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OJTを成功させる仕組みづくり 誰が何をどの順で教えるかを決め、指導の線引きまで設計する
公開 2026.09.08
OJTを「見て覚えろ」から計画的な育成へ。公的なひな型で教える内容を整理し、指導担当・育成計画・記録を設計する手順と、指導の線引き、定着の測り方を解説します。

- 厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所は80.1%。問題点の内訳は「指導する人材が不足している」59.5%、「人材を育成しても辞めてしまう」51.6%、「人材育成を行う時間がない」45.5%の順で、上位3つはすべて現場のリソース不足を指している
- 同調査の「計画的なOJT」は、教育訓練の計画書を作成し、教育担当者・対象者・期間・内容を具体的に定めて段階的・継続的に実施するものと定義されている。正社員に対して実施した事業所は60.6%だが、30〜49人規模では44.4%にとどまる
- 教える中身をゼロから作る必要はない。厚生労働省の職業能力評価基準は56業種について「成果につながる職務行動例」を整理した公的なひな型であり、無料で使える
「うちはOJTで育てている」という言葉の中身が、実際には「現場に放り込んで見て覚えさせている」だけになっている会社は少なくありません。しかしこれは指導者の怠慢ではなく、教える側に時間も評価もインセンティブも配分されていないという構造の結果です。本稿では、その構造をまず数字で確認したうえで、教える内容を公的なひな型から持ってくる方法、指導担当の決め方と負荷の扱い、法律が求める育成計画と記録の項目、OJTに使える助成金の要件、指導とハラスメントの境界線、そして定着したかどうかの測り方までを、一次情報で順に整理します。
最初に結論:経営者が決めることと、外せない線
先に全体像を示します。上段は経営者が決めなければ現場が動かない項目、下段は決め方が法令や制度で縛られている項目です。
まず見るべき判断表|OJTを仕組みにするために決めること・守ること
| 区分 | 決めること/守ること | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 決める(内容) | 何を、どの順番で教えるか | ゼロから作らない。厚生労働省の職業能力評価基準(56業種)とjob tagのタスク一覧を土台にして、自社版に削る |
| 決める(内容) | 到達点の書き方 | 「一人前」ではなく行動で書く。職業能力評価基準は「成果につながる職務行動例」という形式を提供している |
| 決める(担当) | 誰が教えるか | 助成金の世界では「適格な指導者」とは自社の役員等または自社に雇用されている者で、訓練実施日の出退勤時刻を確認できる者。親会社・子会社の従業員は該当しない |
| 決める(担当) | 指導担当の負荷と評価 | 指導を業務として位置づけないと繁忙期に止まる。評価への反映方法は等級・評価制度側の設計に接続する |
| 決める(記録) | 育成計画に何を書くか | 職業能力開発促進法26条の3第2項が実施計画の記載事項として掲げる5号のうち、省令委任の第5号を除く4項目(対象者/期間及び内容/職業能力の評価の方法/訓練を担当する者)がそのまま雛形になる |
| 決める(測定) | 定着をどう測るか | 全社平均ではなく同じ事業所規模帯の公的統計と比べる。5人未満と1,000人以上では3年以内離職率が2倍以上違う |
| 守る(法令) | 指導とハラスメントの境界 | 労働施策総合推進法30条の2のパワハラ防止措置は、令和4年4月1日から中小企業も義務。指針は6類型と該当例・非該当例を示している |
| 守る(法令) | 「教えずに叱る」の扱い | 指針は「新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること」を過大な要求の該当例として挙げている |
| 守る(制度) | 助成金の前提要件 | 人材開発支援助成金は、職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定・周知が前提。OJT単独では助成対象にならない |
| 守る(制度) | OFF-JTの範囲 | 「営業中の生産ライン、または就労の場で行われるもの」「通常の生産活動と区別できないもの(現場実習、営業同行トレーニングなど)」はOFF-JTの助成対象外 |
OJTが育たないのは「方法がわからない」からではなく、教える人と時間が配分されていないからです。教える内容・教える人・記録の残し方の3つを経営者が先に決めれば、指導の質が担当者の善意と余力に左右されなくなります。
この表の使い方は単純です。上段を決めずに現場へ丸投げすると、指導の質は担当者の善意と余力に左右されます。そして下段の法令・制度は、単なる制約ではなく上段を決めるための材料でもあります。たとえば「育成計画に何を書けばよいか」という問いには、職業能力開発促進法が先に答えを用意しています。
OJTが「見て覚えろ」に堕する構造:教える人がいない、時間がない
まず、精神論に行く前に構造を数字で押さえます。厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」(2026年7月31日公表。常用労働者30人以上の企業・事業所が対象で、2025年10月1日時点の状況を調査)によると、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所の割合は80.1%でした。問題点の内訳(複数回答)は次のとおりです。
PUBLIC STATISTICS
人材育成に関する問題点(複数回答)
80.1%
能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所
10.0%
問題点として「人材育成の方法がわからない」を挙げた事業所
(出典:厚生労働省令和7年度「能力開発基本調査」の結果についておよび調査結果の概要図35・図36、2026年7月31日公表)
読み方は2つあります。第一に、上位3つはすべてリソースの問題で、「方法がわからない」は10.0%にすぎないこと。やり方を知らないから育たないのではなく、教える人と時間が配分されていないから育たない、というのが多数派の実態です。第二に、「育成しても辞めてしまう」が51.6%と2番目に高いこと。育成と定着は別々の課題ではなく、同じ問題の裏表として現れています。
次に、実施状況です。同調査でいう「計画的なOJT」は、日常の業務に就きながら行われる教育訓練のうち、教育訓練に関する計画書を作成するなどして教育担当者、対象者、期間、内容などを具体的に定めて、段階的・継続的に実施する教育訓練と定義されています(出典:同調査用語の説明(16))。この定義に照らして、正社員に対して計画的なOJTを実施した事業所は60.6%(前回61.1%から0.5ポイント低下)、正社員以外に対しては25.1%(前回27.1%から2.0ポイント低下)でした。
規模別に見ると、差は明確です。
| 企業規模 | 正社員に計画的なOJTを実施した事業所 | 正社員以外に実施した事業所 |
|---|---|---|
| 30〜49人 | 44.4% | 17.2% |
| 50〜99人 | 51.3% | 21.0% |
| 100〜299人 | 70.4% | 27.3% |
| 300〜999人 | 69.8% | 24.7% |
| 1,000人以上 | 78.4% | 37.7% |
(出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要」図34。この調査は常用労働者30人以上の事業所が対象で、30人未満の事業所は含まれていません)
30〜49人規模では、正社員に対してすら計画的なOJTを実施している事業所は半数を割ります。つまり「教育担当者と期間と内容を具体的に決める」という一点をやるだけで、同規模帯の過半数より前に出られるということです。特別な研修予算の話ではありません。
❌ 育成がうまくいかないのは指導する社員の意識が低いからだと考え、管理職研修から着手する ⭕ 指導担当に何時間を割り当て、その分どの業務を外すのかを先に決め、そのうえで教える内容を書き出す
意識の問題として扱うと、打ち手が「もっと頑張れ」しか残りません。時間の配分として扱えば、経営者が決められる問題になります。
教える内容を先に決める:ゼロから作らずに使える公的なひな型
OJTが属人化する最大の原因は、教える内容が誰の頭の中にもある一方で、どこにも書かれていないことです。ここを自前で発明する必要はありません。国が業種別のひな型を無料で公開しています。
職業能力評価基準
厚生労働省の職業能力評価基準は、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を業種別・職種別に整理した公的なツールです。平成14年度から整備され、業種横断的な事務系職種のほか、ものづくりからサービス業まで56業種が策定されています。人材育成、採用、人事評価などの場面で活用でき、各企業でカスタマイズして使うことが想定されています(出典:厚生労働省職業能力評価基準について、2026年9月閲覧)。
OJTの設計にとって重要なのは、この基準が「できるかどうか」ではなく「どういう行動をとっているか」で書かれている点です。「高い専門性」は教えられませんが、「不具合の原因を特定して是正処置を立案している」は教えられます。教える内容を行動で書けた時点で、指導の順番と、到達したかどうかの判定方法が自動的に決まります。
関連ツールとして、職業能力評価シートとキャリアマップがあります。職業能力評価シートは、職業能力評価基準で職種・職務・レベル別に定められている「職務遂行のための基準」を簡略化したチェック形式のシートで、これを使うと「自分(または部下)の能力レベルはどの程度なのか」「次のレベルに上がるには何が不足しているのか」を具体的に把握できます。キャリアマップと合わせて使うことで、キャリアの道筋に沿った従業員の成長を支援できるとされています(出典:厚生労働省職業能力評価基準導入マニュアル、2026年9月閲覧)。
同じマニュアルには、自社版を作るときの落とし穴も書かれています。人事部門だけで基準を作った場合、現場の実態を把握しきれないことから抽象的な表現になりがちで、評価目的ならよいが能力開発目的の場合は現場で反発が起きたり実際に使われないままになる。一方、現場任せで作った場合は内容が具体的過ぎ、能力開発目的ならよいが評価目的では人事として評価しがたいものになりがちである——このため、基準づくりの目的をはっきりさせることと、どの程度現場関係者を巻き込むかが成否を握るとされています。OJTの土台として作るなら目的は能力開発ですから、現場を巻き込んで具体的に書くのが正解です。
job tag(職業情報提供サイト)
もうひとつが、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」です。500を超える職業について、ジョブ(職業・仕事)、タスク(仕事の内容を細かく分解した作業)、スキル(仕事をするのに必要な技術・技能)等の観点から職業情報を「見える化」しており、求職者等の就職活動だけでなく、企業の採用活動、人材育成等の支援を目的としています。年間アクセス件数は2,000万件以上です。企業向けには「人材採用要件整理」「タスク整理」「人材活用シミュレーション」の各ツールが用意されています(出典:厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)」等をリニューアルしました、2025年3月18日、およびjob tag、2026年9月閲覧)。
OJT設計の文脈で価値があるのは、タスクという粒度です。職業を細かい作業に分解した一覧があれば、「この仕事を覚える順番」を並べ替えるだけで初版の育成カリキュラムになります。
| ツール | 何が手に入るか | OJT設計での使いどころ |
|---|---|---|
| 職業能力評価基準(56業種) | 知識・技術技能・成果につながる職務行動例をレベル別に整理した基準 | 到達点を「行動」で書くための文例集。自社版に削って使う |
| 職業能力評価シート | 職務遂行のための基準を簡略化したチェック形式のシート | 現在地の把握と、次のレベルに何が不足しているかの特定 |
| キャリアマップ | レベルごとの標準的な道筋と習熟の目安年数 | 3か月・6か月・1年という時間軸への割り付け |
| job tag | 500超の職業のタスク(作業)とスキルの一覧、企業向けのタスク整理ツール | 業務の棚卸しと、教える順番の並べ替え |
(出典:厚生労働省「職業能力評価基準について」「職業能力評価基準導入マニュアル」「job tag」より編集部作成)
業務を洗い出す作業そのものが重い場合は、日常の業務フローを整理する順序が参考になります。何を誰がやっているかの棚卸しはバックオフィスDXの7つのステップで扱う工程と重なるため、別々にやらず一度で済ませてください。
指導担当をどう決め、その負荷と評価をどう扱うか
教える内容が決まったら、次は誰が教えるかです。ここで多くの会社が「手の空いた人」に流れます。制度としての受け皿は、実は法律の側にあります。
職業能力開発促進法12条は、事業主に対し、①事業内職業能力開発計画の作成およびその実施に関する業務、②労働者に対して行う相談、指導等の業務、③国等による援助等に関する連絡の業務を担当する職業能力開発推進者を選任するよう努めなければならないと定めています(努力義務。出典:e-Gov法令検索職業能力開発促進法、2026年9月時点)。助成金のチェックリストは「研修や人事の担当課長等」を例に挙げています。
ここが重要な点ですが、職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定・周知は、人材開発支援助成金の申請前提になっています。同助成金のチェックリストは「申請事業主は、研修や人事の担当課長等を職業能力開発推進者として選任していること」「申請事業主は、事業内職業能力開発計画を策定し、雇用する労働者に周知していること」を掲げ、いずれも計画届を提出する日までに済ませるよう求めています(出典:厚生労働省人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内、令和8年8月3日版)。つまり、育成の責任者を1人決めて計画を書くという作業は、助成金を取りにいくかどうかにかかわらず、いずれ必要になります。
現場で実際に教える人については、同じ助成金が「適格な指導者」の定義を置いています。適格な指導者(OJT訓練指導者)とは、申請事業主の役員等または申請事業主に雇用されている者であって、訓練等実施日における出勤状況・出退勤時刻を確認できる者をいい、OJT訓練指導者の訓練実施日の出退勤時刻が確認できない場合はOJTを実施したと認められません。また、OJTの実施場所が親会社や子会社、請負先である場合は適格な指導者を対象労働者と同様の場所に配置する必要があり、親会社や子会社の従業員は適格な指導者に該当しません(出典:同「人材育成支援コースのご案内」Ⅱ-5)。
この定義は、助成金を使わない会社にとっても示唆があります。指導担当は、教わる側と同じ場所にいて、いつ働いていたかを記録で示せる人でなければならない——制度が求めているのはこの水準です。「グループ会社のベテランが見てくれている」という状態は、育成体制としては記録に残りません。
もうひとつ、指導担当の選任そのものを求めている公的な指針があります。職業能力開発促進法10条の2第3項に基づく「実習併用職業訓練の適切かつ有効な実施を図るため事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成18年9月25日厚生労働省告示第514号)は、事業主が講ずるよう努める措置として、OJTと教育訓練が相互に密接な関連を有すると認められるものとすること、期間・内容・職業能力の評価の方法等について教育訓練機関と十分に協議すること、実習併用職業訓練を担当する者を選任し、教育訓練機関との緊密な連絡体制を整えること、期間・実施場所・訓練の職種・職業能力の評価の方法・費用の負担等を明らかにする書面を事前に受講予定者へ交付すること、職業能力の評価の方法は客観的かつ公正な基準によって行われるものとすること、の5つを挙げています(出典:厚生労働省実習併用職業訓練の適切かつ有効な実施を図るため事業主が講ずべき措置に関する指針、平成18年10月1日適用)。
❌ 指導担当を口頭で指名し、通常業務はそのまま、成果は「面倒見のよさ」として評価時に加味する ⭕ 担当期間・到達させる水準・費やす時間を書面で渡し、外す業務を明示したうえで、達成度を評価項目として明文化する
指導を評価にどう載せるかは、育成の話ではなく人事制度の話です。等級で期待役割を定義し、評価項目に落とし、報酬につなげる一連の設計手順は等級・評価・報酬をつなぐ設計手順で扱っています。本稿の範囲は「何を達成したら育成の役割を果たしたと言えるか」を現場側で定義するところまでです。
育成計画と記録:法律が「書くべき項目」を決めている
育成計画書のフォーマットで悩む必要はありません。職業能力開発促進法26条の3第2項は、実習併用職業訓練の実施計画に記載しなければならない事項として5つの号を掲げています。第5号は「その他厚生労働省令で定める事項」なので、実質的な中身は次の4つです。
| 記載事項(職業能力開発促進法26条の3第2項) | 実務での書き方 |
|---|---|
| 対象者 | 誰を育てるのか。新卒か中途か、既存社員か |
| 期間及び内容 | いつからいつまで、何をどの順番で。職業能力評価基準の職務行動例をここに転記する |
| 職業能力の評価の方法 | 何ができたら次に進むのか。指針514号は「客観的かつ公正な基準」であることを求めている |
| 訓練を担当する者 | 誰が教えるのか。出退勤の記録で在席を確認できる自社の人 |
(出典:e-Gov法令検索「職業能力開発促進法」26条の3第2項、および厚生労働省「実習併用職業訓練の適切かつ有効な実施を図るため事業主が講ずべき措置に関する指針」)
この4項目は、大臣認定を受けるかどうかにかかわらず、育成計画に必要な最小限として使えます。とくに3番目の「職業能力の評価の方法」を先に決めておくことが、OJTを仕組みにするうえで最も効きます。法律は実習併用職業訓練を、業務の遂行の過程内において行う職業訓練(=OJT)と一定の職業訓練・教育訓練(=OFF-JT)とを効果的に組み合わせて実施するものであって、「これにより習得された技能及びこれに関する知識についての評価を行うもの」と定義しており(同法10条の2第2項)、評価が定義の一部に組み込まれています。教えっぱなしはそもそも訓練として想定されていません。
より上位の計画としては、事業内職業能力開発計画があります。これは雇用する労働者の職業能力の開発及び向上を段階的かつ体系的に行うために事業主が作成する計画で、同法11条により作成が事業主の努力義務とされています。決まった様式や記載内容の定めはなく、経営理念、人材育成の基本方針、雇用管理の方針、各職務に必要な職業能力、教育訓練体系図といった内容を記載するとよいとされています。前述のとおり、人材開発支援助成金の一部コースでは支給要件になっています(出典:厚生労働省事業内職業能力開発計画、2026年9月閲覧)。
記録の側も、公的な様式が用意されています。人材開発支援助成金では、OJTについてOJT実施日ごとに対象労働者が「OJT実施状況報告書(OJT訓練日誌)」を作成すること、訓練終了後にジョブ・カード様式3-3-1-1「職業能力証明(訓練成果・実務成果)シート(企業実習・OJT用)」により職業能力の評価を実施することが要件とされています(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」Ⅱ-5、令和8年8月3日版)。
ここで見落としてはならないのは、日誌を書くのは指導者ではなく対象労働者本人だという点です。教わった側が「今日は何をやり、何ができるようになったか」を書く。この作業自体が振り返りになり、同時に指導者の負荷を増やさずに記録が残ります。運用が続かない育成記録は、指導者に書かせていることが多いというのが本誌の見方です。
❌ 指導担当に週次の育成報告書を提出させ、人事が回収してファイルに綴じる ⭕ 対象者本人が実施日ごとに簡潔な日誌を書き、期の終わりに本人評価と上司評価を突き合わせて差分を面談で扱う
教える側が守るべき線:指導とハラスメントの境界
育成を強化するとき、必ず出てくるのが「厳しく言えなくなった」という声です。ここには明確な法的基準があり、知らずに萎縮するのも、知らずに踏み越えるのも、どちらも損です。
労働施策総合推進法30条の2第1項は、事業主に対し、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定めています。同条2項は、相談を行ったこと等を理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁じています(出典:e-Gov法令検索労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、2026年9月時点)。
この措置義務は、令和4年(2022年)4月1日から中小企業の事業主にも義務化されています(令和4年3月31日までは努力義務)。すでに義務化から4年が経過しており、「うちは中小企業だからまだ努力義務」という理解は誤りです(出典:厚生労働省「パワーハラスメント防止措置」が中小企業の事業主にも義務化されます、リーフレット)。
なお、令和8年10月1日から適用される改正後のパワハラ指針では、根拠条文が同法31条1項・2項として引用されています。法改正に伴う条番号の移動であり、措置義務の内容そのものが緩和されるわけではありません(出典:厚生労働省事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和8年10月1日適用】)。
指針は、職場におけるパワーハラスメントを①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもので、①から③までの要素をすべて満たすものと定義したうえで、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」と明記しています。「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」かどうかの判断にあたっては、当該言動の目的、労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等を総合的に考慮することが適当とされています。
育成の現場に直接関係する類型を抜き出すと、次のようになります。
| 類型 | 該当すると考えられる例(抜粋) | 該当しないと考えられる例(抜粋) |
|---|---|---|
| 精神的な攻撃 | 人格を否定するような言動を行う/業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う/他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行う | 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする |
| 人間関係からの切り離し | 意に沿わない労働者に対して仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり自宅研修させたりする | 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施する |
| 過大な要求 | 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する/業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる | 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる/繁忙期に業務上の必要性から通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる |
| 過小な要求 | 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる/気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない | 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減する |
(出典:厚生労働省事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)2⑺。指針は、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、および例が限定列挙ではないことに留意するよう求めています)
この表からOJT設計への含意が2つ読み取れます。第一に、「少し高いレベルの業務を任せる」ことは指針が明示的に非該当例として挙げている——ストレッチ課題を与えること自体は萎縮する理由になりません。第二に、その逆、すなわち「新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること」は該当例として名指しされている——つまり本稿の主題である「教える内容を先に決めておくこと」は、育成の効率の問題であると同時に、法的リスクの管理そのものです。
❌ 「厳しく指導するとパワハラと言われる」と考え、注意すべき場面でも何も言わずに済ませる ⭕ 何ができていればよいかを事前に書面で共有したうえで、できていない事実と改善してほしい行動を、その場で個別に伝える
事業主が必ず講じなければならない措置は10項目に整理されています。①方針の明確化と周知・啓発、②行為者への厳正な対処方針を就業規則等に規定し周知・啓発、③相談窓口をあらかじめ定め周知、④相談窓口担当者が適切に対応できるようにする、⑤事実関係の迅速かつ正確な確認、⑥被害者への配慮措置、⑦行為者への措置、⑧再発防止措置、⑨プライバシー保護の措置と周知、⑩相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨の定めと周知・啓発、です(出典:厚生労働省「『パワーハラスメント防止措置』が中小企業の事業主にも義務化されます」)。①と②は就業規則等の文書に書く作業なので、育成体制の整備と同時に片付けてしまうのが効率的です。なお2026年10月からは、顧客や取引先からの迷惑行為(カスタマーハラスメント)への対策も全ての事業主の義務になりました。相談窓口などは共通にできるので、あわせて整えておくと二度手間になりません(カスハラ対策が全事業主の義務に。断る線は契約の範囲で決める)。
公的な助成金を織り込む:OJT単独では出ない
育成にお金をかける余裕がない、という論点には制度側の答えがあります。ただし要件は年度で変わるため、金額の暗記ではなく構造の理解が要ります。
厚生労働省の人材開発支援助成金には7つのコースがあり、OJTを含む訓練メニューがあるのは2つです。ひとつは本節で扱う「人材育成支援コース」で、4つの訓練メニューのうち3つがOJTとOFF-JTの組み合わせを前提としています。もうひとつは「人への投資促進コース」の情報技術分野認定実習併用職業訓練で、IT分野未経験者の即戦力化のためのOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練が対象です。IT分野の未経験者を採るなら、こちらのほうがOFF-JTの経費助成率が高くなります(60%/賃金要件等を満たす場合75%。人材育成支援コースの認定実習併用職業訓練は45%)。本稿では汎用性の高い人材育成支援コースを軸に整理します。
| 訓練メニュー | 主な要件 | 経費助成率(中小企業) | 賃金助成額(1人1時間) | OJT実施助成額(1人1コース) |
|---|---|---|---|---|
| 人材育成訓練 | 10時間以上のOFF-JT | 正規雇用労働者等45%/有期契約労働者等70% | 800円 | — |
| 認定実習併用職業訓練 | 主に新規学校卒業者対象。訓練期間6か月以上2年以下、総訓練時間数が1年当たり換算で850時間以上、総訓練時間数に占めるOJTの割合が2割以上8割以下。厚生労働大臣の認定が必要 | 45% | 800円 | 20万円 |
| 有期実習型訓練 | 有期契約労働者等の正社員転換が目的。訓練期間2か月以上、総訓練時間数が6か月当たり換算で425時間以上、OJTの割合が1割以上9割以下。支給申請日までに正社員転換が必要 | 75% | 800円 | 10万円 |
| 中高年齢者実習型訓練 | 45歳以上が対象。訓練期間2か月以上、総訓練時間数が6か月当たり換算で425時間以上、OJTの割合が1割以上9割以下 | 60% | 800円 | 10万円 |
(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」令和8年8月3日版。金額・率はいずれも中小企業事業主の通常分。訓練修了後に賃金を5%以上上昇させた場合、または資格等手当の支払を就業規則等に規定したうえで支払い賃金が3%以上上昇した場合には、賃金要件・資格等手当要件の加算があります。要件と金額は年度途中でも改正されるため、申請前に必ず最新版のパンフレットと支給要領を確認してください)
構造として押さえるべき点が3つあります。
- OJT単独では助成対象になりません。同コースのパンフレットは「OJTについては、OFF-JTを組み合わせた上で、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練、中高年齢者実習型訓練に対して助成しています。OJT単独では助成対象になりません」と明記しています。国の制度は、現場での実務と座学の組み合わせを前提に設計されています。
- OFF-JTとして認められる範囲は狭い。助成の対象とならない実施方法として、「生産ライン又は就労の場で行われるもの(事務所、営業店舗、工場、関連企業(取引先含む)の勤務先等、場所の種類を問わず、営業中の生産ライン、または就労の場で行われるもの)」「通常の生産活動と区別できないもの(例)現場実習、営業同行トレーニング など」が挙げられています。営業への同行は、実務としては有効でもOFF-JTには数えられません。
- 金額の上限には2種類ある。経費助成限度額は1労働者1訓練あたりで、中小企業の場合は実訓練時間数10時間以上100時間未満で15万円、100時間以上200時間未満で30万円、200時間以上で50万円です。これは対象費用の上限ではなく、助成される額の上限です。さらに1事業所・1事業主団体等の一の年度あたりの支給限度額として1,000万円が定められています。
正社員化とセットで考える場合は、キャリアアップ助成金との組み合わせが効きます。同助成金の正社員化コースは、有期雇用労働者を正社員転換した場合に中小企業で1人当たり40万円(1期)を助成しますが、重点支援対象者に該当すれば80万円(40万円×2期)になります。そして重点支援対象者の類型のひとつが「人材開発支援助成金の特定の訓練修了者」であり、人材育成支援コースの訓練がこれに含まれます(出典:厚生労働省キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)、令和8年4月8日現在。1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20名)。
❌ 助成金の見込額を先に育成予算に組み込み、その前提で採用計画を立てる ⭕ 計画届の提出期限(訓練開始日の6か月前から1か月前まで)と、推進者の選任・事業内職業能力開発計画の策定という前提要件を先に満たし、助成は結果として回収する
助成金は、計画届の提出が訓練開始日の1か月前までに間に合わなければ、内容がどれだけ適切でも対象外になります。制度全般の探し方と申請でつまずく場所は補助金・助成金の探し方にまとめています。
辞める時期と理由から逆算し、定着したかを測る
最後に、育成の成否をどう確認するかです。ここは感覚ではなく、公的統計と突き合わせられる指標を持つべき領域です。
まず、いつ辞めるかです。厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者、2025年10月24日公表)によると、就職後3年以内の離職率は新規高卒就職者37.9%、新規大卒就職者33.8%でした。年次別の内訳は次のとおりです。
| 学歴 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 3年以内計 |
|---|---|---|---|---|
| 高校卒 | 17.9% | 11.5% | 8.5% | 37.9% |
| 短大等卒 | 19.3% | 13.7% | 11.5% | 44.5% |
| 大学卒 | 12.1% | 11.9% | 9.9% | 33.8% |
(出典:厚生労働省新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)別紙1、2025年10月24日公表。「合計」は四捨五入の関係で各年の合計と一致しないことがあります)
高校卒は3年以内離職の約47%が1年目に集中する一方、大学卒は3年にほぼ均等に分散しています。高卒採用が中心の会社が入社1年目に集中投資するのは合理的ですが、大卒採用が中心なら2年目・3年目に何もしなければ同じ規模で抜けていきます。育成の手当てをどこに置くかは、採用している層によって変わります。
規模の効果も無視できません。同資料の事業所規模別3年以内離職率は、5人未満で高校卒63.2%・大学卒57.5%、5〜29人で54.6%・52.0%、30〜99人で45.2%・41.9%、100〜499人で36.7%・33.9%、1,000人以上で26.3%・27.0%です。自社の数字を全体平均の37.9%や33.8%と比べても意味がありません。比べるべきは同じ規模帯です。
次に、なぜ辞めるかです。厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査(2024年9月25日公表。5人以上の常用労働者を雇用する事業所と、そこで働く満15〜34歳の労働者が対象)によると、最終学校卒業後初めて勤務した会社をやめた主な理由(3つまでの複数回答)は、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」28.5%、「人間関係がよくなかった」26.4%、「賃金の条件がよくなかった」21.8%、「仕事が自分に合わない」21.7%の順でした。
注目すべきは勤続期間別の傾向です。初めて勤務した会社での勤続期間が3か月未満だった層では、「人間関係がよくなかった」が52.3%、「仕事が自分に合わない」が42.1%、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」が40.8%と、いずれも総数を大きく上回ります。1年未満の期間では「人間関係がよくなかった」の割合が最も高く、1年〜10年未満の期間では「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」が最も高くなります(出典:厚生労働省令和5年若年者雇用実態調査の概況表17)。
入社直後の離職は、労働条件よりも人間関係で起きている。ここまでが統計の示す範囲です。同調査は「人間関係」の相手方までは調べておらず、上司・同僚・指導担当の内訳は集計されていません。そのうえで、入社直後の新人が最も長く接するのは指導担当である以上、指導担当を誰にするかという判断は初期定着に効くと考えられます——ここから先は編集部の解釈です。
同じ調査は、事業所側の取組も押さえています。若年正社員の育成を行っている事業所は77.9%で、育成方法(複数回答)は「OJT」69.8%、「OFF-JT」35.2%、「自己啓発への支援」33.1%、「ジョブローテーション」24.0%の順です。同じ表では、「育成を行っていない」が15.2%(ほかに不明6.9%)となっています。定着のために実施している対策(複数回答)では「職場での意思疎通の向上」59.7%が最も高く、「採用前の詳細な説明・情報提供」58.4%、「本人の能力・適性にあった配置」55.6%、「労働時間の短縮・有給休暇の積極的な取得奨励」52.9%、「教育訓練の実施・援助」48.5%と続きます(出典:同調査 表5・表8)。
測り方の実務は次の順序です。
- 分母と分子の定義を先に固定する。新卒の3年以内離職率を見るなら、公的統計と同じく「入社した年度の人数」を分母、「3年以内に離職した人数」を分子に置く。定義を毎年変えないことが最優先です
- 同じ事業所規模帯と比べる。30〜99人規模なら高校卒45.2%、大学卒41.9%が比較対象になります
- 辞めた時期を記録する。1年目に偏っているのか、3年目に出るのかで手を入れる場所が変わります
- 指標は増やさない。育成の指標は、離職率と「計画した育成項目のうち期限内に到達した割合」の2つで足ります
指標を決めて回し続ける枠組みそのものは、中小企業のKPI設計の考え方がそのまま使えます。なお、育成の実体があることは、採用の場面でそのまま開示材料になります。若者雇用促進法に基づく職場情報の提供制度では、研修の有無および内容、メンター制度の有無などが情報提供項目とされており、就業規則に規定がなくても継続的に実施し従業員に周知していれば「有」として提供できます。開示の設計は中小企業の採用ブランディングで扱っています。
教材の作り方に迷ったら、既存の業務記録を使ってください。たとえば商談の記録が項目を揃えて残っていれば、それ自体が営業職の最良の教材になります。記録を揃える設計は営業ヒアリングの技術を仕組みに変えるで整理しています。
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※一般的な検討項目を整理するための編集部独自の目安です。成果や適法性を判定・保証するものではありません。
まとめ
OJTを仕組みに変える作業は、研修を増やすことでも、指導者の意識を高めることでもありません。教える内容、教える人、記録の残し方という3つを、経営者が先に決めることです。
出発点は内容です。厚生労働省の職業能力評価基準は56業種について「成果につながる職務行動例」を整理しており、job tagは500を超える職業をタスク単位に分解しています。どちらも無料で、自社版へのカスタマイズが前提です。導入マニュアルが警告するとおり、人事だけで作れば抽象的になって使われず、現場任せなら評価に使えなくなります。能力開発が目的なら、現場を巻き込んで具体的に書いてください。
次が担当です。職業能力開発促進法12条は職業能力開発推進者の選任を努力義務とし、人材開発支援助成金はその選任と事業内職業能力開発計画の策定・周知を前提要件としています。現場で教える人については、助成金が「自社に雇用され、訓練実施日の出退勤時刻を確認できる者」という水準を置いています。
そして記録です。同法26条の3第2項が掲げる5号のうち、省令委任の第5号を除く4項目——対象者、期間及び内容、職業能力の評価の方法、訓練を担当する者——は、そのまま育成計画の雛形になります。とくに「何ができたら次に進むのか」を先に決めておくこと。法律が実習併用職業訓練を「習得された技能及びこれに関する知識についての評価を行うもの」と定義している以上、評価のない訓練は制度上も想定されていません。
線引きも明確です。パワハラ防止措置は令和4年4月1日から中小企業も義務であり、指針は「労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること」を非該当例として、「必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること」を該当例として挙げています。教える内容を先に決めておくことは、育成の効率だけでなく、この境界線を安全側に置くための手当てでもあります。
最後に測定です。令和4年3月卒業者の3年以内離職率は高校卒37.9%、大学卒33.8%ですが、30〜99人規模では45.2%と41.9%です。比べるべきは同じ規模帯であり、辞めた時期の分布まで見てはじめて手を入れる場所が決まります。そして入社3か月未満で辞めた層の理由の首位は「人間関係がよくなかった」52.3%——指導担当を誰にするかという判断は、初期定着に効くと考えられます(相手方の内訳は同調査では集計されていないため、ここは編集部の解釈です)。
完璧な育成体系は要りません。1つの職種、20から30項目の到達点(この項目数は編集部の目安です)、1人の指導担当、1枚の日誌。ここから始めて、年に1度改訂する前提で回してください。
NEXT ACTION / 次にやること
1つの職種について、到達点を20〜30項目書き出す
職業能力評価基準の自社の業種のページから職務行動例を拾い、自社に合わない項目を削ってください。項目が決まれば、指導担当と日誌の形も決められます。
よくある質問
Qスキルマップや育成計画をゼロから作る時間がありません。何から手をつければよいですか。
自前で発明せず、公的なひな型から削るのが最短です。厚生労働省の職業能力評価基準は56業種について、知識・技術技能に加えて「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」をレベル別に整理しており、各企業でカスタマイズして使うことが想定されています。あわせて職業情報提供サイト「job tag」は500を超える職業をタスク(作業)単位に分解しているため、業務の棚卸しの下敷きになります。注意点は作り方で、職業能力評価基準導入マニュアルは、人事部門だけで作ると抽象的になって現場で使われず、現場任せにすると具体的すぎて評価に使いにくくなると指摘しています。能力開発が目的なら、現場を巻き込んで具体的に書いてください。
Q指導担当は、社内で最も仕事ができる人を選ぶべきですか。
「最も仕事ができる人」という基準は公的な制度には存在しません。人材開発支援助成金が置いている「適格な指導者」の要件は、申請事業主の役員等または申請事業主に雇用されている者であって、訓練等実施日における出勤状況・出退勤時刻を確認できる者、というものです。親会社や子会社の従業員は適格な指導者に該当せず、OJTの実施場所が親会社・子会社・請負先である場合は適格な指導者を対象労働者と同様の場所に配置する必要があります。つまり制度が求めているのは、教わる側と同じ場所にいて、いつ働いていたかを記録で示せる自社の人という水準です。そのうえで誰を選ぶかは、教える内容の設計次第で変わります。
Q育成計画書には何を書けばよいですか。決まった様式はありますか。
事業内職業能力開発計画については、決まった様式や記載内容の定めはありません。厚生労働省は、経営理念、人材育成の基本方針、雇用管理の方針、各職務に必要な職業能力、教育訓練体系図といった内容を記載するとよいとしています。個別の訓練計画については、職業能力開発促進法26条の3第2項が実習併用職業訓練の実施計画の記載事項として5つの号を掲げており、省令委任の第5号を除く①対象者、②期間及び内容、③職業能力の評価の方法、④訓練を担当する者の4つが、これが実務上の最小限として使えます。とくに③を先に決めてください。同法10条の2第2項は実習併用職業訓練を「習得された技能及びこれに関する知識についての評価を行うもの」と定義しており、評価は訓練の定義に含まれています。
QOJTだけで助成金は使えますか。
使えません。人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のパンフレットは「OJTについては、OFF-JTを組み合わせた上で、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練、中高年齢者実習型訓練に対して助成しています。OJT単独では助成対象になりません」と明記しています。さらにOFF-JT側の範囲も限定されており、「営業中の生産ライン、または就労の場で行われるもの」「通常の生産活動と区別できないもの(例:現場実習、営業同行トレーニング)」は助成対象外です。営業同行は実務としては有効でも、制度上はOFF-JTに数えられません。なお助成率・助成額・要件は年度途中でも改正されるため、申請前に必ず最新版のパンフレットと支給要領で確認してください。
Q助成金の「経費助成限度額15万円・30万円・50万円」は、使える経費の上限という意味ですか。
いいえ、助成される額の上限です。人材育成支援コースでは、1労働者1訓練あたりの経費助成限度額が実訓練時間数に応じて区分されており、中小企業の場合は10時間以上100時間未満で15万円、100時間以上200時間未満で30万円、200時間以上で50万円です(大企業はそれぞれ10万円・20万円・30万円)。訓練にかけられる費用の上限ではなく、支給される助成金の上限として読んでください。加えて、1事業所・1事業主団体等の一の年度あたりの支給限度額として1,000万円が定められており、賃金要件等の達成による割増し分の追加申請もこの限度額の中に含まれます。
Q厳しく指導するとパワハラになるのではないかと、管理職が萎縮しています。どう線を引けばよいですか。
指針が非該当例と該当例の両方を示しているので、それを共有するのが最も早い方法です。パワハラ指針は「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」と明記したうえで、過大な要求の非該当例として「労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せること」を挙げています。一方で該当例には「新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること」が入っています。分かれ目は厳しさの度合いより、事前に必要な教育を行ったかどうかです。何ができていればよいかを先に共有しておけば、その基準に照らして事実を指摘する行為は、性質として指導の側に立ちます。
Qパワハラ防止措置は、従業員が少ない会社でも義務ですか。
義務です。労働施策総合推進法に基づくパワーハラスメント防止措置は、令和2年6月1日に大企業へ義務化され、中小企業の事業主に対しても令和4年4月1日から義務化されています(令和4年3月31日までは努力義務)。従業員数による適用除外はありません。事業主が必ず講じなければならない措置は10項目に整理されており、方針の明確化と周知・啓発、行為者への対処方針の就業規則等への規定、相談窓口の設置と周知、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシー保護、相談を理由とする不利益取扱いの禁止の周知などが含まれます。なお令和8年10月1日から適用される改正後の指針では、根拠条文が同法31条として引用されています。条番号の移動であり、措置義務の内容が緩和されるわけではありません。
Q育成がうまくいったかどうかは、何で測ればよいですか。
新卒を採っているなら、3年以内離職率を同じ事業所規模帯の公的統計と比べるのが最も検証しやすい方法です。令和4年3月卒業者では、事業所規模30〜99人の3年以内離職率は高校卒45.2%、大学卒41.9%で、全体平均(高校卒37.9%、大学卒33.8%)とは7〜8ポイントの差があります。あわせて辞めた時期の分布を見てください。高校卒は3年以内離職の約47%が1年目に集中する一方、大学卒は3年にほぼ均等に分散しており、手を入れるべき時期が異なります。指標を増やすと運用が止まるので、離職率と「計画した育成項目のうち期限内に到達した割合」の2つに絞ることをおすすめします。
出典・調査の対象範囲
- 厚生労働省 令和7年度「能力開発基本調査」(2026年7月31日公表) — 人材育成の問題点・計画的なOJTの実施率。常用労働者30人以上の企業・事業所が対象です。結果について/調査結果の概要/用語の説明
- 厚生労働省「職業能力評価基準」「job tag(職業情報提供サイト)」 — 教える内容の公的なひな型。職業能力評価基準について/導入マニュアル/job tag
- 職業能力開発促進法・事業内職業能力開発計画・実習併用職業訓練の指針 — 職業能力開発促進法/事業内職業能力開発計画/実習併用職業訓練の指針
- 厚生労働省「人材開発支援助成金(人材育成支援コース)のご案内」「キャリアアップ助成金のご案内(令和8年度版)」 — 人材開発支援助成金/キャリアアップ助成金
- パワーハラスメント防止の指針(令和2年厚生労働省告示第5号)・労働施策総合推進法 — 指針/指針(令和8年10月1日適用)/中小企業への義務化リーフレット/法律
- 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」「令和5年若年者雇用実態調査の概況」 — 離職状況/若年者雇用実態調査
※判断表・自己診断・到達点の項目数は編集部の目安です。助成金の要件やハラスメントの個別の判断は、最新の案内と専門家・労働局に確認してください。



