MANAGEMENT / M&A・譲渡と税金

M&Aの税金はいくら? 株式譲渡と事業譲渡の手取り比較と、2027年の見直しで変わる売却時期

公開 2026.09.30

M&Aの税金は売り方で決まります。株式譲渡なら譲渡益に20.315%で課税が終わり、事業譲渡は会社と個人で二段階に課税されます。役員退職金を組み合わせた手取り試算、2027年分からのミニマム課税の見直し、売った翌年の住民税・国保まで一次情報で解説します。

会社を売ったときの税金は、個人が株式を売るなら譲渡益の20.315%で完結し、事業譲渡なら会社と個人で二度かかります。
  • 個人が自社株を売る株式譲渡は、譲渡価格から取得費と仲介手数料などを引いた譲渡益に、所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%(2027年以後は復興・防衛特別所得税の合計0.315%)の合計20.315%がかかる申告分離課税です。給与のような累進課税ではなく、原則としてこれで課税関係が終わります
  • 事業譲渡は代金が会社に入り、まず法人税等がかかります。経営者の手元に移すには配当・役員報酬・清算分配(みなし配当)などが要り、そこで総合課税(退職金なら退職所得課税)がもう一度かかります。建物・設備・のれんなどの課税資産に配分した対価には消費税もかかります
  • 2027年分から、極めて高い所得に対する追加課税(いわゆるミニマム課税)の特別控除額が3.3億円から1.65億円へ、税率が22.5%から30%へ見直されます。財務省の資料では、所得がすべて15%の分離課税の人は年間所得約3.4億円から追加負担が生じます

会社を売ると決めたとき、経営者が最初に知りたいのは「結局、手元にいくら残るのか」です。税率だけでなく、手数料・役員退職金・翌年の住民税や国民健康保険料まで順に見ないと、この問いには答えられません。本稿では、国税庁・財務省・自治体の一次情報をもとに、売り方ごとに「誰に・何の税金が・いつ」かかるかを整理し、編集部の試算で手取りを比べます。仲介会社の選び方や手数料体系はM&Aの基本プロセスで扱っているため、本稿は税金と手取りに絞ります。

最初に結論:売り方で「誰に・何の税金が・いつ」かかるか

同じ「会社を売る」でも、何を売るのか(株式か、事業か)、誰が売るのか(個人株主か、法人株主か)で、かかる税金はまったく変わります。次の表は、オーナー経営者が検討する代表的な売り方を並べたものです。

まず見るべき判断表|売り方ごとの税金の骨格

売り方代金を受け取る人かかる税金税率・計算の骨格いつ納めるか
個人株主が株式を売る(株式譲渡)経営者個人所得税・復興特別所得税・住民税譲渡益×20.315%(申告分離課税)翌年の確定申告(所得税)、翌年度の住民税
役員退職金を組み合わせた株式譲渡経営者個人退職所得に所得税・住民税+株式の譲渡益に20.315%退職所得は(退職金−退職所得控除)×1/2に累進税率退職金は支払時に源泉徴収、株式分は翌年の確定申告
会社が事業を売る(事業譲渡)会社会社に法人税等・消費税、個人に移すとき総合課税譲渡益は会社の他の損益と合算して法人税等会社の決算期の申告、個人への分配時にも課税
法人株主(持株会社など)が株式を売る持株会社持株会社に法人税等譲渡益は持株会社の所得に算入持株会社の決算期の申告
自社(発行会社)に株式を買い取らせる経営者個人資本金等を超える部分はみなし配当として総合課税みなし配当部分は配当所得として累進税率、それ以外は取得費との差額が譲渡所得みなし配当部分は支払時に源泉徴収され、翌年の確定申告で精算

税金の重さは売り方で決まります。まず自社の売り方がどの行に当たるかを確認してください。

表の読み方で押さえるべきは2点です。1つ目は、個人株主が第三者に株式を売る場合は、分離課税で課税関係が完結することです。2つ目は、事業譲渡では代金が会社に入るため、経営者個人の手元にはそのままでは1円も届かないことです。引退を前提に売る経営者にとって、この差は税率の差以上に大きく効きます。以下、行ごとに中身を見ていきます。

株式譲渡の税金 20.315%の計算と、手取りの試算

ポイント:課税されるのは譲渡価格ではなく譲渡益です。取得費と仲介手数料を正しく差し引けるかで、税額が数百万円変わります。

計算式と税率

個人が非上場の自社株を売った所得は、税法上「一般株式等に係る譲渡所得等」に区分され、他の所得と分けて税額を計算する申告分離課税になります。計算の骨格は「総収入金額(譲渡価額)-必要経費(取得費+委託手数料等)=一般株式等に係る譲渡所得等の金額」で、税率は所得税15%・住民税5%です。これに加えて、所得税額の2.1%の復興特別所得税がかかるため、所得税部分は15.315%、住民税と合わせて20.315%になります(出典:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」、令和8年4月1日現在法令等)。

2027年からは、令和8年度税制改正で防衛特別所得税が創設され、同時に復興特別所得税の税率が2.1%から1.1%に引き下げられます。財務省は、足下で家計負担が増加しないよう引き下げると説明しています(出典:財務省「令和8年度の税制改正」、令和8年4月)。国税庁も、相続した非上場株式の譲渡について、令和9年分以後は所得税・復興特別所得税・防衛特別所得税を合わせて譲渡所得金額の15.315%と説明しています(出典:国税庁「No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」、令和8年4月1日現在法令等)。つまり2027年以後も、住民税と合わせた20.315%という合計は変わりません。国税庁は退職所得についても、改正の前後で防衛特別所得税と復興特別所得税の合計税率に変更はないと説明しています(出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。変わるのは、後述するミニマム課税に該当する大型の売却です。

手取りの試算

実際の数字で手取りを出してみます。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」には、譲渡額5,000万円の株式譲渡で最低手数料が適用され、手数料総額が1,100万円(税込)になる計算例があります(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」、令和6年8月)。この例に、「創業時に1,000万円を出資し、それ以外に株式の取得はない」という編集部の仮定を置いて計算すると次のとおりです。

項目金額計算
譲渡価格5,000万円ガイドラインの計算例
仲介手数料(税込)1,100万円ガイドラインの計算例
取得費1,000万円編集部の仮定(出資額)
譲渡所得の金額2,900万円5,000万−1,100万−1,000万
税金(20.315%)約589.1万円2,900万×20.315%
手取り約3,310.9万円5,000万−1,100万−589.1万

(編集部の試算。他の所得・所得控除・国民健康保険料は考慮していません)

SIMULATION

譲渡価格5,000万円の株式譲渡で手元に残る額

約3,311万円

手取り(譲渡価格の約66%)

1,100万円

仲介手数料(税込)

約589万円

税金(譲渡益2,900万円×20.315%)

出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」の計算例に、取得費1,000万円の仮定を置いた編集部の試算。

譲渡価格5,000万円に対して、手元に残るのは約3,311万円、つまり約66%です。手数料の影響が税金より大きいことがわかります。手数料の比べ方はM&Aの基本プロセスで解説しています。

取得費がわからないと税金が増える

見落としやすいのが取得費です。株式の取得費は、払込代金や購入代金に、取得のために要した費用を加えた額です。相続したものである、購入した時期が古いなどの理由で取得費がわからない場合は、売却代金の5%を取得費とすることも認められています。なお、相続や贈与で取得した株式は、原則として被相続人や贈与者の取得費を引き継ぎます(出典:国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」、令和8年4月1日現在法令等)。先代が出資した額がわかれば、それが取得費になります。

上の例で、出資額1,000万円を証明できず5%(250万円)で計算すると、譲渡所得は3,650万円になり、税金は約741.5万円です。実際の取得費を示せた場合より約152.4万円多く納めることになります(編集部の試算)。創業時の払込みの記録、増資の登記、先代から買い取ったときの契約書などは、売却を考え始めた段階で探しておく価値があります。

❌ 取得費は「わからなければ5%でよい」と考え、払込みや買取りの記録を探さずに申告する ⭕ 出資時の払込記録・増資の登記・株式の買取契約書を先に集め、実際の取得費と5%のどちらが大きいかを確認してから申告する

上場株の損失や他の所得の赤字とは相殺できない

もう1つの注意点は、損益通算の制限です。一般株式等に係る譲渡所得等の黒字から、上場株式等に係る譲渡損失を差し引くことはできず、不動産所得など他の所得の赤字とも通算できません(出典:国税庁「No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い」、令和8年4月1日現在法令等)。「同じ年に上場株で損を出して税金を減らす」といった発想は、非上場株式の売却益には使えません。

事業譲渡の税金 会社で一度、個人でもう一度

ポイント:事業譲渡は「会社が売る」取引です。会社段階の法人税等と消費税、個人段階の総合課税の二段で考えます。

会社段階:法人税等と消費税

事業譲渡では、売り手は会社です。譲渡益(譲渡対価から、譲り渡した資産・負債の帳簿価額の差額を引いたもの)は会社の他の損益と合算され、法人税等の対象になります。法人税の税率は、資本金1億円以下の法人などの場合、年800万円以下の所得部分が15%(令和7年4月1日以後開始事業年度は、所得が年10億円を超える事業年度について17%)、800万円超の部分が23.2%です(出典:国税庁「No.5759 法人税の税率」、令和7年4月1日現在法令等)。これに法人住民税・事業税などの地方税が加わります。実際の負担率は会社の所得水準や所在地で変わるため、顧問税理士に自社の数字で試算してもらってください。

消費税も会社段階でかかります。事業譲渡は資産と負債を一括して譲渡する契約ですが、国税庁は、課税資産と非課税資産の対価を合理的に区分して課税するとしています。国税庁の質疑応答事例では、土地20億円・営業権10億円・有形固定資産10億円を譲渡した例で、課税対象となる対価は営業権と有形固定資産の20億円とされ、土地は非課税のため算入しないと回答しています(出典:国税庁「営業の譲渡をした場合の対価の額」)。のれん(営業権)や設備に配分する対価が大きいほど、課税事業者である売り手の会社が納める消費税の額も大きくなります。買い手から受け取る消費税分を含めて資金の動きを確認しておくことが必要です。

個人段階:手元に移すときにもう一度

会社に入った代金を経営者個人の手元に移すには、配当、役員報酬、役員退職金、あるいは会社を清算して残余財産を分配する方法があります。清算の場合、残余財産のうち資本金等の額を超える部分は「みなし配当」として配当所得になり、総合課税の対象です。清算の段取りと、残余財産に対する課税の試算は会社を畳む手続きと費用の全体像で詳しく扱っています。

比べる点株式譲渡(個人株主)事業譲渡
売り手株主である経営者個人会社
代金の入り先経営者個人会社
課税の回数1回(譲渡益に20.315%)2回(会社に法人税等、個人に移すときに総合課税。退職金で移すなら退職所得課税)
消費税かからない(事業者でない個人の株式譲渡は課税の対象外)建物・設備・のれん等に配分した対価にかかる
会社のその後買い手のもとで存続売り手の会社が残る(清算するなら別途手続き)
繰越欠損金会社に残り、譲渡益とは関係しない会社の譲渡益と相殺できる場合がある

事業譲渡が必ず不利というわけではありません。会社に繰越欠損金があれば譲渡益と相殺できる場合があり、会社を残して別の事業を続けるなら、代金を個人に移す必要そのものがありません。手元に移すことが目的か、会社で使うことが目的かで、同じ税率表でも答えが逆になる点を押さえてください。どちらのスキームを選ぶかは価格交渉とも連動するため、譲渡価格の決まり方と合わせて企業価値の考え方も参照してください。

❌ 税率だけを見て「法人税のほうが低いから事業譲渡が得」と判断する ⭕ 代金を最終的に個人の手元に移すのか、会社で次の事業に使うのかを先に決め、二段階目の課税まで含めて比べる

役員退職金を組み合わせると、手取りはどう変わるか

ポイント:退職金は1/2課税の分だけ手取りを増やせますが、増やしすぎると逆効果です。売却後も代表として残るなら、そもそも退職金として扱えない場合があります。

退職所得の計算

株式譲渡の前に、会社から経営者に役員退職金を支払い、その分だけ株式の譲渡価格を下げる組み立てがあります。退職所得の金額は、原則として(収入金額−退職所得控除額)×1/2で計算され、退職所得控除額は勤続20年以下なら40万円×勤続年数(最低80万円)、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数−20年)です。ただし、役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る特定役員退職手当等には、1/2計算が適用されません(出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」、令和8年4月1日現在法令等)。退職所得には累進税率(5〜45%)がかかり(出典:国税庁「No.2260 所得税の税率」、令和8年4月1日現在法令等)、住民税は市町村民税6%・道府県民税4%の計10%で(横浜市の案内では市民税6%・県民税4%)、退職金の支払を受けるときに特別徴収されます(出典:横浜市「課税の特例(退職所得の課税の特例)」、2026年5月1日更新)。退職金制度そのものの設計は退職金制度の設計で扱っています。

退職金の額ごとの試算

企業価値3億円の会社を、役員としての勤続30年の経営者が売る場合を考えます。退職金を支払うと会社の純資産が同額減り、譲渡価格も同額下がる、という単純化を置いて計算しました。

役員退職金株式の譲渡価格退職金にかかる税金株式にかかる税金税金の合計手取り
なし3億円―約5,891.4万円約5,891.4万円約2億4,108.7万円
3,000万円2億7,000万円約186.2万円約5,281.9万円約5,468.1万円約2億4,531.9万円
5,000万円2億5,000万円約607.8万円約4,875.6万円約5,483.4万円約2億4,516.6万円
1億円2億円約1,888.0万円約3,859.8万円約5,747.8万円約2億4,252.2万円
1億5,000万円1億5,000万円約3,286.6万円約2,844.1万円約6,130.7万円約2億3,869.3万円

(編集部の試算。取得費1,000万円、勤続30年で退職所得控除1,500万円、2026年の税率で計算。仲介手数料、会社側で退職金が損金になることによる法人税の減少、社会保険料、他の所得は考慮していません)

SIMULATION

役員退職金の額ごとの手取り(企業価値3億円・勤続30年)

退職金なし約2億4,108.7万円
退職金3,000万円約2億4,531.9万円
退職金5,000万円約2億4,516.6万円
退職金1億円約2億4,252.2万円
退職金1億5,000万円約2億3,869.3万円
出典:上表の編集部の試算。バーは手取りの額(億円)。

表の5通りの中では、退職金3,000万円のときに手取りが最も多く、なしの場合より約423万円増えます(同じ前提で細かく刻むと、手取りが最大になるのは退職金約3,300万円前後です)。一方で1億5,000万円まで積むと、退職所得に高い累進税率がかかり、株式だけで売った場合より手取りが約239万円減ります。退職金の効果は、1/2課税後の税率が株式の20.315%を下回る範囲に限られ、額を増やせば増やすほど得になるわけではありません。

会社側で損金になる額と、退職の実態

退職金には会社側の制約もあります。法人が役員に支給する退職金で損金に算入されるのは適正な額のもので、損金算入の時期は原則として株主総会の決議等で額が確定した日の属する事業年度です(出典:国税庁「No.5208 役員の退職金の損金算入時期」、令和7年4月1日現在法令等)。売却の直前に多額の退職金を決めると、その適正性を問われるのは株主の変わった後の会社です。買い手との協議なしには組み立てられません。

さらに重要なのが、売却後も経営に残る場合です。法人税基本通達は、分掌変更等に際して支給した退職給与を退職給与として扱えるのは、役員としての地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にある場合だとし、例として①常勤役員が非常勤役員になったこと(代表権を有する者などを除く)、②取締役が監査役になったこと(経営上主要な地位を占めている者などを除く)、③分掌変更後の給与がおおむね50%以上減少したこと(経営上主要な地位を占めている者を除く)を挙げています(出典:国税庁「法人税基本通達9-2-32 役員の分掌変更等の場合の退職給与」)。譲渡後も代表取締役として経営を続けるなら、この例示には当たりません。譲渡後の役割と退職金の組み立ては、同時に決める必要があります。

❌ 「退職金を多く取るほど節税になる」と考え、売却直前に退職金の額だけを決める ⭕ 勤続年数と譲渡後の役割を確認し、退職金額ごとの手取りを試算したうえで、買い手と退職金の額・時期を合意する

2027年から大型売却は増税 ミニマム課税の見直しと引渡しの時期

ポイント:譲渡益がおおむね3.4億円を超える売却では、2026年中に引き渡すか2027年以後かで税額が変わります。

見直しの中身

株式の譲渡益は15%(所得税)の分離課税のため、所得が極めて大きい人ほど所得税の負担率が下がる、という問題がありました。そこで2025年分から、基準所得金額(株式の譲渡所得なども含めた合計所得金額)が3億3,000万円を超える場合に、超える部分の22.5%が通常の所得税額を上回れば、その差額を追加で納める仕組みが導入されています(出典:国税庁「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置について」)。

令和8年度税制改正では、これが見直されました。特別控除額を3.3億円から1.65億円へ引き下げ、税率を22.5%から30%へ引き上げ、令和9年(2027年)分の所得から適用されます。財務省の資料は、所得がすべて15%の分離課税である場合、年間所得約3.4億円から追加負担が生じるとしています(出典:財務省「令和8年度の税制改正」、令和8年4月/財務省「令和8年度税制改正の大綱」、令和7年12月26日閣議決定)。

譲渡益ごとの追加負担

株式の譲渡益だけがあり、他の所得も所得控除もない、という単純化を置いて、追加で納める所得税を計算すると次のとおりです。

譲渡益2026年分(控除3.3億円・22.5%)2027年分以後(控除1.65億円・30%)差
3億円0円0円0円
5億円0円約2,392.5万円約2,392.5万円
10億円0円約9,735万円約9,735万円
20億円約6,945万円約2億4,420万円約1億7,475万円

(編集部の試算。国税庁No.2260の説明に従い、比べる相手の通常の税額を所得税と復興特別所得税の合計(譲渡益×15.315%)とし、2027年以後も合計15.315%で比べると仮定して、追加額=(基準所得金額−特別控除額)×税率−通常の税額で計算。追加額そのものにも復興特別所得税(2027年以後は防衛特別所得税も)がかかりますが、表には含みません。所得控除は考慮していません。実際の基準所得金額には給与・不動産・配当など他の所得も合算されます)

譲渡益5億円を2026年中に引き渡す

0円

追加で納める所得税(控除3.3億円・22.5%)

譲渡益5億円を2027年以後に引き渡す

約2,392.5万円

追加で納める所得税(控除1.65億円・30%)

この計算では、追加負担が生じ始めるのは譲渡益約3.37億円からで、財務省の資料の「約3.4億円」と一致します。譲渡益5億円なら、2027年以後の売却は2026年中の売却より約2,392.5万円多くなります(追加額にかかる復興特別所得税・防衛特別所得税を含めると約2,443万円)。譲渡益がこの水準に届かない売却では関係しませんが、不動産を多く持つ会社や、利益の厚い会社のオーナーでは現実に起こりうる金額です。売却の年に役員報酬や不動産の売却益が重なると、基準所得金額がさらに大きくなる点にも注意してください。

「いつの所得か」は引渡しの日(または契約の効力発生日)で決まる

2026年分か2027年分かを分けるのは、株式の譲渡の時期です。国税庁の通達は、株式等の譲渡所得の収入すべき時期を原則として株式等の引渡しがあった日とし、納税者の選択により、譲渡に関する契約の効力発生の日で申告することも認めています(出典:国税庁「措置法第37条の10・37条の11共通関係」37の10・37の11共-1)。年末をまたぐ案件では、最終契約の効力発生日とクロージング日がどちらの年に入るかを、契約書の段階で確認しておく必要があります。

❌ 増税を避けるために、デュー・ディリジェンスや経営者保証の解除を省いて年内のクロージングを急ぐ ⭕ 譲渡益の見込みから追加負担額を先に試算し、その額と、急ぐことで失う条件(保証解除・表明保証の範囲)を比べて日程を決める

経営者保証の解除をクロージング条件に入れる考え方は、金融機関交渉術も参照してください。DDを省いたときに表明保証の負担がどう重くなるかはデューデリジェンス(DD)とはで解説しています。

売った翌年に払うお金 確定申告・住民税・国民健康保険料

ポイント:株式の売却代金は一度に入りますが、税金と保険料は翌年以降に時間差で請求されます。売った年に使い切らないことが有効な備えです。

株式譲渡の所得税は源泉徴収されないため、売却した翌年の確定申告で申告し、納付します。住民税は、その申告の内容をもとに翌年度の住民税として課税されます(株式等の譲渡所得に対する住民税の税率は5%。出典:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」)。さらに、売却後に会社を離れて国民健康保険に加入する場合、保険料にも影響します。大阪市は、所得割の計算に分離課税として申告された株式の譲渡所得も用いると明記しています(出典:大阪市「保険料の決め方」、2026年4月2日更新)。保険料には年間の上限額(賦課限度額)が設けられていますが、額と計算方法は市区町村ごとに異なるため、お住まいの自治体の案内で確認してください。

時期何を払うか根拠となる所得見落としやすい点
売却した年(クロージング時)仲介手数料の残額、(退職金を受け取るなら)退職所得の所得税の源泉徴収と住民税の特別徴収退職所得(株式の譲渡所得とは別に、支払時に精算)退職所得の受給に関する申告書を出さないと、所得税は20.42%で源泉徴収される
翌年2月16日〜3月15日所得税・復興特別所得税(株式の譲渡所得)売却した年の譲渡所得大型売却ではミニマム課税の追加額もここで納める
翌年度住民税(株式の譲渡所得に5%)売却した年の所得退職後で給与からの天引きがなくなっていると、自分で納める
翌年度国民健康保険料(加入している場合)売却した年の所得(分離課税の譲渡所得を含む)所得に応じて保険料が増える(年間の上限あり)。会社の健康保険に加入し続けるなら国民健康保険料は発生しない

(確定申告の期間は国税庁の案内による一般的な日程です。各年の具体的な期限は国税庁の発表で確認してください)

退職所得の源泉徴収については、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合、支払金額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算することになります(出典:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。資金計画としては、売却代金のうち、翌年の所得税・住民税・保険料の見込み額を別口座に分けておくのが確実です。手元資金の考え方は資金繰りを安定させる手元資金の決め方も参考になります。

相続した株を自社に売るとき みなし配当と特例

ポイント:株式を発行会社自身に売ると、資本金等を超える部分は譲渡所得ではなく配当所得になります。相続した株には例外があります。

M&Aの前段で、分散した株式を会社に買い取らせて集約することがあります。個人が非上場株式を発行会社に譲渡した場合、受け取った金銭等のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分は配当所得とみなされて課税されます(みなし配当)。配当所得は総合課税のため、株式譲渡の20.315%より高い税率になることがあります。

ただし例外があります。相続または遺贈で取得し、納付すべき相続税額がある個人が、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、相続税の課税対象となった非上場株式を発行会社に譲渡した場合は、みなし配当課税を行わず、全額を譲渡所得の収入金額とする特例があります。適用には、譲渡する日までに届出書を発行会社に提出する必要があります(出典:国税庁「No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例」、令和8年4月1日現在法令等)。

誰が・どの株を発行会社に売ったときの課税使える特例
創業者が自分で出資した株資本金等を超える部分がみなし配当(総合課税)なし
相続した株(納付すべき相続税額がある人、期限内)全額が譲渡所得(20.315%)みなし配当課税の特例。取得費加算の特例も併用可
相続した株(相続税額がない、または期限後)資本金等を超える部分がみなし配当特例の対象外
第三者(買い手)に売る譲渡益に20.315%―

株式の集約は、後継者や買い手が決まる前から進めておく論点です。親族内・従業員・第三者のいずれに引き継ぐかを決める段取りは事業承継の進め方で整理しています。

売却前に経営者が決めること 税金から逆算する5つの手順

ポイント:税金は売却の後で計算するものではなく、スキームと条件を決める前に試算するものです。

ここまでの論点を、経営者が決める順番に並べ直すと次のとおりです。

  1. 株主と株式の状況を確定する:誰が何株を持っているか、名義株や相続で分散した株はないか、取得費を示す記録があるかを確認する。相続した株を会社に集約するなら、特例の期限を確認する
  2. 売却後の自分の役割を決める:完全に引退するのか、一定期間は役員として残るのか、代表として経営を続けるのか。これで役員退職金を使えるかどうかが決まる
  3. スキームを比べる:株式譲渡か事業譲渡か。代金を個人の手元に移すのか、会社で使うのかを先に決め、二段階目の課税まで含めて比べる
  4. 手取りを試算する:想定譲渡価格から、仲介手数料、取得費、退職金の有無と額、ミニマム課税の該当の有無、翌年の住民税・保険料までを入れて、顧問税理士に試算してもらう
  5. 日程を決める:引渡しの日と契約の効力発生日がどちらの年に入るかを確認し、追加負担と、急ぐことで失う条件を比べて決める

この順番にする理由は、後の工程ほど前の工程の答えに依存するからです。たとえば、売却後も代表として残ると決めていれば、役員退職金を組み込んだ試算はそもそも前提が成り立ちません。逆に、手取りの試算を最後に回すと、仲介会社との契約やスキームが決まった後で「思ったより残らない」と気づくことになります。

5問で確認する 売却前の税金の準備度

スキームと条件を決める前に、税金から逆算する準備ができているかを確かめる簡易チェックです。

SELF CHECK / 無料・登録不要

5問で確認|M&Aの税金と手取りの準備度

検討中の売却を思い浮かべて、いまの状態にいちばん近いものを選んでください。回答はこの端末の中だけで処理され、送信・保存されません。

回答の進捗0 / 5
  1. Q1誰が何株を持っているか、名義株や相続で分散した株がないかを確定している
  2. Q2株式の取得費を示す記録(払込記録・増資の登記・買取契約書)を手元に揃えている
  3. Q3売却後に完全に引退するか、役員・代表として残るかを決めている
  4. Q4想定譲渡価格から手数料・退職金・翌年の住民税や保険料まで入れた手取りを試算した
  5. Q5引渡しの日と契約の効力発生日がどちらの年に入るかを確認している

※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。

まとめ

M&Aの税金は、税率表よりも「誰が、何を、いつ売るか」で決まります。個人株主が株式を売るなら、譲渡益に20.315%をかけて課税関係が終わります。事業譲渡では代金が会社に入り、会社段階の法人税等と消費税、個人に移す段階の総合課税の二段で考える必要があります。

手取りを増やす手段として役員退職金はよく挙げられますが、効果は1/2課税の範囲に限られ、額を増やしすぎると株式だけで売るより手取りが減ります。売却後も代表として残るなら、退職給与として扱えない場合もあります。

2027年分からは、譲渡益がおおむね3.4億円を超える大型の売却で追加負担が生じます。該当しそうなら、引渡しの日と契約の効力発生日をどちらの年に置くかを、条件交渉と並べて検討してください。そして、売った翌年には所得税・住民税・国民健康保険料が時間差で来ます。売却代金のうち、その分は最初から分けておいてください。

NEXT ACTION / 次にやること

株式の取得費を示す記録を探し、想定譲渡価格で手取りを試算する

創業時の払込みの記録、増資の登記、先代から買い取ったときの契約書を集め、想定譲渡価格から手数料・取得費・税金を引いた手取りを顧問税理士に試算してもらってください。その数字が、スキームと日程を決める出発点になります。

※本稿は2026年9月30日時点で公表されている法令および公的資料に基づく一般的な情報提供であり、個別案件についての税務上の助言ではありません。実際の税額は、他の所得や所得控除、会社の財務内容によって変わります。スキームの選択と税額の試算は、税理士にご確認ください。

よくある質問

Q会社を売ったら、税金は売却額の何%ですか。
A

売却額ではなく、売却額から取得費と仲介手数料などを引いた「譲渡益」にかかります。個人株主が株式を売る場合、税率は所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%(2027年以後は復興・防衛特別所得税の合計0.315%)の合計20.315%です。本文の試算(譲渡価格5,000万円、手数料1,100万円、取得費1,000万円)では、税金は約589万円で、譲渡価格に対しては約12%でした。

Q株式譲渡と事業譲渡では、どちらが手元に多く残りますか。
A

代金を経営者個人の手元に移すことが目的なら、一般的には株式譲渡のほうが課税が一度で済みます。事業譲渡は会社に法人税等がかかり、個人に移す段階でもう一度課税されるからです。ただし、会社に繰越欠損金がある場合や、代金を会社で次の事業に使う場合は結論が変わります。自社の数字での比較を税理士に依頼してください。

Q役員退職金はいくらまで出すのが得ですか。
A

決まった答えはなく、勤続年数と企業価値で変わります。本文の試算(企業価値3億円・勤続30年)では、表の5通りの中で退職金3,000万円のときに手取りが最も多く(細かく刻むと約3,300万円前後が最大)、1億5,000万円まで積むと株式だけで売るより手取りが減りました。また、会社側で損金になるのは適正な額に限られ、役員としての勤続年数が5年以下なら1/2課税が使えません。

Q売却後も社長を続ける場合、退職金は受け取れますか。
A

退職給与として扱えない可能性が高いと考えてください。法人税基本通達9-2-32は、分掌変更等で退職給与として扱える場合を「実質的に退職したと同様の事情」があるときとし、常勤から非常勤への変更の例示からは代表権を有する者を除いています。譲渡後の役割を決めてから、退職金を組み込むかどうかを判断してください。

Q2027年の見直しは、中小企業の売却にも関係しますか。
A

年間の所得がおおむね3.4億円に届かない売却では、原則として関係しません。財務省の資料では、所得がすべて15%の分離課税の場合、年間所得約3.4億円から追加負担が生じるとされています。ただし、基準所得金額には同じ年の役員報酬や不動産の売却益なども合算されるため、譲渡益だけで判断せず、その年の所得の合計で確認してください。

Q売った翌年に国民健康保険料が上がるのはなぜですか。
A

国民健康保険料(自治体によっては国民健康保険税)の所得割は前年の所得をもとに計算されます。たとえば大阪市は、分離課税として申告された株式の譲渡所得も所得割の計算に用いると明記しています。売却後に会社を離れて国民健康保険に加入すると、翌年度の保険料が上限額近くまで上がることがあります。上限額と計算方法はお住まいの市区町村で確認してください。

Q取得費がわからない古い株でも売れますか。
A

売れます。取得費がわからない場合は、売却代金の5%を取得費とすることが認められています。ただし、実際の取得費が5%より大きいなら、記録を示したほうが税金は少なくなります。本文の例では、出資額1,000万円を示せないと税金が約152万円増えました。

出典・調査の対象範囲

※手取り・追加負担の数字は、単純化した前提を置いた編集部の試算です。実際の税額は他の所得や所得控除、会社の財務内容で変わるため、税理士にご確認ください。

Consultation

無料相談のお申し込み

ご記入いただいた内容は、ご相談への対応のためにのみ利用します。内容によっては回答までお時間をいただくことがあります。あらかじめご了承ください。