約におけるクロージング条件としての明確な設定や、仮に解除・移行がなされなかった場合を想定した条項の設定等に向けた調整・支援を行う態勢が整備されているか、という項目が並びます(前掲・監督指針Ⅱ-3-2-1-2(5)①)。
「クロージング条件としての明確な設定」は、譲渡側の経営者が自分で確認すべき項目です。最終契約に書かれていなければ、譲渡が終わった後に保証だけが残ります。契約の詰め方はM&Aの基本プロセス、承継のスケジュール全体は事業承継の進め方で扱っています。
2026年5月1日に開設された経営者保証情報ネットワーク
そして2026年5月1日、金融庁は「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」を開設しました。M&A・事業承継に際して経営者保証が円滑な実施の支障となっている場合があることを受け、経営者・後継者、金融機関、信用保証協会の間で情報を共有し、保証契約の必要性等に関する認識の一致を図るものです。ここでいう金融機関は、全国の銀行、信用金庫、信用組合のほか、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫を指します。
相談できるのは、M&A・事業承継を検討・実施中の経営者(法人の金融債務に係る保証債務を有する者)と後継者、および実施後に保証債務が残っている旧経営者と後継者です。金融機関に対して保証契約に関する相談を実施済みであるか否かにかかわらず相談できるとされています。相談例として金融庁が挙げているのは、「まだ金融機関に相談していないが対応してもらえるのか不安がある」「相談したが保証は解除できない旨のみ伝達され、理由の説明がない」「説明を受けたが内容に納得がいかない」「実施したが旧経営者に保証が残ったままで金融機関が何も対応してくれない」といったものです。
利用時の留意点も明記されています。本ネットワークはあっせん・仲介・調停を行うものではなく、相談を行った先における個別の対応(保証契約の解除等)を確約するものではありません。また、関係省庁を経由して金融機関や信用保証協会にM&A・事業承継の状況を共有することについて、必要な関係者の承諾を得ている必要があります(出典:金融庁「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」の開設について、令和8年5月1日)。
信用保証協会の側にも制度が用意されています。事業承継特別保証は、3年以内に事業承継を予定する事業承継計画を有する法人などを対象に、①資産超過であること②EBITDA有利子負債倍率が10倍以内であること③法人・個人の分離がなされていること④返済緩和している借入金がないこと、を満たす場合に、経営者保証ありの既存借入(プロパー借入を含む)を借り換えて無保証にできる制度です。限度額は2億8,000万円。所定の専門家による確認を受けた場合には保証料率が大幅に軽減されます(前掲・全国信用保証協会連合会「事業承継をお考えの方」)。
❌ 「事業承継が済んでから、前の会社の保証を外してもらえないか相談しようと思っている」 ⭕ 「保証の解除または後継者への移行を、M&A・事業承継の最終契約のクロージング条件として書き込む。成立前に金融機関へ事前相談する。行き詰まったら経営者保証情報ネットワークがある」
5問で確認する 経営者保証を外す準備度
金融機関との面談の前に、自社がどこまで要件を示せる状態かを確かめる簡易チェックです。
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5問で確認|経営者保証を外す準備度
直近の決算書と、金融機関とのやりとりを思い浮かべて選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。
※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
まとめ
金融機関との交渉で最初に動かすべきなのは、金利ではなく経営者保証です。民間金融機関529機関の2025年度実績で、新規融資件数に占める経営者保証に依存しない融資の割合は55.7%。2015年度の12.2%から大きく動きました。無保証融資と「有保証だが適切な説明を行い記録した融資」の合計は99.9%で、保証を求められた場合に理由の説明を受けることは、すでに例外ではありません。
要件は公開されています。「経営者保証に関するガイドライン」第4項(1)の3要件は、法人と経営者の関係の明確な区分・分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示による経営の透明性確保。信用保証協会には金融機関連携型などの取扱いと、料率上乗せを条件とする事業者選択型経営者保証非提供制度があり、日本政策金融公庫には経営者保証免除特例制度があります。要件を満たしていることを示す作業であって、頼み込む交渉ではありません。ただしガイドラインに法的拘束力はなく、金融機関に課されているのは解除の検討であって解除そのものではありません。満たしているのに外れない場合は、監督指針に基づいて理由の説明を求めてください。
決算書で見られている項目も、制度要件から逆算できます。代表者への貸付金がないこと、役員報酬等が社会通念上相当な範囲であること、直近決算で債務超過でないこと、直近2期連続で減価償却前経常利益が赤字でないこと、EBITDA有利子負債倍率(15倍以内、事業承継特別保証では10倍以内)、決算書等を求めに応じて提出していること。このうち役員貸付金は、金額の大小ではなくあるかないかで判定される制度があります(ただし事業者選択型には「少額のものや事業の実施に必要なものは除く」、公庫の免除特例には「事業上の必要が認められない」ものが対象という注記があり、線引きは公表されていません)。ここから着手してください。
要件を満たせない場合でも、道は二つあります。ひとつは、監督指針Ⅱ-3-2-1-2(2)①ニに基づいて「どの部分が十分でないか」「どう改善すれば変更・解除の可能性が高まるか」を定量的な目線で説明してもらい、次の決算までの宿題にすること。2026年の改正で、この説明の対象は既存の保証契約全般に広がりました。もうひとつは、事業者選択型経営者保証非提供制度のように、保証料率の上乗せで保証を外す制度を使うことです。
面談に持っていくのは、決算書と内訳明細、月次試算表、資金繰り表、事業計画書、資金使途の内訳の5点。即答できるようにしておく数字は7つで、なかでも「今後12か月で最も手元資金が薄くなる月と、その残高」は自分から先に示してください。業績が下振れしたときは、幅・原因・打ち手・返済原資への影響の4点を自発的に報告します。ガイドラインは自発的な報告を情報開示の要件に含めています。
事業承継については、2025年度も旧経営者の保証が残ったケースが42.7%ありました。保証の解除または後継者への移行は、最終契約のクロージング条件として書き込むこと。行き詰まった場合には、2026年5月1日に開設された経営者保証情報ネットワークと、経営者保証ホットラインという二つの窓口があります。
NEXT ACTION / 次にやること
直近決算で、保証を外す要件の充足状況を1枚にまとめる
役員貸付金の有無、純資産、減価償却前経常利益(2期分)、EBITDA有利子負債倍率を計算し、満たしている要件と満たしていない要件を並べてください。その1枚が、次の面談で説明を求めるときの土台になります。
※本稿の制度要件・料率・限度額は、いずれも2026年9月時点で公表されている内容です。信用保証料率、補助率、取扱期間は改定されるため、実際の申込みにあたっては必ず取引金融機関または最寄りの信用保証協会・日本政策金融公庫の支店で最新の内容を確認してください。取引金融機関の構成に関する目安は、本誌が実務上の観点から整理したものであり、公的な基準ではありません。
よくある質問
Q経営者保証を外してほしいと言うと、取引に悪影響が出ませんか。
制度上は、外す可能性を検討することが金融機関側に求められている事項です。監督指針は「主債務者たる中小企業等から資金調達の要請を受けた場合には、当該企業の経営状況等を分析した上で、法人個人の一体性の解消等が図られているか、あるいは、解消を図ろうとしているかを検証するとともに、検証の結果、一体性の解消が図られている等と認められる場合は、経営者保証を求めない可能性等を債務者の意向も踏まえた上で検討する態勢が整備されているか」を検証項目に置いています(Ⅱ-10-2(5))。加えて、保証を求める場合には「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」を説明し記録することが求められています。要件を整理したうえで相談することは、想定されている手順です。
Qすでに差し入れている経営者保証について、説明を求められますか。
求められます。監督指針は当初、説明・記録の対象を「保証契約を締結する場合」と「一部の既存の保証契約」(M&A・事業承継など主たる株主等の変更を金融機関が把握した保証契約、令和5年3月以前に締結した根保証契約)に限定していましたが、令和7年12月19日に公表された改正案が令和8年2月20日のパブリックコメント結果を経て反映され、現行では「既存の保証契約」全般が対象になっています。決算報告の場で、いま何が足りないから保証が続いているのかを尋ねることは、監督指針の枠内の質問です。
Q決算が赤字だと、経営者保証は絶対に外せませんか。
絶対ではありません。第一に、多くの制度が使う指標は経常利益ではなく減価償却前経常利益です。設備投資の直後などで会計上は赤字でも、減価償却費を戻すと黒字という会社は要件を満たす可能性があります。第二に、事業者選択型経営者保証非提供制度は「直近決算で債務超過でない」か「直近2期連続で減価償却前経常利益が赤字でない」のいずれか一方でも、保証料率0.45%の上乗せで利用できます。第三に、金融庁の事例集には、ガイドライン3要件のすべてを充足しなくても他の項目の加点でカバーする点数方式を採る金融機関の例が載っています。まず自社の数字を正しい定義で計算し直してください。
Qプロパー融資では保証が不要と言われたのに、信用保証付き融資では保証を求められました。矛盾していませんか。
矛盾ではありません。信用保証付き融資は金融機関と信用保証協会の二つが審査する構造で、両者の経営者保証の徴求基準は必ずしも同じではありません。金融庁の事例集にも、「当金融機関と信用保証協会の経営者保証の徴求基準が異なるため、同一の事業者に融資する場合でも、プロパー融資は無保証、信用保証付融資は有保証というケースがしばしばある」という金融機関の説明が収録されています。同事例集では、そうした場合に信用保証協会へ未充足の要件の内容を具体的に聞き取って保証人に説明する、という運用も紹介されています。金融機関を通じて、信用保証協会側のどの要件が足りないのかを確認してください。
Q役員貸付金が少額残っています。それでも問題になりますか。
制度上は、金額の大小ではなく有無で判定されるのが原則です。事業者選択型経営者保証非提供制度は「直近の決算において代表者への貸付金等がなく」を要件にしており、「貸付金」以外の金銭債権(仮払金・未収入金等)も含むとしています。ただし「少額のものや事業の実施に必要なものは除く」という注記があります。何が少額かの線引きは公表されていないため、自社の残高が該当するかどうかは取引金融機関または信用保証協会に確認してください。いずれにせよ、解消の計画を自分から示すことが要件充足に向けた最短の道です。
Q取引金融機関は何行あるのが適切ですか。
公的な基準はありません。判断材料として、監督指針が「貸付残高が多いなど、顧客企業から主たる相談相手としての役割を期待されている主たる取引金融機関については、コンサルティング機能をより一層積極的に発揮し…最大限支援していくことが期待される」としている点が参考になります(Ⅱ-5-2-1)。残高を薄く広く分散させると、どの金融機関にとっても自社は主たる取引先になりません。本誌の整理としては、主取引先を1行決めて残高と月次の情報を寄せ、残り1〜2行とは口座と決算報告の関係を維持する形を勧めます。これは公的な基準ではなく実務上の目安です。なお、2026年5月25日に施行された企業価値担保権は、既存の借入をすべて借り換えて行う類型が想定されているため、活用する場合は取引金融機関の構成そのものを見直すことになります。
Q事業承継のときに、前経営者の保証はどうすればよいですか。
確実なのは、最終契約に書き込むことです。監督指針は、前経営者の保証契約の解除または後継者への移行がなされる場合には、M&A・事業承継の最終契約におけるクロージング条件としての明確な設定や、仮に解除・移行がなされなかった場合を想定した条項の設定等に向けた調整や支援を行う態勢が整備されているかを検証項目に挙げています。あわせて、成立前の事前相談が推奨されています。「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」は、前経営者は実質的な経営権・支配権を保有しているといった特別の事情がない限りいわゆる第三者に該当する可能性があるとし、原則として前経営者・後継者の双方からの二重徴求を行わないこととしています。それでも進まない場合は、令和8年5月1日に開設されたM&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワークに相談できます。
Q保証を求められた場合、保証金額は借入額と同額になりますか。
同額とはしないこととされています。「経営者保証に関するガイドライン」第5項(2)は、対象債権者は保証契約を締結する際に「形式的に保証金額を融資額と同額とはせず、保証人の資産及び収入の状況、融資額、主たる債務者の信用状況、物的担保等の設定状況、主たる債務者及び保証人の適時適切な情報開示姿勢等を総合的に勘案して設定する」としています。また監督指針は、保証履行時の履行請求について「原則として、一律に保証金額全額に対して行うものではなく、保証履行時の保証人の資産状況等を勘案した上で、履行の範囲が定められること」を説明事項に含めています。保証金額の水準そのものも、説明を求めてよい項目です。
出典・調査の対象範囲
- 経営者保証に関するガイドライン研究会「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月公表・令和4年6月改定) — 3要件と金融機関側の検討要件。法的拘束力のない準則です。
- 金融庁「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」本編(令和8年8月) — 保証契約の説明・記録義務、謝絶時の説明態勢。
- 金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績について(2025年度の実績)」 — 無保証融資の割合、代表者交代時の保証の扱い。民間金融機関529機関の集計です。
- 全国信用保証協会連合会「信用保証料」・「信用保証制度を支えるしくみ」・経営者保証を不要とする取扱いの資料・「事業承継をお考えの方」 — 責任共有制度、経営者保証を不要とする類型、事業承継特別保証。
- 日本政策金融公庫「保証人に依存しない融資」・「一般貸付」 — 経営者保証免除特例制度の実績と融資制度。
- 経済産業省・金融庁・財務省「経営者保証改革プログラム」(2022年12月23日) — 一連の制度改正の起点。
- 金融庁「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」の開設について・「経営者保証ホットラインの開設について」 — 相談窓口。
※判断表・自己診断は、公表資料をもとにした編集部の整理です。保証料率・限度額・取扱期間は改定されるため、取引金融機関・信用保証協会・日本政策金融公庫で最新の内容を確認してください。



